今回のプロジェクトで構築したのは、古材の情報を一元管理し、関係者がリアルタイムに共有できる仕組みです。
古材は、解体された家ごとに種類や状態が異なり、千点以上あるため保管場所も複数に分かれています。また、活用を考える人は、能登の現場だけでなく、東京など離れた場所にいることも多いです。そのため、「どこに何があるのか」「どの状態なのか」を把握することが難しいという課題がありました。
地震の被害を受けた建物などから取り出された古材。その多くはそのまま廃棄されてしまっていました。
能登で始まった「のと古材レスキュープロジェクト(※1)」は、解体される家屋から柱や梁(はり)、建具などを取り出し、次の使い手へとつなげていく取り組みです。ですが、扱う点数の増加や保管場所の分散など、現場には新たな課題も生まれていました。
そこで、古材の管理システムを開発するプロボノとして手を挙げたのが、「プロボ能登」として活動する(※2)NECとLINEヤフーの社員です。NECは日本企業の中でも早い段階からプロボノ活動に取り組んでいる企業(※3)でもあります。
異なる企業のメンバーがどのようにチームをつくり「正解」のない課題に向き合ったのでしょうか。企業の垣根を越えて挑んだ試行錯誤を、このプロジェクトに関わった4人に聞きました。
※1 のと古材レスキュープロジェクト:
解体される家屋から柱や梁、建具などを取り出し、記録・保管しながら次の使い手へとつなげていく活動
※2 プロボ能登:
能登官民連携復興センターとLINEヤフーが共同事務局となり、取り組みに賛同いただける企業とともに行う企業プロボノによる復興支援活動。その第一弾プロジェクトとして、NECとLINEヤフーの有志社員が能登の課題解決に取り組んだ
※3 NECプロボノ倶楽部:
2010年に国内企業として初めてプロボノを開始し、2020年には社内有志による「NECプロボノ倶楽部」を発足。2024年度末までに社員2,013名が活動に参加。現在、約800人の社員で構成されている。テーマごとにTeamsのチャンネルがあり、それぞれの活動の様子や現地での写真を見ることが可能





今回のプロジェクトで構築したのは、古材の情報を一元管理し、関係者がリアルタイムに共有できる仕組みです。
古材は、解体された家ごとに種類や状態が異なり、千点以上あるため保管場所も複数に分かれています。また、活用を考える人は、能登の現場だけでなく、東京など離れた場所にいることも多いです。そのため、「どこに何があるのか」「どの状態なのか」を把握することが難しいという課題がありました。

今回のシステムでは、古材の品名やサイズ、材質や保管場所、状態(クリーニング前/後など)といった情報を整理し、誰でもどこでも確認できるようにしています。
倉庫の中でも使えるようスマートフォンでの操作を前提にしたり、全体の古材状況を一目で把握して今後の方向性を考えられるダッシュボード画面を作ったり、使いやすさも重視しました。

最初から「この人がこれをやる」ときっちり決めていたわけではなくて。進めていく中で、それぞれの得意なことややりたいことを見ながら、自然と役割ができていった感じです。
最初はみなさんが何を得意としているのかわからないので、「この方はこのあたりが得意そうだな」と予想したり、ご本人に「何がやりたいですか?」と聞いたりしながら、役割を決めていきました。
基本的にみなさん「能登のために何かしたい」という思いで参加されているので、その気持ちを尊重したいと思い、できるだけ全員が主体的に関われるような役割分担を意識しました。

はい。何かを決めるときや整理が必要なときは蘆田さんがすぐにフレームワーク(整理の型)を出してくださって。「じゃあここを埋めていきましょう」と進めていただけたので、対面でなくても同じ目線で整理できたのがすごく良かったです。
もしあのフレームワークがなかったら、何から手をつけるべきかわからず、もっと時間がかかっていたと思います。とても勉強になりました。

初めてのプロジェクトだったので、次にも生かせるアウトプットを残したいと思っていました。
スケジュールや目標設定のフォーマットなどは、ゼロから作ったというよりは、社内で使っている企業変革のフレームワークをベースに応用しながら組み立てています。
今回使用されたフォーマットの一部

本業の進め方を生かした部分のほうが大きかったですね。ただ、プロボノで培った対応の柔軟性がとても重要だったと思っています。
会社での仕事は、たとえば「売り上げをどう上げるか」といった明確な目標があり、長期目標と短期目標を立てて進めていく、わりとしっかり決まったものだと思います。でも、プロボノ活動の現場ではみなさん日々の活動で精一杯ですし、走りながら色々なことをやってみて自分たちなりの人や社会への価値を生み出していくことも多いです。
なので、ビジネスと社会貢献の目線ややり方をどう合わせるか、というところは、これまでのプロボノの経験が生きた部分かなと思います。
レスキューされた古材や家具

私は現地で古材や倉庫も見たことがあるので、どうしても自分の中の前提で考えてしまいがちでした。でも、実際に作業される方は学生さんなど、初めての方も多いんですよね。
「古材をどう扱えばいいのか」分からない前提で見直す必要があるなと感じて。一度自分の知識をリセットして、「もし自分が初めて訪れたらどう感じるか」という目線で作りました。

