事前準備ですね。そこは労力を惜しまずに、会議参加者の経歴とか、出身大学まで調べています。
LINEヤフーグループはグローバルな組織です。さまざまな国や地域のメンバーがともに働いています。その言語の壁を越えたコミュニケーションを担い、大きなシナジーを生み出すための基盤になっているのが、通訳のメンバーです。
今回は英語通訳チームの渡部 、韓国語通訳チームの金に、「WHY? LINEヤフー」を聞いてきました。通訳レベルの語学力に加え、最新のITビジネスの知識を持つ二人は、市場でも引く手あまたのはず。それでも「LINEヤフーで働く理由」はなんなのでしょうか。
事前準備ですね。そこは労力を惜しまずに、会議参加者の経歴とか、出身大学まで調べています。
どこの国の大学だったかがわかると、アクセントが想像できるんですよ。
なので、社外の会議では特にLinkedInで調べたりしています。社内の会議でも、所属を知っておくだけでも、「開発の立場だから、こういう発言をするかも」と事前に想像できたり、当日の発言の意図も見えてきたりするんです。YouTubeに出ている方もいるので、その場合は動画を見て、アクセントや話し方のくせを確認したりします。
さらに、当日の資料を読み込んで、頻出しそうな単語を集めて、英日の対訳表を作って......と。準備をし続けようと思ったら、永遠にできてしまう(笑)。
通訳の社内向け案内ページには、「ワークショップなどの資料は3営業日前までに、定例会議などの資料は1営業日前までに共有ください」と書いているのですが、なかなか難しいケースが多いみたいで......。
実際には資料がないことも多くて、その場合は「仕方がない」と思って精一杯やりますが、やはりスムーズな通訳を行うには十分な事前情報が不可欠です。できるだけ詳細を共有いただきたいのですが、文書での共有が難しければ、「口頭でも構わないので、最低限の情報はください」とお願いしています。
なんか、口うるさいと思われてないかな......と心配になることもあります。
やっぱり、情報の漏れがないように「正確に訳すこと」ですね。それから、「会議をスムーズに進行すること」も心掛けています。
社内通訳としてのゴールは「会社の業務が進むこと」なんですよね。なので、急に来た依頼でも時間の許す限り対応して、会議の目的を果たしてもらうのが一番だと思っています。
会社の幅広い情報を最前線に近い場所で聞けるのは、おもしろいですね。会社全体の動向をふかん的に理解できるのは、通訳ならではの特権だと思います。プレッシャーもありますけど、おもしろいところでもあると思います。
そうですよね。あとは、Slackのやりとりで解決できなかった問題が、「会議したらすぐ解決したね」と聞くと、うれしいなって思いますね。
そう。そういうときは、本当によかったなって。
広い知識や経験がものを言う仕事ですので、勉強しなきゃならないことが多すぎて、途方に暮れそうになるときがあります。でも、チーム内で情報を共有し合ったり、依頼者に教えていただいたり、とても周りの方に支えてもらっています。
私も全く同感です。
それと同時に、がんばって準備をしても、通訳の質は発言者のコンディションに左右されてしまうことも難しい点です。早口で発音が不明瞭だったり、マイクの音質が悪くて聞き取れなければ、きちんと通訳できません......。なかなか「もう一度お願いします」と言いづらいタイミングもあるのですが、伝えなければならないことがあるときは、発言しなおしてもらうようにお願いしています。
ああ、それはしょっちゅうあります。
ありますよね。
そうですね。「絶対にこれを進めたいんだ」みたいな情熱も伝えられるよう心がけています。みなさんががんばってこられた様子を何カ月も見ていると、自然と感情移入することもあります。
一方で、ケンカになって、「ここまで言ったら決裂しちゃうんじゃないか」と思ったときは、少しトーンを下げたりもします。このあたりは、通訳者によって考え方が違うかもしれませんが......。
そこは意見が分かれるところですよね。私もやる方です。
「決裂して話が進まなくなったらどうしよう?」と思うと、言っていないことは言えないですけども、語尾とかトーンを、ちょっと調整することはありますね。
この規模の会社で、通訳チームの体制がこれだけしっかりしているって珍しいですよね。通訳がいる会議に慣れている方も多いですし、私たちの仕事への理解があります。
通訳チーム内も「みんなで助け合ってやっていこう」という雰囲気がありますし、社員のみなさんや経営陣も「通訳してくれて、ありがとう」と言ってくれたりして、お互いの仕事へのリスペクトを感じられます。
ある役員の方が会議で、「言葉が通じるもの同士でやったほうが楽でいいじゃん、という考え方には反対だ」「違う国のメンバー同士で協力しあう文化こそが、われわれの誇りなんだ」と言っていて、通訳としても力強い後押しをもらったような気がしました。
そういう会社の歴史があるからこそ、いまの通訳チームがあるのだろうし、社員のみなさんが通訳を大事に思ってくれるのだろうと思います。
それから、最先端のビジネスを勉強できるので、キャリアとしてもいい環境だと思います。会社にいると、新しいことをやろうと思わなくても、どんどん新しいことがやってくる感じがあります。
たしかに。普段なかなか触れる機会がないトピックを学んで、それが自分の知識になり、会社のビジネスを前進させるサポートにもなるって、幸せな仕事だなと思います。
たとえば、誰かが一方的に話すような会議だと、早口になってしまったり、ローカルな冗談が出てきたりして、グローバルのメンバーが置き去りになってしまうことがあるんですよね。そこでは「バックグラウンドの異なる人がいること」を意識するだけでも、相手に伝わりやすくなると思います。
もちろん、通訳は「ここは補足説明がいるかも?」などと考えながら訳していくのですが、現場では時間との戦いになりますので、やっぱり資料などを事前に共有してもらえるとうれしいです。
