最近はビジネスでもプライベートでも、AIを使わない日はなくなってきた......というくらいの感覚があります。先生の周囲はいかがですか?
生成AIがより身近になり、検索や相談、日々のちょっとした意思決定まで、AIと対話するシーンが広がっています。その一方で、「AIに悩みを相談してもいいのか」「頼りすぎてしまわないか」といった不安や戸惑いも生まれています。
今回、LINEヤフーストーリー編集部では、AI時代のメンタルケアをテーマに、精神科医・益田裕介先生に話をうかがいました。その様子を、普段からAIに悩みを相談しているライター・内藤瑠那さんに寄稿いただきました。


「今日こんなことがあってさ......どうしたらいいと思う?」
相談相手は、家族でも友人でも恋人でもなく、AI。
「結論から言うね。それーーー」
AIになぐさめの言葉をかけてもらって、気がつけば1時間が経過。なんとなくスッキリはするけれど、根本的な解決には至っていない気がする。それどころか、最近よく耳にする「AI依存」という言葉が頭をよぎり、得体の知れない怖さを感じることも。
「もっとAIを使っていい。むしろ、使い倒してください」
そう背中を押すのは、精神科医の益田裕介先生。YouTubeや著書でもAIとメンタルについて発信を続ける益田先生は、AIは使い方によってはメンタルケアに活用できるカウンセラーにもなると話します。

最近はビジネスでもプライベートでも、AIを使わない日はなくなってきた......というくらいの感覚があります。先生の周囲はいかがですか?

そうですね。自分のメンタル面を相談するという意味でもAIを活用されている方が増えていて。
僕の体感では、クリニックにいらっしゃる患者さんの7~8割が何かしらのAIでメンタルケアをしているようです。

7~8割!想像以上に多かったです。なんとなくですが、「AIを頼り過ぎると危険なんじゃ」という思いが脳裏にうかびます......。

いやいや、むしろ僕からすると「どんどん使って」という感じです。メンタルがしんどいときって、「なんだかよくわからないけど苦しい」という状態の人が多い。そこをAIと一緒に整理していくんです。
今、自分が悲しいのか、怒っているのか、それはなぜなのか。AIと壁打ちしながら、言語化を手伝ってもらうイメージですね。

なるほど、「一緒に落ちていく」というよりは「言語化」を手伝ってもらう。具体的なコツはありますか?

音声入力がおすすめです。
スマホに向かって独り言のように喋るだけで、ぐちゃぐちゃだった頭のなかをAIが綺麗に要約してくれる。不安の正体を明らかにすることで、淡々とこなすべき「作業」に変わります。
しゃべり終わったら、最後に「整理して」と一言伝えるだけでいいんです。
人間、問題が整理されていると落ち着くものなんですよ。

本題ですが、どうやったらAIをメンタルケアにうまく役立てられるでしょうか?私は愚痴を聞いてもらって、なぐさめてもらい満足してしまいがちですが......。

愚痴を聞いてもらうことは、医学用語で「支持的精神療法」といいますが、それだけでは解決には至りません。
次の段階として「認知行動療法」「弁証的行動療法」など、解決に直結する療法に移行していくことが大切です。

そんな専門的なことは、さすがにAIじゃできないですよね?

それが......できます!
まず「認知行動療法というのはどういう治療なのか教えてください」と聞くと、教えてくれる。その後に、「あなたが認知行動療法のカウンセラーになって、今から一緒にセルフワークをしたいです。誘導してください」と頼むんです。
本来は、複数の専門家を何年もかけてハシゴしなきゃいけない治療ではあるのですが、AIなら、あらゆる分野を網羅したカウンセラーに近い役割を担ってくれるんですよ。

なぐさめの、その先へ行くわけですね!

そう。なぐさめだけに終始すると、よくない方向に向かうこともあります。
AIで精神療法を学びながら、カウンセリングにも活用し、必要に応じて人間の治療者と会話しながら軌道修正していくのが理想的ですね。

「ここからは専門家を頼ったほうがいい」という線引きはありますか。

うつ症状がひどいかどうかが目安です。感情に支配されてコントロールが効かないときにAIと対話し続けると、ぐるぐる思考が深まってしまうリスクがあるので注意が必要です。

AIって、すごく寄り添ってくれますよね。「それ、めっちゃ正解!」って......。依存してしまうのが怖いという声も耳にします。

AIに依存するほど使いこなせる人っていうのは、臨床的にはそれほどいないんですよ。ゲームやお酒と違って、「四六時中それをやっていないと気が済まない」状態ではないでしょう?
依存症とは「やっていないと気が済まない」状況のことを指すのですが、AIは「ずっと会話してないと気が済まない」ほどの存在にはなっていないはずです。それに、AIをただの「甘やかしツール」にしないコツもあります。

ぜひ教えてください!

