LINEヤフーでは2023年から、OpenAIのAPIを活用した対話チャット型の独自AIアシスタントサービス(以下、AIアシスタント)(※1)を全社員が利用できるようになっており、業務の効率化や品質向上のため積極的に生成AIを活用することが推進されています。
※1 独自AIアシスタントサービスの社内利用にあたっては社内認証やネットワーク制限を行い、セキュアな環境を整備(社外からのアクセスは不可である仕様)。出入力情報はOpenAIモデルのトレーニングやOpenAIのサービス改善に活用されず、二次利用や第三者への提供がされない仕様になっている。
「ちょっと、AIアシスタントさんに聞いてみますね」
「AIアシスタントさんに要約してもらいました!」
これらは、ときどき社内で交わされている会話です(なぜか「さん」をつけている人が多いです)。
「生成AIを全社員が使うことで、思いもしなかったような新たなサービスが生まれるかもしれない」と話すのは、生成AI統括本部長の宮澤です。
私たちの生活の中に身近になってきた生成AIを、どのように使っていけばいいのでしょうか。生成AIツールを全社員が使えるようにした理由、そして、生成AIをLINEヤフーのサービスにどのように反映していくのか聞きました。
そうですね。みんなが自然と「さん」付で呼ぶぐらい、リスペクトする何かを感じたり、信頼したりしている存在だということなのかもしれませんね。
生成AIは、私たちが十万年かけても読み切れないほどの膨大な量の書籍を読み込んで答えを出してくれます。そのため、私にとって生成AIは「ブレストパートナー」のような位置づけです。少しあいまいな悩みでも積極的に聞くようにしています。
子育てについてのような悩みを投げかけることもあります。「私の子どもはこういう性格で、こういうことが好きなのですが、その才能を伸ばしてくれるような学校はどこでしょうか?」とたずねると、「こういう特性を持つ学校があります」と、日本だけでなく世界中の学校について提案をしてくれます。「その学校を勧めた理由は何ですか?」とさらに尋ねて深堀っていることも多いです。
生成AIは自分だけでは調査できない範囲の情報を提供してくれるため、その情報からアイデアを得て、自分でさらに調査するなど、次のステップへ進むきっかけにつながりやすくなると感じています。
世の中で大きな変化が起こると、新たな機能やサービスが生まれます。1996年にインターネットが誕生し、ポータルサイトであるYahoo! JAPANが生まれました。そして、2006年にスマートフォンの時代が到来し、コミュニケーションアプリのLINEが生まれました。 生成AIの誕生も、インターネットが生まれた時やスマートフォンが出てきた時と同様の大きな変化となると考えています。ヤフーでは、2006年にスマートフォンが出てきたとき、全社員にスマートフォンを配布し、その使用経験が多くのアプリケーション誕生のきっかけになりました。
今回も、全社員が生成AIを徹底的に使ってみて、その便利さと課題を理解することで、より良いサービスを生み出すことができると考えて導入を決定しました。
LINEヤフーでは、ユーザーの多種多様なデータをお預かりしています。これらのデータをしっかり守りながらも生成AIを最大限に活用するため、まずは生成AIの利用ルールをしっかり理解してもらう必要があると考えました。
そのため、社内で用意した生成AIツールは、無制限に全社員が使用できるわけではありません。利用するにあたり、まず生成AI利用ガイドラインを理解し、その上でセキュリティやガバナンスについてのEラーニングを受講する必要があります。このテストはかなり難易度が高く、十分な学習がなければ合格は難しい内容となっています。生成AIを利用する際の注意点やデータ入力の手順、予測される主要なリスクなどについてしっかりと学んだ上でテストに合格した社員のみに、このツールを利用することを許可しています。
現在は約70%の社員が利用しており、そのうち約4分の1の社員はほぼ毎日使っています(※2)。
具体的な使用例としては、全社集会の社員アンケート結果の集計や分析、企画のアイデア出しといったものがあります。特に企画においては、「あなたは20代の都心に住む女性です」といった役割を定義してから質問を投げると、その視点から答えを返してくれるため、アイデアのブレインストーミングのパートナーとして活用しているという声をよく聞きます。
