球児の「一生懸命」な姿を記憶と記録に残す バーチャル高校野球の進化

サービス
タイトル画像

LINEヤフーでは、さまざまな社員が働いています。シリーズ「WHY? LINEヤフー」では社員個人にスポットを当て、一人ひとりがどのようにユーザーに向き合い、何を大切に仕事に取り組んでいるのかに迫ります。
今回、LINEヤフーが参画して4年目を迎える「バーチャル高校野球」のプロジェクトマネージャー草田にインタビューを実施。高校野球にかける思い、利用者に寄り添うサービス作り、そしてデジタルの力で切り拓く未来への挑戦について聞きました。

草田さんのプロフィール画像
草田 吉篤(くさだ・よしずみ)
メディアカンパニー メディア統括本部 スポーツ本部 パートナーシップ推進部 2018年にヤフー(現LINEヤフー)へ入社し、スポーツナビに携わる。企画・編成・編集を経て、現在は「バーチャル高校野球」のプロジェクトマネージャーとしてプロジェクト全体を統括。野球・ボクシングはじめ、スポーツ全般への深い関心を持つ。

ケニアの地で気づいた"野球の楽しさ"とキャリアの原点

――最初に、これまでのご経験やキャリアについて聞かせてください。

前職は外交関係の仕事でケニアにいました。日本から来た首相などをケニアでお迎えするような仕事をしていました。ケニアには当時、日本人は800人くらいしかいなくて、特に若者は少なかったのですが、野球好きは多くいて、日本人会の野球部がありました。私は学生時代に野球をやっていたこともありその野球部に誘っていただいて、最終的には代表のような立場で活動していました。

――学生時代はどのように野球に関わっていたのですか?

小中高と勝ち負けにこだわる厳しい環境のなか、プレイヤーとして本気で取り組んでいました。そのころは、自分が実際にプレーをして活躍することや勝つことがスポーツの醍醐味だと思っていたので、けがをしたことをきっかけに野球から遠ざかってしまいました。でも、ケニアで久しぶりにプレーしてみると、本当に自由で楽しくて、スポーツの本質的な楽しさを思い出させてくれて、「野球ってこんなに楽しかったんだ」と心を動かされました。それからもう一度スポーツの世界に挑戦したいと思うようになり、転職を考える大きなきっかけになりましたね。

草田さんは、柔らかく自然な笑顔を浮かべ、両手を前に出して指を広げるジェスチャーをしながら話しています

――その挑戦の舞台として、「スポーツナビ」を選んだ理由を教えてください。

もともと「スポーツナビ」はユーザーとしてよく利用していました。野球だけでなく、スポーツ全般が好きで、当時はテニスの試合などもよく観ていました。

スポーツは"やるのが全て"だと思っていた自分が、日本の中でも最大級のスポーツ総合サイトで"伝える"という仕事もあるんだ、そういう仕事をしたいと心の底から思うようになりました。今度は自分が作る側になって、ユーザーにスポーツの楽しさを伝えていこうと思って飛び込みました。

入社してからは、まず企画職としてディレクションを経験し、その後は編成、編集系の部署、そして今のビジネス寄りの部署と、一通りいろいろな経験しました。現在は「バーチャル高校野球」のプロジェクトマネージャーとして、データ配信、映像配信、それに伴うセールスなど、いろいろな側面から全体的に携わっています。

バーチャル高校野球で、"誰でも主役"に

――現在担当されている「バーチャル高校野球」について教えてください。

バーチャル高校野球は、朝日新聞社と朝日放送テレビ、LINEヤフーが共同で展開している高校野球の総合情報サービスです。夏の高校野球は地方大会1回戦から全国大会の決勝まで全試合、その他にも高校軟式野球の全国大会や女子高校野球の全国大会など幅広い試合のライブ配信を、スマホやパソコンから無料で楽しむことができます。ライブ映像だけでなく、速報データやハイライト動画なども充実しているので、インターネットの特性を活かして、利用者それぞれに合わせた体験ができるようになっています。

特に夏の高校野球で、地方大会1回戦から全国の決勝までの全試合をライブ配信できている意義はとてつもなく大きいと思っています。かつては試合が見たくても、どうしても見られないこともあったと思います。でも今は自分の母校や地元の試合、家族や友人の勇姿をどこにいても見ることができます。そんな世界観を実現できていることが、元球児だった自分としても感慨深く、素晴らしいことだと自負しています。

――これまでにどのような進化があったのでしょうか?

