グループCEO連載 ZOZO・澤田が挑むファッションテック戦略「好き・得意を原動力に」

リーダーズ
丸眼鏡をかけた男性・澤田CEOが青い羽織風の服を着て立っている。背景には「ZOZO」のロゴと幾何学模様が描かれ、左下に「LINEヤフーストーリー」と文字が入っている

国内外100社以上、メディアからコマース、金融まで多岐にわたる事業ポートフォリオがあり、さまざまなシナジーを生み出すLINEヤフーグループ。当連載では、各社CEOのキャリアや、ビジョンなどに迫ります。

シリーズ3回目の今回はファッションEC最大手ZOZOの澤田宏太郎代表取締役社長兼CEOが登場。
好奇心を原動力にキャリアを重ね、「ファッション×テクノロジー」で新しい買い物体験を創り出し、最近ではLINEを活用したファッション特化型のAIエージェントを開発中です。そんな澤田社長に、キャリアの原点から最新の戦略まで語ってもらいました。

丸眼鏡をかけた澤田CEOが正面を向いているバストショット。髪は短く立ち上がり、青色の羽織のような服を着ている。背景は淡い幾何学模様
澤田 宏太郎(さわだ こうたろう)
株式会社ZOZO 代表取締役社長兼CEO
1994年 NTTデータ入社、システムエンジニアを経て経営研究所に出向。IT・小売・物流領域のコンサルティングに従事。2008年スタートトゥデイコンサルティング設立に伴い、同社代表取締役に就任。2013年ZOZO(当時スタートトゥデイ)取締役に就任、2019年9月より現職。

「知りたい欲求」が導いたキャリアと学び

――キャリアの原点や経営哲学についてお聞かせください。学生時代からキャリア初期にかけて、今の考え方につながる経験はありましたか?

私はもともとエンジニアになりたくてNTTデータに入社しました。ただ、実際に配属されるとモノづくりというよりSE的な仕事が中心で、そういった業務に取り組む中で、もっとビジネスの上流工程に関わりたいと思うようになりました。事業やサービスを組み立てるような領域ですね。
そこで手を挙げて、コンサルティングを手がけているNTTデータ経営研究所に出向しました。そこでは、外資系コンサルティング企業出身者など多様な人材に囲まれる中で、とにかく自分の「知りたい欲求」が刺激されましたね。私は人の話を聞く際、「へえ」「なるほど」が大好物なのですが、好奇心の強い人間だとあらためて実感しました。

――当時のご経験はどのように今につながっていますか。

右も左も分からず、コンサルタントを始めましたが、案件を重ねるうちにIT、小売、物流といった領域を担当することが増えて、自分の得意領域だと感じるようになりました。
最終的にそれらが統合された形こそがECだと気づき、結果的にZOZO(当時スタートトゥデイ)の子会社でアパレルメーカー自社ECサイト支援業務を手がけるスタートトゥデイコンサルティングの設立に伴い、ZOZO(当時スタートトゥデイ)グループにジョインしました。

――コンサル時代、特に印象に残るエピソードや忘れられない上司の言葉はありますか。

全業種を徹底的に調べるマーケットリサーチ案件がありました。ハードワークする上司のもと、短期間で分厚い資料を仕上げたこともありました。大変でしたが、どんな業界にも仕組みがあり、理解する面白さを知りましたし、今も自分の中に引き出しとして残っています。
多種多様なプロジェクトに取り組みましたので、今でもなんとなくその頃の引き出しがカチャッと開いて、「あ、こうやればいいんだっけ、確か」みたいな感じになりますね。

そこで上司に言われた「自分の120%やれた段階が、ようやくお客さまの100%になる」という言葉は、現在もUIUX設計やサービス改善を考える上で常に意識していることです。
「そこの20%をいかに埋めるかを常に考えないとね」って、仲間にもよく言います。

――当時から、ECの中でもスタートトゥデイは強い個性があったと思いますが、入社前はどのような印象を持っていましたか?

まず、ファクトとして、数値的に「ものすごく伸びている」というのは大きかったですね。成長が数値で実感できました。人も、荷物も、サーバーの容量もどんどん増えている。これは、「私の経験を生かして貢献できそうだぞ」と感じました。
また、当時、ネット上に店舗と同じ店構えのCGを用意していて、それがすごくかっこよかった。思いの強い人たちが作っているのだろうなと外から見ていて感じました。入ってから、それをより強く実感することになるのですけどね。

丸眼鏡の澤田CEOが斜めを向いて話している様子。青い羽織風の上着に白いTシャツを合わせ、落ち着いた表情を浮かべている。背景は暗めの室内

「ひと気(ひとけ)」を大切にするZOZOのカルチャー

――ZOZOに入社して感じたカルチャーはどのようなものでしたか。

最大の特徴は「サービスへの思い入れ」です。社員はZOZOTOWNを単なるプラットフォームではなく、まるで友人や子どもに接しているかのように、愛着を持って育てていました。
先ほど、「自分の120%やれた段階が、ようやくお客さまの100%になる」という話をしましたが、最後の20%を出せるかどうかは、サービスへの思い入れがあるかどうか。それがZOZOに入ってよくわかりました。

ZOZOには思い入れの強い社員が本当に多い。
ZOZOTOWNというサービスを育てていくなかで、「機能改善した」とか、「デザインした」といった自分が携わって貢献できた感覚が生まれ、そういう先輩社員を見て、若いメンバーが育つ。そんなサイクルが回っているんですね。

――ファッションへの愛とともに、「思い入れ」がサイトからも伝わってきます。

そうですね、UI(ユーザーインターフェース)にも思い入れがよく表れています。
社内でも「ひと気(ひとけ)」という話をします。リアルな人がサイトに出てくるとか単純な話ではないんです。人の手が加わった手触り感というか、温かみというか。逆に使いやすさが行きすぎたら、味気なくなって、ロボット的なものになるじゃないですか。私たちはそうならないように、暗黙知として意識しています。
物流の現場でも、ファッション好きな社員が働くと効率やモチベーションが全く違います。好きなものに囲まれて、好きなスタイルで、サービスへの思いを込めて働くからこそ、自然と成果が上がると思うのです。

――ZOZOにはどういう人材が集まってくるのですか?

