生成AIの進化は、これまでの延長線上の取り組みでは通用しない大きな変化をもたらしています。
それは単なる技術トレンドではなく、事業のつくり方も、組織のあり方も、働き方も、すべての見直しが必要な変革です。
LINEヤフーはこの変化を前に、ミッションを「WOW Our Users!」へ、そしてバリューを「スピード10倍」「破壊と創造」「No.1への執念」へと刷新しました。
なぜ今、行動基準をここまで変えるのか。
CEO出澤剛と、CPO慎ジュンホに、その背景と狙いを聞きました。
- 出澤 剛(いでざわ たけし)
- LINEヤフー 代表取締役社長 CEO(最高経営責任者)
- 慎 ジュンホ(シン ジュンホ)
- LINEヤフー CPO(最高プロダクト責任者)
アップデートの背景 環境変化に対する危機感と、その中での強み
――まずはバリューとは何か、簡単にご説明いただけますか。
慎:
バリューとは、その会社がどう意思決定し、どう行動するのかの基準です。会社特有のDNAに相当するものですね。
その共通認識がないと、組織も社員も同じ方向に進めません。
出澤:
会社にとって大事な軸とも言えます。LINEとヤフーはそれぞれ似たバリューをもっていましたが、統合時に基準を揃えて同じ方向に進むため、新たに作りました。
今回の変更も、全く別のことを掲げたわけではありません。環境の大きな変化に合わせて、誰もが同じ判断・行動を取れるように、より明確に、より強くアップデートしたわけです。
――ではアップデートの背景について教えてください。
出澤:
いうまでもなく、生成AIによって、これまでの延長線上では通用しない変化、つまり、「パラダイムシフト」が起きています。
外部環境が劇的に変化しているお話は繰り返ししてきましたが、その変化が想定以上に早く、影響も大きい。私たちは経営者として強い危機感を持っています。では、どうするか。
すでに国内外で、生成AIを活用して、少人数で素早くサービスを生み出す企業が次々と登場しています。こうした環境の中で、「いかにスピードを上げるか」は一過性のスローガンではなく、本質的な競争力そのものになっています。
だからこそ、中途半端な改善ではなく、「スピード10倍」を掲げるべきという議論が出た。そこから、ミッションも含めてすべて刷新することにしました。
慎:
この1、2年で、生成AIのイノベーションによって、多くのものが急速に置き換わり始めています。それは「破壊」と言えるレベルでしょう。
私たち自身がこのまま変わらなければ、「破壊される側」になるという危機感と切迫感がありました。だからこそ、この認識を社員全員に共有して、目線を揃える必要があったのです。
――その中で、LINEヤフーの強みとは? グローバル企業と、どう戦いますか。
慎:
世界的に見ても、ユーザーの課題を本質的に解決する生成AIサービスは、まだこれから本格的に登場してくる段階です。
逆に言えば、LINEヤフーが世界に先駆けて、ユーザーの生産性を上げる余地はまだ十分あります。ここでいう生産性とは、仕事に限らず、日常の情報収集や意思決定、コミュニケーションといったあらゆる活動を、より速く、スムーズにすることです。
例えば、日本の1億人の日常が少しずつ効率化されるだけでも社会全体にとってとても大きな価値になります。
それを最初に実現するか、それとも他社に先を越されるか。今まさに、その分岐点にいます。
このユーザー基盤と接点を持つ私たちには、先行するチャンスがあると捉えています。
出澤:
最終的な競争力は、どれだけユーザーに近い場所で価値を提供できるか、つまり、「ユーザー接点」にあると考えています。
私たちはLINEやヤフーのポータルをはじめ、日常的に使われる複数のサービスを持ち、さらに決済サービスのPayPayをグループ内に持つ強みもある。
しかし、それは無限に活かせるものではなく、「有限なチケット」です。このタイミングで、ユーザーの課題解決に結びつけることができなければその価値を発揮できません。
一方で、この規模と密度でユーザー接点を持ち、日常の中で価値を届けられる企業は世界的に見ても限られています。
この強みを生かし、AIを「生活の中で使われる価値」として実装できるかどうかが勝負の分かれ目です。だからこそ、今、一気に変わらなければなりません。
――今回、ミッションとセットで変更していますが、何を大事に設計したのでしょうか?
慎:
新しいミッションは、「WOW Our Users!」です。ユーザーに価値を届けることを、より強く、明確に定義して、シンプルにしました。
ミッションが目指す姿であり、バリューはそれを実現するための行動基準。
もともと、LINEもヤフーも大切にしてきたユーザーファーストの考え方は変わっていませんが、バリューからより上位のミッションに位置づけたのが今回のアップデートです。
出澤:
「WOW Our Users!」は、ユーザーが驚き、感動し、思わず誰かに伝えたくなるような「WOW」な体験を提供できるかどうか。これが私たちの大切な使命であることは変わりません。
スピード10倍 「改善」の延長線上を脱却し、AIをチームの一員に
――「スピード10倍」と、なぜ桁違いの速度なのでしょうか。
出澤:
これまでの延長線上にある「改善」でどうにかなる世界ではないからです。
「2倍にしよう」だと、既存のやり方の延長にとどまってしまうかもしれない。そうではなく、ワークフローやサービスのつくり方そのものを見直し、前提から変える必要がある。
「スピード10倍」には、価値を生み出すまでのプロセスそのものを変えるという意図を込めています。
慎:
IT企業では毎日どこかの企業の株価が暴落することも珍しくない。そんな厳しい世界のど真ん中に私たちはいます。実際、これまでのサービス開発工程が劇的に短縮されているケースが出てきている。
ここで生き残るためには、「2倍なんかじゃ全然足りない!」という危機意識も込めています。
――社員に意識してほしい具体的な行動例があれば教えてください。
出澤:
重要なのは「作業を早くする」ではなく、「早く価値を出す」ことです。
よくあるのは、AIツールを使って「議事録を書かなくなり、作業時間が何人月減りました」という効率化の話。それはあくまでツールの活用であって、何か大きな価値が生まれるわけではありません。
AIはツールではなく、チームメンバーです。AIを前提に、どんなプロセスで価値を生み出すのか組み立て直す必要がある。つまり、動き方そのものを変えることが求められています。
慎:
こうした変化の中では、世の中がどう変化するかという方向性は見えても「明日、何をすべきか」の答えは正直、誰も分かりません。
ですから、上司の指示を待つのではなく、「この技術で、ユーザーの課題をどう解決できるか」をゼロベースで考え、自ら試し、仲間と議論しながら答えを探しにいくスタンスが重要です。
――2011年に、LINEを生み出した時のスピード感、動き方が今回の変化に通じるのではないでしょうか?
