2026年4月、LINEヤフーは「スピード10倍」「No.1への執念」「破壊と創造」を掲げました。この連載では、そのバリューを体現する企業やリーダーに話を聞き、変化の時代を切り拓くヒントを探ります。
今回「破壊と創造」をテーマにお話をうかがったのは、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)株式会社。CD・DVDレンタルで一時代を築いたTSUTAYAは、デジタルシフトの波を前に、自ら成功体験を見直し、「リアル空間における価値創造」へと大きく舵を切りました。
代官山 蔦屋書店や湘南T-SITEの立ち上げ、SHIBUYA TSUTAYAのリニューアルなどを手がけた戦略店舗開発本部 本部長・鎌田崇裕さんに、過去の成功体験をどう「破壊」し、新たな価値を「創造」してきたのかをお聞きしました。変化を恐れず挑戦し続けるためのヒントをお届けします。
当時はフランチャイズビジネスとして業績が最高益を出しているタイミングでしたが、社内ではすでに「いずれストリーミングやオンデマンドに取って代わられるだろう」という議論がなされていました。私自身も、いずれはパッケージ部門が縮小し、なくなっていくという話をメーカーさんから耳にしており、危機感を持っていました。
その危機感を最も強く抱いていたのは当時のトップ、増田(現・取締役会長、増田宗昭氏)だったと思います。それまで「TSUTAYAで映画を借りて見る」という文化を作ってきましたが、「5年後には世界が激変しているだろう」と予測していました。
はい。フランチャイズオーナーのみなさんとの関係性を守るためにも、次のビジネスモデルと店舗パッケージの「あるべき形」の答えを出さなければなりませんでした。その発想から生まれたのが、「代官山 蔦屋書店」のプロジェクトです。
1980年代にTSUTAYAがターゲットにしていた若者たちは、時を経て60代になっていて、当時のTSUTAYAには足を運んでいませんでした。そこで、まずはその世代が来たくなるような、そして若年層がそうした場に憧れて集まるような「ライフスタイル提案の空間」を作ろうと構想しました。
当時の取締役会では、ほぼ反対されましたね。
ライバル企業と「100円レンタル対決」のような価格競争をしている最中でしたし、上場企業として株主への責任もある。「未知のプロジェクトに巨額の投資をするよりも、既存事業の競争に資金を使うべきだ」という意見は至極当たり前のものでした。
しかし増田は、短期的な収益だけを追っていては未来の波に飲み込まれると考えました。そこで、記者会見で「先が見えないジャングルのような中を探検するようなかじ取りが必要だ」と語り、MBO(非上場化)に踏み切ったのです。銀行から借り入れをして株を買い戻し、CCCグループの未来を作るためのプロジェクトを強行突破できる体制を築きました。
「ライフスタイル提案の空間」として生まれた代官山 蔦屋書店。当時、社内外でも懐疑的な声はあったが、オープン後はポジティブな反響が大きかった。
正直、社内でこのプロジェクトは距離を置かれていました。トップの熱量の高さから、プロジェクトに参加すると負荷が高そうだと敬遠されていたのです。全員、普段の業務も多忙ですから、その気持ちも理解できます。しかし、私は増田の本気度を感じていました。フランチャイズビジネスのトップとして、加盟店の未来に対する重い使命感を持ち、口だけでなくMBOという行動で本気を示した。それを見たとき、自分が役に立てるならこのプロジェクトに懸けようと腹を括ったんです。
いいえ、真逆です。社内の人材だけで組織を作ることは早々に諦めました。優秀な社員ほど、これまでの成功体験から培った自分なりの「型」を持っています。そうした優秀な人材が、まったく答えのないゼロベースの未知の領域に放り込まれると、急に力を発揮できなくなることがある。無理に社内を説得して巻き込むよりも、最初から「新しいことを吸収してやるしかない」というマインドを持つ人たちと一緒にやったほうがいいと判断しました。
新聞に大々的な広告を出しました。「代官山を面白くしたい人たち、集まってください」と。結果的に2,000人もの応募があり、彼らの前で8時間しゃべり続けて声が枯れるほどの熱量でビジョンを語りました。最終的に約150名の「社外の人材」を採用(社員・アルバイト含む)してオープンを迎えました。
社内の人間からは、もちろん懸念の声もありました。しかし、私たちが求めていたのは「小売りのプロ」ではなく「ライフスタイル提案ができる人」でした。たとえば、私たちが本屋の経験者にポルシェの知識を詰め込むのは難しいですが、ポルシェに熱狂的に詳しい人に、本のマスター登録や返品のオペレーションを教えることはできます。
最初は当然大変でしたが、彼らは自分たちがやりたいことのために集まってきているので、モチベーションが非常に高く、吸収しようという意欲にあふれていました。過去の成功体験やプライドに縛られずに新しい業務に柔軟に適応してくれた。結果的に、プロジェクト全体に大きな弾みがつきました。
