LINEヤフーは今年7月、生成AIの使用ルールを発表しました。これにより、全社員が「生成AI活用の義務化」を前提とした新しい働き方を始めます。
生成AI統括本部長の宮澤は、「全社員が生成AIを最大限に活用することで、新しい価値を生み出したい」と語ります。今回のルール化の目的、AIと共に目指す未来へのビジョンについて聞きました。
私は、起業家になる夢を抱いて上京しました。
学生時代に起業してからヤフーに入るまで、ずっと年上の方々とチームを組んできました。ヤフーでも役員に就任したのが比較的早かったため、部下は全員年上でしたね。
この経験から、トップダウンで指示を出すスタイルではなく、チームの良いところを見つけて伸ばし、全員が最大限の力を発揮できる環境を作ることに専念してきました。
会社のなかで起業家的な視点を持ちながら働くことが自分に合っていると感じているからでしょうか。これまでのキャリアでは、なぜか大きな転換点に立ち会うことが多くありました。
ヤフー時代には、スマホシフトの波に乗るべきタイミングでメディアサービスの責任者を務めました。その後、コーポレートの責任者として、コロナ禍という世の中の大きな転換点に直面しました。この時は、従業員の命を守ることを最優先にワクチン接種を進めました。
こうした経験を経て、現在は生成AIに取り組んでいますが、これもまた産業革命以来の大きな転換点だと考えています。
好きな言葉は、「あしたは今日より良くなるさ」。これは、シリコンバレーの人たちがよく言っている言葉で、自分が未来を変えるという意味も含まれています。 過去は変えられないけれど、未来は変えられる。この価値観が好きで、未来は本当に変えられると思っています。心の持ちよう次第で、前向きに生きていけると信じています。
きっかけは、2年前の春です。GPT-3.5の登場に衝撃を受けました。
生成AIがLINEやヤフーのサービス、社員の働き方に大きな影響を与えると感じたからです。生成AI時代にどう進むべきかを集中して議論し、活用を推進するための組織を立ち上げるべきだと考えました。
そこで、(CEO)出澤や(CPO)慎、(CSO)桶谷に「生成AI統括本部をつくる必要があるのではないか」と提案したんです。「確かにそうだね。あなたがそれをやるべきだと思う」と言われ、その役割を担うことになりました。
その後、OpenAIと直接契約を結び、技術を自社のサービスに適用することで、全社員が新しい技術に触れ、その可能性を実感できる環境を整えました。
その当時、私は「やらなければこの会社は終わる」という強い危機感を抱いていました。
この業界で約20年、さまざまな転換点を見てきましたが、AIのパラダイムシフトは本物で、これまでで一番強烈かもしれないと感じています。そして、この危機感は今や、現実以上のものになっています。
この危機感の背景には、ヤフー時代にスマホ移行が遅れた経験もあります。当時、私はスマホ化を進めるメディアの責任者でした。ユーザーがパソコンからスマホへ、さらには他社のサービスへと流れていく様子を目の当たりにしました。
この経験から、大きな変化が訪れる際には迅速な対応が不可欠であると痛感しました。生成AIの時代にも同様のことが起こると考え、見切り発車だとしても後悔はない、少しでも早く走り出すことが重要だと感じていました。
私たちは、ユーザーに迅速に価値を提供するために、複数のAIベンダーを活用する「マルチベンダー戦略」を採用しています。これは、各サービスに最も適したAIモデルを選び、効果的に使い分けることを目的としています。たとえば、検索エンジンの最適化にはGoogleのモデルを使用し、資料作成にはOpenAIのモデルを活用しています。
LLM(大規模言語モデル)の開発は資本力勝負の世界で、早晩価格競争になると予想していました。実際、開発が進む中で、LLMでの差別化が難しくなってきています。LINEヤフーの体力でこの開発競争に単体で突っ込んでいっても難しいだろう早い段階で判断しました。
私たちは、約2億人のユーザーと100以上のサービスを持つことを競争優位とし、モデル以外の部分で差別化を図ろうと決めました。この強みを生かして、モデルはむしろ外部のものを使う方針を取りました。モデルを作っている会社は複数あり、競争が働くことで選択肢が増えるため、長期的にはこの方針が良いと考えています。
LINEヤフーのユーザー体験を変えること、より良いインターネット体験を提供できることが重要であると考え、モデル自身を開発するよりも、さまざまな良いモデルを検証し、ユーザー体験を変えていくことに重きを置きたいと考えました。
また、すべてを外部依存で行っているわけではなく、内製のAIモデル開発も進めています。特にカスタマーサポート(CS)などのようにセキュアルームでデータを管理する必要がある場合には、内製のモデルを活用することで、データの管理とセキュリティを確保していきたいと考えています。
