もし、あなたの代わりに予定を調整し、情報を集め、必要な行動まで進めてくれる存在がいたら──。
LINEヤフーは4月20日、そんな体験を実現するAIエージェント「Agent i(エージェント アイ)」を発表しました。構想として掲げている「全サービスのAgent化」が、いよいよ具体的なかたちとして動き出します。
検索して比較する、判断するなど、これまで人が担ってきたプロセスや手間をAIが引き受けることで、私たちの行動は大きく変化することになるでしょう。
日常の中で自然に使われ、ユーザーに寄り添いながら行動を支えるAIへ。
本記事では、当日発表された内容をお届けします。
発表会では、まずCPOの慎が登壇し、AIの進化と今回の取り組みの背景について説明しました。
慎はまず、近年の生成AIの進化について、「数年前は、質問に答える「対話型」が主流でしたが、その後、人の作業を支援する伴走型(Copilot)へと進化。
さらに現在は、ユーザーの行動そのものを代わりに実行するエージェントへと発展している」と語りました。
特に産業分野では、その活用が急速に広がっています。カスタマーサポートの自動化や、財務・経理・法務といった定型業務の効率化など、さまざまな領域で成果が出ているといいます。
中でも顕著なのが開発分野です。コーディング領域ではAIによる支援が進み、生産性や効率が大きく向上。さらにセキュリティ分野でも、これまで数週間から1カ月かかっていた作業が、1日、場合によっては数時間で完了するケースも報告されています。
一方で、こうした進化に対して、LINEヤフーはある課題意識を持っていると慎は指摘しました。
それは、これほどの成果を上げている生成AIが、日常生活では十分に活用されていないという点です。
その背景には、「何をどのように質問すればいいのかわからない」といった使い方のハードルもあるといいます。
そのため、日本では、日常的に生成AIを利用している人は1~2割程度にとどまっており、その多くも「質問して答えを得る」使い方に限られています。エージェントレベルの活用となると、さらに利用は限定的です。
こうしたギャップに対して、LINEヤフーが掲げたのが「毎日のそばに、だれでも使えるAIを。」というコンセプトです。
慎は、「1億人のユーザーにとって、日常の中で自然に使われるAIを実現したい」と語り、その具体的な形として、新たなAIエージェント「Agent i」を発表しました。
「Agent i」の「i」には、InformationやInsightといった意味に加え、ユーザーに寄り添う存在でありたい、という想いも込められています。
では、なぜLINEヤフーがこのエージェント体験を多くのユーザーに届けられるのでしょうか。
慎は、その理由として以下3つのポイントを挙げました。
1つ目は、ユーザーとの接点です。
新しいサービスを普及させるうえで、新たな習慣を生み出すことは容易ではありません。一方で、LINEヤフーはすでに約1億人のユーザーに日常的に利用されています。
そのため、まったく新しい使い方を求めるのではなく、LINEやYahoo! JAPANといった既存サービスの延長線上でAIを活用できる点が強みです。
2つ目は、サービスの幅広さです。
日常に寄り添うためには、金融、EC、決済、ニュースなど、さまざまな領域を横断した情報が必要になります。
LINEヤフーは100以上のサービスを展開しており、それらを組み合わせることで、より実用的な体験を提供できます。
3つ目は、オンラインとオフラインをつなぐ基盤です。
単なる検索や提案にとどまらず、予約や問い合わせ、購入といった行動までつなげられる点が特徴です。
LINEヤフーは100万以上の企業・店舗とつながっており、ユーザーの目的達成まで一貫して支援できる環境を備えています。
こうした基盤を活かし、Agent i はまず国内1億人のユーザーに向けて、日常生活のあらゆる場面に寄り添うサービスを提供していきます。これまではユーザーが「調べて判断していた」負担を、AIが引き受けるようになるわけです。
さらに、ビジネス領域においても、生成AIによる効率化や生産性向上に貢献していきます。100万社以上の顧客基盤を活かし、「Agent i for Business」として、企業・店舗向けのエージェントサービスの展開も進めていきます。
続いて、上級執行役員 AI Agent統括SBUリードの葭沢(あしざわ)が登壇し、ユーザー向けの体験について説明しました。
葭沢は、「毎日のそばに、だれでも使えるAIを」というコンセプトのもと、日常生活の中で誰もが簡単にAIエージェントを利用できる体験を目指すと語ります。
Agent i の特徴として挙げられたのは、「使いやすさ」「正確な情報と最適な提案」「実行力」の3つです。
まず「使いやすさ」の面では、複雑なプロンプトや専門知識を必要とせず、直感的に操作できる点が特徴です。Yahoo! JAPANやLINEといった日常的に使われているサービスから、そのまま呼び出して利用できます。