感情だけに焦点を当てるのではなく、「一旦なぐさめてもらった後に、その感情になった原因をちゃんと分けて、解明する」という使い方です。
仕事や家庭でいろいろな日常の問題があって、それが原因でストレスが今の感情を生んでいる。
この、100も1,000もある「元の問題」を可視化していくわけです。問題をロジカルツリーやマインドマップのように整理して、AIと一緒に「解決できる問題」と「共存していくしかない問題」を切り分けていく。

「元の問題」に焦点を当てると。

そうです。あとは、AIだけを信じすぎないこと。「私、よくAIに相談してるんだよね」と周囲の人に話しておきましょう。
もし使い方がおかしくなっていたら、周りが止めてくれますから。

内藤:相談も調べごとも「まずAI」になると、情報が偏ってしまうんじゃないかという不安があります。

それはたしかにそうかもしれない。でもそれはAIに限った話ではなくて、SNSでも自分の興味に偏った情報が流れてくるじゃない。どんどん、みんなが自分の分野だけで忙しくなって、他の分野まで知らないし、わかんなくなっちゃっている。

情報が多すぎるんですよね。

これから人類が扱う情報が爆発的に増えると、全ての人が何かしらの専門家になっていく。でも、覚えておける知識には限界があるから、分断は起きざるを得ないんですよ。これはもう止められないと思います。
人間の脳みそを考えてもらうとわかりやすいです。赤ちゃんの脳みそって神経細胞が繋がっているんだけど、思春期をきっかけに脳が爆発的に成長するとき、実は神経細胞のネットワークを切っちゃうんですよ。

増やすんじゃなくて、切るんですか?

そう。この「切る」ことを「プルーニング」といいます。切ることによって、逆に扱う情報量を増やせるんです。
道路もそうですよね。道が細かく碁盤の目になっているとかえって渋滞が起きやすいんですよ。細い道をあえて切ってしまって、太い幹線道路だけにしちゃった方が、車はスムーズに流れます。

なるほど。選択肢を絞ったほうが、流れが良くなるんですね。

そうそう。それと同じように、人間社会でもプルーニングが起きています。
生産性が上がるとか良い面もあるんだけど、悪い面では、他人のことが分からなくなる。そうすると「感情劣化」が起きて、相手を思いやれなくなっちゃうんだよね。

怖い。どうしたらいいんでしょう。

だからこそ、人との繋がりをどう意図的に作るかが重要になります。そこでAIを使うんです。
例えば、ぜんぜん知らない業界の人と会う前に、AIで下調べをしておく。それだけで会話が弾んで、繋がりが作りやすくなるでしょ? AIを使って、分断を乗り越えていくんです。

AIを逆に武器にするんですね。

AIがそこまで万能なら、人間の役割はどうなっていくんでしょうか?

AIって、「深く理解する」というのはまだまだ苦手なんですよ。
「初恋の人とは大体うまくいかないものだよね」みたいな、理屈じゃない感覚をAIは持っていません。表面的なアドバイスは得意でも、本質的なところはまだ説明が下手なんです。

なるほど。仕事でいえば、頼れるベテラン先輩のような役割はまだ人間にしかできない......みたいなことですか?

そうです。だから作業や予習復習は、AIという優秀な後輩に任せる。一番大事な本質の部分は人に聞くんです。
提案資料を持っていって、「ここだよ、ここなんだよ」とアドバイスをくれたら、「ここ」だけを残すようなイメージですね。

「ここ」かあ......!AIはなんでも知っていますが、勘所のようなものは持っていないんですね。

そうそう。何となくの「核」というか、職人技のようなものはAIは苦手です。
AIはあくまで単語の連想ゲームを作る装置であって、肉体や経験を持っていません。それに、実は記憶力もまだ弱い。メモリには限りがありますから。

前に相談したことを覚えてくれてなくて、たまに寂しくなります(笑)。

そもそも精神科の治療のゴールっていうのは、幸せになるということではなく、不安やトラウマに支配されなくなることなんです。
感情に支配されず、「仕方ないな」とある程度受け入れて、淡々とやっていくしかない。

淡々と。

AIから言われてもしっくりこないことも、おばあちゃんやおじいちゃんに言われたら納得できることってあるじゃないですか。
「AIにはそこはわからない」と理解しておくことで、逆算的にAIを道具として使いこなせるようになります。

それって、医師やカウンセラーの役割も変わってきますよね。

そうですね、病気の説明や情報の整理といった理屈の部分はAIに任せればいい。
その代わり、人間にしかできない仕事が明確になります。それは「体験を共有すること」と「不快な感情に耐えるのを支えること」です。

体験......ですか。

そう。音楽をライブ会場で聴きたいのと同じです。AIには肉体がないし、経験もない。だから、人生の本質的な「核」の部分は、人間に確認したくなる。

生身の人間同士でしか味わえない感情、ですね!

みんながAIを使うことによって、対話のベースは確実に上がりました。甘えすぎず、でも身構えすぎず。
AIを優秀な後輩にして、私たちはもっと人間らしい体験を面白がればいいんです。
「なんだか苦しい」という正体不明のモヤモヤを、AIと対話しながら可視化していく。
益田先生のお話から見えてきたのは、AIを優秀な後輩やカウンセラーとして頼りながら、最終的には人間にしか味わえない体験に立ち返る道筋でした。
もし環境の変化で心が疲れたら、まずはAIに「整理して」と伝えてみませんか? 可視化された悩みを一つひとつ作業に変えていけば、いつの間にか心が軽くなっているかもしれません。
AIをメンタルケアの心強い相棒にして、あなたの人生にしかない体験を大切にできますように。
取材日:2026年3月12日
文・取材/内藤 瑠那 企画・編集/ヒャクマンボルト
※本記事の内容は取材日時点のものです
