「LINE Pay」は台湾でなぜ人気? No.1までの歩みと上場に向けての挑戦

リーダーズ
スーツの男性が座り、「台湾のLINE Pay No.1までの歩みと上場への挑戦」とのテキスト。

台湾でNo.1のモバイル決済サービス(※1)「LINE Pay」を提供するLINEヤフーのグループ会社LINE Pay Taiwan Limitedが、2024年1月26日に台湾のEmerging Stock Board(ESB ※2)に上場しました。これから、台湾の証券取引所への上場に向けてさらに事業を拡大させていきます。
台湾でLINE Payはどのように利用され、またなぜ台湾No.1のモバイル決済サービスにまで成長できたのか。LINE Pay Taiwanの会長兼CEO Jeong Woong-Juに、LINE Pay Taiwanの事業の歩みと台湾でのサービスの特徴、これからの証券取引所上場に向けての意気込みを聞きました。

※1 台湾の金融商品比較プラットフォーム「Money101」の2023年9月の調査による。
※2 台湾の証券取引所である台湾証券取引所もしくは台北証券取引所に上場する前の企業の株式を扱う市場のことで、企業の透明性や知名度を高め、将来の成長に向け準備を整える場。ESBでの6カ月間の取引後、企業は台湾証券取引所または台北証券取引所への上場申請をする資格を得ることができる。

スーツを着たメガネの男性が微笑んでいる。
Jeong Woong-Ju (ジョン・ウンジュ)
LINE Pay Taiwan Limited 会長兼CEO
韓国の延世大学でコンピュータ工学の修士号を取得。2013年に旧LINE(株)に入社。LINE Pay(株)のCOO(Chief Operating Officer)としてグローバル業務を担当していた当時、台湾のLINE Payサービスが他国に比べ業績不振であったことから、事業改善を目指しLINE Pay Taiwanを主導。2016年から会長を務めている。LINE Financial Corp、LINE Pay Plus、LINE Bank Taiwan Limitedなどの取締役も兼任する。

台湾人口の2人に1人が使う「LINE Pay」

――台湾でのLINE Payの利用状況を教えてください。

2024年4月現在、台湾でLINE Payは飲食店やショッピングモール、娯楽施設、交通機関など、52万以上の場所で使用することができ、加盟店カバー率、市場シェア、マインドシェアにおいて台湾でNo.1のモバイル決済サービスとなっています。

2023年時点で、台湾人口の2人に1人に相当する1,200万人以上のユーザーにLINE Payを利用いただいています。取引件数は9.2億件を超え、0.03秒ごとにLINE Payでの取引が行われています。取引金額においても前年比26.6%増の6,810億台湾ドル(約3.2兆円 ※3)以上に達し、毎年成長を続けています。

また、LINE Payで決済を行うと還元される「LINEポイント」も人気です。2023年には72億台湾ドル(約338億円 ※3)相当分のポイントを発行し、その利用率は100%と、大きな結果を残しました。

進む台湾のキャッシュレス市場

――台湾のキャッシュレス市場も成長しているのでしょうか。

2017年、台湾政府は「2025年までにキャッシュレス決済の普及率を90%にする」という目標を発表し、オフライン・オンラインでのキャッシュレス決済を活性化させる強い意志を示しました。決済場所の拡大はもちろん、中小企業にキャッシュレス決済の導入を促すため、統一インボイス(※4)の利用免除や、通常5%かかる営業税(※5)を1%に減免するなど、国を挙げて積極的な政策が推進されています。

台湾の金融監督管理委員会(日本の金融庁にあたる)によると、台湾における2023年末までのクレジットカードやプリペイドカードなどを含むキャッシュレス決済の取引件数は約69.12億件、取引金額は前年比17.8%増の約7.27兆台湾ドル(約34.2兆円 ※3)となり、市場自体も急速に成長している状況です。

※3 取材日の為替レートで計算。
※4 台湾で事業を行う際に発行しなければならない政府指定のインボイス。台湾で「統一發票」と呼ばれる。
※5 VAT(Value Added Tax) と呼ばれる日本の消費税にあたる付加価値税。

台湾でLINE PayがNo.1決済サービスとして支持される理由

――台湾のキャッシュレス市場も成長している中で、どのようにLINE Payは台湾No.1のサービスになることができたのでしょうか。

2015年にサービスをリリースしてから、台湾でLINE Payのエコシステムを構築するために、様々な分野に力を入れてきました。最大のポイントとなったのが、台湾の大手銀行と共同で作ったクレジットカードです。