慎:
そうですね。当時、PCからスマートフォンへのパラダイムシフトが起きて、何をすれば正解か、誰も分からない状況でした。
その中で、東日本大震災をきっかけに高まった、コミュニケーションというユーザーニーズに向き合い、試行錯誤を繰り返し、1カ月半でLINEをリリースしました。
今回は、より大きな変化ですが、ユーザーの課題に向き合い、ゼロベースで考え、スピード感を持って試行錯誤するという本質は同じですね。
出澤:
あの当時は、「次に何が求められるのか」は誰も分からない状況の中で、慎さんは前例にとらわれないサービス開発をしていて衝撃的でした。
とにかく、短期間で、数多くのサービスをリリースしてはユーザーの反応を見て、そこからUI/UXを磨いていく。
もちろん、失敗もたくさんありましたが、その試行錯誤の中からLINEが生まれました。
破壊と創造 過去の成功体験を捨て、「WOW」を生み出し続ける!
――「破壊」すべきもの、「創造」すべきものとは何でしょうか?
出澤:
過去の成功体験や業務プロセスです。一人ひとりが目の前にある業務を見直して、やり方そのものを再定義し、再構築する必要があります。
大きな組織になるほど、気づかぬうちに前提やプロセスが固定化しがちです。それだと、身軽なAIスタートアップに後れを取ってしまう。
だからこそ、当たり前になっている業務プロセスを見直し、本当に必要なものだけに集中する。その上で、新しい価値の「創造」に向き合っていくことが重要です。
慎:
これまでのプロセスでは、企画からサービスのリリースまで半年から1年かかるものもありました。
しかし、正解が分からない時代では、そのスピード感では成功率が極めて低くなります。
今は、企画者自身が素早く試行錯誤を繰り返せる環境が整いつつあります。トライ&エラーの回数そのものを増やして価値創出の確度を高めてほしいですね。
なお、すでに社内の有志チームが「プロセス刷新」にチャレンジして、成果を上げています。
No.1への執念 泥臭く、挑戦し、成長を仲間とともに楽しむ
――「執念」という強い言葉を選んだ理由を教えてください。
出澤:
現状維持や改善だけでは、これからの時代は生き残れません。
事業としてNo.1を目指すのはもちろん、一人ひとりが高いパフォーマンスを発揮する。その過程は決して簡単ではない。山あり谷ありの中で、試行錯誤をやり切る必要があります。泥臭いとも言えるでしょう。
その覚悟を「執念」という言葉で表現しました。
慎:
個人的には、今こそ勝負に出て、大きな成果を狙う局面だと思っています。野球でいうところのホームランが必要な状況ですね。
全ての場面でリスクを取る必要はありませんが、流れを変える勝負どころで大胆なチャレンジをしなければ勝てません。今は明らかにそのタイミングです。
――生成AI時代でも、サービスが立ち上がる際、トップランナーが優位という構造は変わらないでしょうか。
慎:
ITの世界はもともとNo.1が独走しやすい構造です。それはこれからも変わらないでしょう。
LINE立ち上げのときもそうでしたが、最初にユーザー体験をつくり、それを高速で磨くプレイヤーが強い。
そのためには、圧倒的なスピードと「ユーザーの課題を解決し、必ず1番になるんだ」という強い意思が不可欠です。
――最後に、この激動の中で、どのような姿勢が求められるでしょうか?
慎:
まだ誰も正解を持っていない時代です。だからこそ、自分で考えて動くことが重要です。
とても大変な時代ですが、その分、個人としての成長機会も大きい。試行錯誤しながら、変化を前向きに捉えていきましょう。
これまでの何倍、何十倍もの成長ができると思います。苦労は伴いますが、一緒に挑戦を楽しみましょう。
出澤:
変化の大きい時代ですが、同時に大きな成長のチャンスでもあります。繰り返しになりますが、差がつくのは「前提を変えられるかどうか」です。
ヤフーもLINEも、これまでも環境変化の波を捉えて成長し、ユーザーに新しい価値を届けてきた会社で、その原点は変わりません。
これからも、ユーザーにとって、一番に選ばれるサービスを生み出し、成長し続ける集団でありたい。私たちには、必ずそれができると信じています。
取材日:2026年3月16日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:日比谷好信
※本記事の内容は取材日時点のものです



