AI時代、組織は「半径5メートル」から進化する――人が動く組織のつくり方

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斉藤さんと小山のツーショット写真。左に立つ斉藤さんは、白い半袖シャツを着用し、丸眼鏡をかけて微笑んでいる。短く整えた髪で、両手を後ろに回した姿勢をしている。右に立つ小山は、黒いジャケットの下に青いTシャツを着用し、穏やかな表情で正面を向いている。背景は木目調の壁で、左下には「LINEヤフーストーリー」と黒い文字が配置されている。

AIの進化により、企業を取り巻く環境はかつてないスピードで変化しています。
これまでは「正しい戦略」を描き「それをいかに実行するか」が競争力の源泉でした。しかし今、その前提自体が揺らぎ始めています。

「正解が存在しない」「昨日考えた戦略がもう古い」そんな感覚を持ったことはないでしょうか? そして、現場からはこんな声も聞こえてきます。「正しいことは理解しているはずなのに、人が動かない」。企業はどのように組織を動かしていけばよいのでしょうか。

「組織開発とは、人が動きたくなる状態をつくること」そう話すのは、組織論・起業論を専門とする、ビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授/株式会社hint代表の斉藤さんです。
AI時代において、人や組織を動かすものは何なのでしょうか?
斉藤さんとLINEヤフーで組織開発に携わる小山が、AI時代における組織のあり方、そして人が自律的に動く組織をどうつくるのかについて語り合いました。

斉藤さんの写真
斉藤 徹(さいとうとおる)さん
ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部教授/株式会社hint 代表
日本IBMを経て起業し、30年以上にわたり経営の最前線で活動。組織論・起業論を専門とし「そして僕たちは、組織を進化させていく」「だから僕たちは、組織を変えていける」など著書多数。現在も経営の現場に立ちながら、人と組織の関係性を軸にした組織開発を実践・発信している。
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小山 壮士(こやまそうし)
メディアSBU メディア事業推進ディビジョン
2014年に旧ヤフーへ入社。現在はメディアサービス(ニュース、天気・災害、スポーツナビなど)を担う事業部で組織開発を担当。対話型イベントの企画・運営などを通じ、関係性の質向上とカルチャー醸成に取り組む。

変化の時代に「正しさ」だけでは機能しなくなる

――まず、AI時代において組織にどのような変化が起きているのでしょうか。

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今は典型的なVUCA(※)の時代で、特にAIによって変化のスピードが極端に速くなっています。
毎日のように新しい技術やサービスが出てきて、それがすぐにビジネスに影響を与える。経営者や管理職からすると、かなり強いプレッシャーの中にいると思います。
また、たとえば新しいAIツールが登場すると「これまで人がやっていた仕事が一気に不要になるのではないか」と感じる瞬間すらありませんか?

こういった変化の激しい状況になると、人はどうしても「イライラ」してしまうんです。焦りもあり、どうしても「早く結果を出さなければならない」という圧力が強まりやすい。
じっくり考える時間も対話をする余裕もなくなり、統制型の組織に寄っていく。でも頭では、自律型の組織が大事だとわかっている。このギャップが大きな問題になっています。

※VUCA:
「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の頭文字を取ったもの。「VUCA(ブーカ)時代」などと言われ、予測が困難で変化が激しい時代を指す言葉。

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現場でもまさに同じことが起きています。戦略や方針はもちろん重要ですが、それだけでは人は動かない。
そもそも「正しい戦略」自体が分からないという感覚がありますし、極端な話、昨日考えた戦略ももう遅い、ということも起きていますよね。

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だからこそ今は、正解を示すのではなく、学習し続けられる組織をつくることが重要なんです。
そして、その時に人を動かすのは「関係性の力」と「顔が見えること」

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私が強く感じているのが「人は正しさだけでは動かない」ということです。
同じ内容でも、「誰が言うか」で受け取り方は大きく変わります。この人だから信じられる、という関係性です。

実際に社内でも、事業部の方針を共有した際に「理解できたか」だけでなく、「納得できたか」「行動イメージが湧くか」といった観点を重視しています。理解だけでは人は動かないというのが、現場の実感です。

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人は「Why」がないと動けませんし、その納得を生むのが関係性です。
そしてその関係性は、日々の対話や相互理解の積み重ねによって育まれていきます。対面・オンラインを問わず、「顔が見えること」は、そのきっかけをつくる一つの有効な要素だと感じています。

