AIにはない「やりたい」が人間の価値になる。けんすうさんに聞く、AI時代の生き方

コーポレート
ノートパソコンの画面からメール、封筒、スマートフォン、イヤホン、音符、虫眼鏡、電話の受話器、カメラ、写真、矢印などのさまざまなアイコンが外へ飛び出している様子を描いたイラスト。パソコンは机の上に置かれ、左側には白いマグカップ、右下にはけんすうさんのキャラクターが座っている。左下には「LINEヤフーストーリー」の文字が表示されている

生成AIの進化によって、「人にしかできない仕事」は急速に変わり始めています。
「AIを使っているのに、なぜか忙しい」「自分の仕事はどうなるんだろう?」
そんな不安を感じている人も少なくありません。AIを使えば使うほど、「自分にしかできないことは何だろう...」と考える人も増えています。

AIが当たり前になった社会で、私たちは何を大切にすればいいのでしょうか?
生成AIを活用したサービス開発や情報発信を続ける、起業家・プロデューサーのけんすうさんに、AI活用のノウハウではなく、人間の「やりたい」という気持ちの価値についてうかがいました。

けんすうさんのイラスト
古川 健介(けんすう)さん
アル株式会社 代表取締役  起業家・プロデューサー

「AIの仕組みを理解する」より、「AIで何ができるか」を知る

――AIはとても便利ですが、一方で「AIを使っているのに忙しい」と感じることもあります。けんすうさんは、これから働き方や暮らしはどう変わると考えていますか?

けんすうさんのイラスト

まず、私自身の働き方は、もう以前とは別物ですね。

たとえば今、ポッドキャストを文字起こしして記事化するサービスを作っているのですが、以前なら5人くらい必要だった仕事が、今は私とエンジニアの2人で進められています。ワイヤーフレームを描いたりデザインを考えたりといった工程の多くも、自分でできるようになりました。

記事化するときも単に文字起こしをAIがして、記事を作るのではなくて、AIが文字起こしのデータから中間ファイルのようなものを作り、それを元に記事にして、それを別のAIが内容をチェックして編集するような仕組みにしています。

その過程で生成される中間ファイルの仕様は、人間にはあまり理解ができません。もちろん、頑張れば読めるかもしれないですが、良い記事が作れている以上、それを理解するのに3時間かけるよりも、その時間で別の開発をした方がいい、という状態になっています。

だから、最近は「よくわからないけれど、動いているならそれでいい」と考える場面が増えています。
私だけではありません。エンジニアも、中間ファイルを完全に理解することより、まず動くものを素早く作ることを優先しています。

――「よくわからないけれど、動けばそれでいい」という考え方に変わったということででしょうか。

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そうしないと、もうスピード感についていけないというか...。

自分たちより理解力の高い存在が現れた以上、人間がすべてを理解しようとする意味は薄くなっていると感じています。

だからこれからは、「理解すること」よりも、「AIで何ができるのか」を知ることに集中したほうがいいと思っています。

AIは「答え」が得意、人間は「問い」をつくる

――今までは、自分で理解し、それを自分の言葉で考えて、企画や意見に落とし込むことが大切だったと思います。でも、そこは一度手放してもいいということですか?

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いいと思いますね。たとえば、福岡へ行くなら新幹線に乗ったほうが圧倒的に早いですよね。

でも、「どう筋肉を鍛えたら福岡に早く着けるだろう」と考えてトレーニングする人はいないじゃないですか。100%新幹線のほうが速いので。今は、それと同じ状態だと思っています。

――確かに。新幹線がどういう仕組みで走っているのか詳しく知らないまま、お弁当を買って乗りますものね(笑)

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そうなんです。新幹線があるのに、「半年トレーニングして頑張って走ろう」とはならないですよね。

だから、人間がすべてを理解する必要はありません。大事なのは、「AIで何ができるのか」を知ることです。そうでないと、AIに適切な指示が出せないので。

つまり、知的労働の定義そのものが変わってしまったんだと思います。

――AIは日々進化しています。何ができるようになったのかを追いかけ続けることが大切なのでしょうか?

