国内外100社以上、メディアからコマース、金融まで多岐にわたる事業ポートフォリオがあり、さまざまなシナジーを生み出すLINEヤフーグループ。当連載では、各社CEOのキャリアや、ビジョンなどに迫ります。
シリーズ5回目は、「スポーツナビ(以下、スポナビ)」の小用圭一社長。
2025年12月1日には、ミッションやパーパス、ロゴなどブランドの刷新を行いました。
キャリアの原点から、今回のリブランディングを決断した背景、テクノロジーでスポーツの可能性を広げる挑戦、そしてその先に描く未来とは?

ずっとサッカーを続けてきました。水泳や体操教室にも通っていた時期もありましたが、本気で打ち込んできたのはサッカーでしたね。
今も地元の少年団で、子どもたちに教えたり、代表としてチームの運営に携わったりしています。
もちろん、他の競技も含めて、スポーツ全般が大好きで、気づけば日々、スポーツに囲まれて生きていると感じます。
高専を卒業後、最初に就いたのは産業用ロボットを開発するエンジニアの仕事でした。ただ、ちょうど日本でIT業界が盛り上がり始めた時期で、それに刺激を受けて「IT業界で仕事がしたい」と思い1年で転職しました。ガラケー向けの公式サイトなどを作るベンチャーで企画職に就いたのは、エンジニア面接で「君、話せるし、企画が向いているよ」と言われたのがきっかけです(笑)。
そこで3年半ほど働いた後、2007年に旧ヤフーへ。以来、「スポーツ以外の仕事になったら辞めます」と言い続けたほど、上司にもかなりわがままを聞いてもらいながら、気づけば19年目です。
「スポーツ×IT」が、僕の中のテーマであり続けています。これまでもそしてこれからも、そこは変わらないと思っています。
大きなきっかけは、10代の終わりにサッカーのコーチをさせてもらったことです。
それまでは選手一筋でしたが、ケガをしていた時期に誘われて、子どもたちの練習を見始めたら、すごく面白かったんです。
自分が毎日2時間練習するより、子どもたち20人に2時間教えるほうが、成果が目に見えて分かるんですよね。
子どもたちが上達して楽しそうに試合をして勝つ姿を見て、保護者の方に感謝されることが、すごくうれしくて。当時まだ19歳くらいで、自分のことばかり考えていた時期だったのですが、その後につながる大きな転機になりました。
この経験を通じて、「スポーツは特定の何かのファンになることだけではなく、『スポーツがある日常そのもの』が、人生を豊かにしてくれる」と感じたんです。それが、スポーツのキャリアを本気で考えようと思った原点のひとつですね。
スポナビの現在のロゴやコンセプトが誕生したのは、Yahoo!スポーツと統合した2013年。それから10年以上経ち、今度はLINEヤフーとして会社自体も大きく変わりました。そこで、今の体制、メンバーで「自分たちにとってのスポナビとは何か?」を見つめ直してみようと思ったんです。大きく変えるというよりは、「アップデート」にイメージが近いですね。
まず、パーパスやミッション、ビジョンといった土台から見直すことにしました。全社員参加のブレストから始まり、時間をかけて議論を重ねました。その積み重ねがようやく形になったのが、今回のリブランディングです。
正直、「今のままで良いのでは」という慎重な声は社内にもありました。でも、そういうときこそ、見直すチャンスだと思ったんです。
近所への引っ越しに例えるなら、「困ってないけど、変えてみると気づけることがある」という感覚に近いですね。
LINEヤフーとして新たなスタートを切った今だからこそ、一度立ち止まり、スポナビの価値観をアップデートする節目にしたいと考えました。
この言葉は、スポナビ創業当時から使われていたフレーズで、もともとはスポナビのミッションでした。今回は、それを「パーパス」として位置づけ直しました。
この「豊かさ」は「誰よりも詳しい」とか、「何でも応援しなきゃいけない」といった世界ではありません。
たとえば、お子さんの試合を応援しに行く、日本代表戦をテレビで見る、地元のチームに声援を送る......。そんなふうに「日常のどこかにスポーツがある」こと自体が、その人の暮らしを豊かにしてくれると思っています。
そこから自然に生まれるコミュニケーションやつながりこそが、僕たちが目指す「豊かなスポーツライフ」です。
パーパス:豊かなスポーツライフの実現
ビジョン:毎日の真ん中に
ミッション:日本のスポーツDXをリードする
ロゴが新しく定義したパーパスやミッションに本当にフィットしているのかを考えたときに、「一度、見直してみよう」という話になりました。
結果的に、前のロゴの良さを残しつつ、DXやAIといった時代性に合わせた「先進性」を加える方向で改良を進めました。すごくかっこよくなって、僕も気に入っています!
