1つのアプリに、いくつもの居場所。タイで広がるLINEオープンチャット

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キアさんが正面を向いている写真

年代や趣味など、共通点がある人同士で気軽に会話や情報交換ができるLINEオープンチャット(以下、オープンチャット)。匿名で参加でき、関心ごとに合わせたルームを自由に作成・参加できるのが特徴です。

タイでは、その存在感が一段と大きく、学校やファン活動、ちょっとした日常の気持ちの共有まで、幅広い場面で使われています。現地でこのサービスを統括する責任者キアに、人気のルームや運営の工夫、そしてタイの人々の心をとらえた理由を聞きました。

キアさんの写真
 
Nadhakriz Kanchanamantana(キア)
 
2019年LINE Thailand入社。LINEオープンチャットの事業を統括し、戦略立案から実行までサービス成長をリードする。ユーザーニーズに寄り添った収益モデルの開発やプラットフォーム拡大に取り組むほか、30年以上にわたり培ったエンタメ・オンラインゲーム・メディア業界での経験を活かし、ユーザー視点のサービス設計とコミュニティ運営を推進している。

教育現場・ファン活動・感情の共有まで タイで3人に1人が使うオープンチャット

――タイのオープンチャットはどのような特徴があるのか、教えてください。

タイでは、オープンチャットが人々の生活にかなり深く根付いています。月間アクティブユーザー数は約2,000万人。つまり、タイ人の3人に1人が使っているんです。特に35歳未満の利用者が多く、若年層を中心に、学校・ファン活動・趣味など複数のコミュニティを掛け持ちながら日常的に活用されています。興味に関することを調べたいときに、検索エンジンやSNSではなく、「まずオープンチャットを開く」という人も少なくありません。1人で3つ以上のグループに参加しているのも当たり前で、リアルな情報収集や交流の場として日常に溶け込んでいます。

――実際にどのような場面で使われているのか、教えてください。

まず広く使われているのは、教育の現場です。コロナ禍でオンライン授業が主流になったとき、オープンチャットが一気に広がりました。それまではLINEのグループトークが使われていましたが、「本名で参加するのは抵抗がある」「個人アカウントを学校で使うのはいやだ」と感じる生徒も多かったんです。タイの人たちはプライバシー意識が高く、公私を混ぜないことをとても大事にしているためです。

そこで役立ったのがオープンチャットです。LINEに登録している名前とアイコンとは別にプロフィールを設定できるため、心理的なハードルが下がります。先生にとってもクラスごとにグループを分けたり、宿題の提出や時間割の連絡をまとめたりと、日々の学習管理に最適なツールとして浸透していきました。小学校では、保護者が「何時に子どもを迎えに行くか」「体調の連絡」「学校行事の確認」といった連絡に使うケースもあります。高校や大学では、入試情報の交換や勉強計画の共有など、「仲間と一緒に学ぶ場」としても活用されています。

――教育以外ではどのような使われ方がありますか?

タイならではの大きな特徴は、ファンダム文化との結びつきです。K-POPやT-POPのアイドル、俳優、BLドラマのキャスト、美容系インフルエンサーまで、あらゆるジャンルでファン活動がとても盛んなんです。その応援や情報交換の場としても、オープンチャットは欠かせない存在になっています。 たとえば「Butter Bear(バターベア)」というクマのマスコットキャラクターは、タイではアイドル的な存在です。専用ルームには3万人以上が参加していて、イベント出演情報やグッズの話題、日々の応援メッセージがリアルタイムで飛び交っています。

――ファン活動の中心にオープンチャットがあるんですね。

そうなんです。ファンが主導して応援広告を出したり、グッズを制作したり、チャリティキャンペーンを展開したりと、ファンダムが生み出す経済的インパクトもとても大きくなっています。 この1年で、「ファンダムに入る=オープンチャットに参加する」という新しいトレンドが生まれたほどです。好きなアイドルやキャラクターを応援するなら、まずはそのオープンチャットに入るという文化が、タイでは定着してきています。

バターベアが書いた手紙の画像

バターベアのオープンチャットグループに公式バッジを付与した際、LINE Thailandが受け取ったメッセージ。

バターベア:「LINEオープンチャットチームから、私たちのグループが公式バッジをもらったって連絡が来たの! 星が大好きだから、本当にうれしい! 支えてくれたママやパパ、そしてみんなに感謝します!」

さらに、2023〜2024年の「ミス・ユニバース・タイランド」では、TPN Global(タイの大手エンタメ企業)と提携し、オープンチャットが公式情報の発信拠点となりました。コンテストキャンプ期間中には、舞台裏の様子やニュース、候補者の活動記録などがリアルタイムに共有され、ファン・参加者・審査員の交流の場として活用されました。

このようにオープンチャットは、ただ情報を見るだけではなく、「一緒に応援しながら楽しむ」というファンダム体験を創り出しています。

――他には、どんな使われ方をされていますか?

