タイにおいて5,400万人と、総人口の80%以上に利用されているLINEは、いまや国民の生活だけでなく、ビジネスにおいても欠かせない存在です。政府機関から、銀行、ラグジュアリーブランドまで幅広く導入され、売上や業務効率化に大きな成果をあげている「LINE for Business」の概要、広く支持されている背景、強さについて、LINE ThailandのChief Commercial Officer(CCO)のプイとChief Technology Officer(CTO)のボールにインタビューしました。
プイ:
LINE Thailandは「タイにおける包括的なビジネスと経済成長の推進」をミッションに掲げ、チャットコマースを中心とした「WOW」な体験を提供しています。主要ソリューションの「LINE for Business」は、認知(Awareness)→検討(Consideration)→購買(Conversion)→顧客関係管理(CRM)まで、顧客体験の全プロセスを一貫して支援できるのが特徴です。
「LINE Commerce Solution」が提供する顧客体験プロセス全体像
ボール:
タイには「お店の人との会話を楽しむ文化」が根付いているので、eコマースにおいても、チャット機能を通じた接客や販売がとても重要な役割を果たしています。LINEを使って店舗が商品情報やカタログを管理し、顧客満足度やロイヤリティを高めるなどの機能を提供しています。
また、大企業は複数のタッチポイントを自社で抱えがちですが、「LINE公式アカウント」と連携することで、顧客情報を一元管理し、LINEのデータとも掛け合わせて利活用することができます。これはタイに限らず、日本を含むグローバル市場において私たちLINEヤフーが持つ強みです。
プイ:
LINEのソリューションは、ブランド価値を高め、顧客との関係を深めることを目的としています。セキュリティに配慮しつつ、各ブランドのニーズに合わせた柔軟なカスタマイズが可能です。たとえば「パブリックセクター」では、幅広い層へ情報を届け、認知向上に大きな効果を発揮しています。
LINEを使って保険料の支払い等の通知や窓口業務を行い、問い合わせ件数を20万件以上削減した社会保険 (SSO)事務所の事例。
SCB(サイアム商業銀行)では、LINE公式アカウント「SCB Connect」を通じて、顧客とのやりとりを強化しています。
プイ:
今後、さらに注力していきたいのは、ヘルス&ビューティ、フード&ビバレッジ、ラグジュアリーブランドの3領域です。
ボール:
コロナ禍を経て、銀行をはじめ多くの業界で「人に頼る仕組み」から「テクノロジーに頼る仕組み」への転換が進み、より高度なデジタルサービスへのニーズが高まりました。その中でLINEは、利便性と安全性の両方を確保する仕組みを企業と協力して構築しています。
特に銀行では、半年〜1年ごとの定期監査を通じてバックアップ体制やセキュリティを確認し、必要に応じてすべての要件に対応し、信頼性を担保しています。こうした取り組みにより、ユーザーは安心してサービスを利用でき、企業にとっても利便性とセキュリティを両立した形での運用が可能になっています。
プイ:
ここ数年、多くのラグジュアリーブランドがLINEの活用に注目しています。ただし目的はオンライン販売ではなく、顧客との関係を深め、ブランド体験を高めることです。ステッカーや限定きせかえの配布、イベント告知などを通じて、クリエイティブで特別感のある体験を提供しています。また、営業担当者は個人のLINEアカウントではなく、ブランドのLINE公式アカウントを使って顧客と直接つながることによって、より強い関係を築いています。
一方で、本社が欧州にあるブランドはWhatsAppやFacebookには馴染みがあっても、LINEには理解が乏しいことがあります。そこで2年前、アジア拠点の多いシンガポールで専用イベントを開催し、タイ市場におけるLINEの影響力を伝えました。こうした取り組みにより、現地オフィスが本社に予算を申請する際の理解や承認を得やすい環境を整えています。
プイ:
まさに、中小企業から公共機関、飲食、ラグジュアリーブランドまで成果が出ていますのでいくつかご紹介します。
LINEの各種機能を活用して新規顧客の獲得から販売促進、リピート購入の促進までを一貫して実現する香水ブランド。
Gon Gang(焼肉店)での導入事例。メニュー閲覧、注文、支払いをLINEで行うことでユーザー体験も、店舗の業務効率化も実現。
プイ:
営業現場ではまず顧客の課題を丁寧にヒアリングし、コンサルタントと共に最適な解決策を検討しています。場合によっては一度持ち帰り、より良い提案につなげています。私たちは単なるサービス提供者ではなく、顧客と共に課題を解決するパートナーです。
実際、カスタマイズのニーズは増えており、業種ごとに最適なソリューションが異なります。そのため専門性を持つパートナーと連携しながら、最良の提案を行っています。
プイ:
ビジネスコンサルタントが持ち帰った課題は、クイックミーティングで関係部署を明確化し、「この案件はリーガルと」「このプロジェクトは外部パートナーと」といった形で体制を整理して対応しています。部署横断でのコミュニケーションを取りやすくするため、座席や部門配置といった組織変更も柔軟に対応し、顧客課題を最適な形でスピーディに解決するようにしています。
ボール:
大企業の場合、社内にエンジニアがいるため、「プラットフォームが必要かどうか」や「APIを使うべきかどうか」といった技術的なニーズが企業ごとに異なります。場合によっては、独自のシステムをゼロから設計・構築することもあります。
一方で、中小企業は開発チームを持たないことが多く、すぐに使える高品質なソリューションが求められます。APIの提供や開発者コミュニティへの参加支援を通じて、私たちはさまざまな規模の企業と共に、LINEの技術や機能を理解し簡単に活用できるようサポートしています。
また、技術は使う人次第です。だからこそ、ユーザーの教育やプロフェッショナル化を支援し、価値を広げていくことが重要です。大企業には伴走型でのサポートを、中小企業には適切なパートナー紹介や即戦力ソリューションの提供を行うことで、信頼関係を築きながら長期的な価値を提供していきます。
ボール:
これは2023年に発表された戦略で、タイの開発者や企業がLINEの機能を活用して独自のプラットフォームを構築できるようにすることを目的としています。これには、あらゆる開発者が自身のビジネスの独自のニーズに合わせた、すぐに展開可能なソリューションをLINE上で作成できるインフラストラクチャである「LINE OA Plus」が含まれます。
このLINE OA Plus上でLINE Thailandの開発者がすでに作成し、タイ市場で成功裡に提供しているサンプルソリューションはMyShopとMyCustomer(CRM)です。 したがって、将来的にはこのインフラを外部パートナーにも広く開放することを目指しています。
重要なのは、このシステムがLINEのAPIやLINE公式アカウントとシームレスに連携し、他のエコシステムとも協働できることです。これにより、企業は自由にソリューションを作成し、それらを問題解決や新たな成長機会につなげることが可能になります。
私たちはこれを「ロックを外す」取り組みだと考えています。AIの進展により、デジタル導入の遅れは事業存続に直結しかねません。しかし、たとえ自社で開発が難しい企業でも、このオープンプラットフォームを活用すれば可能性を広げ、新しい未来を描けると信じています。
ボール:
LINE Thailandの魅力は、自らの技術を活かして社会に貢献できる環境にあります。膨大なユーザー基盤の中で新しい課題に挑戦できることは、大きなやりがいです。さらに、日本や韓国をはじめとしたグローバルチームと協力できる環境も整っており、成長と挑戦の機会が豊富です。こうした風土が定着率の高さにつながり、多くのエンジニアが長く活躍しています。
プイ:
私たちのミッションは「解決策を生み出す」ことだけでなく、「人々のニーズに応える」ことです。LINEが日常生活の一部として受け入れられていることを大変誇りに思っていますが、その関係をいかに持続させるかが課題です。私たちは新しい世代からも愛され続けていくため、これからも挑戦を続けていきます。
ボール:
「愛される」ということは「期待される」ということ。期待に応えるため、私たち自身が成長を止めず、誰も置き去りにしない姿勢を貫くことが大切だと考えています。
プイ:
私たちは多くの国で様々なサービスを提供している先進的テクノロジー企業の一つとして、各国の事例や洞察を共有する能力を高めながら、それらをより柔軟に活用していきたいと考えています。
たとえば、日本の成功事例をタイ市場に適用したり、特定のブランドセクター向けに調整したりするなど、各国の特性に基づいた継続的な協力がその一例です。このような洞察や活用事例の素晴らしい協力は、長期的にLINEヤフーグループのグローバルレベルでの成功や成長を加速させると信じています。
ボール:
ビジネス観点での事例や洞察ばかりでなく、技術面でも共有が進み、進化の速度が加速しています。代表例としてLINE OA Plusが挙げられます。これはタイ発祥で、台湾にも広がり、協力によってさらに優れた製品へと成長しました。共通の基盤を持ちつつ文化の違いを尊重することで、国境を越えた協力が可能になります。
LINEヤフーグループの強みは、共通のビジョンと技術環境を持ち、技術面でのグローバルな協力を促進することであり、それが最終的に各地域および世界中の企業とエンドユーザーにより効果的なソリューションやサービスを提供することにつながると信じています。

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取材日:2025年8月28日
文:LINEヤフー社内広報編集部 写真:山崎 拓也
※本記事の内容は取材日時点のものです
