「真心はいつか必ず通じる」AI戦略を担うCPO慎がいま大切にしたいこと

リーダーズ
室内でスーツを着たCPOの慎が微笑んで立っています。背景には本棚やテーブルがあり、落ち着いた雰囲気です。「LINEヤフー ストーリー」という文字が左下に表示されています

LINEの生みの親で、LINEヤフーでCPO(チーフプロダクトオフィサー/最高プロダクト責任者)を務める慎ジュンホ。
2025年5月の決算説明会ではAIエージェント戦略を発表し、最先端のAIカンパニーを目指すと宣言しました。全社を挙げて生成AI活用に取り組み、生産性を向上させるとともに、あらゆるサービスにAIエージェントを組み込み、ユーザーの課題解決やUXの向上を図る方針です。 LINEのように、マーケットで圧倒的なシェアをとり、多くのユーザーに利用されるサービスを作るためには何が必要なのか。どんなチームが理想なのか。
これまでのキャリアに加え、経営者として大切にしている価値観なども話を聞きました。

メガネをかけた慎が笑顔で正面を向いています。背景は明るく、ビジネスシーンを想起させる雰囲気です
慎(シン) ジュンホ
LINEヤフー CPO
韓国科学技術院(KAIST)卒。韓国科学技術院大学院修士課程修了後、研究開発情報センターを経て2008年、CPOとして起業した1noon(現NAVER Corporation)よりネイバージャパン株式会社(2012年にNHN JAPAN株式会社と経営統合)へ転じ、企画本部長。2014年よりLINE株式会社(現Aホールディングス)取締役CGO(チーフグローバルオフィサー/最高グローバル責任者)。2021年よりLINE Plus Corporation取締役。2023年Zホールディングス株式会社(現LINEヤフー)代表取締役GCPO(グループチーフプロダクトオフィサー)。2024年よりLINEヤフーCPOとして、プロダクト創出に注力している。

研究に明け暮れた学生生活と、人生で最も苦しかった時代

――どんな幼少期、学生時代を過ごしていましたか?

小学1年生の頃、未来の夢を聞かれたとき、「科学者です」と答えました。新しい何かを作ること、物事の原理や本質を分析することが好きな子供でしたね。
ですが、地方の田舎で育ったこともあり、学校の先生には、「それでは食べていけない。科学者を目指すくらいなら、なぜ医者を目指さないのか?」と、高校三年生になるまでずっと言われ続けました。

――それでも、夢を実現するため韓国の理系トップ大学の韓国科学技術院(KAIST)に進まれたそうですね。

はい。大学生時代は、コンピューターサイエンスを専攻し、次第にAIに興味を持つようになりました。当時、「自分が死ぬまでにはAIの時代が来るだろうな」と思っていましたね。私が想像していた通りの流れが今、起きています。
ただ、当時、自分が卒業研究で制作した(AIの土台となる)機械学習モデルのニューラルネットワークはたった1回、機械学習を回す処理に一週間もかかるような状況でした。
それでは本当に飯を食えないということで、大学院ではAIに近しく、入り口ともいえる自然言語処理や検索領域を研究しました。GoogleもNAVERも誕生する前、アメリカでYahoo!が法人化してまだ間もない、1996年頃の話です。
その後、研究開発情報センターで引き続き検索の研究をしているうち、検索エンジンをつくりたい仲間たちが集まり、一緒に1noon(チョンヌン)を起業しました。当時の役職はCTO(チーフテクノロジーオフィサー/最高技術責任者)でした。

スーツ姿の男性・慎がソファに座り、手を使って何かを説明している様子です。窓から自然光が差し込んでいます

――そこから競合であるNAVERに合流した経緯を教えてください。

当時、私たちは韓国の検索市場で先行して独占状態だったNAVER以上のエンジンをつくることを目指しました。ですが、後発でNo.1を奪うことの難しさや資本力の必要性も痛感していました。
そんななかで、私たちの技術力に興味を持ったNAVERなど、複数の企業からM&Aの提案があり、1noonの仲間と議論した上で、NAVER入りを決めました。
まだ検索領域は研究分野としても狭く、NAVERの創業者たちは大学時代の先輩も多かったのです。先輩たちに「一緒にやろう」と口説かれて、最も自分たちがやりたいことをチャレンジできる環境だと思いました。

――スタートアップから大手に移り、どんな変化がありましたか?

