CEOメッセージ
更新日:2024/10/1

社会に欠かせないプラットフォーマーとして
セキュリティ基盤、プロダクト基盤を強化し
新たな持続的成長を目指します。
出澤 剛代表取締役社長 CEO

グループ内再編によって意思決定のスピードを高め
事業の選択と集中、新サービスの導入を迅速に実行
2023年10月1日のLINEヤフー(株)の誕生から1年近くが経過しました。5つの会社を1社に再編するには膨大な作業が必要でしたが、準備段階から各社の社員がそれぞれの立場を超えて協力し合った結果、大きなハードルを一つ越えることができたと考えています。グループ内再編後の事業や組織の統合も順調に進捗しており、2024年3月期はかつてない好業績となりました。
グループ内再編による最大の効果は経営のスピードアップです。従来は、LINE(株)、ヤフー(株)、Zホールディングス(株)など、それぞれが個々の会社として存在していましたが、これらが一つの会社となったことで意思決定のスピードが格段に高まりました。このシンプルな経営体制の下、当社では事業の選択と集中を加速させ、「LYPプレミアム」などの新サービス導入も迅速に進めることができました。
実際、2024年1月から3月にかけて、「LYPプレミアム」の新規会員獲得に向けた大型キャンペーンを実施し、会員数を大幅に増やしました。とりわけ、これまで「Yahoo!ショッピング」を利用していなかった「LINE」ユーザーにも「Yahoo!ショッピング」を使っていただく、といったサービス連携の流れを確認できたことは、非常に大きな成果であると考えています。
そしてもう一つグループ内再編後に大きく変わったのがプロダクト評価の仕組みです。従来は、LINE(株)、ヤフー(株)いずれも、比較的大きな事業やサービス単位で業績を評価してきたのですが、合併後の新体制では、小さなプロダクト単位で責任者を定め、それぞれのプロダクトの成長性と収益性をモニタリングし、評価していく仕組みに変えました。
このようにグループ内再編後、当社の経営はスピードアップし、すでにさまざまな成果が現れつつあります。しかし、経営統合時に描いた未来像を頂上とするならば、まだ2合目、3合目にたどり着いたに過ぎず、プロダクトにしても経営体制にしても、さらに大きくアップデートしていかなければなりません。
そのステップとして、リモートワークを前提としつつ、この7月からこれまで別々だったLINE(株)とヤフー(株)の東京のメインオフィスを一箇所に統合しました。単に同じ会社組織になっただけでなく、社員同士の物理的な距離も近づいたことで、相互のサービス連携や新プロダクトの開発が一層スムーズに進むものと期待しています。また、社員が最大のパフォーマンスを発揮できるよう、心身の健康をサポートする仕組みづくりや、多様な社員が活躍できる環境づくりなどの取り組みを引き続き推進していきます。これからもさまざまな施策を通じて、社内のコミュニケーションの活性化を図り、多彩な能力やバックグラウンドを持つ社員が一体となって新たな価値を創出していく企業カルチャーを醸成していきたいと考えています。

プラットフォーマーとして強固なセキュリティを実現し
すべてのユーザーに安心安全を提供する
当社は、今回のグループ内再編を機に、これまで以上にスピード感を持って新たなサービスを創出していく計画です。しかしながら、まさにそのスタートのタイミングで不正アクセスに起因するセキュリティインシデントを起こしてしまったことは忸怩たる思いであり、ステークホルダーの皆様に対し大変申し訳なく思っています。1億以上のユーザーデータをお預かりするプラットフォーマーとして、すべてのユーザーの皆様に安心安全を提供できるよう、より強固なセキュリティ基盤を構築することが私の急務だと認識しています。
今回のインシデントにおける大きな問題は、過去のレガシーを含めたシステム全体のセキュリティに対するチェックが十分でなかった点です。今後は再発防止のためにNAVER社とのシステム・ネットワークの分離を進めるのはもちろん、委託関係の縮小・終了、安全管理措置の強化などを実行していきます。
情報セキュリティの世界は刻一刻と変化し、次々と新たな脅威が生まれています。ユーザーの皆様に安心安全を提供するためには、過去のインシデントの再発防止だけにとどまらず、最新のセキュリティ課題をいち早く捉え、適切な対策を迅速に講じられる体制を整備することが重要です。そんな体制強化の一環として、2024年4月、社長直下の組織として「セキュリティガバナンス委員会」を設置しました。会議では私自らが委員長として、根本的な問題の整理や、再発防止策などの進捗管理に関する議論の舵取りを務めています。セキュリティ課題は法務、技術、事業など多角的な観点での検討が必要なため、意思決定は容易ではありません。そのため、各会議ではグループ全体でのセキュリティレベル向上施策、新しいルールや基準の制定、NAVER社への委託終了や、業務委託先管理の高度化といった重要な課題について、専門性を有するメンバーが時間の許す限り議論を尽くしています。
これらセキュリティガバナンスを含めたLINEヤフー(株)のコーポレートガバナンスを継続的に強化していくことは、経営トップとして私に与えられた重要な責務でもあります。その第一歩として、2024年6月に発足した新しい経営体制では経営と執行の分離を行いました。具体的には、私と会長の川邊健太郎が取締役としてガバナンスの役割をより強く担います。一方で取締役を退任した慎ジュンホはCPO(チーフプロダクトオフィサー)、同じく桶谷拓はCSO(チーフストラテジーオフィサー)としてそれぞれ事業やサービスの執行に集中する体制となりました。
さらに取締役会の構成についても社外取締役が過半数を占める体制に変更しました。これは私自身が取締役会議長としてかねてより必要性を感じていた課題でもあり、この体制変更によって多様な視点を反映させたより透明性の高い意思決定が可能になるものと考えています。また、新任の社外取締役には、財務・会計のプロフェッショナルであり、グローバルガバナンスに関する豊富な経験と知見を有する髙橋祐子氏をお迎えしました。今後、当社が事業グローバル化、ガバナンス強化を果たしていくにあたり、さまざまな角度からご指摘、ご助言をいただけるものと期待しています。
当社ではこれからも環境変化や事業の状況に応じて経営体制を柔軟にアップデートすることで、さらなるガバナンス強化と経営のスピードアップを追求していきます。

