LINEヤフーストーリーでは、これまでにも台湾でのLINEの活用事例を紹介してきました。(※) 現在、台湾ではほとんどの方がLINEを利用しており、コミュニケーションとしてだけでなく、情報収集やビジネスの場面でも欠かせない存在となっています。
LINEが台湾でここまで利用されるようになったのは、なぜなのでしょうか。LINE Taiwan Limited(以下、LINE Taiwan)の会長兼CEO Roger Chenに、LINEスタンプの取り組みやスタートアップ企業支援、さらには社会的責任への活動など、台湾で成功を収めた理由について聞いてきました。
※これまでの台湾のLINEサービス紹介記事
「LINE Pay」は台湾でなぜ人気? No.1までの歩みと上場に向けての挑戦
こんなところにLINEヤフー〜in 台湾〜
2017年10月にLINE Taiwanに入社。現在はLINE Taiwanの会長兼CEOとして台湾市場におけるLINEの全体的なビジネス開発を指揮する。台湾のユーザーにとってより便利で豊かなデジタルライフを提供するため、サービスのユーザー体験を最適化することに注力する。市場への投資を強化する一方で、LINEプラットフォームと地元企業とのシナジーを構築することを目指し、ビジネスパートナーとの協力を通じて、業界に新たな価値と機会を創出するために日々取り組んでいる。台湾大学で電気工学の修士号を取得。
LINEは2011年に台湾でリリースされ、これまで多岐にわたるサービスを提供してきました。2024年時点で、台湾人口2,342万人のうちLINEの月間アクティブユーザーは2,200万人に達しています。その浸透率は93%と非常に高い数字を誇っており、子どもからお年寄りまで、幅広い年齢層に利用されるコミュニケーションツールとなっています。LINEは家族や友人とのコミュニケーションはもちろん、多くの企業がビジネスコミュニケーションの主要手段として採用しており、他のツールの利用を考えることがないほど普及しています。日本では名刺を交換する場面でも、台湾ではLINEのアカウントを交換し、トークやLINE通話を使ってやりとりする方が一般的です。
LINE Taiwanは、コミュニケーション、コンテンツ、Eコマース、モビリティ、Fintech、ビジネスソリューションの事業を軸としています。それぞれの領域で、台湾の文化や地元ユーザーの好みを考慮し、ローカライズしたサービスを提供しています。
たとえば、ニュース・コンテンツサービスの「LINE TODAY」では、ユーザーが興味関心を持つニュースや人気コンテンツ、災害情報や交通情報などを配信しています。現在台湾で1,800万人以上もの月間アクティブユーザーを持ち、ユーザーの生活に欠かせないプラットフォームとなっています。
また、台湾で課題となっているフェイクニュース問題に対応するためにリリースした「LINE Fact Checker」も、台湾の専門機関と連携し、LINE公式アカウントを通じて疑わしい情報の真偽について迅速に回答をすることで、ユーザーからの信頼を得ています。LINE公式アカウントへの友だち登録者は86万人を超え、台湾の人々のメディアリテラシー向上に寄与しています。
さらにLINEの友だちにギフトが贈れる「LINE GIFTSHOP」も、台湾人の3人に1人が使用する台湾で最大のソーシャルギフトサービスとして人気です。こうしたさまざまなサービスを通してユーザーの多様なニーズに応え続けることで、LINEは台湾で非常に人気のあるブランドとなっています。
LINEが台湾市場で急速に成長できた大きな要因の一つは、LINEスタンプの導入です。LINE以前のメッセンジャーでは小さな絵文字しか使えず、感情を十分に表現するのが難しかったのですが、LINEの大きなスタンプの登場によって、感情をより豊かに伝えられるようになりました。
台湾の人々はコミュニケーションにおいて誤解を避けるために感情を明確に伝えたいと考える傾向があり、喜怒哀楽のさまざまなバリエーションを持つLINEスタンプはそのニーズに応えることができました。現在、台湾のユーザー1人あたり年間で約1,235個のスタンプが送信されているほど人気です。
2014年からは、LINE Creators Marketの提供を開始し、ユーザーがオリジナルスタンプを作成し、LINE上で販売できるようになりました。日々新しいオリジナルスタンプが生み出され、LINEのやりとりで使われています。