そうですね。
まだ韓国語は日本と同じ漢字文化圏なので、四字熟語がそのまま通じたりしますが、英語の場合は大変そうですね。
困ることもありますね......。
四字熟語ではないのですが、ある会議で「OK牧場」って発言した方がいて、「どうしよう......?」と思って(笑)。
そのときは、まだ入社したばかりの頃で、とりあえず「OK」としか言えなくて......。あとで、英語話者のメンバーにDMで、「うまく訳せなくてごめんなさい。この人が言っているジョークなんです」と、ガッツ石松さんのプロフィールを送ったこともありました。
軽い冗談とかで、なんとなく内輪だけで盛り上がってしまうことってありますよね(笑)。
そう。みんな笑うし、盛り上がるんですが、「なんで『OK』がおもしろいの?」って、英語話者には少しさびしい思いをさせてしまう......。
私の技量不足でしかないんですけど......。
難しいですね(笑)。
もう、「ジョークで、みんな笑っています」という説明になるかな......と思います。
国際会議とかで同時通訳が間に合わないときは、「この人はジョークを言いました。笑ってください」と伝えることもあるそうですね。
先日、多言語環境でのコミュニケーションにまつわる社内研修を受けたのですが、「専門家以外にもわかるように話そう」「相手の立場に立ってみよう」とか、いろんなバックグラウンドの方と働くことを意識させる内容になっていて、通訳としてもありがたいなと思いました。
「1つの文に入れる意味は1つにする」「簡単な言葉を使う」「1語1語はっきり発話する」を意識するだけでも、相手に意図が伝わりやすくなりますし、通訳の正確性にもつながってくると思います。
はい。私も渡部さんのおっしゃった点はとても重要だと思います。あと、通訳するときには「耳から入る音のクリアさ」もすごく大事なんです。まず聞き取れないと通訳ができませんので......。Zoom会議とかで、会話を円滑にしようと「あいづち」を打つことってありますよね。それが、相手の声が途切れてしまう原因にもなるんです。なので、話さないときはマイクをオフにして、Zoomのリアクションボタンを使うか、画面上でうなずいてもらえるとありがたいです。
たまに、オフラインの会議のときに、ノートPCをZoomにつないで「Zoom参加者のためにPCの前で通訳してください」とお願いされることがあるのですが、そのときは「ごめんなさい」とお断りしています。というのも、PCから出る音量や音質だと自分の声に負けてしまって、ちゃんと聞き取れないからなんです。
シャドーイング(※)をしてみると、わかりやすいかもしれません。聞こえてきた音声を影のように追うイメージで、聞こえた音声のすぐ後を追って復唱してみるのがおすすめです。
※外国語の音声を聴きながら、その音声を即座にまねして発音する語学学習法。
そうなんです。なので、音声がクリアに聞こえないと、特に人名、社名などの固有名詞を聞き逃しやすいんです。やっぱり、対面会議のときは全員対面で、Zoomでの参加の方がいるときは、全員Zoomでお願いできれば......と思っています。
またZoom会議では、有線のヘッドセットを使ってもらえると助かります。
会議の参加者同士で音声がかろうじて聞こえるくらいのレベルだと、同時通訳は無理なんですよね。もし同じプロジェクトに携わるメンバーだったら、ぼやけた音声を頭の中の背景知識で補足できると思うのですが、通訳には必ずしもその知識がないので......。
しかもウソを言ってはいけないので、適当に聞き流すこともできないんです。
社内の大きめの会議室では、通訳専用ブースも確保されています。ここで重要な意思決定がなされることも。
少しだけ通訳の様子を再現してもらいました。
これからも、いろいろと勉強を続けながら、経験を積んでいきたいですね。それから、通訳と会議参加者の距離をもっと縮めていけると、より細やかな対応ができて、通訳チームの役割が果たしやすくなると思います。やっぱり生身の人間が対応していますので、その温かみを感じてもらいながら、通訳と会議参加者がワンチームになって、「もっといい会議にするには?」と考えていけるような関係性を築けたらいいですね。
そうですね。結局のところ、自分たちの通訳でコミュニケーションがうまくいって、結果的に「サービスが成長していくこと」が私たちの喜びでもあります。その意味で、社内のみなさんと一緒に歩んでいる実感がもっと湧くといいですよね。これからも、いろんな情報をキャッチアップしながら、組織の中で役に立てる通訳でありたいです。
AIのほうが、難しい専門用語を瞬間的に通訳するのは上手だと思うんですよ。でも、私たちは社内の人間として「このサービスが、この会議がうまくいくように」と、みなさんと同じような思いで通訳しているので、場合によっては会話に入って、「もう一度、わかりやすく言ってください」と伝えることもあります。そういう言語を変換する以外のところで、人の通訳が必要とされる部分があるんじゃないかなと思います。
ですよね。たとえば、外部クライアントとの会議の前に、「こういう商談と聞いていますが、前向きなんですか」と温度感を確認しておくことがよくあります。そうすることで、発言者の気持ちを乗せられるんです。あんまり乗り気じゃないのに、言葉尻だけを捉えて機械的に通訳をすると、相手に気持ちが届かなくて、「前向きなのかな?」と逆の意味で捉えられてしまうこともあります。
そうですね。社内の人間として、「通訳」という中立的な立場ではありつつも、発言者が乗せてほしい気持ちの部分をアジャストできるのは、私たち通訳者なのかなと思います。
取材日:2025年4月18日
文:LINEヤフー社内広報編集部 撮影:倉増 崇史
※本記事の内容は取材日時点のものです
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