「まだまだやれることがある」渡辺尚誠に聞くLINEヤフーのトーク事業が目指す姿

リーダーズ
LINEのキャラクターと一緒に座っている男性が映っています。オフィスのような明るい空間で、楽しげな雰囲気が伝わります。

昨年10月、LINEヤフーのFamily Dayで、LINEヤフーストーリー編集部は「LINEスタンプメーカー」のブースに笑顔でゲストをサポートするLINEヤフー執行役員の渡辺を発見。「楽しい!」「ゲストのみなさんがスタンプを作る姿を見られて嬉しい!」と嬉しそうでした。また、3月1日に行った、渡辺自らが立ち上げた「LINE Creators Market(以下、LCM)」の10周年イベントでも、クリエイターと積極的に交流し、楽しそうにコミュニケーションをとる姿が印象的でした。

LINEスタンプアレンジ機能や絵文字のリニューアルなど、LINEヤフーのトーク事業をリードする渡辺は、どんな時も楽しそうに仕事に取り組んでいます。
彼の話から、現場の最前線でクリエイターやプロダクト作りに真剣に向き合い、挑戦を楽しむ渡辺の姿が明らかになりました。

渡辺尚誠の写真
渡辺 尚誠 (わたなべ なおとも)

執行役員 エンターテインメントカンパニー トーク事業統括本部 統括本部長

2010年ライブドア(旧LINE)入社。2012年よりLINEスタンプ事業に携わり、2014年に「LINE Creators Market」を立ち上げ、スタンプ事業をLINEの課金ビジネスの中核に成長させる。現在はLINEのトーク事業全般を統括。哲学修士。

<LINE Creators Market(LCM)とは>
世界中の「LINE」ユーザーが、職業や経験を問わずLINEスタンプ・絵文字・着せかえを制作・販売できるプラットフォームで、2014年の提供開始から10年を迎える。10年間で累計2,300万パッケージ以上(※1)のLINEクリエイターズスタンプが販売され、750万人以上(※2)のクリエイターが活躍中。

※1 2025年1月時点。LCMで販売されているスタンプ数。
※2 2025年1月時点。

無我夢中で取り組んだLCMの立ち上げ

――社内では「なおともさん」と呼ばれているとうかがっていますので、ここからはなおともさんと呼ばせていただきます。
まずは、なおともさんが立ち上げたLCMがリリースから10年経ちましたが、振り返ってみていかがでしょうか?

LCMが誕生したのは、2011年にLINEスタンプをリリースした後のことです。当初は企業やLINEの公式スタンプを中心に展開していましたが、2年ほど経つと新しいアイデアの創出が難しくなり、一部のユーザーから「オリジナルスタンプを作りたい」という声も上がるようになりました。そこで、新しいアイデアをユーザーに委ねる形で、スタートしたんです。

当時はとにかく無我夢中でしたね。「3カ月後にリリースしよう」と決めて、まずは募集ページを作り、クリエイターから画像を集めました。そこからどのようにリリースするかを議論して急いでシステムを作って、段階的にユーザーに提供していきました。最初にユーザーに提供できたのは、約500パッケージくらいでした。

リリース当初はスタークリエイターがなかなか生まれず、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の成功例もわかりませんでした。サービスを盛り上げ、クリエイターに光を当てたいと思い、話題化のため毎日のように芸能事務所やPR会社と話し合い、サービス安定化のための体制づくりに奔走していました。こんなインタビューにも答えたり、自ら身を削っていましたよ(笑)。

――それが今では、グローバルで750万人のクリエイターが活躍し、スタンプのパッケージ数も2,300万以上にも達したんですね。

はい。今では毎年スタークリエイターも生まれ、サービス開始以来、トップクリエイター10名の平均販売額は17億7,800万円に達しています。多くのクリエイターが自身の作品で収入を得ることができるクリエイターエコノミーとしても非常に好評をいただいているサービスになったかなと思います。

振り返ると、リリース当時は毎日のように無理難題がふりかかってきましたが、それでもがむしゃらに頑張れたのは「クリエイターズスタンプのおかげで人生楽しくなった!」とか「スタンプきっかけで結婚しました!」など、クリエイターさんの一言一言が励みになったなと思いますし、クリエイターさんと共に歩んできた10年だったと感じています。

渡辺尚誠の写真

クリエイターが抱える課題の手助けになりたい

――これからもっとサービスを大きくしていくためにも、クリエイターは欠かせない存在ですよね。彼らとはどのように向き合っていますか?