今回作成したマニュアルは、解体される家具から古材を回収するところから倉庫に搬入するまでの一連の流れを対象に、特に倉庫内での作業をボランティアの方に行っていただくことを想定した内容になっています。
作成にあたっては、最初に必要な項目をすべて出して「どこまでを対象にするのか」を蘆田さんのフレームワークを使って全員で認識合わせしました。
まずは形にしようと思い生成AIも使って一気にアウトプットを出したんですが、そこに落とし穴があって。
見た目は整っていたんですが、のと復耕ラボさんの実態には合っていないマニュアルになってしまっていました。生成AIのアプトプットは、個別の背景が抜け落ちてしまうので、注意が必要だと感じました。
それに気づけたのは、蘆田さんと田川さんが実際に倉庫に足を運んで、現場の写真や状況を共有してくださったおかげでした。「実際はこうです」という指摘をいただいて、最後の段階で現場に合う形に修正できたと思います。
作成したマニュアルの一部

一番難しかったのは、先方がやりたいことをまとめることでした。
みなさんとても忙しくて、全員で集まって課題を整理したり、意見をすり合わせたりする機会があまりなかったんです。そのため、一人ひとりにお話を聞いて、「何をやりたいのか」をうかがって整理していく必要がありました。
ただ、「何がしたいか」を明確に言語化するのは本当に難しくて。「あれもやりたい、これもやりたい」とやりたいことが広がる中で、優先順位をつけるのが大変でした。

お話を聞いてから、「こういうことをやりたいのではないか」と私たちが言語化してみて、「これでどうですか?」と当てていく、という形で何度もヒアリングを重ねながら、少しずつ形にしていきました。
ビジネスであれば、売り上げやコストといった基準で優先順位などを判断できますが、今回はそうした指標がないので、なおさら難しくて...。要件を整理するだけでも、1カ月以上かかったと思います。

今回の要望は「倉庫の古材を管理するシステムが欲しい」でしたが、お話を聞いていくと、「倉庫をどう使いたいか」自体がまだ固まっていないということがわかりました。
また、のと復耕ラボ代表の方だけでなく、大工さんなど現場で活動されている方の考えやビジョンも大切にする必要がありました。

関係者の方たちに丁寧に話を聞いていく中で、それぞれの思いや考えを知ることができました。その上で、のと復耕ラボとして「本当に必要なものは何か」を理解していったことで、優先すべきポイントが見えて方向性が決まってからは、とてもスムーズに進んだと思います。

今回、画面設計を初めて担当しました。難しかったのは「何を基準に判断するか」でした。
普段の業務であれば、「売り上げを上げる」といった共通の目標がありますが、今回は「このシステムが現場で本当に使いやすいか」を常に考える必要がありました。
ボランティアの方は毎回同じ方ではなく、リテラシーもさまざまです。みなさんに実際に触ってもらいながら改善することが難しいなかで「誰にでもわかりやすい設計」をどうつくるかはかなり悩みました。

筑波さんが使っていた画面設計用のソフト(Figma)など、普段私たちが使っていないツールが多くて面白かったですね。
それに、やっぱり全体的にスピードが速いと感じました。特に、筑波さんの画面設計のスピードは印象的でした!

私も、お二人とも本当に作業が速いと思いました。山浦さんとマニュアルを作っていたときも、修正の話が出たら次の週にはもう形になっていて。
考え方や目線の違いにも刺激を受けました。LINEヤフーの方だけでなく、のと復耕ラボの方や現場の方とも接する中で、新しい視点をたくさん得られたと思います。

普段の業務では、ついつい、考えすぎたり迷ったりして時間がかかることもあります。
でも、今回は知見のない分野で迷う余地もなかったので、まずは50点でもいいから成果物を出してみんなに見てもらおう、というスタンスで取り組みました。
蘆田さんが毎週アクションプランを整理してくださって、「次にやること」が明確だったので、迷いが減って進めやすかったですね。

作業スピード自体は、普段の業務とそこまで変わらなかったかと思います。
ただ、今回は特に初めての領域だったので、最初から完璧を目指すのではなく、まず一度アウトプットしてみる。その上でフィードバックをもらいながら改善していく、という進め方だったので、結果としてスピード感も保てたのかなと思います。

普段の職場だと、同じ職種・同じ部署の人と働くことが多いと思いますが、プロボノではそれ以外の考え方や可能性に触れられるのが魅力だと思っています。
困っている方の役に立てるだけでなく、自分自身も新しいことに挑戦できる。プロボノはそれを自然に経験できる場でもありますね。

自分の興味があることや、少しでも知っていること、やってみたいと思うことがあれば、それがそのまま活かせるのがプロボノだと思います。
いきなりボランティアに参加するのはハードルが高いと感じる方もいると思いますが、プロボノなら会社とのつながりもあって安心して取り組めるのもいいところだと思います。「ちょっと気になる」という気持ちがあれば、ぜひ一歩踏み出してみてほしいです。

プロボノの活動を通じて、普段の業務ではなかなか触れることのない「ユーザーの生の声」に触れられることも大きいです。
私はバックオフィス部署にいるので、普段はユーザーと直接関わる機会が少ないんですが、プロボノではそういった声を聞くことができ、学びになりました。

そんなに難しく考えず、自分の好きなことや得意なことを生かせば、それだけで十分役に立つと思います。
「プロボノ」といってもさまざまな形があって、たとえば1時間だけ集まってアイデア出しをするだけでも、すごく喜んでいただけることもあります。自分の時間の使い方に合わせて関わり方を選べるのが、プロボノのいいところだと思います。
そして、普段の業務とは違う環境で新しいことに挑戦し、いろいろな経験を積める。そうした機会が日常の仕事とは違うかたちで得られるのも、プロボノの魅力です。
最後に、LINEヤフーのプロボノをリードしている田村に、今後の展望を聞きました。

取材日:2026年3月24日
文:LINEヤフーストーリー編集部
※本記事の内容は取材日時点のものです