心のよりどころや感情的なつながりを求める場としての使われ方も広がっています。 たとえば、「孤独系」と呼ばれるルームでは、「今日ちょっと落ち込んでる」「誰かと話したい」「でも知り合いには言いづらい」といった、日々のちょっとした感情を共有する場として活用されています。 「ごはん食べた?」「疲れてない?」というような、たわいのない会話のやりとりが、一人でいることの不安を和らげてくれるんです。恋人でも、リアルな友人でもない、ちょうどいい距離感でつながれる「第三の居場所」のような存在としてオープンチャットが機能しています。

また、少しユニークな「ロールプレイ系」のルームも人気です。たとえばBLACKPINKのメンバーになりきってチャットをする部屋では、「私はロゼ!」「私はジス!」といった役割で参加者が会話を進めていきます。誰かが抜けると「新しいリサ募集中」と募集がかかるなど、小さな演劇空間のような世界ができあがっています。

他にも「ハリー・ポッター」の寮ごとのルームや、漫画、アニメ、ドラマのキャラクターになりきるグループなど、現実からちょっと離れて「好き」を遊ぶ場所としても浸透しています。

タイのオープンチャットの様々なルームを表す画像

リアリティ番組の候補者を応援するグループ、深夜の節約メニューをシェアするグループ、写真の撮り方やレストラン情報、Black Fridayの買い物情報、ペットのファッションまで、タイのオープンチャットには多彩なコミュニティが集まっています。

  キアさんが話をしている様子  

タイでオープンチャットが広がる理由

――かなり多彩な使われ方をしていますね。ここまで幅広く使われている背景には、どんな文化的背景やニーズがあるのでしょうか?

いちばん大きな理由は、「多様な好きを持つ人たちが、それを安心して共有できる場を求めていた」からだと思います。

タイでは、一人がいくつもの「顔」を持っています。たとえば「K-POPのファン」であり「大学受験を控える学生」でもあり「料理が好き」でもある。オープンチャットなら、そうした関心ごとを切り替えながら楽しめるので、日常の中に自然に入り込んでいったのだと思います。

また、タイ人の気質として「誰かに認められたい」という思いは強い一方、自分から積極的に主張するのは控える傾向があります。匿名で参加できるオープンチャットは、安心して自己表現できる場として受け入れられています。 さらに、ファイルや画像の共有、ノート機能、イベントや投票など、学びにも趣味にも使える柔軟な機能が揃っていることも大きな理由です。

文化的な背景と機能的な使いやすさの両方があり、ここまで定着したのだと思っています。

――そうしたユーザーの姿を受けて、オープンチャットはどのようなミッションや方針で運営されているのでしょうか?

私たちは、「誰もが自分の居場所を持てる場所をつくること」をミッションとしています。たとえあなたが誰であっても、どんな趣味や関心を持っていても、共感し合える仲間がいて、安心して自分の思いや考えを伝えられる場所。そんな空間を目指して運営しています。

誰かに否定されたり、遮られたりすることなく、自分が「1人の人間」としてちゃんと受け止められていると感じること。それが、私たちが大切にしている価値です。

キアさんが話をしている様子

安心して使える環境を保つ 運営の工夫

――タイで大きな存在となっている一方で、運営の徹底も大事だと思います。運営についてはどのような工夫をしていますか?

ユーザーが安心して使える環境を保つことは、私たち運営にとって最も重要な責任のひとつです。特に、ユーザー数の増加やファンダムの活発化に伴い、「信頼できるグループかどうかが一目でわかる仕組み」を整備してきました。

まず、芸能人やKOL(キー・オピニオン・リーダー)、企業などが運営する公式ルームには「公式バッジ」を付与し、なりすましや詐欺対策を強化しています。また、投稿数やメンバー数、健全性など一定の基準を満たした活発なルームには「スーパーオープンチャットバッジ」を付与し、健全なコミュニティであることを可視化しています。

――管理者に対してはどのような取り組みを行っていますか?