クリエイターのみなさんとは、できるだけ深く関わりたいと思っています。もともと、人と会ったり旅したりするのが好きで、クリエイターとも直接話をしてみたいという気持ちが強くありました。 1週間の休暇を利用して、九州から東北まで彼らを訪ねて話をしてきたこともあります。

彼らの話を聞くと、いろいろな考えを持ちながらも悩みも抱えていることがわかりました。例えば、自分で描いているのに、キャラクターだけが一人歩きしているように感じて、制作に力が入らないというクリエイターも意外と多いんです。でもSNSなどでファンから反響をもらうことで、もっと表現したいというモチベーションが湧いてくると。彼らにとってファンの存在はすごく重要で、ファンを大切にしたいという思いが強いです。一方で、クリエイターが有名になると、「あのキャラクターには負けないで!」といった声が上がるなど、ファン同士の意見の対立に悩むこともあると聞きました。

こうしたクリエイターさんの情熱や課題を聞いて、自分は彼らに何ができるだろうと考えた時に、もちろんサービスとしてやれることはたくさんありますが、個人として「話を聞く」ことはできるんじゃないかと思ったんですね。そこで、去年からコーチングの勉強を始めました。コーチングとは対話を通じて相手の目標達成をサポートする手法のことで、少しでもクリエイターさんの支えになれればと思っています。

――なおともさん自らクリエイターに会いに行き、直接彼らの声も聞いているんですね。

LINEヤフーとして、またプロダクト運営側として、クリエイターやユーザーを支える仕組みやサポート体制を作ることはもちろん必要なのですが、それだけだと何か物足りなさを感じることがあります。 まずは「自分に何ができるか」を考えて動いていることはけっこうあるかもしれないですね。

数年前には、数名のクリエイターたちと一緒に京都で座禅を組みに行く機会を作りました。座禅体験の情報を見つけた時に、これは絶対彼らにいい影響を与えると思ったんです。
座禅の後は近くの工房を訪ねて新しいものを見たり、ミシュラン星付きの美食体験をしながら話をしました。いろいろな意見やアイデアが出てきて、すごくいい時間になりましたね。

左側の写真は和室で、中央にランプが置かれ、数人が囲んでいます。右側の写真はテーブルに花や茶道具が並べられ、落ち着いた雰囲気を感じさせます。

渡辺がクリエイターと行った京都での座禅の様子(左)と訪れた茶筒の工房(右)

また、3月1日に行ったLCM10周年イベントのように、クリエイターと交流を持つ機会も大事にしたいと思っています。普段は一人で作業をする彼らにとって、他のクリエイターやLINEヤフー社員と交流することで安心感を得られると思いますし、会社や事業への信頼醸成にもつながると思っています。

こうやって、クリエイターと一緒にいろいろな経験をする場を作り、彼らの話を聞くことで、悩みの解決や新たなアイデアを生む手助けができたら嬉しいなと思っています。

ビジネスイベントで、多くの人々が集まり交流しています。男性が参加者と会話している様子や、会場全体の賑やかな雰囲気が伝わります。

3月1日に行われたLINE Creators Market 10周年イベントの様子。 交流を楽しむクリエイターと、クリエイターたちと積極的にコミュニケーションをとる渡辺。

「楽しそう」と思ったらまずは「やってみる」

――LCMに限らず、スタンプアレンジ機能や絵文字リニューアルなど、トーク事業は進化を続けていますが、どのようなことを考えながらプロダクトと向き合っていますか?