最初、「バーチャル高校野球」は朝日新聞社と朝日放送テレビのみで展開していて、そこから数えると今年でサービス開始から10周年を迎えました。そこに私たちスポーツナビが参画したのは2022年です。それまでは夏の地方大会では全国すべての試合をカバーできていませんでしたが、2023年には地方大会を含む全3,482試合のライブ配信が実現できました。これは「単一スポーツチャンピオンシップをプラットフォームでライブストリーム配信した最多試合数」としてギネス世界記録に認められました。

全試合ライブ配信を継続するのはもちろんのこと、速報もより詳細なデータを配信できるように進化していて、その対象試合も年を重ねるごとに広がっています。母校や気になる学校をフォローすることで試合開始や途中経過、試合結果などのプッシュ通知が届いて見逃すこともなくなります。映像やデータを見ながら応援メッセージも送れます。まさに、高校野球を丸ごと楽しめる"インターネット球場"になってきていると思います。

スマートフォンのプッシュ通知の画像

――これまでの中で、印象に残っているエピソードはありますか?

私の母校は千葉にあるのですが、毎年必ず一度は試合を球場に見に行くようにしています。その母校の試合を球場に見に行った帰りのモノレールの中で、同じ母校の生徒たちがスマホでバーチャル高校野球を見て応援していました。その光景を見たときは、本当にうれしかったです。それも千葉のモノレールの中で、神奈川のチームの試合を見ている。これはインターネットだからこそ実現できていると感じました。

また、「応援コメント」機能について、「離れていても応援できてよかった」といった声が届いていたり、本当に温かいメッセージが多くて、すごく励みになっています。やっぱり、誰かが誰かを応援するということが「バーチャル高校野球」を通じてきちんと実現できているんだなと実感しますね。

応援コメントの画像

――ユーザーの声や要望をサービスに生かしている例を教えてください。

一例として、データ速報について紹介させてください。当初はスコアだけの表示だった「イニング速報」が大半でしたが、打席ごとの結果や選手名まで細かく表示される「打席速報」を増やしました。親御さんや選手本人にとって、名前が「スポーツナビ」に出て、それを記憶だけでなくスクリーンショットなどで保存できる。本人だけでなく家族や、その友人にまで記憶にも記録にも残せることがすごく喜ばれています。

打席速報のスクリーンショット

データ速報 ※高校、選手名や記録などはダミーです

――今年特に力を入れたことや、工夫したことがあれば教えてください。

先ほどの「打席速報」ですが、2023年は約900試合、昨年は約1,900試合分しか実施できませんでした。メンバー一同がんばったのですが、結果的に実現できない試合も多く、選手やその周辺の方々のがんばりを世の中に出せなかったと、本当に悔しい思いをしました。プロジェクトメンバーはもちろん、社外の関係者も含めて、昨年の大会終了後からすぐに改善に向けて取り組んできました。今年はその努力が報われ、3,000試合を超える打席速報を配信することができました。

実はこの「打席速報」は現地で高校野球連盟の先生方がスコアを入力してくれています。公式記録を電子スコアブックと呼ばれるツールで記録する傍ら、それを速報データとして配信する仕組みになっています。すべてのデータを入力するのは本当に大変なことです。入力してくださる先生方をはじめ、朝日新聞社、朝日放送テレビなど社外の方々、そしてスポーツナビのメンバー、本当に多くの人の協力で成り立っています。数々のバトンをつないで最後にスポーツナビに出る。そのつながりも本当にうれしいです。改めてこの場をかりて感謝をお伝えしたいです。