「自分の応援がちゃんと届く」、「自分と同じ熱量の仲間が他にもいる」、そう実感できたときの喜びは本当に大きいですよね。
スポーツに関わる一人ひとりの体験を肯定する場所をつくることが「豊かなスポーツライフの実現」にもつながると信じています。応援コメント機能は、その一端を担う大事な機能だと考えています。
だからこそ、特に学生スポーツやアマチュア競技では「応援ではないもの」は表示しないという強いルールを設けて、純粋なエールだけが可視化されるようにしています。
実は、「リードする」という言葉を入れるかどうか、かなり悩みました。最終的に採用したのは、「現場で尽力されているみなさんの頭の中がアップデートをされなければ、本当のDXにはならない」と考えたからです。
特にアマチュアスポーツの現場は、運営している方の多くがボランティアです。僕も少年サッカーを教えていますが、土日に時間を割いて、無償で支えてくださる方が多い。そういうみなさんに対して、「時代が変わったから、こういうツールを使ってください」「これからはDXですよ」と一方的に言っても、すぐには受け入れられるものではありません。目の前のことをこなすだけでも大変な中で、急に方法を変えるのは大きな負担になってしまいますよね。
だからこそ、「これを導入すると、将来、楽になりますよ」「後継者が見つかりやすくなりますよ」と、「一歩先の景色」を見せる役割でいたい。そんな思いからこのミッションを掲げることにしました。現場で支えてくださるみなさんへのリスペクトは絶対に忘れるわけにはいきません。
たとえば高校野球では、朝日新聞さんや朝日放送テレビさんと連携して、地方大会の全試合ライブ配信やスコアデータのタイムリー配信を実現しました。
その裏側では、試合会場の先生たちがデータを入力してくださっていますし、大学野球ではベンチ入りしているマネージャーさんが映像制作を担ってくれることもあります。
このように「運営がDXされる→それがコンテンツになる→それを見る人が増える」という好循環が生まれています。こうした仕組みを、もっといろいろな競技で広げていきたいと考えています。
最近では、カーリングのスコアを映像解析で抽出するツールの開発や、LINEと連携したチケット・グッズ販売などに取り組んでいます。あるバスケットボールの大会では、紙でのチケット販売からデジタル化したことで、売上が大幅に伸びて、会場が満席になるという成功事例も増えてきました。
そうですね。LINE公式アカウントを使えば、チームや競技団体が情報を発信し、そのフォロワーに直接チケットやグッズを販売できるようになってきています。運営者にとっても手間が少なく、ファンにとっても自然な導線です。
プロダクト面で考えても、スポーツ専門メディアが単独で生き残るのはなかなか難しいと感じています。毎年のように大谷翔平選手のようなスターが生まれるわけでもありませんし、WBCやワールドカップのように国民的な注目が集まる試合も毎回あるわけでもない。
数字が大きく動くのは、そういった「特別な瞬間」があってこそですが、それに頼りすぎるとメディアとしては不安定になります。
だからこそ、ヤフーの各サービスやLINEといった大きなチャネルと一緒に動いていくことが、スポーツメディアとして非常に重要です。そうした連携を通じて、スポーツの魅力をもっと自然に、もっと多くの人に届けていきたいですね。
スポナビのメンバーは約90名で、やはりスポーツ好きな社員が多いですね。社歴が長いメンバーも多く、チームとしての地盤がしっかりしていると感じます。新しく入ってきた仲間が「自分、野球めちゃくちゃ詳しいです!」と言ってくれるのですが、すぐに「あの人が詳しすぎて、もう詳しいなんて言えません...」という場面もよくあります(笑)。
一方で、スポナビにはプロダクションの担当をローテーションする文化があり、競技はもちろん職種の役割まで一定期間でローテーションするようにしています。だから、詳しい人もそうでない人もみんな同じ目線で、「どうすればスポーツの価値を広げられるか」を考えられるんです。
スポーツを好きという思いをベースに、プラットフォーマーとしての役割をしっかり意識して動ける組織だと自信を持っています。
「サンクスプログラム」という社内制度を大切にしています。期末に「ありがとう」を伝えたい人にコメントを贈る制度で、特にたくさんの言葉をもらった人はグランプリとして表彰されます。
「自分を見てくれていた」という実感があるだけで、人は本当に励まされるんですよね。チーム全体の空気をあたたかくしてくれる大事な文化だと思っています。気づけば6年ほど続けていますね。スポーツ愛はもちろん、リスペクトや感謝が根づいている組織で、僕自身その空気に助けられています。
一人ひとりのメンバーとしっかり向き合うことを意識しています。全員が同じスピードで動けるわけではありませんし、それぞれにタイミングや背景があります。子育て中の人もいれば、プロジェクトでうまくいかずに気持ちが落ちている人もいるかもしれない。だからこそ、「この方向に進もう」という組織の目標は掲げつつも、一人ひとりの歩幅に合わせて声をかけることを大切にしています。
個人的に大切にしているのが、稲盛和夫さん(京セラやKDDIの創業者で実業家)の「動機善なりや、私心なかりしか」という言葉です。20代の頃に出会って以来、自分の中の指針になっています。
何かを企画したり、意思決定したりするときに、「これは誰かのためになっているか?」「自分の得だけで動いてないか?」と、必ず自分に問いかけるようにしています。
僕はずっと、スポーツメディアは「主役」ではないと思っています。主役はあくまで、スポーツをしている選手やチーム、現場にいる人たちです。
僕たちはその姿をきちんと伝えていきたいし、さらに言えば、伝え続けられる仕組みまで含めてつくっていく存在でありたい。
さらに、DXを進めてITの力を活かしていきたいですね。試合や選手の活躍をただ報じるだけでなく、それを支えるシステムや運営の仕組みまで含めて、「スポーツの周りを整えていく」ことに、より深く関わっていきたい。当然、AI活用も進めていきます。
そして「自分の好きなスポーツを追いかけていたら、気づくと、いつもそこにスポナビがある」そんな存在になりたいです。それくらい自然に、「スポーツのすぐそばにある存在」として寄り添い続けたいですね。
取材日:2025年11月12日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:安田 美紀
記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。