2016年に、台湾の大手銀行の一つである「中国信託商業銀行」と提携し、「LINE Pay Co-brandカード」を発行しました。ユーザーはLINE Payでの支払いのたびに、LINEポイントを即座に受け取ることができ、1ポイント=1台湾ドル相当として次回の決済で利用することができます。発行当時は、国内の利用でも3%のポイント還元率を提供しており、同じような高還元のカードが他になかったため、大きな市場反応がありました。また、LINE FRIENDSキャラクターをカードのデザインに使用するなど、積極的なマーケティングキャンペーンを通じて着実に発行量を伸ばし、2023年には発行枚数540万枚を達成。台湾で最も発行枚数が多いカードとなりました。

このカードの成功に続いて、2019年には「台北富邦銀行」、「聯邦銀行」とも提携しクレジットカードを発行しました。2023年末には、これら3つのカードの発行枚数は合計で700万枚を超え、日々の決済によってLINEポイントが生み出され、LINE Payのエコシステムに重要な役割を果たしています。2024年の4月からは、さらなるエコシステム拡大に向け、新たに「永豊銀行」と提携しクレジットカードの発行をスタートさせました。

台湾の銀行と共同で作った4種類のクレジットカードが並んでいる。

<各カードの還元率(回数、金額の制限なし)>

  • LINE Pay Co-Brandカード:国内利用1%、海外利用2.8%、特定の店舗やブランドでの利用で最大17%
  • Jカード:国内利用1%、日本・韓国での利用3%、日本・韓国の特定の店舗やブランドでの利用で最大10%
  • Lai Dian カード:国内利用1.68%、海外利用2.68%、特定のレストランでの利用で最大10%
  • DAWAYカード:国内利用1%、海外利用2%、新規ユーザー最大3%

――マーケティングキャンペーンについて、詳しく教えてください。

LINE Payは「Everyday LINE Pay Day」というスローガンのもと、年600件以上のマーケティングキャンペーンを行っています。ユーザーと加盟店に「毎日特典を提供する」という目標を掲げて、日々パートナー企業とキャンペーンを実施してユーザーにLINEポイントを還元し、ポイント利用を促しています。

――年600件ものキャンペーンを実施とはすごいですね。1日2件のキャンペーンを実施している計算になりますが、どのように企画、実行を行なったのでしょうか?

最初から年600件以上のキャンペーンを実施できていたわけではありません。限られた予算と資源でキャンペーンを頻繁に実施するには、LINE Pay単独での運営では困難でした。そこで、まずLINE Payの広いユーザーベースを活用してプロモーションを行いたい企業を集めることに焦点を当てました。
予算やタイミング、ターゲットなど、パートナー企業のニーズに合わせたキャンペーンを計画し、実施後には結果分析を細かく行い、より良い結果を出すための改善策を提案するサイクルを数年に渡って繰り返してきました。こうした取り組みを通じてパートナー企業からの信頼を獲得し、2022年には600件以上のキャンペーンを実施することができました。以降、キャンペーンの数は年々増えています。

他の決済事業者の取引量が大きく落ち込んだ新型コロナウイルスの流行期間中でも、LINE Payはパートナー企業とのキャンペーンで取引量を増やし、さらに多くの企業と協力関係を築くことができました。

LINE Payに関連する広告が9つ並んでいる。各広告に異なるデザインと情報。

これまでのマーケティングキャンペーンの例

ひとつひとつの努力を積み重ねて得たユーザー基盤

――他にはどのようなサービスを提供しているのでしょうか?

ユーザーには、LINE Payを通じて保険料の支払いやクレジットカード、ローン、保険の検索・申し込みがワンストップでできる「ファイナンシャルプラットフォーム」や、加盟店の情報と最新の特典が地図上で確認でき、クーポンをダウンロードできる「トレジャーマップ」などを提供し、ユーザーの日々の生活が便利になるようサポートしています。

加盟店には「LINE Payマーケティングプラットフォーム」、「Good Partnerアプリ」といった、中小企業の加盟店や新規加盟店がLINE Payを利用したスムーズかつ効果的なマーケティング活動ができる環境を提供しています。

――ユーザー、加盟店の双方にメリットを提供するさまざまなサービスを通じて、LINE PayはNo.1のサービスになることができたのですね。

もともと台湾でも多くの人が「LINE」を使っており、新たにアプリをダウンロードすることなくLINE Payにアクセスできるという点で、LINE Payの参入ハードルが低かったというのも事実ではあります。ですが、決済サービスとしてのLINE Payを利用するには、ユーザーが自身の銀行やカード情報を登録し、決済を行う必要があります。このステップはユーザーにとっては大きなハードルで、LINE Payに十分な利便性やメリットを感じないと、このステップに進む人はなかなかいません。

いまお伝えしてきたように、銀行との提携カードの発行やパートナー企業とのキャンペーン、そのほかユーザーにとって便利でメリットのあるサービスを提供してきたという、ひとつひとつの努力が積み重なって、現在の1,200万人のユーザー基盤を築き上げることができたと思っています。

LINE Payエコシステムの図。ユーザー、パートナー、サービスの関係を示す。

台湾独自の「3段バーコード」と人気の「スマートウォッチ機能」

――LINE Payの仕様や使われ方において、台湾ならではの特徴的なものはありますか?

