LINEの中に銀行がある?  タイで「LINE BK」が急成長する理由

リーダーズ
LINE BKのタイトル画像

スマホひとつで銀行口座を開く、ローンを組む、保険に入る。日本でもそんな金融体験が当たり前になりつつありますが、タイではそれをLINEアプリ内で完結できる「LINE BK(ライン・ビーケー)」が急成長を遂げています。2020年のリリースからわずか5年弱で800万口座を突破(※1)。タイの人々の生活に深く溶け込んでいます。さらに、これまで他の銀行からの融資を受けにくかった人々にもアプローチし、暮らしを支える存在へと進化を続けています。

今回は、LINE BKを運営するKASIKORN LINE Company Limited(以下、KASIKORN LINE ※2)の会長サニーとCEOのトミーに、LINE BK誕生の背景やLINE BK独自の審査モデル、今後の展望などを聞きました。

※1 2025年7月時点
※2 LINEヤフー連結子会社のLINE Financial(株)と、タイの金融機関カシコン銀行の子会社カシコンインベスチャーによる合弁会社。

サニーの写真
Kim Young Eun(サニー)
KASIKORN LINE 取締役会長
LINE Financial(株) 最高執行責任者(COO)・グローバル金融事業統括責任者
2013年にLINE Plusへ入社後、LINEのヨーロッパ子会社のCEOとして新規市場開拓と成長をけん引した。2015から2017年にかけてはグローバルゲーム事業責任者として東南アジア市場を中心に事業を推進。2017年よりLINE Financial(旧LINE Financial Plus)のCOOとして、グローバルにおける金融事業の統括を担う。
トミーの写真
Tana Pothikamjorn(トミー)
KASIKORN LINE CEO
サイアム商業銀行でデジタルバンキング部門責任者を務め、モバイルバンキング利用者数をゼロから1,000万人超へ成長させた実績を持つ。シリコンバレーでのテクノロジー経験を活かし、銀行業とITを横断する視点で事業を推進させる。2018年、The Asset誌からデジタルバンキング分野で最も顕著な成果を上げた個人に贈られる「Asia's Digital Banker of the Year」の称号を受賞。

カシコン銀行との連携で実現した、LINEの中の銀行「LINE BK」

――まず、LINE BKがどのようなサービスか教えてください。

トミー:
LINE BKは、タイで展開している完全デジタルの銀行サービスです。最大の特徴は、LINEアプリ内に銀行機能が統合されている点です。別アプリのダウンロードや、銀行窓口に足を運ぶ必要がなく、LINE上でそのまま口座開設・送金・QRコード決済・デビットカード発行・ローン申請・保険の購入までがすべて完結します。日常的に使っているLINEアプリでそのまま銀行も使える。これが、LINE BKが実現している新しい金融体験です。

タイでは約6,605万人の人口のうち、5,400万人(※3)がLINEを利用しています。圧倒的なユーザーベースを背景に、人々が最も親しんでいるアプリからスムーズに金融サービスへアクセスできることこそ、LINE BKの大きな強みといえます。

※3 2024年12月時点

LINE BKのサービスを示す画像

――LINE BKは、どのような背景からスタートしたサービスですか?

サニー:
LINE BKは、LINEの金融事業を担うLINE Financialと、タイの大手銀行カシコン銀行の子会社であるカシコンインベスチャーがタッグを組み、2020年10月にスタートしたサービスです。「完全デジタルの銀行や融資サービスを立ち上げ、金融サービスをより身近で便利な存在にしたい」という、両社共通の想いが出発点です。

LINEは、モバイルプラットフォームとしての豊富な運営経験やタイの5,400万人のユーザーとのつながり、そしてデータ活用のノウハウを持っています。一方、1945年創業のカシコン銀行は、長年培ってきた信頼のある銀行基盤に加えて、デジタルの口座開設における先進的な技術力を有しています。この両社の強みを組み合わせることで、「LINEの延長線上で銀行が使える」という新しい金融体験を、タイの人々に届けたいと考えました。

サニーが話をしている様子。

――リリースから現在に至るまで、各サービスはどのように成長していますか?