LINEヤフーの社員にはAIを使いこなす能力が求められています。働き方やサービスの導入においても、柔軟にAIを取り入れ、一人ひとりが革新を続ける力を持つことが重要です。社員全員がこの変化を楽しみながら、積極的に取り組んでほしいと考えています。
そのような思いから、生成AIを活用して業種を問わず生産性を向上させるための全社ルールの運用を開始します。
過去の工数調査の結果、全業務の約3割を占める「調査・検索」「資料作成」「会議」が特にインパクトの大きい領域であることがわかりました。
この3領域の業務において具体的な社内活用ルール(※1)を策定し生成AIの活用を進めることで、業務の効率化を図り、社員に新たな働き方を模索するきっかけを提供することが目的です。
※1 生成AI社内活用ルール(一部)
調査・検索:「まずはAIに聞く」文化へ
・経費精算などの社内規則の検索は独自業務効率化ツール「SeekAI」を利用
・競合調査やトレンド分析などの社外検索は「プロンプト例」を活用したAIでの検索を実施
資料作成:「作る」から「考える・伝える」へ
・ゼロベースの資料作成は行わず、作成前にAIを活用したアウトラインを作成
・資料作成後はAIを活用して文章校正を実施
会議:出席は「本当に必要な人」だけへ
・会議の前にAIを活用して議題の整理を実施
・出席者は議論に集中するために、社内会議の議事録作成は全てAIにて実施
・任意参加の会議は原則出席せず、議事録で把握
未来の働き方は必ずAIを活用するものになると考えたからです。AIがもたらす効率化の恩恵を全員が享受するためには、全社的な取り組みが必要です。
どうやったら全社員のAI利用を促進できるか検討した結果、「全社ルールにしてしまったほうが、むしろみんな必ず使うようになるのではないか」という結論に至りました。
これは、AIは人間の業務をサポートするものであるという考え方を根付かせるためでもあります。特にバックオフィス系の業務は、従来の方法で運用されていたため、AIの導入が難しいと感じることもありました。
ルール化により、AIをもっと使ってみることで新しい可能性が感じられるという意識を広め、全社員がこれまで以上に積極的にAIを活用する環境を整えたいと考えています。
まだですね。その理由は、期待の水準がどんどん上がっているからです。
もちろん、自己ベストは尽くしていると思いますが、他社が本当にすごいんです。
先日、OpenAIの本社に行ったところ、「2023年までは年に1回の大型リリースができればよかったが、2024年には毎月リリースできるようになり、今では毎日リリースできるようになった」と話していました。これは、AIを活用しているからこそ可能になったことです。
彼らは、2026年や2027年にはAIがAIを開発するような段階に持っていこうとしています。つまり、エンジニアがフルにAIを使って開発しているので、一人のエンジニアの生産性が質も量も非常に拡充していて、この2~3年で1,000倍くらいになっているんですね。
その生産性の向上を私たちが実現できているかというと、まだそこまでには至っていません。すでにAIの活用で多くの成功事例も出てきていますが、LINEヤフーから次々と新しい機能やサービスをリリースできる生産性を目指す必要があります。
今回のルール化は、全社員のAI利用をこれまで以上に進め、AIを活用する文化を組織全体に根付かせるための重要なステップだと考えています。
生成AIはなくてはならない存在で、プライベートでも活用していますね。たとえばインターナショナルスクールでの役員活動では、英語のやりとりをサポートしてくれる同時通訳アプリやChatGPTが大いに役立ちます。以前はぎこちない英語で苦労していましたが、今では海外との仕事もスムーズです。以前はこの英語で伝わるかなとドキドキしていましたが、今はそんな心配もありません(笑)
AIが業務の一部を担うことで、社員の生産性が向上すると期待しています。その一方で、これからの時代は 上司もAIと比較されるようになってくるかもしれません。
確かに、AIは優れたフィードバックを提供してくれますが、意思決定や人間的なフォローは人にしかできません。だからこそ、これからは上司にトータルな人間力とリーダーシップが求められるでしょう。正直、私も少しドキドキしています(笑)。
上司は、AIにはできない意思決定や人間的なフォローをしっかり行うことが大切です。たとえば、部下の代わりに謝罪したり、責任を取ったりすることはAIにはできません。また、ジュースを買ってあげるといった人間的な要素も重要です(笑)。
このように、これからはAIが担う仕事と、人間にしかできない信頼される仕事がはっきりと分かれるでしょう。AIを活用しつつ、人間にしかできないことをどれだけ磨けるかが重要になってくると思います。
人間関係における期待値も高まっていくでしょう。多くの人がAIの能力を理解しているため、AIを活用してどんなに素晴らしい資料を準備しても、「それで?」と問われることが増えるかもしれません。その「それで?」という部分で、より高度なアウトプットが求められるようになると思います。