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そうですね。もちろん新しい機能を追いかけることもありますが、「この仕組みなら、この先こういうこともできそうだな」と、一段上の視点から考えることも大事ですね。
個別の技術ではなく、全体の流れを見る感覚です。

たぶん、これは産業革命と同じなんです。

産業革命の前は、動力の多くが人か動物の筋肉だったので、当然人間の労働力は重要だったわけですが、現在のホワイトカラーでは、仕事をするときに筋肉の鍛え方なんて考えませんよね。

たとえば、物を運ぶなら、自分で運ぶより車を使いますし。

AIも同じです。これからは、「自分の頭をどれだけ使うか」より、「AIをどう使うか」を考えることのほうが重要になると思っています。

「そんなことをしたら思考力や理解力が落ちるのではないか」と思う人もいると思いますが、当然落ちると思います。
電車や車での移動が多い僕は、明らかに江戸時代の人よりも脚力は落ちていますし、運動不足です。それと同じです。

――「自分で考えて判断する」よりも、まずAIに聞く。頭では理解できても、実際に切り替えるのは難しいと感じる人も多いと思います。どうすれば、その発想に切り替えられるのでしょうか。

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それは僕自身も難しかったです。ずっと自分で考えて働いてきましたから。
でも、Claude(Anthropic)の新しいモデルを触ったときに、「もうこれはAIに聞いたほうが早いな」と感じたんです。

それまでは自分が指示を出す側でしたが、今は「自分は何をすべきですか?」とAIに聞くことも増えました。

AIのほうが圧倒的に頭がいいなら、まずAIに考えてもらって、「ここは人間がやったほうが早い」「ここはAIがやるべき」と役割を決めればいい。その感覚に変わってきています。

一番簡単なのは、AIに「このプロジェクトを進めたいので、必要な情報を全部質問してください」とお願いすることです。AIが20個くらい質問してくるので、それに答えると、「ではこう進めましょう」というプランを作ってくれます。

ほとんどの人は、その通りに進めるだけでうまくいくと思います。専門分野であれば自分の方が上だなと思うこともありますが、それ以外だと、まずはそこそこ高得点を出すAIのいう通りにした方がいいなと感じることが多いです。

――AIでも思いつかないようなことを考えられる人もいますよね。

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そうですね。AIは「答え」を出すのは得意ですが、「問い」を立てるのはまだ人間のほうが得意だと思っています。

その違いが一番表れるのは、「何を解決したいのか」を考える場面です。

今日は、「フォーム入力中に励ましてくれるUIを作れないか」と考えていろいろ試していたんですが、そもそもその発想は、「長文を書くと途中で飽きてしまう人が多い」という自分の体験から生まれています。

そういう「どんな課題があるのか」「何を解決したいのか」という問いは、今のAIにはまだ難しい。

――自分ならではの経験や視点が大事になるということですね。

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そうですね。たとえば、インターネット業界で長く仕事をしてきた人だから気付ける課題はあると思います。でもAIに「世の中の課題は何ですか」と聞いても、そういうものはなかなか出てきません。

それに、人間にはまだAIには代替しにくい役割があります。たとえば責任です。
最終的な判断の責任を引き受けることや、「あの人が言うなら信じられる」という信頼関係、現場感覚、ケアする力。

それから、美意識や意味付けもそうです。
「この世界観にしたい」「あえて王様口調にしたほうが面白い」といった判断は、人間のほうが得意だと思っています。

――今はまだ人間が得意なことも、いずれAIができるようになる可能性はあるのでしょうか?

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近づくものはあると思います。
たとえば身体性も、人間そっくりのロボットができれば近づくでしょう。

でも、「責任」は違う気がします。

たとえばAI社長が失敗したとして、「誰の責任ですか」となったら、結局はAIを導入した人に責任を問いますよね。
その意味では、「責任を引き受ける」という役割は、人間に残り続けるんじゃないかと思っています。

――最近、「AIと仕事をしているほうが楽しい」と話す人も増えています。AIには遠慮なく何度でも修正をお願いできますが、人には気を遣ってしまう。そんな状態をどう思われますか?