トミー:
コロナによる外出制限や経済悪化、健康意識への変化による影響で、LINE BKへのニーズが一気に高まり、成長を後押しするきっかけになりました。

現在、LINE BKの口座は800万以上開設されており、日常のさまざまなお金のやりとりに使われています。貯蓄や送金、QR決済といったサービスは、アプリを切り替えることなくお金を管理できる手軽さから、20〜40代のユーザーを中心に利用されています。この2〜3年は、毎年およそ100万のペースで新たな口座が開設されており、ユーザー数は着実に増えています。

保険サービスは、タイを代表する大手保険会社ムアンタイ生命保険と連携し、2023年から健康・生命保険の提供をスタートしています。「LINEで手軽に買える小さな保険」というコンセプトのもと、フリーランスや労働者に向けて少額保険商品を複数提供しています。サービス開始からわずか1年で、「Insurer Innovation Awards(※4)」を受賞し、LINEアプリ内で簡単・シームレスに保険を購入できる体験が国際的にも評価されました。

※4 2024年に開催された保険業界における革新的なデジタル戦略や技術活用を評価・表彰する国際的なアワード「The World's Digital Insurance Awards」のなかの一つ。

LINE BKオフィスに飾られるトロフィーや盾の写真

LINE BKはこれまで数々のアワードを受賞し、オフィスには多くのトロフィーや盾が飾られています。

トミーが表彰台で盾を持っている様子の写真。

The Asian Banker Thailand Awards 2022において、LINE BKが「The Best Digital-only Bank in Thailand」を受賞した時の様子。

――LINE BK が特に力を入れているサービスは何ですか?

トミー:
LINE BKが特に注力しているのは、ローンサービスです。現在、85.5万人以上がLINE BKのローンサービスを利用しており、その多くは25〜34歳のフリーランスや定職に就いていない人たちです。

――なぜ、ローンサービスの需要が高いのでしょうか?

トミー:
背景には、いくつかの経済的・社会的要因があります。まず、タイでは、生活費の高騰やインフレ、収入の不安定化、貯蓄水準の低さなどにより、日々の生活費や急な出費をまかなうためにローンを必要とする人が多くなっています。また、経済の先行きが見えにくい中で、いざというときの資金を確保しておきたいというニーズも高まっています。

もう一つの大きな要因は、労働市場の構造です。タイの労働人口の大部分が、フリーランスや非正規労働者、小規模事業者などで構成されており、毎月決まった給与や正式な雇用証明を持たない人です。こうした人たちは従来の銀行ローンの審査を通ることが難しく、資金調達の選択肢が限られています。

こうした現状の中、LINE BKでは独自の信用評価モデルを使っています。これにより、従来の審査基準では十分に評価されなかった人々にも、安心で使いやすいローンを提供できる仕組みを整えています。

LINE独自のデータで信用を判断する審査モデル

――「信用評価モデル」について、具体的にどのような仕組みで審査しているのか教えてください。

サニー:
LINE BKのローン審査は、「返済意思」と「返済能力」の2つの観点で行います。これには、「金融データ」とLINEから得られる「非金融データ」の両方を組み合わせて判断しています。

金融データは、カシコン銀行やタイ全国信用情報機関(NCB)の信用履歴などの情報を、すべてユーザーの同意を得たうえで活用しています。一方の非金融データは、LINEのエコシステムからユーザーの同意を得て収集した行動データを分析しています。たとえばLINEアプリの使用頻度や継続性、ユーザーがどのようなコンテンツに関心があるかなどが含まれます。これらの情報をもとに、LINEスコアモデルでユーザーの信用リスクを分析し、より精度の高い審査を実現しています。

――金融データと非金融データを組み合わせて審査を行うのですね。

サニー:
はい。この非金融データは、他社にはないLINE独自のデータです。この2種類のデータを組み合わせることで、従来の審査では評価されにくかった、信用履歴の少ないフリーランスや小規模事業者といった人々にも、ローンを利用できるチャンスが広がっています。さらに、LINEアプリ上で申請から返済まですべて完結でき、24時間365日、いつでもどこでも手続き可能という点もLINE BKの強みの一つです。

サニーが話をしている様子。

信頼が最優先 データ保護や不正への取り組み

――LINEアプリひとつで簡単に申請ができるという便利さの一方で、データ保護や不正対策などには特に配慮が必要だと思います。どのような対応を行っていますか?