サービス起点を強化し、事業成長につなげるとともに
「LYPプレミアム」を核としたビジネス生態系の構築を目指す
アカウント連携、「LYPプレミアム」の導入などによってサービス連携の基盤が整ったため、2024年度はサービスの起点を強化し、サービス成長に結びつけていきます。
「LYPプレミアム」の付加価値を高めて会員数を拡大するための追加施策としては、「LINEプリ」というオンラインで友だちとリアルタイムで一緒に写真を撮れる新機能や、複数プロフィール機能、リアルタイムバックアップ機能などを投入していきます。また、サービス起点強化の一環として、2024年7月に「Yahoo! JAPAN」アプリのリニューアルを実施しましたが、2024年度の後半に「LINE」の大型リニューアルを実施する予定です。日本最大級のポータルサイトでもある「Yahoo! JAPAN」アプリについては、ユーザーの情報取得ニーズが変化し、これまで以上にリアルタイム性やパーソナライゼーションが求められていることを踏まえたリニューアルを行いました。例えば、今話題になっている最新の検索ワードを把握できる機能「トレンド」や、自分の生活や関心事にフォーカスした機能「アシスト」「フォロー」を設定するなど、ユーザー個々のニーズにより適合したアプリへと刷新しています。
「LINE」のリニューアルでは、コマース体験につながるショッピング・タブと、設定地域に関するローカル情報にアクセスできるプレイス・タブを新たに追加します。この「LINE」からコマースへの流れは、私自身がずっとやりたい、やらねばならないと考えてきたことであり、今回のリニューアルを機にようやくその第一歩を踏み出すことができました。他社事例を見ても韓国や中国のインターネットサービスにおいて、チャットからコマースへの流通量が急速に増加しています。「LINE」でも「LINEギフト」の利用が伸びていることから、大きな成長の可能性を秘めた取り組みであると捉えています。
ただし、「LINE」ユーザーの主な目的はトークなので、いろいろなアイテムの中から検索して商品を選ぶというよりも、トークのついでにふと目についた商品、面白いと感じたアイテムをクリックして購入するといったスタイルになると考えられます。それだけに、トークをしているユーザーが「いいな」と思うような商品をタイムリーに提案できるよう、ユーザーインターフェースの設計も含めて工夫を凝らしていきたいと思います。
両アプリでの「Yahoo!検索」の利用を促進していくことも今回のリニューアルの狙いの一つです。すでに「LINE」から「Yahoo!検索」へのトラフィックや検索クエリが着実に増加している状況ですが、両アプリのリニューアルで検索のアクセシビリティや利便性を一層向上させ、検索流入の強化と重要クエリ領域(コマース/ローカル/ナレッジ)の強化を推し進めていきます。
これらを通じて、LINEヤフー社内やグループ内の各サービスのクロスユースを促進すると共に、サービス連携の基盤となる「LYPプレミアム」を中核としたビジネス生態系を構築していきたいと考えています。
こうしたサービス強化と同時に、経営統合の大きな目的であったグローバル展開も加速させていく計画です。インターネット自体がグローバルな存在であり、各国の経済規模がどんどん変化していくなかで、海外のユーザーを積極的に取り込んでいかなければ、持続的な成長は望めません。合併後も引き続き海外での成長投資を実施していく予定であり、すでにさまざまな成果も上がっています。
例えば、「LINE Pay」の現地法人が台湾 Emerging Stock Board(新興株式市場)への株式の上場を果たした台湾では「LINE」ユーザーの拡大が続き、メッセンジャーアプリとして圧倒的なシェアを誇っています。また、「LINE Pay」も台湾人口の2人に1人が利用するNo.1モバイル決済サービスに成長しています。タイにおいてもフードデリバリーや食料品配達、タクシーなどの配車を含む多彩なサービスを提供するオンデマンド型アシスタントアプリ「LINE MAN」が急成長しています。今後も世界各国のユーザーに対し、メッセージングにとどまらない多様なサービスを提供することによって、グループのグローバル成長を促進していきます。