NAVERでは、いきなり検索本部長としてジョインしたため、既存社員から「なぜ外からきた人をトップにするんだ」という反発も強くありました。
そんななかで組織融合を進めなければなりませんでしたから、人生で最も大変な時期でしたね。
開発言語も違うし、カルチャーも違うわけです。大きな夢やビジョンを胸に、新しいチャレンジをしたいのに、現実には、統合した組織で、どちらの開発言語を捨てるか、誰をチーム長から外すか、という問題に向きあったのです。
その頃から、組織をうまく融合させて、ROI(Return on Investment/投資収益率)を最大化するためにはどうすればよいのか、その最適解を常に意識するようになりました。
たとえば二つのチームが一緒になったとき、1+1=2では効果が足りません。どうやって仲間の力を掛け合わせて1+1=3以上の価値を生み出すかを真剣に考える癖がついたのです。

来日して、LINEを生み出すまでの歩み

――その後、どういう流れで来日し、事業を展開することになったのでしょうか?

会社から「日本市場の開拓をやってほしい」と頼まれました。その期待に応えて、しっかり価値貢献したい思いがありました。
そこで、来日した当初は検索のNo.1サービスを目指しました。ですが、Yahoo! JAPANがいて、Googleもいて、その牙城を崩そうと頑張ったのですが、「No.2も難しそうだ」というところまでやりきってから、ゼロベースで考えて生み出した1つがバーティカル(特定分野に特化した)サービスの「NAVERまとめ(※1)」でした。

※1:ユーザーがネット上の情報を収集・編集して1テーマの「まとめ」を共有できるキュレーションサービス。2009年のサービス開始以来、2020年に終了するまで、約180万本のまとめが作成され、1718億PVを記録した。

――当時、「NAVERまとめ」は多様なユーザーニーズを捉えた新しいサービスとして一気に認知が広まりましたね。

ユーザー参加型のサービスは大手外資などでは、なかなか実現できなかった。ターゲットのニーズを捉えやすく、小回りのきくわれわれだからこそ作れる手応えがありました。そして、既存の検索事業と比べて、競合の規模が小さく、伸び代がある領域でした。

慎が別の角度でソファに座り、笑顔で話をしています。リラックスした雰囲気が感じられます

――そういった試行錯誤を経て、LINEを誕生させたわけですね?

はい、3.11(東日本大震災)を経験して震災後のコミュニケーションの重要性を痛感し、「今こそ、メッセンジャーサービスが必要だ」と考え、開発に着手しました。
当時、検索サービスしか作ったことがないチームでしたから、NAVERからは「大丈夫なのか?」「誰が使うのか?」と言われましたが、ユーザーニーズの存在を確信していました。
当時はSkypeやWhatsAppなどはありましたが、まだ市場のシェアは大きくなく、登場したばかりのスマホに最適化されていませんでした。

どこよりも最初にシェアを取る必要があると強く感じて、仲間と一緒にわずか1カ月半で開発を成し遂げました。
何が正しいか分からないことは軌道修正を頻繁にやる必要があります。プロダクトづくりの初期段階では、人数が多過ぎると方向転換や軌道修正に時間がかってしまうので少数精鋭のチームで進めるのが理想です。
プロトタイプを作ったら、「私がOKを出したから」ではなく、「世の中のユーザーが本当にほしいものかどうか」をメンバーがお互い、確認し合い、磨き込みました。

――なぜそんな短期間でできたのですか?