トミー:
私たちは、デジタル金融サービスにおいて何よりも重要なのは、「信頼」だと考えています。ユーザーの大切なお金や個人情報を預かる立場として、安心して使っていただける環境づくりを最優先事項としています。

データ保護については、タイの個人情報保護法(PDPA)に準拠し、LINE BKのシステムが業界の安全基準を満たす、もしくはそれを上回るよう定期的に確認しています。 すべてのデータは暗号化し、機密データへアクセスできる人員を制限するなど、組織全体で強固なデータガバナンス体制を維持しています。

不正対策も、私たちが大きく注力している分野の一つです。ログインや取引、ローン申請など、あらゆる場面でAIを活用して不審な動きをリアルタイムで検知しています。また、規制当局やパートナー企業と密に連携し、日々進化する詐欺への対応も強化しています。加えて、ユーザー自身が不正に気づけるよう、アプリ内で教育コンテンツを配信したり、注意喚起を行うなどの啓発活動にも取り組んでいます。

そしてもう一つ、ローンサービスを提供する事業者として重要視しているのが、ユーザーの「借りすぎ」防止に対する責任です。LINE BKは、タイ中央銀行の「責任ある貸付」の方針に沿って、ユーザーの返済能力に基づいた与信限度を慎重に設定しています。その上で、LINEアプリ内でリスクや借入ガイドラインを明確に伝えることで、ユーザーが健全な金融判断をできるようサポートしています。

トミーが話をしている様子。

AIとLINEグループとの連携で、より日常に溶け込む金融体験を

――AIは、他にどのような場面で使われているのでしょうか?

サニー:
LINE BKでは、AIをローン審査や不正対策、業務効率化などに活用するだけでなく、ユーザーとのコミュニケーションの質を高めるためにも、積極的に活用しています。

たとえばマーケティングの領域では、ユーザーごとの行動履歴や利用傾向をAIが分析して、最適なタイミングで関連性の高いメッセージをLINEで配信します。返済状況やオプションについてのパーソナライズされたリマインダーもその一例です。800万人以上のユーザーがいる中、それぞれに合った対応を、電話などの手作業で行うのは現実的ではありませんが、AIを活用することで効率的かつパーソナライズされた体験を提供することが可能になっています。また、音声AIを活用したサービスにも取り組んでいます。

LINEの中で、「適切な情報が、適切な人に、適切なタイミングで届く」ことは、ユーザーの体験をより便利にするだけでなく、LINE BKへの信頼や継続利用にもつながっています。引き続き、AIの活用範囲をさらに広げて、サービスの質をより高めていく予定です。

――LINEグループ や他の企業との連携事例はありますか?

サニー:
最も代表的なのは、タイを代表するオンデマンドプラットフォーム「LINE MAN」との連携です。特にフードデリバリーで広く知られるこのサービスでは、飲食店パートナーの同意を得て売上データなどを活用し、スピーディーかつ正確な信用審査を実現しています。その結果、各店舗のニーズに合ったローン商品を提供できるようになり、審査の承認率も向上しています。

――飲食店パートナーは、どのようにサービスを利用するのですか?

サニー:
ローンの申請からリマインダーまで、主なプロセスはLINE MANのプラットフォーム上で完結する仕組みになっています。売上金からの自動引き落としによる返済にも対応しているので、飲食店オーナーにとって全体のプロセスがシームレスで手間のかからないものになっています。

今後は、飲食店オーナーのみならず、LINE MANに関わるさまざまな人たちにも、使いやすい金融サービスを拡大していきたいと考えています。

信頼・尊重・インスピレーションを大切にした組織文化

――LINE BKはどのような組織文化ですか?

トミー:
私は、「信頼」「尊重」「インスピレーション」を大切にした組織文化を築くことが、良いチームづくりの出発点だと考えています。メンバー一人ひとりが、自分の存在価値を感じながら力を発揮できる環境を整え、役職や部署を超えて自然に協働が生まれるフラットなチームを目指しています。私たちのコアバリューは「DUET」という4つのキーワードに集約されています。

D: Be Different(個性と革新を大切にする)
U: User-Obsessed(ユーザーへの徹底的なこだわり)
E: Enjoy the Challenge(挑戦を楽しむ)
T: Better Together(共に成長する)

この価値観をただスローガンとして掲げるだけではなく、社内の活動にも反映しています。たとえば、DUETに沿った行動や成果に対しては社内表彰を行い、定期的に各メンバーの取り組みを可視化・評価する仕組みも設けています。スポーツデーやワークショップなどの社内イベントも定期的に開催し、メンバー同士が交流し価値観を共有できる機会になっています。

――CEOとして、組織作りで大切にしていることは何ですか?