また、ロジカルシンキングのように、みんなが同じロジックを身につけると、結果が似通ってしまい、差別化が難しくなるという問題もあります。
だからこそ、まるでストリートファイターのような人が重要です。ここでいうストリートファイターとは、予測不能な動きや革新的で独自な手法で周囲を驚かせる存在のことです。
どのAIに聞いても出てこないような決断や、予想外の行動こそが差別化を生み、AI時代においても注目される「面白い存在」になるのだと思います。
LINEヤフーの社員にとってAIは仕事をしてもらうパートナーなので、AIに仕事を頼むことができる人になってほしいですね。
上司であれば、部下に仕事を頼むのがうまい人は、きっとAIにも仕事を頼むのが上手だと思います。また、同僚に仕事を頼むのが得意で、チームワークを組める人は、AIとのチームワークも上手に組めるのではないでしょうか。そういうスキルを持った人になってくれるとうれしいですね。
一人どころではないかもしれません。現在のトレンドは、社員数よりもエージェント(※2)の数を増やすことです。これは、社員の数を変えずに、エージェントをたくさん活用して売上を向上させるという考え方です。
LINEヤフーも、今後は1人で複数のエージェント、人によっては数百個のエージェントを使いこなすようになっていくかもしれませんね。
※2 エージェント:特定のタスクを自動的に処理するAIプログラム。ユーザーの指示に基づいて行動し、効率的に業務を支援する
AIは、まるで成長する子どものような存在です。子どもが日々新しいことを覚えていくように、AIもまた驚くほどのスピードで進化し続けています。
だからこそ、「おお、こんなことができるようになったんだね!」と、毎回新鮮な気持ちでAIと向き合うことが大切です。そして、変化を楽しむ姿勢がAI活用の鍵になると思います。
人類は、知能が日々育っていくプロセスを、実はまだ経験したことがありません。私たちはいま、その歴史的な瞬間に偶然立ち会っているわけです。誰もが未体験のこの時代、AIとともに人間も成長していけばいいと思っています。
AIモデルは現時点で約11,000もあります。それを全部使うのはさすがに難しいですよね。最近、サム・アルトマンがカンファレンスで話していた内容(※3)によると、40代の人たちはAIを検索エンジンの代替として使い、30代はAIを人生相談、たとえばキャリアや結婚の意思決定に使っているそうです。そして、大学生や20代の人たちは、AIをOSの代わりとして使っています。
※3 サム・アルトマンの講演動画:OpenAIOpenAI's Sam Altman on Building the 'Core AI Subscription' for Your Life
ですから、私たちも少なくとも検索の代わりとしてではなく、「OSの代わり」としてAIを最大限に活用する方法を模索していく必要があります。
そうなると、一人ひとりが自分にとって使いやすいAIは何かを考えるようになるはずです。
たとえば、特定のタスクに特化したAIを選ぶことが重要です。「このAIを使ったら仕事がすごく効率的になった」と感じる場面や、「PowerPointで資料を作るならこのAIが便利」といった具体的な目的に基づいて、自分の仕事に最適なAIを見つけることで、AI活用で得られる効果を最大化できます。
こうしたレベルに一人ひとりが成長していくことで、LINEヤフーはとても大きな力を持った集団になると思います。
私たちが持っている多くのサービスの強みが最大限に活かされる時が来ると思います。
AIエージェントが複数のサービスをつなぎ、私たちの日常を自然に支えてくれる時代が、すぐそこまで来ています。これまでユーザー自身が操作していた買い物や決済なども、AIがスマートに代行してくれることで、よりシームレスで便利な世界が実現するでしょう。
こうした未来をつくるための力を、LINEヤフーは持っていると私は信じています。
自社で多数のサービスを抱え、それらをAIでつなげられる企業は、世界でも数えるほどです。私たちは、その可能性を最も体現できるグループのひとつだと自負しています。
1日でも早く、「LINEヤフーがエージェント化して生活が便利になった」と実感してもらえるサービスをユーザーに届けたいですね。
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「生成AI脳」になるにはどうしたらいい? 生成AIタックル室に聞くAI活用のヒント
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取材日:2024年5月26日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:猪又 直之
※本記事の内容は取材日時点のものです