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人間同士の摩擦って、仕事の中でも一番大変だったりするんですよね。

でも、AIには「もう少しこうして」「違う、そうじゃない」と何度でも言えます。
人なら2週間かかるような修正も、AIなら10分で試せる。
だからストレスも少ないし、生産性も高い。
そういう方向には進んでいくと思います。

一方で、その結果として必要な人の数は減っていきます。
「20人でやっていた仕事が3人でできる」
そんなことは、もう実際に起き始めています。

AI時代に残るのは、「一緒に働きたい」と思われる人

――そんなAI時代を、私たちはどう生きればいいのでしょうか。

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正直に言うと、人間の労働需要は縮小していくと思っています。
AIは人間より安く、速く、しかも24時間働けます。その流れ自体は止められないでしょう。

問題は、「誰が残るのか」ですが、それは僕にもまだわかりません。

一方で、計算資源を持つ企業は今まで以上に強くなっていく可能性があります。ただ、その先には失業者が増え、消費者も減るという社会全体の課題もあります。
しかも、これは個人の努力だけで解決できる話ではなく、社会全体で向き合わなければならない課題でもあると思います。

――たとえば、ライターの間では「AIが記事を書けるようになるなら、最後に残るのはインタビューくらいなのでは」という話が出ることがあります。

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それは、かなり現実味がありますね。

実際、ある大手新聞社では、記者は「記事を書く人」ではなく、「会話を引き出す人」へシフトしようという動きがあります。
たとえば、ポッドキャストで信頼関係を築き、生の会話を残すなどです。
記事にまとめるのはAIのほうが得意なので、人間はインタビューに集中しようという考え方ですね。

ライターも同じです。たとえば、今まで1日1本しか書けなかった人が、AIを使えば3本書けるようになる。そうなると、理論上はライターの数は3分の1で済むかもしれない。
実際に、仕事が一気に増えた人もいれば、ゼロになった人もいます。

――怖すぎますね......。

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怖いですよね(笑)。

でも、その中でも残っている人には共通点があります。

それは「感じがいい人」とか、「一緒に仕事をしたいと思われる人」です。
逆に、クオリティーは高くても、淡々と仕事だけをしている人は、「AIでも代替できるかもしれない」と思われやすくなっている印象があります。

――そうなると私たちが伸ばすべきなのは「人間力」なんでしょうか。

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それはあると思います。今までは「論理的に考えられることが強み」という人も多かったと思います。

でもそこをAIが担うことによってアウトプットの差が小さくなるなら、最後に残るのは「一緒にいると楽しい人」とか、「話していると元気になる人」かもしれません。

AI時代に強いのは、「やりたい」がある人

――一方で、AIが苦手な部分を補ってくれるなら、「やりたい」という思いがある人には、これまで以上にチャンスが広がりそうですね。

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そうですね。この前、あるビジネスコンテストの審査員をやったんですが、一番印象に残ったのは学生さんのアイデアでした。
プレゼンも資料づくりも経験が少ない。でも、「これが欲しい」という強い思いがあった。そしてAIを使って資料やデータを補った結果、その企画が一番良かったんです。
逆に、社会人が「AIを使って何かできそう」という発想だけで作ったものは、その企画に勝てませんでした。

だから、「やりたいこと」はある。でも経験やスキルが足りない。そんな人ほど、AIによって可能性を広げられるんじゃないかと思っています。

孫正義さんも「のび太力」と言っていますが「これをやりたい」という強い欲望を持っている人は強い。

――組織の中にいると、「これをやってみたい」が出しにくい場面もありますが...。

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会社員だと、その欲望を出しづらい環境もあるので、そこが難しいところですよね。でも、だからこそ、その気持ちは大事にしたほうがいいと思います。
僕自身も毎日アプリを作っていますが、やっぱり自分の欲望から生まれたものは反応がいいんです。

昔なら5人で数カ月かかったものが、今は1日で形になります。だから、「これを試してみたい」がすぐ実現できる。

その意味では、AIは人のクリエイティビティをすごく拡張してくれていると感じています。
思いついたことを、とりあえず形にして「これをやったらどうなるんだろう」と遊びながら作れる。そこがAIの一番面白いところですね。