次に「正確な情報と最適な提案」。100を超えるサービスと、100万を超える企業・店舗との連携により、幅広いデータをもとにした提案が可能になります。
そして3つ目が「実行力」です。Agent i は、複数かつ複雑なタスクを管理し、ユーザーの代わりに実行していきます。
さらに、複数のタスクをまとめて依頼し、並行して進められる点も特徴です。たとえば、旅行の計画や買い物、投資といった異なるタスクを同時に進行しながら、必要なタイミングで情報を届けます。
Yahoo! JAPANのホーム画面では、検索窓の横にあるアイコンをタップするだけでAgent i が起動
ここから、より専門的な領域別のエージェントが紹介されました。まずはファイナンスのエージェントです。
新NISAの普及などを背景に個人投資家が増える一方で、相場の動きや背景を理解するのは簡単ではありません。また、情報が多すぎて、何を見ればよいのかわからないという方も少なくないはずです。
ファイナンスエージェントは、そうした情報をユーザーの代わりに収集・分析し、投資判断を支援します。
相場の動きは、金利や地政学リスクなど複数の要因が複雑に絡み合っています。これを「マクロ」「ストーリー」「テーマ」の3つの視点で整理することで、何が起きているのか、そしてそれがどのような流れにつながっているのかをわかりやすく可視化します。
さらに、その流れがどの業界やテーマ、個別銘柄に影響しているのかまで整理されるため、難しい情報を読み込まなくても、相場全体の構造を把握できるようになります。
個別銘柄についても、値動きの要因や業績のポイントをAIが整理し、初めてのユーザーでも理解しやすい形で提示します。
特徴的なのが「タスク」機能です。AIが銘柄ごとに最適なタスクを提案し、ユーザーの代わりに継続的に情報を監視します。たとえば、重要なイベントや開示情報をリアルタイムでチェックし、変化があれば通知します。
ユーザーが自ら情報を追い続ける必要がなく、重要な変化だけを受け取れるため、投資判断に必要な情報を「待つ」ことができる点も特徴です。
また、決算前のチェックポイントを整理したり、複雑な分析を補足したりと、判断材料そのものの質を高めていきます。また、AIと対話しながら、気になる観点で深掘りしていくことも可能。ユーザーの最終的な意思決定の質を高める存在として機能します。
続いて紹介されたのは、毎日の献立づくりを支えるレシピエージェントです。
毎日の献立を考えることは、多くの人にとって手間のかかる意思決定です。
レシピエージェントの使い方はシンプルで、冷蔵庫の中をスマートフォンで撮影するだけ。
鶏肉やサケ、トマト、レモンといった食材をAIが自動で認識し、それらをもとにレシピを提案します。
さらに、「15分で作りたい」といった条件を加えることで、短時間で調理できるメニューを即座に提示。
レシピの詳細では、手順はもちろん、味付けのアレンジにも対応しています。たとえば「ピリ辛にしたい」「トマトが苦手な子どもでも食べられるようにしたい」といった要望にも応じて、レシピが一瞬で作り替えられます。
また、外食先で食べた料理を自宅でも再現したいときには、その料理の写真をアップロードすることで、似たレシピを生成できます。
献立を考える手間を減らしながら、料理の楽しさも広げていくエージェントです。
最後に紹介されたのが、日程調整エージェントです。
例として挙げられたのが、LINEのトークルームで友人との予定を決めるシーン。
「そろそろ野球を見に行きたいよね」「いいね! 来月あたりどう?」
そんな会話から始まり、いざ日程を決めようとすると、やりとりが止まってしまう...。そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。
候補日を出し、全員の予定を確認し、必要に応じてリマインドする。
この体験を大きく変えるのが、日程調整エージェントです。
LINEのトーク画面からエージェントを呼び出し、「来月、東京でフェニックスの試合を観戦したい」といった内容を入力すると、AIが候補日をリサーチし、提案します。内容を確認して確定すると、そのままグループチャットに共有されます。
しかし、本当に大変なのはその後です。なかなか回答が集まらない...そんなときも、日程調整エージェントに調整をおまかせ。未回答のメンバーがいる場合は、締め切りの24時間前にリマインドを送信します。参加者は「AIにおまかせ」を選ぶことで、カレンダーをもとに参加できそうな候補日を提案してもらえます。
そして、調整の終盤で「あと一人だけ予定が合えば全員そろう」というときには、その相手に個別で調整の提案を行うことも可能です。
全員の予定がそろえば日程が確定し、トークルームに通知が届き、そこからカレンダーへの登録も行えます。
日程調整にかかる手間だけでなく、「返事を催促しづらい」といった気遣いのストレスまで減らし、もっと気軽に人を誘えるようにする。そんな体験を実現します。
