LINEヤフーは経営統合から3年目を迎え、社員数は単体で約11,000人、グループ全体で約27,000人に広がっています。組織が大きくなっていくからこそ、経営層と現場の目線をそろえていくことは、これまで以上に重要です。
LINEヤフーグループ行動規範は実質的に16の項目からできていますが、お二人が特に重視している項目を教えていただけますか?
LINEヤフーがまもなく3年目を迎える今、企業としての社会的責任を果たし、ユーザーのみなさまにより安全・安心なサービスを届けるために、コンプライアンスのさらなる徹底が求められています。
同時に、生成AIの急速な進化により、企業としての倫理観や意思決定のあり方も、あらためて問い直される局面に差しかかっています。
そこで今回、ガバナンスグループ長の妹尾がファシリテーターを務め、CEOの出澤と会長の川邊がLINEヤフーグループ行動規範の16項目を再点検。役職者や社員に求める具体的なアクション、そしてAI時代にふさわしいガバナンスの姿について語り合いました。
LINEヤフーは経営統合から3年目を迎え、社員数は単体で約11,000人、グループ全体で約27,000人に広がっています。組織が大きくなっていくからこそ、経営層と現場の目線をそろえていくことは、これまで以上に重要です。
LINEヤフーグループ行動規範は実質的に16の項目からできていますが、お二人が特に重視している項目を教えていただけますか?
私は「10. 情報セキュリティの徹底」を最重要と位置付けています。これは、私たちが全社をあげて取り組んでいるテーマであり、過去の反省を踏まえて、真正面から向き合う必要があります。ユーザーに安心してサービスを利用していただくためにも、技術面でのセキュリティ徹底は欠かせません。
特に、私たちがAI化やAIエージェントの実現を掲げている今、データの扱いは切り離せない課題です。だからこそ、より厳しくセキュリティを見直していく必要があります。
その通りですね。その大前提で、私は「6.個人に関する情報とプライバシーの尊重」にも注目しています。情報化社会、そしてAI社会が進むなかで、個人のプライバシーはこれまで以上に重要でセンシティブなものになっていくでしょう。
どんなに技術が進んでも、プライバシーを軽視してはいけない。だからこそ、「尊重する」という姿勢を、より明確に持ち続ける必要があると思います。
お二人のご意見から、社会に対して果たすべき責任の重さが伝わってきますね。
情報セキュリティについて、特に今後の課題だと感じることはありますか?
かつてLINE社もヤフー社も、情報セキュリティに関するインシデントを経験し、行政からの指導も受けてきました。その経験を踏まえ、常に最新の技術を使ってセキュリティを強化し続けることが不可欠です。
ただし、技術の世界に「完璧」はありません。だからこそ、万一の事態にも迅速に対応できる体制を整えておくこと。それが私たち経営陣の責任だと思っています。
その通りですね。一方で、グローバルな視点で見ると、個人的にはLINE Plus(※1)のCEO EJ(イ・ウンジョン)さんが、「自分が何か行動するとき、その振る舞いは「格」を備えているか、会社として本当に品格が整っていて威厳を感じると思えるかどうかが重要」という言葉を発信していたのが印象的でした。
※1:韓国に本社を置くグループ会社で、LINEのグローバル展開を支えている(編集注記)
同感ですね。われわれは特に日本、台湾、タイにおいて非常に多くのユーザーに利用いただいている大きなプラットフォーマーです。その立場にある以上、私たちは社会に対する責任を、より高いレベルで果たしていかなければならない。
つまり、コンプライアンスも成長し続ける必要があるわけです。
コンプライアンスの遵守を社員に求める一方で、現場ではスピード感ある判断が求められます。そうしたなかで迷いが生じたとき、社員がより良い判断をするために、どんな価値観を持つことが大切でしょうか?
