LINEスタンプの「スタンプアレンジ機能」は、スタンプの大きさや角度、位置を自由にアレンジして送ることができる新機能です。2024年5月13日の本格リリース以来、特に10代のユーザーから大きな反響を呼び、リリースからわずか約1か月で送信回数が2億回を超え(※)、グローバルでも多くのユーザーに利用されています。
この機能が生まれるまでには、数々の挑戦があったといいます。企画を担当した野田と野崎に、リリースの背景や道のり、機能へのこだわりについて聞いてきました。
※ 2024年6月14日時点、スタンプアレンジ機能を提供している全世界での合計送信回数
野田:
10代のユーザーにもっとLINEスタンプの楽しさや新たな魅力を知ってもらいたいという想いから、プロジェクトが始まりました。今、10代のユーザーはスマホを手に入れた時からLINEがあり、LINEスタンプも当たり前の機能として使っています。そのため、今のLINEスタンプのままでは新鮮さが失われてしまうのではないかという危機感を持っていました。そこで、これまで試せていなかった新しい送信方法を提供することで、新しいコミュニケーション手段を創出したかったという背景があります。
スタンプの種類、スタンプの表現に加えて、新しい送信方法を提供し新たな会話のアウトプットを生み出したい
野田:
そこでまず、全社でアイデアを募集しました。今回の機能のように自分でスタンプを組み合わせたり、写真とスタンプを組み合わせたりしたいという意見も多くありました。チーム内にもスタンプのアイデアを気軽に投稿するSlackグループがあり、そこに投稿されていたアイデアも合わせて、今の10代に響くものはどれだろうと整理をしていきました。
野崎:
10代のユーザーは、スタンプの使い方がすごく柔軟なんですね。「これどう捉えたらいいの!?」と思うような無表情で文字も入っていないスタンプを、自分の自由度を利かせて、圧をかけたり、構ってほしいアピールとして使ったりなど、使い方が面白いんです。また、最近のスタンプのトレンドとして小さいサイズのスタンプが若年層では人気な傾向もあったので、サイズ感を自在に変えられるアレンジ機能はニーズがありそうだと思いました。
組み合わせたり、大小サイズを変えたりと自由度を高くすることで、すでにあるキャラクターのスタンプや、クリエイターズスタンプもこれまで以上に使ってもらえるのではという視点からも、とてもいいアイデアだと思いました。
野田:
私自身も、ワンタップで送れる手軽さがLINEスタンプの魅力だと思っていたので、それと比べると一手間増えるこの機能を提供していいのかとずっと悩んでいました。ただ、10代のユーザーがより自由度をもって、自分だけの表現をしたい意向を持っているのは仮説としてもあったので、送信方法に手を加えることでより自由な感情表現ができるようになるんじゃないか、その新たな楽しさが面倒くささを上回ってくれるのではと考えました。
初期段階で試作モデルを作ってユーザーテストを実施したところ、ほとんどの10代のユーザーが「楽しい!」と熱中して使ってくれて、大きな後押しにもなりました。ユーザーの意見を反映しながら試行錯誤を続け、程よい楽しさと手軽さのバランスを考えて、今回の仕様にたどり着きました。
野田:
ある程度盛り上がってくれるはずとは思っていたんですが、まさかこんなにも話題になると思っていなかったので正直驚いています。特に日本では、この機能を使っている約40%が10代後半のユーザーでした。届けたいと思っていた層の方たちに楽しんでいただけてうれしいですね。
野崎:
予想を大きく超えてたくさんのユーザーに使っていただけて、とてもうれしいです。アレンジするにはひと手間かける必要があるので、どう転ぶのか若干の不安もありましたが、Xでトレンド入りしたり、神機能といってくださるユーザーもいたり、さまざまなメディアに取り上げていただいたりと、とてもポジティブな反響を得ることができました。
LINEスタンプはリリースから13年ほど経ちますが、当初から自分が持っていたLINEスタンプでアレンジを楽しんでくれているユーザーも多く、この13年の間に生まれたスタンプたちがあったからこそ、多くのユーザーにスタンプアレンジ機能を楽しんでもらえていると感じています。また、ユーザーにとってもこの機能をきっかけとして、新たにさまざまなLINEスタンプと出会う機会にもなったのではと思います。
野田:
一つのブームは、食べ物のスタンプですね。たとえば、好きなラーメンの具材を組み合わせてオリジナルのラーメンを作ったり、好きなアイスクリームとトッピングを組み合わせたりして楽しんでいる方も多いです。私も、今日こんなラーメン食べたいという組み合わせのスタンプを作って、LINEグループに送ったりしています。
野崎:
ほかにも、大喜利のように楽しんだり、イラストだけのスタンプとテキストスタンプを組み合わせたり、さまざまな方法で使っていただいています。みなさん使い方が本当に上手で、「こんな組み合わせもあったのか」と新しい発見をしながら拝見しています。LINEスタンプの公式Xでも面白い使い方をしているユーザーの投稿を紹介しているので、ぜひ見てみてください。
野崎:
日本でも多くの方に利用いただいていますが、実は台湾やタイでもものすごく盛り上がったんです。
台湾は日本と同じようにスタンプやキャラクターに愛着がある文化のため、この機能が受け入れられやすかったということと、台湾のインフルエンサーがInstagramでスタンプアレンジ機能を紹介してくださったことも利用促進につながりました。日本と同様に、食べ物のスタンプも人気で、「台湾ビュッフェ」というスタンプを使って自分だけのオリジナル弁当を作るという楽しみ方が流行っているようです。
タイでは通常、明確にメッセージを伝えられる文字があるスタンプが人気ですが、今回のスタンプアレンジ機能では文字がないスタンプ同士の組み合わせも人気でした。タイ料理を組み合わせるスタンプも人気で、今まであまり着目されなかった食べ物を組み合わせるスタンプが日本、台湾、タイと、違う国で同じように流行っているのはおもしろいですね。