台湾のLINE Payでは、ユーザーの使い方に合わせて決済画面を使い分けることができます。中でも特徴的なのは、コンビニやコーヒーショップなどのメンバーシップバーコード、請求書支払い用バーコード、決済用バーコードの3つを1ページに表示させる3段バーコードです。初期のころは、ユーザーは決済のたびに別アプリでメンバーシップカードを提示してその後にLINE Payのバーコードを提示するといった、画面を使い分ける必要があり、ユーザーからの不便さを訴える声が多くありました。そこで、ユーザーからのバーコードを1つにまとめる改善案をもとに、3段バーコードの開発が行われました。

初めはUI・UXの観点から、3つのバーコードをまとめて表示させることに対して社内からの反発もありましたが、何よりも日々サービスを利用しているユーザーの声が大事だと考え、実現に至りました。今ではこの3段バーコードの仕様は多くのユーザーから好評を得ています。メンバーシップカードに関しては、ユーザーがLINE Pay以外の決済手段を使った場合でもLINE Payのバーコードを利用することが可能で、とても便利だという声をいただいています。

LINE Pay Taiwanでは日頃からユーザーの声を大切にしていて、毎週ユーザーの声をレビューする会議を行っています。このようにユーザーの声を受けて市場のニーズに合った改善を行い、それがよい評価を得た時はとても嬉しく思いますし、これからも大事にしていきたいと思っています。

LINE Payアプリの4種類の決済画面が表示されている。
  • 高速モード:直近に使用したバーコードが自動で表示される。
  • 標準モード:左右にスライドして簡単にカードやバーコードの切り替え、その他の設定が可能。
  • オールインワンモード:1ページに3つのバーコードが表示される。よく使うバーコードをメインに設定が可能。
  • フルスクリーンバーコード:バーコードをクリックすると拡大される。スライドさせてバーコードの切り替えが可能。

また、2023年6月にリリースした「スマートウォッチ機能」は、特に台湾の大学生や若いユーザーから歓迎されました。若いユーザーはおしゃれでかっこよく見えることを好み、他の人とは違うユニークなスタイルを求める傾向があります。台湾ではApple Watchの人気も高く、Apple Watchで決済ができることが魅力的だったようです。また、台湾では多くの人たちがバイクを日常的に運転しているため、携帯を取り出すことなく、スマートウォッチだけでガソリンの支払いができる便利さも評価されています。

スマートウォッチを使って飲み物、運転、買い物をする3人の手元。

台湾の証券取引所上場に向けての挑戦

――これからの証券取引所への上場に向けて意気込みを教えてください。

私たちLINE Pay Taiwanは今後、台湾の証券取引所への正式上場を目標としています。一方で、これまでLINE Pay Taiwanはキャッシュレス市場の中で唯一黒字成長を続けてきたため、これ以上の成長は難しいのではないかという疑問の声もあります。今年は私たちにとって挑戦の年になりますが、市場の懸念を払拭し、より強い信頼をパートナー企業、ユーザーと築いてサービスを成長させることで、証券取引所への上場を成功させたいと思っています。

この成功のためには、より多くの決済場所を提供し、ユーザーと加盟店に魅力的なオファーを増やしていきます。また、インバウンド・アウトバウンド事業にも注力していきます。ユーザーの台湾国内外でのより良い決済体験のため、韓国最大手のカード会社や、免税店との提携を進めている最中です。
そして随時ユーザーの生活を分析して声を拾い、サービス改善を通じてより良い生活体験を提供していきたいと考えています。

そして、証券取引所上場後には、LINE Pay Taiwanはこれまでの10年間で築いたユーザーとのエコシステムを基盤に、次の10年で加盟店、特に中小企業加盟店とのエコシステムを構築することを目標としています。このユーザーと加盟店の両方のエコシステムが合わさる時、本当の意味でのLINE Payのエコシステムが完成すると思っています。LINE Payがユーザーと加盟店の一部となり、ユーザーの生活が便利になり加盟店のビジネスも向上すると、LINE Pay自体もさらに成長するという持続可能なシステムの構築を目指したいと思っています。

LINE PayのTシャツを着た4人が、巨大なクマのぬいぐるみの前でポーズ。

写真左からLINE Pay Taiwan会長兼CEO ジョン、上級副社長セレステ、グロリア、執行役副社長ハリス

LINE Payの成長を示すタイムライン図。2015年から2026年までの事業展開。

LINE Pay Taiwanのこれまでの歩みとこれからのビジョン

取材日:2024年3月14日
※本記事の内容は取材日時点のものです

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