学生時代に哲学を学んでいたからか(笑)、常に「私たちがなぜ存在しているか」を考えてプロダクト作りに取り組んでいますね。テキストメッセージでは正しく伝えることや言語としての正確性が求められますが、LINEスタンプは絵を使うことで、人の感情をより引き出す装置だと思っています。

例えば、僕はピカソの「泣く女(※3)」が好きなんですが、美術館で作品の前に立つと、言葉では表現できない気持ちが出てくることがありませんか? その時の感覚と同じように、LINEスタンプも見る人の心を豊かにし感情を引き出す力を持っていると思います。

たとえその表現が誤解を生むことがあったとしても、感情を豊かにするという点で価値があるものだと思っています。僕たちが提供できるのは、まさにその感情を引き出すことだと思いますし、大事にしていきたいと思っています。

※3 泣く女(西洋海外美術館)

――プロダクトを作る上で、大切にしている価値観は何ですか?

「すべては一人から始まる」という考え方のもと、まずは「やってみる、行動に起こす」ことを心がけています。論理的に考えると9割は成功しないかもしれないけど、1割の人が「楽しい」と思ってくれるならそれだけで挑戦する価値があると思っています。

実は、僕は周囲から「論理的な人」として見られることが多く、会社の評価制度でも「論理性」のスコアが高いんです。でもロジックだけでは解決できないこともあるし何より面白くない。だからこそ楽しそうと感じたらまずはやってみようという気持ちで取り組んでいます。

渡辺尚誠の写真

――「楽しい」という感覚は、仕事をする上でとても大事ですよね。

そうですね。常に楽しむことを心がけています。自身のファーストキャリアは出版社での女性ファッション誌の編集者だったんですが、レギンスのレの字も分からず鬱々(うつうつ)としていたときに、編集長に「仕事は楽しくね。でも、楽しくするのも自分だよ」と言われた言葉は、自分を大きく形成していると思いますね。

そして、僕は人生の中で「人と会う」「本を読む」「旅をする」の3つを大事にしたいと思っていて、働く原動力にもなっています。どうせなら、楽しく仕事をしてそれが生活の糧になるのが理想だなと。楽しいと感じることが、日々のエネルギーになっています。

LINEスタンプ登場から13年 まだまだ挑戦する

――ここからはなおともさんのキャリアについて聞かせてください。なおともさんがLINEスタンプに携わったきっかけは何だったのでしょうか?

ある金曜日に突然上司に呼ばれて、「来週からスタンプやる?」といわれたのが始まりです。当時はライブドアニュースを担当していて、それなりに業績も上げていたので、ここでこれを手放すのか......と惜しい気持ちもありましたが、土日悩んで、当時のヤフーCEOの宮坂さんが入社式でお話した言葉「迷ったらワイルドな方を選べ!」を思い出して、やると決めました。

あの時は、強い決意はあったのですが、それこそ流れるように決まった感じでしたね(笑)。気付けばもう、13年になりました。

渡辺尚誠の写真

渡辺:「クリエイターさんたちに会いに行くのは現場に任せてください!」と言われることもあります。でも、じっとしていられないんですよね(笑)。

――LINEスタンプを「もう十分やりきったからやめようかな」と思ったことはなかったんですか?

ないですね。友人からも「飽きないの?」と言われることもあるけど、全然飽きていない。

それはやっぱり、「人は、コミュニケーションしないわけにはいかない」からです。スタンプやLINEというプロダクトのことを考えるだけでなく、いつも一つ高い目線で、コミュニケーションやメディアという観点で考えているからかもしれません。

そして、ユーザーやクリエイター、そして日々一緒に業務を行っているメンバーの存在が大きいです。電車でLINEを使っている人を見たり、LINE発のキャラクターが盛り上がっていたりするとすごくわくわくします。最近ではLINEのデフォルト絵文字にもなっている「えもじの子(仮)」がSNSやテレビで話題になっていて、とても嬉しいですね。そんなユーザーの反応を見て、「次はこんなことやってみるのはどう?」とメンバーやクリエイターと話し合うのがすごく楽しくて。「まだまだやれることがある」と、もっと挑戦したくなります