LINEスタンプの存在感を高めるための活動も積極的に行っています。2022年、LINEスタンプは高雄市の地元クリエイターと協力し、市内をキャラクターの舞台にして地域コミュニティの活性化を図りました。さらにCreative Expo Taiwan(台湾の大規模な創造産業の展示会)では、台湾で大人気のスタンプ「Thenothingseal」、「Machiko Rabbit」、「VITA VITA」、「DOCA」、「Meow Zhua Zhua」、「PP mini」の大きなバルーンをLove Riverと呼ばれる川に浮かべ、台湾の人々だけでなく観光客の注目も集めました。これらの活動を通して、ユーザーやマーケットのLINEスタンプへの関心を高めています。
Creative Expo Taiwanで、Love Riverに浮かぶバルーンたち。バルーンの大きさは16mほどにもなるのだとか
Thenothingsealのバルーン
Meow Zhua Zhuaのバルーン
このようにLINEスタンプが多くのユーザーに見られ、使われることでそのIP(知的財産)の価値が高まります。そしてライセンスビジネスの拡大につながり、新たなクリエイターが生まれるという好循環が生まれています。台湾のトップ10のクリエイターたちは、2024年までに累計平均売上15億2000万円を達成しており、「キャラクター経済」が確立されています。
Love Riverに浮かぶバルーンたちの様子をYouTubeでもご覧ください
今年も2024年のトップ10スタンプランキングを発表しましたが、そのほとんどが、これまでにも受賞したことのある人気スタンプたちです。1位の「Lan Lan Cat」は過去何年もランクインしています。このスタンプのクリエイターであるMochi Dadは、実は最初からスタンプクリエイターとして活動していたわけではありません。大学卒業後、彼は夜市でビジネスを始めていましたが、その後夜市での仕事を辞め、LINEスタンプの制作に専念することにしました。Lan Lan Catは瞬く間に話題となり、今では台湾で最も有名なスタンプキャラクターの一つとなっています。
2024年の台湾で人気トップ10のスタンプ (プレスリリース、繁体語)
これまでに台湾で100万人以上のクリエイターが生まれ、1,000万以上のスタンプが誕生しています。台湾でこのようなクリエイティブな活動が活発に行われていることは、素晴らしいことだと感じています。
LINE Taiwanは、台湾社会により良い影響を与えるため、さまざまな活動を行ってきました。
2015年から、台湾のスタートアップ企業を支援するための「LINE PROTOSTAR プログラム」を開始しました。LINE Taiwanはスタートアップと協力してLINEのプラットフォーム上にサービスを構築するほか、ビジネス戦略やマーケティング、技術開発に関するトレーニングも提供しています。また、開発者やスタートアップ企業がLINEの幅広いユーザーや投資家とつながる機会を創出するなど、多面的な支援を行なっています。これまでに50以上のスタートアップ企業がプログラムに参加し、大きな成長を遂げています。
また、2016年10月には台湾血液基金会と共同で「愛捐血(=献血を促進する)LINE公式アカウント」を立ち上げました。このアカウントは、高齢化と少子化による台湾社会の血液不足問題を緩和するための、LINEのBot機能を利用した最初のLINE公式アカウントです。ユーザーはこのLINE公式アカウントを通じて最寄りの献血場所や近隣の駐車場情報、不足している血液型などの情報を確認できます。さらに、献血後の注意点や次回の献血可能時期など、個別にカスタマイズされた情報もプッシュ通知で受け取ることもできます。
2020年4月から2022年6月末まで、LINE FRIENDSのキャラクターたちでラッピングした献血バスを台湾の5カ所に配置し、28.8万袋以上の血液を集めることに成功しました。献血をした37%が33歳以下というデータも出ており、若い世代の献血への関心を引き寄せることができました。このLINE公式アカウントの友だち登録者は144万を超え、日々の献血活動に役立てられています。
また、LINE Taiwanではボランティア休暇を設け、社員にこのような慈善活動に参加することを奨励しています。2024年の1月に行われた献血には100人以上の社員が参加しました。
慈善団体や公益団体と連携したLINE公式アカウントは現在14個あり、さまざまな社会貢献活動が行われています。
一企業として、事業の成長だけではなく、ここまで築き上げてきたLINEのエコシステムを最大限に活用して、社会のさまざまな問題を解決しコミュニティに貢献していくことが必要だと思っています。
世界に5台しかない、LINE FRIENDSキャラクターの献血バス