関係性が良い状態では、成功事例だけでなく失敗や試行錯誤のプロセスも自然と共有されるようになります。情報が滞留せず、知見が組織の中で高速に循環していく。その結果、組織全体の学習スピードが上がり、「学習し続けられる組織」へと変わっていきます。
AI時代においては、この学習スピードそのものが競争力であり、生産性の源泉になります。

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今、弊社でも働き方が変化していく中で、「なぜ人は集まるのか」「どのように関係性を築くのか」を改めて考える機会が増えていると感じます。
実際にリモートワークが中心だと、「今日、AIとしか話していないな」という日も珍しくありません。仕事は進んでいるけど人と話していない、そんな感覚を持つこともありました。

もちろんAIは便利なんですが、使い方によっては自分の考えに寄り添いすぎる側面もあると感じています。世界で一番自分に過保護な存在というか。
だからこそ、AIとの会話だけでは得られない気づきや、価値観のぶつかり合いのようなものは、人と人との関係の中でしか生まれないのかもしれません。

木目調の壁を背景に、小山が話している様子。視線を横に向けながら口を開き、右手を前に出して指を広げるような仕草をしており、説明や対話をしている。
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リモートでも仕事はできますし、AIとも「対話」できる時代です。
ただ、人間同士の関係性を深めるという観点では、非言語情報の共有が決定的に重要です。
表情や間、ちょっとした反応。そういったものを通じて、人は相手を理解し、信頼していく。 逆に言えば、それらが限られる環境では、関係性を深めるためにより意識的な工夫が必要になると感じています。

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確かに、オンラインだけだと効率的ではある一方で、関係性が深まりにくいという感覚はあります。
だからこそリアルに集まる価値は「業務」ではなく「関係性」にあるのかもしれませんね。もちろん、重要なのは「関係性が生まれる」設計や工夫があるかどうかですが。

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そうですね。AI時代だからこそ、人と人が相互に影響し合う時間の価値はむしろ上がっていると思います。

木目調の壁を背景に、斉藤さんが話している様子。斉やや上を見上げるように視線を向けながら口を開き、穏やかな表情で話している。両手は胸の前で軽く組まれ、リラックスした姿勢で椅子に腰掛けている。

組織が変われば、人の能力は変わる

――個人ではなく組織が重要になるという点について、もう少し詳しく教えてください。

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組織の重要性を象徴する話として、井伏鱒二の短編小説「掛持ち」(1940年)に登場する内田喜十という人物のエピソードがあります。
この人物は、ある旅館では「ダメな番頭」と言われ、周囲から厳しく叱られ、萎縮してしまっていた。
一方で、別の旅館では打って変わって「非常に優秀な番頭」と評価され、周囲から信頼されて生き生きと働いていたんですが...。

実はこれ、同一人物なんです。

つまり、人の能力というのは固定されたものではなく「どんな場所(組織)にいるか」によって大きく変わるということです。
どれだけ優秀な人でも、周囲との関係性が悪かったり、心理的に安心できない環境にいれば、本来の力は発揮されない。逆に信頼関係があり、自分らしく振る舞える環境であれば、同じ人でも見違えるようにパフォーマンスが上がるんです。

これは決して特殊な例ではありません。私たち自身の経験を振り返ってみても「あのチームではすごく力を発揮できた」「あの環境ではなぜかうまくいかなかった」という感覚は、多くの人が持っているはずです。

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ありますよね。異動やチーム変更で、同じ人でもパフォーマンスが大きく変わるというのは、企業の中でもよく見られる現象だと思います。

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そうなんです。だからこそ「個人の能力をどう伸ばすか」だけでは不十分なんです。ヒューマンキャピタルを磨くだけでは限界がある。
重要なのは、その人の力が発揮される土壌をどうつくるか。つまり組織そのものをどうデザインするかという視点です。

特にAI時代になると、この傾向はさらに強まります。
個人が持っている知識やスキルの差は、AIによってある程度補完されていく。そのときに差を生むのは、「どんな環境で働いているか」「どんな関係性の中にいるか」なんです。

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個人の能力ではなく、「どんな組織にいるか」が成果を左右する時代になってきているということですね。

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まさにそうです。だから組織開発というのは、「人を変える仕事」ではなく、「人が力を発揮できる状態をつくる仕事」なんです。

