旧LINE・旧ヤフーの時代から、既存のパブリッククラウドの仕組みに頼るのではなく、プライベートクラウドの構築・活用に取り組んできた背景には、「自社のサービスを自分たちの手で支え続けたい」という思いがあります。
パフォーマンス、信頼性、コスト、セキュリティ――それらを高いレベルで両立させるための技術と思想が、LINEヤフーの多くのサービスを支えています。クラウド環境を管轄するサービスインフラCBUの冨川に、挑戦の軌跡について聞きました。

最大の理由は、「圧倒的なコストメリット」にあります。ただしそれは、単にコストを下げることが目的だったわけではありません。自分たちのサービスをどんな条件でも支え続けられる基盤を自分たちで設計・運用したい。その考え方の延長線上に、結果としてコストの最適化がありました。
私たちは膨大な数のサーバーやネットワーク機器を運用していますから、大量調達による単価の引き下げ効果、いわゆるスケールメリットが強烈に効いてくるのです。パブリッククラウドと比較しても、何倍ものコスト効率を生み出すことができます。インフラコストの最適化はビジネスの競争力に直結するため、ここを自社でコントロールできる点は大きな強みです。
また、コストと同じくらい重要なのが、「自分たちのサービスに最もフィットした道具」を自前で用意できることです。パブリッククラウドは汎用的で便利ですが、提供される機能すべてが必ずしもLINEヤフーのサービスにとって最適というわけではありません。自社でクラウドを持っていると、「本当に必要な機能」だけを研ぎ澄ませたり、独自のニーズに合わせた機能を実装したりすることが可能です。
統合プロジェクトが始まった際、選択肢は3つありました。旧LINEのインフラ基盤に寄せるか、旧ヤフーに寄せるか、あるいは新しい環境を作るかです。開発者の移行のしやすさやセキュリティ要件、そして既存環境が抱えていた課題などを総合的に検討した結果、最も合理的だったのが「Flava」という新しい環境の構築でした。既存のどちらかに寄せるのではなく、新生LINEヤフーとして最適な基盤を再定義することを選んだのです。
ただ、これは完全にゼロベースで作ったわけではありません。両社がこれまで培ってきた技術資産や運用ノウハウを土台に、統合後の組織に合わせてカスタマイズし、最適化したものが「Flava」です。いわば、両社の強みを受け継ぎながら、より合理的に進化させたプラットフォームと言えます。現在は、各種サービスや機能を段階的に「Flava」へと移行しています。
おっしゃる通り、難しいことだらけですね。中でも特に議論を重ね、現在も調整を続けているのが「セキュリティ思想の統合」と「ネットワーク設計」です。
旧LINEと旧ヤフーでは、セキュリティに対するアプローチやネットワークの構造が大きく異なっていました。たとえば旧LINEのインフラは、複数のプロダクトが単一の巨大なネットワークに混在する構成で、金融事業など高い機密性が求められる領域のみ物理的にセグメントを分けるという思想でした。一方、旧ヤフーでは情報の重要度に応じてネットワークの物理的な区分けを厳格に行う文化がありました。
新基盤である「Flava」では、両社の考え方を組み合わせ、セキュリティを「二重構造で守る」方式を採用しました。まず物理的なネットワークで大きく区切り、そのうえで仮想ネットワークでも細かなアクセス制御を行うことで、旧ヤフーが重視してきた堅牢(けんろう)性と、旧LINEが目指していた柔軟な制御を両立させる構成を目指しました。
ただし、この構成には課題もあります。仮想化のレイヤーを挟むため、通信に余分な処理時間が発生することです。たとえば「LINE」のメッセンジャー機能のように、リアルタイム性が高く遅延が許されないサービスにおいては、こうした余計な処理がボトルネックになりかねません。
そのため、現在は「Flava」のエンジニアたちと、各サービスのエンジニアたちがワンチームになり、徹底的なチューニングを行っています。物理レイヤーから仮想レイヤーまで、どこにボトルネックがあるのかを検証し、パフォーマンス要件を満たしつつセキュリティの高い環境を実現しようとしています。