献血に参加するCEOロジャーとLINE Taiwanのメンバー
社員のクリエイティビティと新しいものを生み出す精神を維持するため、LINE Taiwanでは社員教育に力を入れています。最近ではAIの活用について、技術者だけでなく全社員がAIの利点を最大限に活用できるよう、社内セミナーを通じて教育を行っています。また、部門ごとにカスタマイズされたAIを開発し、業務やプロジェクトの効率化を図っています。
AIなどの技術を使う目的は、社員の業務効率化はもちろんですが、その先のユーザーにより便利で快適だと思ってもらえるサービスを提供することにあります。AIに限らず、さまざまな技術やツールを積極的に学んでいく場を設けることを心がけています。
また、社員一人ひとりの自発的な改善や新しいアイデアの創出、部門を超えたチームづくりを促進するために、ハッカソンのようなイベントも定期的に開催しています。開発者だけでなく、LINE Taiwanの全メンバーが参加できます。部門を超えたメンバーが一緒のグループとなり意見を交わしてアイデアを出し合い、優れたプロジェクトは会社として予算を投じて支援し、実現を目指していきます。
LINE Taiwanには新たな取り組みを積極的に進め、責任を持って行動する社員が多くいます。また、部門やチームを超えて自由に発言でき、透明なコミュニケーションができるフラットな組織です。この素晴らしい文化はこれからも大事にし、維持していきたいと考えています。
私自身も心がけていることですが、LINE Taiwanのみなさんには「失敗を恐れないでほしい」と常に伝えています。LINEが多くの方に支持されるまでには、数々の試行錯誤と失敗がありました。成功を維持しようとするあまりに失敗を恐れていては新しいものは生み出せません。プロダクトの変更や新しいプロダクトの導入を恐れないことが、イノベーションを促進して、進歩を続ける鍵だと思っています。
ユーザーのニーズを常に考え、試行錯誤を重ねながらチームと協力し、挑戦を続けてやり抜くことが重要です。たとえ間違っても、そこから軌道修正をして、また進めばいいのです。
LINE Taiwanオフィスに飾られた、コーポレートバリューのパネルの前に立つCEOロジャー。一番好きなバリューは「Users Rule(ユーザーのニーズを最優先に考えること)」とのこと
最初にお伝えしたとおり、今では台湾の93%の方が日常のあらゆる場面でLINEを利用してくださっています。そのため、ユーザーのLINEへの期待も高くなっています。サービスに問題や変更が発生した際には、ユーザーの反応も大きくなります。そのため、なぜ問題が発生しているのか、なぜプロダクトに変更が必要なのかをしっかりと説明し、理解を得ることが重要です。影響力のあるプラットフォーマーとしてユーザーに安全・安心に使っていただくため、ユーザーとのコミュニケーションをさらに強化していきたいと思っています。
また、LINEは便利で誰もが簡単に使えるツールである一方で、アカウント乗っ取りや詐欺などを図ろうとする人も存在します。過去にはアカウントの乗っ取りが発生し、ユーザーやその周囲の人にも大きな影響を与えてしまいました。このような被害を一刻も早く減らすため、どのようにプロダクトを改善すれば詐欺被害を避けられるのか、どういったプロセスが必要かを、ユーザーの声を反映しながら日々議論を重ねています。また、プロダクトの改善だけではなく、ユーザー自身が被害を避ける力を身につけることも重要だと思っています。ユーザーのデジタルリテラシーを向上させるための啓発活動も積極的に進めていきます。
テクノロジー企業として、AIや未来の新しい技術を積極的に学び吸収し続けることで、LINEというプラットフォームをさらに強くしていきたいと思っています。
そしてこのプラットフォームを活用して、企業、政府、学校、公益団体、クリエイターなど、幅広いユーザーを支えていくサービスやソリューションを提供し続けていきます。
また、LINE PayやLINE Bankなど、台湾で展開しているファミリーサービスとのシナジーを生み出し、ユーザーにより良いサービスを提供し、台湾社会に良い影響を与えていきたいと思っています。
そのためには、LINE Taiwanはさらなる成長が必要です。どのようなときも失敗を恐れず、学び続け、前進していきます。
LINEヤフーグループの役員たちと記念撮影をするLINE Taiwan、LINE Bank Taiwanのメンバー
LINE Taiwanのオフィス紹介ビデオです。LINE Taiwanのオフィスや社員の様子を、ぜひご覧ください。
取材日:2024年11月14日
※本記事の内容は取材日時点のものです