これまでの新機能の多くは、ユーザーが新たにスタンプを購入する必要があったのですが、今回のスタンプアレンジ機能はすでに自分が持っているスタンプで楽しむことができます。こういった手軽さも各国で多くのユーザーに利用いただけている理由の一つだと考えています。
野田:
スタンプクリエイターの不安を軽減できる新機能にするには、どう調整するかをずっと悩んでいました。ユーザーにアレンジを楽しんでもらいたいと思うと同時に、クリエイターがこだわりをもって作ったLINEスタンプたちが、意図しない形で使われることへの懸念もあったからです。そこで、LINE Creators Marketから事前に新機能リリースの告知を行い、スタンプアレンジ機能を望まない場合には、自身のスタンプパッケージをアレンジの対象外に設定できる選択肢を提供しました。
そして、本格リリース1週間前にクリエイターズスタンプ以外のLINEスタンプを対象としてテストリリースし、クリエイターが制作意図と違うと感じたら本格リリース前に設定をオフにできるようにしました。クリエイターの意思を尊重したいと思っていたので、リリースの日程に関しても最後まで慎重に調整しました。
野崎:
どんなユーザーでも、説明を見なくても簡単にこの機能を使っていただけるような、シンプルでわかりやすい設計にすることが重要だと思っていました。そのため、私たちマーケティング側からも、積極的にUI・UXのリクエストを行いました。
たとえば、一度アレンジしたスタンプが履歴に自動保存される機能は、優先度をあげて検討しました。機能を使いたての頃は、新鮮さもあって楽しんでいただけると思うのですが、日常的に使ってもらうためには"楽さ"はとても大切だと思っています。操作が面倒くさいと感じてしまうと継続して利用していただけなくなるので、アレンジを楽しむと同時に操作の手間を減らすことも、初期段階から重視していました。
スタンプアレンジ機能の対象スタンプを長押ししたら出てくる、キャンバスの部分も最後まで調整しました。キャンバス内のスタンプの削除ボタンを配置する場所や対象ではないスタンプを押した時の挙動、プレビュー機能と間違えないようにキャンバスのサイズを大きくして差別化するなど、ユーザーテストを通じてユーザーの意見を聞きながら、細かく調整していきました。
野崎:
また、現在2,000万パッケージ以上のLINEスタンプがアレンジの対象となっていますが、まだ対象になっていないLINEスタンプもあります。ユーザーからするとどこまでが対象かわからないので、対象外のスタンプを長押しした場合には「このスタンプはスタンプアレンジ機能で利用できません」と表示がでるようにしたり、対象外のスタンプのタブ画像はグレーアウトにしたりと、ユーザーフレンドリーな設計にするために議論を重ねました。
野田:
今回、開発にあたってくれたエンジニアとデザイナーたちのプロフェッショナルな仕事が印象に残っています。というのも、今回の機能は表面的にはシンプルに見えても、実際にはLINEという大きなアプリに新しい送信機能を加える、とても挑戦的なプロジェクトだったからです。先にお伝えした履歴機能やキャンバスの削除ボタンの配置についても、何度もやりとりを繰り返し、開発・デザイン面で細かな調整をしてもらいました。リリースまでにさまざまな課題がありましたが、国内外のエンジニア、デザイナーが多くの提案をしてくれ、さらにはテストチームがこれらの提案を徹底的に検証してくれました。何度も検証を重ね、最終的にすべての課題を解決してくれて、心から感謝しています。
また、このプロジェクトが走り始めた時、自分の中でもこの機能はユーザーが手間をかけてまで使いたくなるのか、どうやったら使ってもらえるのか、価値はあるのかと悶々としていました。そのタイミングでちょうど新卒で配属されたばかりのメンバーがプロジェクトにジョインしたので、この機能についてどう思うかを聞いてみたんです。すると「私は絶対これ使って送ります!」と即答してくれて。LINEスタンプの仕事を長くやっていると、ついリスクのことを先に考えがちなのですが、その新卒のメンバーは一番フレッシュな視点と最も届けたいユーザーに近い感覚を持っていたので、その一言が自信になりましたね。社内調整が大変なときや、リリース前に不安になったときも、その一言を思い出して最後までプロジェクトをやりぬくことができました。
野崎:
LINEアプリ、LINEスタンプはリリースから13年ほど経ちますが、コミュニケーションの形やトレンドは時代と共に変わっていくものだと思います。最近では従来のテキストやスタンプ中心のコミュニケーションだけでなく、それに加えてリアクション機能を積極的に活用するユーザーも増えてきました。これからも、LINEスタンプとしてのアップデートだけでなく、リアクション機能や全く新しいプロダクトの可能性も探りながら、「今、ユーザーが必要としているコミュニケーションはどういった形なのか」を第一に考え、よりコミュニケーションが広がる世界を作っていきたいと思っています。
野田:
人が人に何かを伝える、感情表現するということは、これからもずっと変わらないことだと思います。それが今までにない方法でできると、すごくわくわくするし、もっとコミュニケーションが楽しくなりますよね。今回のスタンプアレンジ機能をこんなにもみなさんに受け入れていただいたことで、さらにLINEスタンプの新しい道が開かれたなと思っています。もっともっとみなさんのコミュニケーションを豊かにできるよう、デジタルの力を通じて、試行錯誤しながら新しい機能や方法を提供し続けていきたいと強く思っています。スタンプアレンジ機能もアップデートを続けていく予定なので、ぜひ期待していただけるとうれしいです。
取材日:2024年6月7日
※本記事の内容は取材日時点のものです