――新しい取り組みについても教えてください。

今年はLINE公式アカウントを使って、各地の高野連と現場の方々の負担を減らしたり、課題解決に貢献できるような取り組みも実施できました。例えば、現地の駐車場の混雑情報などは球場で観戦するお客様や周辺の住民の方々、主催者として運営をしている高野連には大きな問題で問い合わせも多いそうです。こういった現地情報や主催者だからこそ発信できるような情報をLINE公式アカウントから配信していただきました。日本で多くの方がすでに利用しているLINEだからこそ、必要な情報をよりスムーズに届けることができると考えています。まずはこういったことから少しでも貢献できたらうれしいです。

手前味噌ですが、どこにいてもインターネットで試合が見られることは本当に素晴らしい体験です。ですが、やはり実際に球場に足を運んで試合を見ていただくこともぜひしてもらいたいと思っています。今後は、例えばLINE公式アカウントで「近くの球場で試合がある」と気づき、球場に見に行けるような、インターネットとオフラインをつなげるような役割ができたらこのうえないなと考えています。

佐賀県高等学校野球連盟のLINE公式アカウント

AIでひろがる未来と、高校野球が生み出す新たな価値

――AIの活用や、今後のスポーツ配信の可能性はどのように考えていますか?

朝日新聞社とは今夏の地方大会からAIを使った取り組みも始めることができました。打席速報のデータを利用してAIマッチレポートを作成するというもので、記者が減ることで「地域情報の砂漠化」が叫ばれるようになった昨今、世の中の課題解決にも取り組んでいけたらと新聞社のみなさまと一緒に進めてきました。この取り組みによってより多くの学校や選手にスポットライトを当てられるようになると思っています。このように技術も発展してきているので、高校野球はもとよりすべてのスポーツのより良い配信につなげていけたらうれしいです。スポーツを愛するいろいろな方々と手を取り合い、さらに良い形にブラッシュアップしていきたいです。

AIマッチレポートのスクリーンショット

――この仕事を通じて、大切にしていることやこれからに向けた思いを教えてください。

高校野球を見ていて、一番心に残るのはやはり「一生懸命」な姿です。なぜこんなに心を打たれるのかといえば、そこに懸けている思いが伝わってくるからだと思います。負けた選手の涙も、勝った選手の涙も、どちらも本気だった証拠で、そこにすべてが詰まっている。私たちが届けているのは、そうした「一生懸命」な姿です。だからこそ、届ける側の自分たちも「一生懸命」に取り組みたいと、いつも思っています。

このプロジェクトには、社内外の本当に多くの方たちが一生懸命に関わっています。私自身も多くの人に支えられてきましたし、一生懸命に取り組んでくださっている関係者のみなさんに心から感謝しています。

草田さんは、口元と目元に笑みを浮かべ、両腕を体の横に下ろしたまま、正面を見て笑顔で立っています。

――これから挑戦したいことはありますか?

新しい武器、たとえばLINE公式アカウントのような取り組みもどんどん進めていきたいです。高校野球を起点として他のLINEヤフーのサービスも含めてどのような新しい価値が生み出せるか、という可能性も広げていきたいですね。

そして何より、もっと多くの人に高校野球を見て、応援してもらいたい。それはバーチャルだけでなくリアルな場でもぜひ味わってもらいたいと思っています。その場にいなくてもインターネットで見られるのはもちろん素晴らしいことですが、やはり球場にこもる熱量や応援している親御さんや生徒たちの表情や声援、運営の人たちの動きなど、現地でしか味わえない空気もあります。だからこそ、インターネットと現地をつなぐ役割を担いたいと思っていますし、今後も広げていきたいです。

関連リンク


取材日:2025年7月23日
文・LINEヤフー社内広報編集部 撮影・倉増 崇史
※本記事の内容は取材日時点のものです


【WHY? LINEヤフー】バックナンバー

Page top