私たちは日々、テレビやインターネットを通じて膨大な情報に触れていますが、その中で「これは本当に正しい情報なのだろうか?」と疑問に思うことはありませんか? 台湾では、特に政治、災害情報、健康や医療といった分野で、フェイクニュースがまん延し、大きな社会問題となっています。
この問題に対応するため、LINE Taiwanは「LINE Fact Checker」というサービスを提供しています。
このサービスは、ユーザーが疑わしい情報を検証できるツールとして、フェイクニュースの拡散防止に活躍しています。
今回、このサービスを担当するLINE Taiwanのカラとライアンに、サービスリリースの背景やフェイクニュースの拡散防止ための取り組み、さらには台湾の人々のメディアリテラシー向上のためにどのような活動を行っているのかを聞いてきました。
カラ:
「LINE Fact Checker」は、ユーザーが疑わしい情報を受け取った際に、その情報の真偽をLINE公式アカウントを通じて簡単に確認できるサービスです。ユーザーが文章やURLなどを送信すると、提携しているファクトチェック機関が「フェイク」「真実」「一部真実」の3種類の結果を迅速に提供します。政治や日常生活にいたるまで、さまざまなテーマの情報がLINE公式アカウントを通じて寄せられています。
現在は、テキスト、サイトURL、画像テキスト、そして音声データをLINE公式アカウントに送信して、真偽を確認することができます。
また、LINE Fact Checkerのウェブサイトも利用が可能で、LINEアプリを利用していない方でも、ウェブサイトを通じて過去の検証結果やファクトチェックの詳細を確認できます。
LINE Fact CheckerのLINE公式アカウント。疑わしい情報の送信やファクトチェック済みの情報の確認ができる。
カラ:
台湾は、地政学的な問題から、フェイクニュースが多いことが大きな社会問題となっています。スウェーデンのヨーテボリ大学のV-Dem研究所(※1)の報告によると、台湾は海外からのフェイクニュースによって深刻な影響を受けている国として11年連続でトップにあげられています。
特に、2018年に行われた地方選挙では、SNSやメッセージアプリなどを通じて多くのフェイクニュースが拡散され、選挙活動に大きな影響を与えました。
このような背景を受けて、LINE Taiwanは、2,200万人のユーザーを抱えるプラットフォーマーとしての責任を果たすため、台湾におけるデジタル情報環境の健全化を目的として、2019年3月に「LINEデジタル責任計画」を開始しました。そしてその一環として同年7月にLINE Fact Checkerをリリースしました。
※1 Varieties of Democracy Institute 民主主義の多様な側面を詳細に分析するための国際的な研究機関。
ライアン:
2024年の10月末時点で、LINE Fact CheckerのLINE公式アカウントの友だち登録者は86万人を超えました。これまでに81万以上のユーザーから疑わしい情報が寄せられており、台湾で最も重要なファクトチェックサービスへと成長しています。
特に、新型コロナウイルスの発生に伴い、LINE Fact Checkerの利用者数は大幅に増えました。コロナウイルスが広がった時期には、治療法や薬、特定の医師の発言に関する多くのフェイクニュースが出まわりました。その結果、LINE Fact Checkerへのアクセスが1日で1万を超えて最高記録を出すなど、多くの方が正しい情報を得ようとLINE Fact Checkerを利用しました。自分の命や生活に関わるため、正確な情報をすぐに得たいと考えるユーザーは多かったと思います。そのような場面で、LINE Fact Checkerが信頼され、多くの方に利用されたことをとても嬉しく思っています。
カラ:
ユーザーに信頼できる情報を提供するため、複数のファクトチェック機関と連携しています。具体的には、国際ファクトチェックネットワークの認証を受けたTaiwan FactCheck Center(TFC)、MyGoPen、ボランティア団体によって運営されているCofacts、科学情報の検証を専門とするSMC台湾新興メディア技術センター、そして台湾の行政機関である行政院などがあります。これらの機関との連携によって、フェイクニュースの拡散を防止し、正しい情報の提供に努めています。
これらのパートナーとは、情報の真偽を提供するだけでなく、台湾の人々のフェイクニュースに対する意識向上のための取り組みや教材開発も一緒に行っています。
例えば、TFCと実施した「青年ファクトチェックチャレンジ」では、台湾の若者がフェイクニュースに関心を持ち、解決する力を身につける機会を提供しました。
また、台湾全体でのメディアリテラシー向上を目指し、台湾のオンライン教育プラットフォームと連携して、アニメーション教材の「科学メディアリテラシーコース」を提供しています。この教材は台湾の小中学校で活用されており、オフラインで教員向けの研修も開催しています。
さらに、クイズやゲーム要素を取り入れた教材を通じて、子どもたちのデジタル思考力育てる取り組みなど、多面的な教育活動を行っています。
ライアン:
フェイクニュースの拡散防止のためにLINEの他サービスも活用しています。1,800万人のユーザーを持つニュース・コンテンツ配信サービスの「LINE TODAY」では、大統領選挙やパンデミックの発生時などフェイクニュースが多く飛び交う出来事がある際に「うわさを打ち破る」という特別セクションが設けられます。このセクションでは、ファクトチェックされた記事を確認でき、大きな影響力を持つプラットフォームとの連携によって誤情報の拡散を防いでいます。
また、「LINE VOOM」では、毎週検証済みのニュースを投稿し、重要な情報やLINE Fact Checkerの使い方などもユーザーに向けて発信しています。さらにユーザー同士が自分でファクトチェックを行った情報を共有する動きが活発で、これにより正しい情報の拡散につながっています。
LINE FactCheckerのLINE VOOMへの投稿。健康やAIなどさまざまなトピックについて発信している。
カラ:
常にパートナーのニーズやユーザーのサービス利用のパターンをしっかりと把握するようにしています。
パートナーのファクトチェック機関とは、定期的に意見交換をする場を設けて、協力体制を強化しています。その中で、ユーザーからのファクトチェックの依頼件数が多く、回答にかなりのリソースと時間がかかるという課題がわかりました。
そこで、病気の治療法や夏の電気代についてなど、日々多く寄せられるものや季節的に繰り返されるもの、すでに回答済みの情報についてはフィルタリングをして新規の情報のみが検証機関に送られる仕組みを導入しました。この改善によって、回答までのスピードが大幅に向上し、フェイクニュースの拡散防止に大きく貢献しています。
ライアン:
また、サービスを始めたばかりの頃は、ユーザーはテキスト情報しかLINE公式アカウントに送ることができませんでした。ですが、同じ内容の情報がテキストだけでなく画像テキストや音声でも存在するとの声が寄せられました。
そこで、2023年4月にOCR(=光学文字認識)を導入し画像テキストにも対応できるようにしました。さらに、2024年6月にはSTT(=音声認識)を導入し音声ファイルもカバーできるようになりました。これにより、今ではより多くの形式の情報をファクトチェックできるようになっています。
台湾で、ユーザーがOCRとSTTを体験できるサービスは、実はLINE Fact Checkerが初めてのサービスです。
これからも、パートナーやユーザーの声を大切にして、正しい情報をより早く届けるサービス作りを目指していきたいと思っています。
OCR、STTを使ったファクトチェック。ユーザーはテキスト画像、音声データも送信できる。
カラ:
2021年にIpsosが実施した調査によると、ユーザーのフェイクニュースに対する認識度は、2019年の37%から41%に向上したことがわかっています。これは、ユーザーがインターネット上の疑わしい情報に対して、より批判的な思考を持つようになったことを示しています。
また、同年にLINE Taiwanが行った調査では、台湾の60%の人が主にインターネット検索を利用して情報の真偽を確認していることがわかりました。2019年と比較すると、ファクトチェック機関を利用して情報の真偽を確認する人の割合はほぼ2倍に増加しています。これらの調査結果から、LINE Fact Checkerの取り組みが、台湾の人々のフェイクニュースに対する意識を高め、メディアリテラシーの向上に大きく貢献できていると考えています。
そしてこのLINEデジタル責任計画は、2020年第16回の「遠見雑誌」(※2)でCSR企業の社会的責任賞を受賞しました。台湾社会に対して果たしているわれわれの取り組みの責任と貢献が高く評価され、とても誇らしく思っています。
※2 ビジネスや経済、社会問題などに関する分析や洞察を提供する台湾で有名な雑誌のこと。
ライアン:
より使いやすいサービスを、ユーザーにもパートナーにも提供していきたいです。開発者として、AIやその他の技術も積極的に活用しながら、ファクトチェックが可能なデータの種類や対応言語を増やしていきたいと思っています。また、小さな子どもからお年寄りまで、幅広い年代の方にとっての使いやすいインターフェイスを研究し、より多くのユーザーのメディアリテラシー向上に貢献していきたいと考えています。
また、ファクトチェック機関が1件のファクトチェックを行うには、まだまだ長い時間がかかっていることも課題です。彼らの負担を減らし、回答までの時間を短くすることにも注力していきたいと思っています。
カラ:
サービスの提供者として、LINE Fact CheckerのLINE公式アカウントの友だち数や、サイトへの訪問者数が日々増えていることは非常に喜ばしいことです。しかしその一方で、ユーザーのみなさんにはツールに頼るばかりではなく、自分たちで情報を判断していく力も身につけてほしいと強く願っています。日常的に接する情報に疑念を持ち、ファクトチェックツールを正しく活用して自分で判断する力を養うことが重要です。そのために、パートナーと連携しメディアリテラシー教育をより一層強化していきたいと思っています。
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取材日:2024年11月14日
※本記事の内容は取材日時点のものです