室内で向かい合って話す斉藤さんと小山さんの様子。背景には木目調の壁とブラインドのある窓があり、落ち着いた室内空間で対話している。

AI時代は「カルチャー」が競争力になる

――では、その「組織の質」は、AI時代にどのような差を生むのでしょうか。

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AI時代になると、組織の差はこれまで以上に大きくなります。カルチャーが良いチームとそうでないチームでは、生産性に劇的な差が生まれるようになる。
これまでも、やる気のあるチームとそうでないチームで数倍の差が出ると言われてきましたが、AIが入ることでその差はさらに拡大します。
なぜかというと、「知識の扱い方」が変わるからです。本質はシンプルで、暗黙知が共有されるかどうかなんです。

カルチャーが良いチームでは、「これやってみたらうまくいった」「こうすると効率がいい」といった知見が自然と共有されていく。そしてそれをAIに蓄積することで、チーム全体の力として再利用できるようになる。

一方でカルチャーが良くない組織では、そうした知識は属人化し、閉じたままになります。共有されないだけでなく、そもそも出したくもない。結果として、AIという強力なツールがあっても、それを活かしきれない状態になるんです。

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すごく実感があります。AIを導入するだけでは、正直そこまで大きな差は生まれないんですよね。むしろどう使うか、そしてその使い方をどう共有するかで、チームごとの成果に明確な差が出てくる。

社内でも、うまく回っているチームは、個人で使うだけではなくて、知見を持ち寄って共有したり、横断的なコミュニティをつくったりしています。そういった動きがあるかどうかで、スピードもアウトプットも全く変わってきます。

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まさにそこです。AIは個人の能力差をある程度縮めますが、その分、組織の差を拡大させるんです。そして、その差を決定づけるのがカルチャーです。言い換えると「知識を出したくなる関係性」があるかどうか

いくら制度や仕組みを整えても、信頼関係がなければ人は本音を出さないし、ノウハウも共有しません。逆に、「このチームのためなら出したい」と思える関係性があれば、自然と知識は循環していきます。

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ここまでのお話を聞いていて思うのは、カルチャーって自然にできるものだと思われがちですが、実際には意図的に設計しないと生まれないですよね。

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その通りです。仕組みや制度は土台にはなりますが、最終的には人の心に火が灯るかどうかです。
だから組織開発の役割は、単に制度をつくることではなく「人が動きたくなる状態」をつくることなんです。
また、対話も同じです。対話そのものを目的にしてしまうと、お互いに話して終わりになってしまう。そこから共通の目的に向かって価値を生み出すための行動につながることが重要なんです。

AI時代においては、
・関係性があるから知識が出る
・知識が出るからAIに蓄積される
・蓄積されるから組織として進化する

この循環を回せるかどうかが、企業の競争力を大きく左右すると思います。

木目調の壁を背景に、斉藤さんと小山さんが向かい合って対話している。椅子に腰掛け、落ち着いた室内空間で真剣に意見を交わしている様子がうかがえる。

組織を変えるのは「半径5メートル」

――では実際に、組織を変えるには何から始めるべきでしょうか。

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組織を変えるときに重要なのは、「半径5メートル」です。

全体を一気に変えようとすると無理が出る。だからまずは自分の周囲から変える。
そこで成果が出れば、周りが関心を持ち、少しずつ広がっていく。現場から変えるなら、この方法が最も現実的です。

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小さな関係性の変化が、組織全体の変化につながっていくということですね。

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そうですね。そしてその関係性は、日々の対話や顔を合わせる場の中で育まれていくものです。
だからこそ「半径5メートル」と「顔が見える関係」は、これからの組織づくりの両輪になると思います。

AIの進化によって、私たちの働き方は大きく変わろうとしています。しかしその本質は、むしろシンプルになっているのかもしれません。

人は、正しさでは動かない。 人は、関係性によって動く。

そして、その関係性は、日々の対話と、顔が見える関係の中で育まれていきます。たとえば、まずは隣のメンバーに「最近うまくいったこと」を聞いてみる。少しだけ本音で話してみる。
テクノロジーと人、その両方を活かす組織をつくるために、組織としての取り組みと並行して、まずは身近な関係性から少しずつ変えてみる。
AIによって個人の力が補完されていく時代だからこそ、学び合える関係性そのものが、組織の力をより強くしていくのではないでしょうか。

取材日:2026年3月16日
文・撮影:安田 美紀 編集:LINEヤフーストーリー編集部
※本記事の内容は取材日時点のものです

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