※2 LINE株式会社とヤフー株式会社は、それぞれ異なる独自のAIアシスタントを提供していましたが、LINEヤフー株式会社の発足に伴い、これらの独自AIアシスタントを「LY ChatAI」に統合しました。
上記の利用率や頻度は、統合前にそれぞれの会社が提供していた独自AIアシスタントの利用状況に基づいています。
生成AIのような便利なツールが出てきた以上、それを使えなかった頃の自分と比べるのではなく、これを使うことでどうすれば自分のパフォーマンスをさらに上げられるのか、そして自分だけが出せる付加価値とは何か、と考えるようにしています。
その通りですね。私たちの人生には、洗濯以上に優先したい重要なことがあります。昔も今も変わらず、1日は24時間しかありません。生成AIを使うことで時間を大きく節約することができますが、その時間を何に使うかは自分たちが決めなければなりません。自分が主体となり、自分にとって有意義な時間の使い方が何かをこれまで以上に考えていく必要があります。
「生成AIを使うことで楽をしているような気がする」という意見はしっかりと使ってみたからこそ出てきた感想です。私たちが感じた不安は、世の中のほとんどの人も同じように感じるはずです。そのような不安を先に感じることも、生成AIを使って自分たちが感じたことをサービスに反映していくという観点からも重要だと思います。
LINEヤフーでは、生成AIを全てのサービスに取り入れることを目指しています。そのため、多くのユーザーがLINEヤフーのサービスを通じて、生成AIの便利さを体感できるようになるでしょう。
また、「検索」する際に適切なキーワードを入力するのは難しいと感じるユーザーも少なくありません。生成AIの活用により、そうしたユーザーにも適切な情報を提供することが可能になると考えています。次のアクションにつながるような情報を伝えることは、生成AIが得意とする領域です。その強みを活かすことで、より便利なサービスを提供できると考えています。
2月には、生成AIを活用したLINEのサービス(※3)をリリースします。最初は生成AIを実装したプロダクトとして注目されるかもしれませんが、その後は「LINEで相談したら困り事が解決した」「希望のお店の空き時間を調べてすぐに予約できた」といった形で、ユーザーは生成AIが活用されていることを意識せずに便利に使っていただけると考えています。
※3 LINE AIアシスタント
専用ページからLINE公式アカウントを友だち追加して、トークルーム内でAIに質問や相談ができる月額制のサービス
また、2023年に生成AIはLINEヤフーの12サービスに反映されており、今年の3月末までにさらに約20サービスに反映する予定です。また、グループ企業との協力を通じて、生成AIをさらに多くのサービスに反映していきたいと考えています。
さまざまなサービスに反映した結果、成功事例だけでなく失敗事例も出てきました。それらの事例を社内で共有し蓄積された経験値もサービス作りに生かされています。これは、「早めに試して、失敗を恐れない」というLINEヤフーの特性でもあると思います。
すべての技術は、私たちの生活を豊かにするために存在すると思っています。生成AIもその一つです。すでに他の業界では、生成AIがうまく活用できそうな領域がいくつか見えてきています。一つは「創薬」の分野です。新たな薬を作るためのタンパク質の組み合わせの膨大なパターンをAIが担当し、人間の能力を超えた結果が得られています。
もう一つは教育のパーソナライゼーションです。生徒一人ひとりの理解度や習熟度に合わせた学習法や教材を提供することが可能になっています。
「圧倒的な量と速度を掛け合わせて最適なものを提供する」という生成AIの力を活かせるサービスが、今後もさまざまな分野で登場すると考えています。
これから、生成AIが組み込まれたサービスはさらに増えていくでしょう。まずは、それらのサービスを使ってみて、その中から「こういうニーズのときに質問すると、一番良い回答が返ってくる」「このサービスを使うと生活がより便利になる」と感じるものを見つけてみてください。それらのサービスを使うことで、みなさんの生活はこれから、より便利で豊かなものになると思います。
取材日:2024年1月15日
※本記事の内容は取材日時点のものです