行動規範を意識してほしいものの、すべてのルールを一語一句覚えるのは現実的ではありません。重要なのは「フェアプレーの精神」です。現場で何かに直面したとき、「これは本当にフェアか?」と自分に問いかけてみてほしいのです。
また、それが「家族や大切な人の前で堂々と言える行動かどうか」という基準も、分かりやすい判断軸になると思います。
その感覚は、私も大切だと思います。実際にマネジメントにおいて、私は特にハラスメントには強い注意を払ってきました。会社には上下関係がありますが、強い立場の人が弱い立場の人を不当に責めるようなことは絶対にあってはなりません。
昨今は時代の変化とともに、ハラスメントも大きな社会課題として注目されています。フェアプレーの視点を持つことで、多くの問題が未然に防げるのではないかと感じます。
まさにその通りです。誰かの立場になって考える習慣があれば、多くのトラブルは防げるはずです。パワハラやセクハラに限らず、被害を受けている側の視点で「それって嫌なことだよね」と気づくことができるかどうかが重要です。
これは、LINEヤフーバリューの1つであるユーザーファーストの視点にも通じます。私たちは常にユーザーの気持ちになってサービスを設計していますよね。同じように、他者への接し方においても、相手の立場を想像することが不可欠です。それができない人は、正直、LINEヤフーのカルチャーに合っていないと思います。
ここからは、役職者や管理職の方々に向けて、どんな行動が求められるのか、具体的に伺っていきたいと思います。
出澤さんはわかりやすい言葉に置き換えてくれましたが、役職者であれば行動規範の16項目を意識しておくことも大切です。私自身も見返すたびに、「そういえばこれもあったな」と思うことがあります。定期的に見直すだけでも意識が変わります。
私たちは新しいサービスや価値をどんどん生み出す会社です。だからこそ、新しい開発を進める際には、「行動規範に反していないか」を上役がすぐ気づくことが求められます。
特に、新しく入ったばかりの社員や若手エンジニアは、行動規範をすぐには把握できないこともあります。だからこそ、経験ある先輩社員が「この仕様、プライバシー的に問題ないよね?」と気づけるような組織でありたいと思います。
出澤さんは、こうした行動規範の浸透を組織全体に広げていくために、どのような工夫が有効だとお考えですか?
定期的にチームで行動規範を見直す機会をつくるのはとても有効だと思います。加えて、繰り返しになりますが、チームが日常の業務を進めるなかで「それってフェアかな?」と問いかける文化が浸透していることが大切です。
判断に迷ったときに、部下自身が「これはフェアじゃないかも」と自発的に立ち止まれるようになると、コンプライアンス違反の大きな抑止力になります。
そうですね。さらに、役職者は「自分の部署にとって特に大切な項目は何か?」を見極められることが重要です。
たとえば、調達部門であれば「利益相反の回避」、開発部門であれば「情報セキュリティ」、ニュース関連であれば「政治的中立性」など、部署によって重要度はそれぞれ異なります。
その上で、部下に「これって大丈夫?」と確認を促していく。それが健全な企業文化につながると思います。
冒頭でも少し触れていただきましたが、AIが社会を大きく変えていくなかで、行動規範やコンプライアンスのあり方も変化が求められます。AIの活用はわれわれにとって最注力テーマでもありますが、お二人はどうお考えですか?
私はこの領域においても「AIの徹底活用」が鍵になると考えています。AIには感情や私情がないぶん、公平で論理的な判断ができるという強みがあります。
ただし、そこに人間の「情」や「文脈」を加える視点も欠かせません。たとえばAIが下した判断が厳しすぎる場合、上役の人間が「もう少し考慮の余地がある」とサポートする役割も必要になってくるのではないでしょうか。
確かに、「AIのほうがむしろ判断が正確なのでは?」と感じる場面もありますよね。
そうですね。たとえばコンプライアンス違反があった場合には、最終的には懲戒処分などの判断をするということもあり得ます。ただ、人を裁く、評価するというのは、非常に難しい行為です。わかりやすくいうと、裁判官のように豊富な知見、多角的な情報をもとに判断するのが理想ですが、経営者がその役割を担うことは実際には限られた時間で行うなかで、限界もあります。
将来的に、コンプライアンス判断に特化したAIを開発すれば、正確な判断が可能になるでしょう。一方で、お伝えした通り、AIの判断には「情状酌量」が入りにくいという課題もあります。そこは人間が補完していく必要があると感じます。
出澤さんはどうお考えですか?
AIをどう活用するかは、まさに今、企業が向き合うべき大きなテーマです。法的整理やプライバシーに関するガイドラインが整っていないなかで、「どこまで任せてよいのか」という議論は続いています。
ただ、リスクを恐れず一定のトライをしていくことも重要です。数年以内に、AIと事業がどう協働していくかの「型」を見つけられる企業が、大きな強みを持つようになると思いますし、私たちこそが業界、社会をリードしていきたいですね。
それこそ「行動規範AI」のような仕組みができれば、判断の精度も上がりそうですね。では、最後にグループ社員へのメッセージをお願いします。
社会や技術が大きく変わるこのタイミングに、LINEヤフーとしても強い覚悟で変革に挑んでいます。フェアプレーやプラットフォーマーとしての志は変わりませんが、それをどう実践するかは日々進化していくものです。
変化に柔軟に向き合い、楽しんで乗り越えていく。そんな姿勢でAIと一緒に進化の道を歩んでいきたいと思います。
私は常々、「未来は予測するものではなく、創るもの」だと思っています。まだ答えが出ていない、AI時代の組織のあり方や行動規範の形は、私たち自身の手で切り開いていくべきです。
LINEヤフーグループがその最初のモデルケースになることで、業界をけん引していけるよう、皆さんと一緒に挑戦していきたいと思います。
取材日:2025年7月16日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:日比谷 好信
※本記事の内容は取材日時点のものです