「Flava」の開発体制で非常にユニークなのが、週に一度、プロジェクトに関わる100名以上のメンバーが全員参加する「協議体」のような場を設けていることです。
通常、これだけの人数がいると組織を細分化しがちですが、私たちはあえて全員が集まる場を作っています。そこに技術的な課題や設計案を持ち込むと、インフラの物理レイヤーを担当するメンバーから、プラットフォーム層の担当者、あるいはネットワークの専門家まで、多種多様なバックグラウンドを持つエンジニアからフィードバックが飛び交います。
自分たちのチームだけでは見落としていた視点をその場で得られるため、議論が非常に多層的で深いものになります。多様な技術者が集まり、互いの知見を補完し合いながらアイデアを洗練させていく。このプロセスがあるからこそ、手戻りを防ぎながらスピーディーに開発を進められているのだと思います。
一言で言えば「やりがいの塊」ですね。私たちの仕事は、データセンターの建設という最も物理的なレイヤーから始まります。そこからサーバー、ネットワーク、仮想化基盤、そしてその上で動く各事業のアプリケーションとの連携に至るまで、ITインフラのすべてを一気通貫で経験できます。
これほど広範囲かつ大規模な技術領域を、自分たちの手でコントロールできる環境はエンジニアにとって非常に稀少(きしょう)なものです。苦労は絶えませんが、それ以上に、エンジニアとしての面白さを強く感じられる環境です。
日本およびアジア数億人の生活を支える通信インフラや、金融事業のように高度な信頼性が求められるシステムの「土台そのもの」を自分たちで定義し、作り上げることができる。これほど大規模で、かつ社会的責任の重いシステムを支えるプライベートクラウドを構築できるチャンスは、日本国内を見渡してもほとんどありません。
メンバーには常々、「自分たちはそれだけ価値のある、誇れる仕事をしているんだ」と伝えていますし、私自身もそう確信しています。
あくまで個人的な目標ですが、将来的にはLINEヤフー単体だけでなく、多くのグループ会社にも「Flava」という環境を使ってもらいたいと考えています。
現状、私たちはまだスタートラインに立ったばかりです。多様な事業を展開するグループ会社のあらゆる要件を満たし、円滑に利用できるレベルにはまだ到達していません。だからこそ、まずは一つひとつの課題に向き合いながら、基盤としての信頼を積み上げている段階だと捉えています。
私たちが「Flava」を磨き上げ、グループ各社にとっても最適な環境を提供できるようになれば、素晴らしい好循環が生まれると確信しています。
たとえば、現在パブリッククラウドを利用しているグループ会社が、「『Flava』のほうが良い」と判断して乗り換えてくれたとします。そうして利用者が増え、プラットフォーム全体の規模が2倍、3倍と拡大すれば、サーバーやネットワーク機器の調達において、これまで以上のスケールメリットが働きます。
規模が拡大すれば、これまでコストやリソースの制約で断念していた新しい技術への投資や、より大規模な施策の実施も可能になるでしょう。その結果、インフラの品質が上がり、コストは下がり、それがまた新たな利用者を呼び込む。このエコシステムが回れば、技術的にもビジネス的にも、グループ全体に計り知れない恩恵をもたらすことができます。
「Flava」は単なるLINEヤフーの一システムではなく、グループ全体の競争力を底上げするインフラになり得るポテンシャルを秘めています。まずは目の前の信頼を積み重ねながら、そんな未来のエコシステムを実現していきたいですね。
このクラウド基盤は、LINEヤフーグループの未来そのものを支える土台です。 私たちの役割は、グループ全体の「モノづくり」の力を最大化させる環境を整えることです。強固な基盤があればこそ、サービスは進化し続けられます。 インフラという見えない場所から、お客様への「安心・安全」を守り抜き、同時に生活を豊かにする「喜び」を生み出していく。それが、私たちが届ける価値だと確信しています。
取材日:2025年11月28日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:竹田 桃子
※本記事の内容は取材日時点のものです