――その「まだまだやれること」について、教えてください。

スタンプはリリースから13年以上経ちますが、まだまだ満足してはいけないと思っています。
LINEでのコミュニケーションがますます高速化する中で、数千万あるLINEスタンプをいかにクイックかつ効果的に提供するか、またAIとの連動性を高めていくかがこれからの大きな課題です。

例えば、「私、オーストラリアに留学に行こうと思う」というやりとりがあったとき、AIが「頑張ってね!」と応援するスタンプをレコメンドするようにしたり、それをきっかけにスタンプの購入やほかのサービスにつなげたりすることを考えています。

その観点でいうと、テキストを打つとスタンプが表示されるエリア(※4)はすごく重要だと思っています。現在もよりスムーズにトークを楽しむための追いスタンプ機能サジェスト機能を提供していますが、ここを起点に、ユーザーが会話の中で「感情」を見失わず、より早くスタンプを選んで楽しくコミュニケーションができるよう、さらにアップデートしていきたいと思っています。

サジェスト機能の画像

※4 テキスト入力時にスタンプが表示されるエリア(追いスタンプ機能)

――AIを使うことで、新たなコミュニケーションの可能性が生まれる予感がしますね。

はい。ただ、私たちはクリエイターさんの想いや権利をお預かりしてユーザーにサービスを提供している立場です。単にAIにスタンプを作ってもらうのではなく、クリエイターの権利を守りながら事業を進めていかなければと強く思っています。

過去20~30年のコミュニケーションの進化を振り返ると、1999年にiモードが日本に登場しました。2000年代は絵文字やデコメの全盛が続いて、2011年にLINEスタンプがリリースされてから13年が経ちました。
次の時代もLINEスタンプの全盛が続いたらいいなと思いながらも、そうならない可能性も十分考えられます。「Beyond・The・Sticker」といった考え方で、LINEスタンプを超える新たな感情表現のプロダクトの開発を続けていかなければと思っています。

それがまた絵文字に戻るのか、あるいは新しい表現が出てくるのかはまだわかりませんが、まずは「とにかく小さく始めてみる」ということを大事にしています。始めてみてうまくいかなければ軌道修正したり、次のアイデアに挑戦することを着実に積み重ねていくマインドでいたいなと思いますね。

――最後に、LINEヤフーのトーク事業が目指す姿を教えてください。

LINEスタンプがリリースされ、「LINEスタンプのおかげで夫婦の会話が増えました」という声を聞いた時、ものすごく嬉しかったのを今でも覚えています。「これから帰る」とか「ご飯なに?」というテキストにスタンプが加わることで「いまこんな気持ちなんだな」と相手の感情や状況がわかったり、「このスタンプが好きなんだな」と相手のことをもっと知れたりしますよね。これがLINEスタンプの価値だと思いますし、LINEスタンプをきっかけに自然と会話が増え、人間関係が良くなっていく世界を作りたいと思っています。

それから、1to1サービスで提供している占いや診断コンテンツでも同じことが言えます。単に占いの結果だけでなく「占い師に話を聞いてもらえた」ということに大きな価値を感じている人が多いことがユーザーリサーチからもわかるように、人の自己理解や他者理解を促進することで、人間関係をより近くにしてゆきたいです。

そして、スタンプや占いだけではなく、LINEのトーク全体を通じて、物理的には離れていても「感情的に距離を縮められる」体験を提供し続けていきたい。それが、僕たちの目指すところです。 これからもクリエイターと共に新たな感情表現の可能性を探求し、まだまだ挑戦を続けていきます。

LINEキャラクターのブラウンと男性がオフィスのテーブルで向かい合って座っています。明るい空間で、リラックスした雰囲気が感じられます。

【YouTube】世界で一つだけのLINEスタンプを作ろう!

LINEヤフーは、私立アレセイア湘南高等学校(神奈川県茅ケ崎市)の3年生と一緒に、卒業記念としてLINEスタンプメーカーでクラスメートとの絆を形に残す、特別なスタンプづくりの授業を開催しました。ぜひ、スタンプ作りを楽しむ生徒さんの様子をご覧ください。

あわせて読みたい

Page top