それまでの挑戦と失敗の積み重ねがあるからです。メンバーがプロジェクトの立ち上げと撤退を数多く経験した結果、チームは圧倒的にスピード重視の体質に変化していったのです。
新規事業は、野球にたとえるなら、「何度、三振しても良いから、ホームランを狙うべき」と考えています。チャレンジするフィールドは、競争相手がまだ少なくて、今後メジャーになりそうな領域であるべきです。売り上げ規模や提供できる価値のスケールの大きさが重要な判断軸になります。

そして、何を作りたいかより、サービスがユーザーに選ばれるかどうかが全てです。選ばれて、使われて、収益化につながります。世にない潜在価値を生み出すためには、ムービングターゲットを追いながら、われわれ自身が変化していかないとニーズに追いつけません

その時の成功体験としては、「ユーザーファースト」を徹底すること、「少数精鋭」のチーム体制で臨機応変・迅速にプロジェクトを進めること、そして、プロ意識を持って「やり抜く」こと。これらは現在もLINEヤフーが大切にするバリューにしています。

LINEヤフーが大切にする「ユーザーファースト」「やりぬく」「少数精鋭」の3つの理念が日本語と英語で記載され、各理念の具体的な行動指針が示されています

LINEヤフーのミッションとバリュー

――LINEを生み出した成功体験から、新規サービスを生み出す上での学びでは他に何かあるでしょうか?

LINEは幸運にも圧倒的なシェアを持つプラットフォームになりました。No.1サービスは、No.2以下に対して圧倒的に有利な立場で事業を展開できます。スマホ上で動くアプリサービスが乱立するなか、各領域でその傾向が強まっていますね。
じゃあ、「No.2やNo.3はNo.1になれないか?」というとそんなことはありません。No.1が持っている強みを全て同質化した上で、No.1が持っていないところを徹底的に差別化することで逆転が可能です。
どうやって差別化するかというとLINEヤフーが大切にしている「WOW」や「!(びっくり)」です。つまり、自分たちだけが持っている差別化ポイントについてユーザーに対して感動を与えるレベルまで磨き込む
私たちはLINEといったNo.1サービスに加え、No.2やNo.3のサービスも数多く持っています。ここにAIエージェントを組み込むことで、また、連携することで、さらにNo.1を増やすチャンスがあると考えています。

スーツ姿の慎が微笑みながら話しています。窓からの光が差し込み、リラックスした雰囲気が漂っています

CPOとしてAIエージェントをどう成功へ導くか

――これまで組織融合も複数経験されてきたなかで、CPOとして、ご自身の役割をどのように捉えていますか?

1回目がNAVERに買収されて、2回目がライブドアを買収して、3回目はLINEとヤフーの組織融合。ビジネスの教科書に載っているような全ての種類の組織統合を、私はど真ん中で経験しました。この経験は間違いなく生きています。

さらに、研究者、開発者、企画、経営など、さまざま経験してきましたが、基本的にやるべきことの本質は、最適化です。限られたリソースや前提条件の中で、ベストソリューションを決めること。
CPOはサービスをつくるプロダクト責任者で、生き残るサービスをつくることがゴールです。

――今年の決算説明会でAIエージェント構想を発表し、目下、最注力している取り組みです。基本方針を教えてください。

AIに長く携わってきた過去の経験を踏まえ、AIエージェントは、自分がコミットして、みんなを説得できる座組を作るべきだと感じました。AIの変遷を見てきた実感として、「この先こうなるだろう」という展開を予測する精度には自信を持っています。
そこで、幹部メンバーたちと、直接ディスカッションを行ったうえで、AIエージェントを前提とした時代に思考を変えるべきという意思決定をすぐに行いました。
ここから先は、各領域のスペシャリストであるプロダクトオーナーやメンバーがどんどん価値を高めてくれるはずです。
AIは難しいことではなく、まずは人がやっていることをシンプルに置き換えるべきだし、既存のサービスにどんどん入れていくべきだと考えています。すでにAIネーティブな新卒社員も入ってきていますが、誰もがフラットに使いこなせる強力な武器でもあります。

AIエージェントの価値提供について説明する図。パーソナライズ、日常生活のフルカバー、コンバージョン完結が示されています

――現在、LINEヤフーでは非常に多くのサービスを展開しています。どのように優先順位をつけたり、関与したりするかを決めているのですか?

