飲食や理美容の現場では、まだデジタル化は思うように進んでいません。そんな課題をLINEで解決したいという想いから、2025年7月1日、LINEヤフーは新子会社「LINEヤフービジネスパートナーズ(株)」を立ち上げました。
なぜ今、飲食・理美容業界のDX支援に乗り出したのでしょうか? LINEヤフービジネスパートナーズ(株)代表取締役社長の富永、執行役員の楠木、マネージャーの豊嶋に、今回の挑戦の背景とその先に目指す未来について話を聞きました。
富永:
私は2015年に旧LINEに入社し、「LINEフリーコイン」(現・LINEポイント)の立ち上げを担当しました。その後は広告事業に携わった後、2020年11月に現在のバーティカル事業(※1)を始動させました。
当時、「LINE公式アカウント」は企業の情報発信手段として伸びていたのですが、活用しているのは大手の自動車やアパレル企業が中心で、中小規模の飲食店や美容室などの店舗ビジネスの開拓がなかなか進んでいませんでした。LINE公式アカウントがもっと予約や販促などに機能すれば、より幅広い業界で使ってもらえるようになるのではないかと考えていたんです。
※1 LINE公式アカウントやLINEミニアプリ、LINEで予約などを活用し、飲食店をはじめとした店舗事業の支援を推進する事業。
富永:
はい。当時、多くの飲食店が営業の継続すら難しい状況にありました。そんな時、いつも通っているお店のLINE公式アカウントから「コロナで困っています。お弁当販売やっているのでぜひ買ってください」というメッセージが届いたんです。
実際にお店に行ってみると、店の前には長い行列ができていて、「LINEがちゃんと役に立っているんだ」と実感しました。メールでは届かないかもしれない情報が、LINEなら即座に届いて人を動かしている。このスピード感や親しみやすさこそがLINEの強みだと思いました。
普通なら「こんな時期に事業をやるの?」と思うかもしれませんが、逆に今こそさまざまな店舗に貢献するチャンスだと感じました。困っている店舗の課題を解決することが、LINEの社会的価値をより高めることにつながるのではないかと。こうした経験や気づきが、今回のLYBPの設立につながっています。
富永:
自分から「社長やります」と手を挙げたわけではなかったんです。子会社化の話が出てきたのが2025年1月ごろ。私は営業体制やプロダクトの方向性、採用計画などをどうするかといった実務の部分に関わっていましたが、「誰が代表をやるのか」という話は出ないままでした。
そんな中、今年の5月、設立の2カ月前に、池端(LINEヤフー コーポレートビジネスカンパニーカンパニーCEO)から「ゴルフ帰りだけど、ご飯行ける?」と誘われて、その場で「社長やらない?」と言われたんです(笑)。
富永:
びっくりしましたが、「覚悟のある人に任せたい」と言ってもらって。自分がこの業界やお客様と向き合ってきたことを思えば、やるべきは自分だと自然に腹が決まりました。社長という肩書きそのものよりも、現場の仲間とともにやっていきたい、期待に応えたいという想いが強かったですね。
楠木:
私は執行役員として、営業全体を統括しています。飲食・理美容という業界ごとの特性を踏まえて、どうアプローチしていくかをチームと一緒に考えながら、現場の動きと事業全体のバランスを取っていく役割です。前職では、EC事業者向けのコンサル営業や事業開発を経験したこともあり、現場目線で考える姿勢を大切にしています。
豊嶋:
私は大学時代、飲食店でずっとアルバイトをしていたので、現場の大変さや、お客さまとの距離感といったものは肌で感じてきたと思っています。その経験があるからこそ、今は「お店を支える側」としてLYBPに関われることに、大きなやりがいを感じていますし、しっかり支援していきたいと思っています。
富永:
一番の理由は、LINE公式アカウントを使ってくださっている業種の中でも、飲食や理美容が多いからです。実際、LINE公式アカウントには現在約120万のアクティブアカウント(※2)がありますが、そのうち美容・サロンが16%、飲食店・レストランが6%を占めています。カテゴリ別ではトップクラスの利用率です。
また、無料プランだけでなく有料プランを使ってくださっている割合が、飲食と理美容は特に高いんです。それだけ効果を感じてしっかり使ってくれている方が多い業界だからこそ、私たちがもっと力になれるのではないかと考えました。
※2 2025年3月末時点。
楠木:
加えて、市場全体で見ても、飲食と理美容業界は、デジタル化が特に遅れている業界です。小売業はPOSレジや無人レジなどの導入がある程度進んでいますが、飲食や理美容はまだ紙の台帳や電話予約が主流です。だからこそLINEでサポートできる余地が大きいと感じています。
まずはこの2業種からしっかり成果を出して、その先の小売や医療など、他業種への展開も視野に入れています。
富永:
LINE公式アカウントをはじめとするLINEのプロダクトを活用し、店舗の皆さまの日々の運営に役立つ使い方を提案・支援していきます。LINEは、すでに多くの人の生活に根付いているプラットフォームです。その強みを活かし、もっと便利に、もっと自然にお客さまとつながれる方法を、店舗の皆さまと一緒に考えていきたいと思っています。
楠木:
多くのサービスは、まずメディアをつくってお店とユーザーをマッチングさせるところからスタートします。「お店を探す」「予約する」「訪問する」などといった一連の流れですね。でも、LINEは、この流れが逆なんです。まずお店に来たお客様とLINE上でつながって、そこから「どうつながり続けるか」が起点になります。
たとえば美容業界は、来店の約7割がリピーターで成り立っています。飲食店も、常連客が経営の安定に直結します。だからこそ私たちは、LINEという日常的なツールを使って、再来店につなげるための仕組み=CRM(顧客関係管理)を店舗と一緒につくっていきたいと思っています。
富永:
お店を離れたあとの動きは、意外と見落とされがちです。来店後に「ありがとうございました」とメールが届いても、開かれないことが多いです。でもLINEなら、お店から届いたメッセージをきっかけに「また行こうかな」と思ってもらえる。そのサイクルを自然に作れるのがLINEの強みであり、LYBPの支援が活きるポイントです。
楠木:
全国には、さまざまなスタイルや課題を持ったお店があります。デジタル化の進み具合やリテラシーも、エリアや業種によってまったく違います。日々の業務に追われながらも、「もっと良くできるかもしれない」と感じている現場も少なくありません。
そうしたお店と一緒に課題を解決するには、膝を突き合わせて丁寧にサポートしていくことが大事だと思っています。導入だけで終わらず、運用や改善までを含めて伴走していける体制づくりを大切にしていきます。今回子会社化したのも、お客様一人ひとりと同じ目線に立って長く寄り添えるパートナーでありたいと考えたからです。
現在は東京・大阪に拠点を設けていますが、それだけではとても足りません。今後は全国のさまざまな地域に展開していく予定で、お客様のもとに直接足を運んでサポートできる営業体制を整えていきます。
豊嶋:
海外へ行くたびに、日本はまだまだDX後進国であると痛感します。ただ、今後LYBPを通じて飲食・美容業界のDX化が進めば、ようやく追いつけるのではないかとも感じています。これまでDXやデジタルといった言葉に苦手意識を持っていた人も、「LINEなら試してみようかな」と、手を伸ばす気持ちになるのではないかという期待もあります。
楠木:
LINEはすでに、人と人、あるいは店舗と人のインフラとして機能しています。今後はお店の中の業務や運営フローなどいわゆる基幹的な部分にも、私たちがしっかり入り込んで支援していくことで、業務効率化やコスト削減につながっていくと思っています。
人手不足や原材料の高騰など、さまざまな要因で利益が圧迫されている店舗もあります。私たちの支援によって少しでも余裕が生まれれば、従業員の待遇を改善したり、他の取り組みに投資できるようになったりと、店舗がさらに力をつけるきっかけになるはずです。
富永:
まさに2人の言葉がすべてですが、私たちが目指しているのは、「新しい常識を創り出す」ことです。今後ますますAIやデジタルの進化が加速していく中で、あらゆるものがデジタル空間に存在しているのが当たり前になってきます。
AIエージェントが全盛になれば、「◯◯県のどこそこで食事がしたい」という時に、デジタル空間にいない店舗は、どれだけ良いサービスや商品を提供していても、選択肢から除外されてしまう。それは大きな損失です。私たちはお店をその未来から取り残さず、きちんと選ばれる存在にしていくことを大事にしていきたいと思っています。
豊嶋:
旧LINEに新卒入社し現在3年目ですが、内定者アルバイトの時期を含めれば4年ほど、富永、楠木のもとで営業の経験を積んできました。アルバイトの時から、やりたいことはどんどんチャレンジさせてもらいましたし、今回もこうした新たなチャレンジに巻き込んでもらえることがとても嬉しいです。
今回のLYBP立ち上げを機に、マネージャーに就任し、メンバーのマネジメントにもチャレンジしていく立場になりました。これから入ってくる人たちが「こんなことをやってみたい」と自然に言えて、それを実現できる場所にしていきたいと思っています。
楠木:
ありがたいことに、LYBPにはすでに非常に多くの方が興味を持ってくださっています。しかも、ネームバリューではなく、「ここでやること」にワクワクして応募してくれている方が多いと感じています。
自分たちの手で価値をつくる過程を楽しめる人たちと一緒に、LYBPらしいカルチャーを育てていけたら嬉しいですね。
富永:
豊嶋のような若手がどんどんチャレンジできる環境をつくっていきたいと思っていますし、実際にそのように活躍してくれるメンバーが増えていくことで、LYBPがエネルギーのある会社になっていくと感じています。キャリアプランの面でも、一つひとつの挑戦が次のチャンスにつながっていくような、自分のキャリアを自分で作れる場所にしたいと思っています。
LYBPの社訓には「お客様に選ばれ、愛され続ける店舗を、一緒につくる」と掲げています。私はそれに加えて、「面白いことを一緒に仕掛けられる会社でありたい」という想いを重ねています。 お客様にとっても、働く仲間にとっても、「面白いね」と感じられることがないと、続かないし広がっていかないと思うんです。子会社だからこそできる柔軟さやスピード感を活かして、もっと自由に、もっと楽しく挑戦できる会社を体現していきたいですね。
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取材日:2025年8月20日
文:友清 哲 編集:LINEヤフーストーリー編集部 写真:日比谷 好信
※本記事の内容は取材日時点のものです