私たちにもトップにも最初から明確な答えがあったわけではありません。そのため「共創」というフェーズを徹底し、暗闇の中で一緒に懐中電灯を灯すように、外部のアドバイザリーボードを形成しました。各界の著名人やアーティストに構想をぶつけ、フィードバックをもらってはファクトを集め直し、またレポートするという泥臭い作業をひたすら繰り返しました。
はい。湘南T-SITEは代官山に比べて駅から遠く、立地条件としては厳しい場所でした。ただ商品を並べてお客様を待っているだけの小売りでは通用しないと思い、人が集まる仕組みを作るために圧倒的な量のイベントを仕掛けました。
たとえば、ドッグフレンドリーな環境を作り、毎月「ダックスフントの日」「プードルの日」と犬種ごとのイベントを開催したり、出版社と組んで来店した犬の写真集を制作したりしました。そのほかにも、コーヒーの飲み比べやパン祭りなど、多彩なイベントを企画しました。
湘南T-SITEにて実施されていた、ドッグフレンドリーなイベント「ワンOne day」のフライヤーと、記念撮影写真。今も湘南T-SITEでは多くのイベントが定期的に開催されている。
ある1件のファン(ファンダム)だけでは弱くても、それを30〜40件分集約することで、巨大なコミュニティーが生まれることに気づいたのです。料理家とのイベント、夏市、ビールフェス、SDGsをテーマにした湘南博など、人が集まるきっかけになるものは、何でも企画しました。もちろん企画によって当たり外れはありますが、トライ&エラーを繰り返すことが重要なので、ピーク時には、月に100本以上の企画を実施していました。
現在、AIなども活用してロジカルに未来予測ができ、行動する前に効率化を求めてしまう時代です。しかし、私たちが大切にしている「余白のある空間でのライフスタイル提案」を武器にするなら、あえて逆張りをしなければなりません。
一見優雅に見える空間の裏側で、ひたすら泥臭い方法が必要です。元サッカー日本代表の本田圭佑さんも言っていますが「量をこなさない者に質を語る資格はない」のです。小さな失敗を大量に積み重ねていくことで独自のノウハウがたまり、それは他社が簡単にまねできない参入障壁となります。
まさにその通りです。現在SHIBUYA TSUTAYAでは、巨大なIP(知的財産)イベントを、2週間ピッチで年間60本以上回しています。空間づくりだけでは限界があり、「空間だけでなく、イベントや体験といった価値」を提供し続けることが不可欠です。製作委員会や代理店の縦割りの壁を超え、宣伝・販促・物販を立体的に組み上げてステークホルダー全員にメリットを提示する。湘南の時代から続けてきた「圧倒的な量」をこなすノウハウがあったからこそ、このスピード感で365日イベントを回し続けることが可能になっています。
代官山の事例と違い、SHIBUYA TSUTAYAリニューアルのタイミングでは、すでにNetflixやDisney+などのストリーミングが完全に定着していました。あの日本有数のロケーションで、これまでのレンタルといった過去のビジネスを引きずることはナンセンスです。店舗というリアルな場は別の形に移管し、一度ゼロベースで考え直しました。結果として、世界中から訪れる人々をターゲットにした、新しいIPのプラットフォームへとかじを切ることができました。日本では売れないと思われていた過去のフィギュアまで飛ぶように売れるなど、新たな価値も生まれています。
2024年にリニューアルしたSHIBUYA TSUTAYA。『鬼滅の刃』や『スターウォーズ』など、新作のプロモーション時にも、あえて過去の関連グッズまで一堂に集める規格外の品ぞろえで、ファンの熱量に応えている。
まずは、トップやリーダーの「視座の高さ」です。
社内には異なるKPIや価値観を持つ人がいます。だから、自分の思いだけでは人は動きません。「言葉で説得する」のではなく、社会価値や利益といった共通の価値基準に照らしながら、「事実を積み重ねて示していく」ことが重要です。
そして最後は泥臭いことですが、「当事者意識」と「諦めない執念」に尽きると思います。
私たちは、最初から「既存のビジネスを破壊しよう」と狙っていたわけではありません。CCCが目指していたのは、時代の変化に合わせて「新しい店舗パッケージのあり方」や「ライフスタイル提案」を追求することでした。
その目標に向かって、常識や固定概念にとらわれずに知恵を絞り、最善を尽くして蛇行しながら進み続けた。そのプロセスを後から振り返ってみたときに、「気がつけば古いものが役割を終えて破壊され、想像以上の新しいものが創造されていた」と気づくのです。変化に敏感であり続け、あぐらをかかずに最善を尽くし続けること。それが結果として、本質的な「破壊と創造」を生み出すのだと私は信じています。
取材日:2026年6月22日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:日比谷 好信
※本記事の内容は取材日時点のものです