自分がコミットする基準は、規模よりも「自分が貢献できるかどうか」です。優秀なプロダクトオーナーがいますから、役割分担や権限移譲をして、自分が貢献できそうな領域なら関与しますし、任せた方が良いところには口を出しません。
優先順位は最適化そのもので、最大の価値を生むためのリソース配分が重要です。

――LINEヤフーにとってAIエージェントの強みは何でしょうか?

私たちの強みは、日常生活をカバーする既存のサービスとドメインをすでに持っていて、その延長線上で進化できることです。
テクノロジー基盤、ユーザーベース、起点からコンバージョンまで、全てを自社で完結できる環境が私たちにはそろっています。
AIエージェントは、ユーザーのニーズをより深く理解し、個々のユーザーに合わせたパーソナライズを実現でき、ユーザーのさまざまな課題を迅速に解決できます。

LINE、Yahoo! JAPAN、PayPayのユーザー数や店舗接点、コンテンツの強みを示す図。各サービスの利用者数が記載されています

――課題はどのように認識していますか?

とにかくスピード勝負です。AIの重要性やパラダイムシフトが起きていることを全社員、全カンパニーが理解し、試行錯誤、変化を恐れずに挑戦できるかどうかが成功の鍵でしょう。私たちの会社にはそれを実行できる土壌があります。
だからこそ、自分がしっかりコミットして最大限貢献したい。私がすべきことは迅速な意思決定です。ユーザーに選ばれるサービスを作るために、全体のAI戦略さえ決めてしまえば、あとは手段の話ですから。

ただ、スピードは大事だけど選ばれないと意味がない。AIエージェントは、「試行錯誤を100回繰り返す前提でプランを立てましょう」と話をしています。
ユーザー自身もどんなものを使いたいのかまだかわからないはずなので、社内オープンで、プロトタイプをみせて、「がんがんダメ出しされて、改善を繰り返す」というプロセスを、限られた時間の中で、どれだけ速く回せるかが重要です。

スーツを着た慎がソファで手を広げて話し、楽しげな表情をしています。背景にはブラインドがかかっています

「ユーザーのためにぶつかり合って戦う」信頼関係がよいプロダクトをつくる

――CPOとして判断すべきことが多いと思いますが、何か決めているポリシーなどはありますか?

私は発言の訂正に恥じる気持ちは1ミリもありません。逆に自分の判断間違いで出した指示を改めない方が怖いですね。間違いがあった場合、それを直ちに認めて訂正できることが自分の強みだと考えています。
ですから、社員には私の顔色を伺ったりせずに、どんどん批判的な意見をぶつけてほしいです。

――以前、「組織が大きくなればなるほど変化に対応し、イノベーションを生み出すことが難しくなるが、変化と挑戦が絶対必要だ」というお話をされていました。

とても難しい問題です。恐竜が絶滅したように、変化にスピーディーに対応して、進化できる生き物だけが生き残るのはビジネスの世界も、企業も一緒です。
だからこそ、変化を恐れずに、どんどんチャレンジしていくことが重要です。

――チーム作りで他に意識していること、社員に伝えたいメッセージはありますか?

LINEヤフーには優秀で良い人材が集まっています。人柄が良いことは採用の絶対条件ですが、プロダクトを良くするため、組織や相手の成長のため、仲間にしっかり苦言を言うことも大事です。そのためには組織のなかで悪役を演じる存在も必要ですね。
相手との信頼関係を保持した上で、ユーザーファーストでぶつかり合って、戦える組織、カルチャーを会社としてしっかり作りたいです。

――大きなチャレンジに全社で取り組んでいく上で、大事にしたいことはありますか?

私ははっきりものをいうタイプです。誰が良い、悪いでなくそれぞれに立場がありますので、時には誤解も生じます。ただ、正しいことを言って、誠実に相手に向き合い続けていれば「真心はいつか必ず通じる」という言葉を信念にしています。

ユーザーにWOWと!を感じてもらうサービスを作る。そのために社員全員が同じ方向を向いて、真心を込めて、それぞれの専門性を発揮していけば、必ず、ユーザーのみなさんにも通じると信じています。

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取材日:2025年5月14日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:猪又 直之
※本記事の内容は取材日時点のものです

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