ルームの管理者に向けたサポートも多方面で行っています。たとえば、スパムや不適切な投稿への対応方法をまとめたナレッジ記事やトレーニングプログラムの提供を行っています。さらに定期的なミートアップやアワードでの表彰も実施していて、管理者同士が刺激を受け合いながらコミュニティを育てられる仕組みをつくっています。

こうした取り組みが「質の高い場を続けていこう」というモチベーションにつながっています。ユーザーに対しても、「怪しいと感じたらぜひ通報してください」と呼びかけており、運営側だけで守るのではなく、ユーザー自身も自衛できるよう情報提供や啓発を続けています。安心して長く使ってもらえる環境を守るために、こうした仕組みやサポートは今後さらに強化していきたいと考えています。

オープンチャット5周年の際に実施された「管理者向けアワード」で受賞した5つのコミュニティの画像

<オープンチャット5周年の際に実施された「管理者向けアワード」で受賞した5つのコミュニティ>
・バターベア:3万8千人超が集う、最大のファンダム。ファンにとって「家のように居心地の良い」温かな場所。
・ムーデン:チョンブリー県カオキアオ動物園で人気のコビトカバ「ムーデン」を応援。開設10分で1万人が参加し急成長中。
・チェロスクエア:BNK48初代キャプテンのチェープランを支える長く続くファンダム。強い絆と継続的な活動で支持される。
・タマサートスクエア:タマサート大学の学生や卒業生、他大学の人も参加できる最も人気のオープン大学コミュニティ。
・Maliクラブ:妊娠初期から出産後2歳までの「最初の1,000日」を支える、最も活発な保護者向けコミュニティ。

――ユーザーのニーズはどのように把握しているのでしょうか?

社内の調査専門チームが定期的にユーザーリサーチを実施しており、「オープンチャットをどんな感情で、どんな目的で使っているのか」「世代によって行動にどんな違いがあるのか」「キャンペーンの効果はどうだったのか」。こうした点を丁寧に調べています。

集めたデータは社内の改善だけでなく、企業や大学との連携施策にも活かされています。たとえば「Z世代にはこういうトーンが届きやすい」という知見があると、プロモーションの設計にも役立ちます。 このようにユーザーの「今」を知ることが、サービスを長く使ってもらうための土台になっていると思います。

1人ひとりに合った「居場所」を提供したい

――キアさんがこれまででやりがいを感じた瞬間はどんな時でしょうか?

私自身、コンテンツをつくったり、キャンペーンを考えたりするのがすごく好きなんです。たとえば、あるコミュニティにぴったり合うプロモーションを企画し、それが実際にユーザーに届いて盛り上がっているのを見ると本当に嬉しくなります。

オープンチャットはユーザー層やルームの種類が本当に幅広いので、Z世代の学生から、社会人、親世代まで、それぞれに合ったアプローチを考えるのが楽しいですね。私は仕事以外でも趣味でいろんなグループに入っていて、どんな話題が人気なのか観察することも多いです。若い世代の感性や空気を直接感じられることも、この仕事の面白さだと思っています。

何より、「自分が関わったものが、誰かにとっての居場所になっている」と感じられる瞬間に、一番やりがいを感じます。そういう瞬間があるからこそ、もっといい場をユーザーに届けたいと思いますね。

キアさんが話をする様子
		の写真

キア:「スニーカーが好きなので、スニーカーについて語るグループに参加してよく情報をキャッチしています。スポーツやニュース系のグループにも入っていて、気になる話題を追っています。」

――最後に、今後の展望を教えてください。

特に力を入れていきたいのは、若い世代へのアプローチです。すでに高校生や大学生を中心に日常的に使ってもらっていますが、「大人になってからも使い続けたい」と思ってもらえるような、長く寄り添えるサービスを目指しています。

そのために、大学とのパートナーシップをさらに強化し、キャンペーンやマーケティングコンテスト、学校内コミュニティの立ち上げ支援などを展開していきます。 さらに、音楽レーベルやモデル事務所などエンタメ業界の企業とも連携し、ファン活動をより楽しめる機能や仕組みの開発にも注力していく予定です。

そして、バターベアのようにタイで人気のキャラクターとのコラボレーションも強化し、「気づいたら自然に集まってしまう場所」としてオープンチャットがあり続けられるようにしたいですね。 世代やテーマを問わず、誰もが自分に合った「居場所」を見つけられる場を、これからさらに広げていきたいと思っています。

キアさんが話をする様子
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取材日:2025年8月27日
文:LINEヤフーストーリー編集部 写真:山崎 拓也
※本記事の内容は取材日時点のものです

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