変わらないよりも変わることに重点をおいて
新たな社会価値の創出に挑み続ける
LINEヤフー(株)のミッションは、"「WOW」なライフプラットフォームを創り、日常に「!」を届ける。"ことにあります。私たちは人々の生活に寄り添い、技術的な新しいアプローチによって人々の日々の暮らしをより楽しく、便利にしていきたいと考えています。このように、ビジネス観点だけではなく、常にユーザーを中心に考え、プロダクトドリブンの姿勢からユーザーが喜びや便利さを感じ、楽しい時間を過ごせるサービスを提供していくことが私たちのミッションです。
そのためには変化への対応が最も重要な要素となります。現在は強固な基盤を持った事業であっても、ビジネスモデル自体の寿命がどんどん短くなっています。とりわけITの世界ではその傾向が顕著です。それだけに、イノベーションのジレンマに陥ることなく、守るより攻めること、変わらないよりも変わることに重点をおいて経営に取り組んでいかなければなりません。また、社員一人ひとりが変化を恐れず、皆で協力しながら生き生きと新しい事業創出にチャレンジできるような制度やカルチャーを作り上げていくことも欠かせません。こうしたミッションの実践を通じてさまざまな社会課題の解決につながる新たな価値を継続的に生み出し、社会に欠かせない会社として持続的な成長と企業価値向上を実現していきます。
そんな当社の社会的役割の大きさを改めて実感したのが、2024年1月に発生した能登半島地震でした。元日夕方の地震発生直後から各部署が対応に取り組み、「Yahoo!ニュース」や「LINE NEWS」での情報配信はもちろん、その後の募金活動などにおいても大きな役割を果たしました。また、現地においては「LINE」のオープンチャットが多くの人々の情報共有に活用されました。各部署の社員が協力し合いながら懸命に自らの役割を果たそうとしている姿を目の当たりにして、メディアに携わる者としての矜持を感じ、大変心強く思いました。
ヤフー(株)では、早くから「課題解決エンジン」や「UPDATE JAPAN」といったミッション・ビジョンを掲げ、社会課題解決への貢献に取り組んできました。一方の「LINE」も元々は東日本大震災を一つの契機に誕生したサービスであり、過去の災害時にも各自治体と連携して対応してきました。今後もLINEヤフー(株)としてこうした社会価値の提供により強くコミットし、社会に貢献し続ける会社でありたいと考えています。

未来においても
社会から必要とされるプラットフォーマーであるために
生成AIをはじめとする先進テクノロジーの普及によって、今後、IT業界はもちろん、社会や産業のあり方さえも大きく変容していくはずです。例えば5年後には、現在のスマホに代わってウェアラブルデバイスやAIによる音声認識などが、主なネットワークの入り口となっているかもしれません。さらに10年後には、チャット、検索、コマースなどすべてをAIが担う時代になり、テクノロジー業界のプレイヤーも様変わりしているでしょう。
そんな未来においても、LINEヤフー(株)がユーザーや社会から必要とされるプラットフォーマーであり続けるためには、こうした変化を追いかけるのではなく、自らが率先して変化を生み出し、プラットフォームサービスの進化をリードしていく存在にならなければなりません。
そんな進化への第一歩として、これから注力していきたいテーマがユーザーインターフェース(UI)の革新です。例えば、ネットでの予約、購入といった行動は、現在、PCやスマートフォンによるウェブインターフェースが主流ですが、生成AIなど自然言語処理技術の進化によって、今後はチャットや音声といった新しいUIに置き換わっていく可能性があります。こういった未来をいかにして作り出していくかが重要な課題であり、大きなチャレンジテーマでもあるのです。
当社は、多くのユーザー接点に加え、広告やショッピングといったさまざまなコンバージョンのポイントを持つ会社です。これらインターネットサービスの入口と出口の両方を押さえていることが、今後、新しいUIを開発したり、生成AIを実装した新サービスを導入したりする際に、当社のアドバンテージとなるはずです。
もちろん、すべてを当社グループだけで実現できるわけではありません。例えば、生成AIについても私たちが新たにLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を作るのではなく、さまざまなLLMの中からそれぞれの得意分野、不得意分野などを見極め、用途に合わせLLMを使い分けていきます。今後生成AIがさらに進化するためには、各国の最新ローカルデータやユーザー接点がとても重要です。当社は国内最大級のプラットフォーマーとして豊富な日本のデータと多くの日本のユーザーとの接点を活用し、より身近で便利な生成AIを活用したサービスづくりを推進していきます。
2023年度、サービスへの生成AI活用は16件でしたが、今年はさらに多くのサービスを展開しユーザーの皆様に「これはすごい!」「これは便利!」と感じていただけるサービスを提供していきたいと考えています。
LINEヤフー(株)は、社会とテクノロジーの未来を見つめ、常に人々に寄り添いながら、新たな価値創出に挑み続けてまいります。これからも変わらぬご支援を賜りますようお願い申しあげます。