トミー:
CEOとして私が一番大切にしているのは、組織の意思決定や行動が「人間らしく」「思慮深いものであること」です。私たちはテクノロジーを扱う企業である一方で、人々の生活に深く関わる金融サービスを届ける存在でもあります。だからこそ、そこにいる人の感情や背景に配慮しながら、誰もが安心して働き、提案し、挑戦できる組織をつくっていきたいと考えています。

LINE BKオフィスでのワークショップの様子

取材当日のオフィスでのワークショップの様子。社員たちが交流しながらペットの首輪作りを楽しんでいました。CEOトミーの姿もあり、社員と笑顔で交流する姿が印象的でした。

トミー:KASIKORN LINEには約350名が在籍しており、金融とテクノロジー出身のメンバーが半々の割合です。専門性を尊重し、多様な視点からサービスを磨いていけることも大きな強みです。

誰にでも開かれた金融プラットフォームへ

――そうしたチームの力を活かして、今後はどのようなことに注力していきますか?

トミー:
タイでは、収入証明や信用履歴がないことから、フリーランスや小規模事業者が正規のローンを受けられず、高利貸しや違法ローンに頼らざるを得ないケースも少なくありません。LINE BKはこうした金融サービスから取り残されがちな人々を支援することを重要な使命としてきました。今後もこの分野は、LINE BKにとっての重点領域です。信用履歴がない人にも安心して使ってもらえるローンサービスを、LINEのエコシステムとの連携強化や審査モデルの継続的な改善によってさらに広げていきたいと思っています。

ローン以外の領域でも、LINEならではの直感的なUX(ユーザー体験)を活かした決済・保険サービスをさらに拡充していく予定です。LINEという日常に密着したプラットフォームを基盤に、誰にとっても使いやすく信頼される金融体験を、これからも届けていきたいと考えています。

――LINE BKは、2025年10月に5周年という節目を迎えますね。今後LINE BKが目指していく姿を教えてください。

トミー:
サービスを開始してからこれまで、私たちは多くの挑戦を経験してきました。5周年という節目を迎え、次のステージに向けた準備が整ったと感じています。今後はより多様な金融機能を備えたプラットフォームへと進化させていきたいと考えています。最終的には、LINE BKをタイのリテールバンキング分野におけるトッププレイヤーへと成長させ、何千万人もの人々にとって、日常生活に欠かせない存在になることを目指しています。

タイでは、バーチャルバンクのライセンス制度が導入され、2025年には3つの事業者が認可を受けました。これらの事業者は、2026年までに実店舗を持たずにサービスを開始することが求められています。新たなプレイヤーの参入によって、競争とイノベーションがさらに加速していくでしょう。しかし、LINE BKはすでに一歩先を進んでいると考えています。ユーザーはすでにLINEアプリひとつで口座開設からローン申請融資・送金・保険購入までが可能です。つまり私たちは、「バーチャルバンクのあるべき姿」をすでに実現しています。

今後も、カシコン銀行との強固なパートナーシップ、そして5,400万人のLINEユーザーへの圧倒的なリーチという強みを活かしながら、より一層タイの人々の暮らしに寄り添う「デジタル金融パートナー」を目指していきます。

トミーが話をしている様子。

――LINE FinancialのCOOとして、サニーさんは今後のLINE BKの成長をどう考えていますか?

サニー:
ここ数年、LINE Financialは、台湾・タイ・インドネシアにおけるLINE Bank事業の成長とともに、強固な基盤を築いてきました。その中でも、LINE BKはタイで大きな存在感を示しており、可能性に満ちたサービスだと感じています。

今後はカシコン銀行をはじめとする様々な金融分野の子会社とのパートナーシップをさらに深めていく予定です。 こうした連携が進めば、LINE BKはユーザーの日常の中により自然な形で溶け込み、金融体験そのものが生活の延長線上にあるような世界が実現できると考えています。

LINEの持つプラットフォーム力、豊富なデータ、そしてAI技術を組み合わせることで、LINE BKにしかできないユニークな金融体験をさらに進化させていくつもりです。今後もタイの人々の日常に寄り添いながら、次の時代のデジタル金融の形をLINE BKからつくっていきたいと思っています。

トミー、サニーが笑顔で話をする様子の写真

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取材日:2025年8月7日
文:LINEヤフーストーリー編集部 写真:山崎 拓也
※本記事の内容は取材日時点のものです

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