AIと一緒に作っても、それは自分の作品

――仕事でも仕事以外でも、「これをやってみたい」という気持ちがまずあればいいのかもしれないですね。

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そうですね。
ちなみに、今の仕事の流れの一部だけをAIに置き換えようとすると、実はあまりうまくいきません。

たとえばライターなら、「文字起こしだけAIにやらせよう」と考えがちですが、そうではなく最初からAI前提で仕事の流れを組み直したら何ができるかを考えたほうがやりやすいと思います。

――もしAIが使えなくなったら? と不安になることもあるのですが...。

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それは考えなくていいと思います。
たとえば昔なら、眼鏡がなければ遠くが見えなくて生きていけなかった人もいたはずです。でも今は、「眼鏡なしで生きられるかな」とは考えませんよね。
福岡へ行くのも同じです。歩くより新幹線に乗りますよね。

自分で2時間かけて書くより、5秒で100倍いいものが出てくるなら、そちらを使う。
AIも、それと同じです。

ファッションデザイナーで考えるともっとわかりやすいかもしれません。
デザイナーが服をデザインして、パターンを作り、実際に縫製するのは工場です。
それでも、その服は「そのデザイナーの作品」ですよね。

昔は「手で作っていないものには思いがない」と言われた時代もあったかもしれません。
でも今は、誰もそうは思わない。
AIとの関係も、きっとそれに近いものになっていくんじゃないでしょうか。

AIには「やりたい」がない

――AIは仕事だけではなく、社会そのものをさらに変えていくのでしょうか。

けんすうさんのイラスト

そう思います。
歴史を見ても、技術革新が起きると、働き方だけではなく、社会の仕組みそのものが変わってきました。
だからAIだけが例外ということはないはずです。

たとえば、会社員という働き方も歴史的に見ればそれほど長いものではありません。今のように会社へ行って給料をもらうことが当たり前という時代も、これから変わっていく可能性は十分あると思います。

AIが仕事の多くを担うようになれば、人は判断や意思決定に集中する働き方へ変わっていくと思います。

――ここまでお話をうかがって、私たちの価値観そのものが変わる時代なんだと感じました。最後に、そんな時代を前向きに生きるためのアドバイスをお願いします。

けんすうさんのイラスト

これからは、人間が作ったものだからこそ価値がある、という場面が増えていくと思います。
ライブもそうですし、コミュニティもそう。スポーツだって、ロボット同士が試合をしても最初は面白いけれど、そのうち飽きますよね。

「誰が作ったのか」「誰と働くのか」。そういう、人間らしい部分に価値が移っていく気がしています。

今までは、生産能力が高ければ評価される時代でした。でも、AIがその役割を担うようになるなら、人間は人間らしさを取り戻していけばいい。
そんな時代になる可能性もあると思っています。

――AIがあることで、自分が本当にやりたいことや、心が動くことをこれまで以上に大切にできる時代になるのかもしれませんね。

けんすうさんのイラスト

そう思います。
「生活のためだから仕方なくやる仕事」が減っていけば、「この人を助けたい」「この人と仕事がしたい」という気持ちで働ける人も増えていくかもしれません。

そして最後に一番大事なのは、「これをやりたい」という気持ちです。

AIには、「こうしたい」「こうなってほしい」という欲望はありません。
だからこそ、人間が持つその思いを実現するためにAIを使う。
そんな関係が、一番いい
んじゃないかと思っています。

AI時代を生きるためのポイント

・「AIの仕組みを理解する」より、「AIで何ができるか」を知る
・AIは「答え」が得意。人間は「問い」をつくる
・これから残るのは、「一緒に働きたい」と思われる人
・経験やスキルが足りなくても、「やりたい」がある人はAIで可能性を広げられる
・AIと一緒に作っても、それは自分の作品
・AIには「こうしたい」「こうなってほしい」という欲望はない

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取材日:2026年6月30日
文:LINEヤフーストーリー編集部
※本記事の内容は取材日時点のものです

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