葭沢は、今回紹介したファイナンス、レシピ、日程調整にとどまらず、Yahoo! JAPANやLINEの各サービスが、今後さらにエージェンティックに進化していくと説明しました。
2026年上期中には、20以上のエージェントを展開する予定で、今後もさまざまな領域に広げていきます。
また、LINE公式アカウント(OA)との連携も重要なポイントとして挙げました。
企業や店舗の公式な窓口とつながることで、予約や購入、その後の問い合わせやサポートまで、AIがユーザーの目的達成を一貫して支えていく。そうした体験の入り口としても位置づけられています。
続いて、コーポレートビジネスドメインCPOの二木(にき)が登壇し、企業・店舗向けの取り組みについて説明しました。
Agent i について「便利さだけでなく、どこか親しみを感じる存在に。日常の中で自然に使われるプロダクトを目指している」と語りました。
二木は、Agent i がもたらす変化を、ビジネスの視点から次のように語ります。
「すべてのビジネスの現場に、最高のAIプロフェッショナルを。」
接客やオペレーション、分析といった業務のあらゆる場面にAIが入り込み、現場を支える存在になることを目指しています。
その実現に向けて、LINEヤフーが提供するのが「Agent i for Business」。今回発表されたのは、次の2つのエージェントです。
・接客やサポートをAIが担う「LINE公式アカウントのAIモード」
・運用や分析などの業務を支援する「Agent i Biz」
LINE公式アカウントのAIモードには、いくつかの特徴があります。
まず大きなポイントが、ユーザーごとのパーソナライズです。これまでの購入履歴や予約履歴、過去のやりとりなどが引き継がれ、一人ひとりに合わせた接客が可能になります。
たとえば、「前回購入から1年が経過している」「いつものコースを提案する」「誕生日に合わせたクーポンを提示する」といったように、ユーザーごとに最適化されたコミュニケーションが実現できます。
2つ目の特徴が、リアルな接客を再現するインターフェースです。
音声や対話によって変化するUIにより、まるで店舗で接客を受けているかのような体験が提供されます。ブランドや店舗が本来伝えたかった接客のニュアンスや世界観を、そのままデジタル上で再現できる点も特徴です。
また、LINEアプリ内で完結する点も重要なポイントです。
別のアプリに遷移することなく、対話の流れの中で予約や購入まで完了できます。そして、AIモードは24時間365日、いつでもどこでも対応可能です。
続いて紹介されたのが、ビジネスの裏側を支える「Agent i Biz」です。
ECサイト運営やマーケティングにおいて、どのようなユーザーが来ているのか、どんな施策を打てば成果につながるのかといった分析を行い、最適な施策を提案します。
さらに、分析から配信設定までを一貫して実行でき、これまで複数のツールで行っていた作業を、AIとの対話だけで完結できるようになります。
続いて、二木はビジネス現場における課題にも言及しました。
店舗運営などの現場では、立ち仕事が中心でパソコンを開く時間が取れないといったケースも少なくありません。
「もっと業務を効率化したいが、ツールを使いこなす余裕がない」といった声も多く寄せられているといいます。
Agent i Bizは、LINE上からも使うことができるため、日常的なコミュニケーションの延長でビジネス運用ができる点も特徴です。
まるで一人ひとりに「AI参謀」がいるような形で、日々の業務を支援します。
最後に再び登壇した慎は、今後の展望について語りました。
「生成AIは急速に進化している一方で、日常生活におけるエージェントの活用はまだ限定的です。
私たちは1億人すべてのユーザーが日常の中で使いこなせる世界を目指します」
その実現に向けて、単に「誰でも使える」だけでなく、「誰もが作れる」エージェントの環境も重要だといいます。ユーザーや企業がそれぞれの目的に応じたエージェントを生み出し、活用できる世界の構築を見据えています。
今後のロードマップとしては、まず直近で複数のサービスを順次公開、さらに2026年上期中には20以上のエージェントを段階的に展開していく予定です。その先には、数千、数万規模のエージェントが生まれる環境を目指します。
慎は最後に、
「LINEヤフーは、AIカンパニーとして日本のAI体験を変えていく」
と述べ、発表を締めくくりました。
これまでのように「調べる」「比較する」といった行動をユーザーが担うのではなく、AIがそのプロセスを引き受け、次の行動まで導いていく。
LINEヤフーが目指すのは、そうした「行動までつながる体験」です。
予定を調整することも、献立を考えることも...。そうした日常の一つひとつが、AIによって少しずつ変わっていくのかもしれません。
取材日:2026年4月20日
編集:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:日比谷 好信
※本記事の内容は取材日時点のものです