シンプルに言語化すると、「ファッションが好きで、素直で、仕事に思い入れがある人」ですかね。採用においても、それが暗黙の基準でした。
そういった感覚を人事がくみ取り続けてきたことがカルチャーの基盤になっています。 だからこそ、新しい人が入ってきても自然と文化になじむし、逆に文化が薄まらずに受け継がれていくのだと思います。

会議室風の部屋で丸眼鏡の澤田CEOが机に座っている。後ろには雲を背景に黒いフードを被った人物を描いた大きなイラストが飾られている

CEOに就任後、対話を重視したリーダーシップを発揮

――2019年に、CEOに就任されて、最初の決算でいきなり過去最高益を出されました。ずっと順調に思えますが、この6年間で、大変だった記憶はあるでしょうか?

最も大きな試練はコロナ禍でしたね。出社可否の判断や「外出がなく服は売れるのか」といった不安が重なる一方で、大きな学びもありました。
小売の基本である「新規顧客獲得」と「リピーター確保」のどちらに軸足を置くか悩んでいた時期に、コロナ禍で実店舗が閉じ、多くの新規顧客がZOZOTOWNに流入したのです。その多くが一時的で終わらずリピーター化してくれたことで、私たちのサービス設計の強さを確信できました。
結果、「リピーターは自然に育つ」と判断でき、新規獲得へ集中投資する戦略にシフトできたのです。テレビCM再開などプロモーションを強化し、現在の成長エンジンの基盤を築けたことは、コロナ禍がもたらした最大の収穫でした。

――KPIで何か変えたことはありますか?

私たちはずっとGMV(Gross Merchandise Value /流通取引総額)を追いかけてきました。そこは変えてはいないのですが、より細分化して多方面から見るようになりました。
プロモーションのROI(Return on Investment /投資利益率)や純増にも徹底的にこだわりました。単に売上が上がったかどうかではなく、それが本当に新しい売上なのかをABテストでよく検証します。

――CEOとしてのリーダーシップスタイルについて教えてください。

そうですね、私は「対話重視型」でしょうか。また、圧倒的に左脳派なので、自分がロジックや数値を見つつ、右脳派の仲間の感性も尊重して、壁打ちに入ってもらいながら、両輪で経営を進めることを意識しています。
経営方針についても、フラットに話し合いながら進めることを大事にしています。
社長就任後、経営層が集まる会議も30人以上が参加できるオープンな場にして、情報格差をなくすようにしました。社内で進んでいる6~7本の案件を同じ場で共有し、部署横断で学び合える仕組みにしています。
そうすることで、横の状況がわかるし、私が何にこだわって、何をやろうとしているのかが把握しやすいはずです。

――左脳派だからこそ、右脳派視点をしっかり取り入れるバランス感覚も印象的ですね。

組織でビジネスをやる以上、左脳派の視点によっていきがちです。議論するとやはりロジックが強く、説明できない感性やアートは負けてしまう。だからこそ、左脳派の私自身が意識して右脳派の視点を尊重し、組織的にも感性を鍛える取り組みにチャレンジしたりしています。

――組織的に、どのような取り組みを行うのでしょうか?

たとえば、先日実施したのは、役員全員が参加してスニーカーをデザインするというもの。どれが一番いいか投票し合うので、結構緊張感があるのですが、そういうことをみんなで面白がって定期的にやっていますね。

――他に、社員との距離を縮めるために工夫されていることはありますか。

全体朝礼を配信したり、社内の部活動にも参加したりしています。ZOZOは部活動が盛んで、実は私も野球、ピックルボール、釣りなどの部員なんです。

社員と垣根なく話せる関係ができることで、お互いの考えや価値観を知るきっかけになる。 社員と話していたら、知りたくなってしまうんですよね。たとえば、「その思い入れはどこからきているの?」と。心の衝動みたいなところまで気になって、最終的には、生い立ちまでさかのぼったりして。「そうか、だからそうなったのか」みたいな感じで、社員と「へえ」と驚くような話をする日ほど、自分にとって充実した日だと感じますね。

会議室風の部屋で丸眼鏡の澤田CEOが机に座っている。後ろには雲を背景に黒いフードを被った人物を描いた大きなイラストが飾られている

ファッション×テクノロジーで広げるグループシナジー

――就任後の経営戦略として「MORE FASHION × FASHION TECH」を掲げられました。グローバル展開も積極的です。

はい。コロナ禍であらためて「自分たちが進むべきフィールドは、ファッションとテクノロジーの掛け合わせだ」と方針を明確にしました。
今年、イギリス・ロンドンに本社を置くLYST社を買収しましたが、われわれと同じく、この領域で強みを持っていて、ビジョンを共有できる仲間です。今後も国内外問わず、どんどん攻めていきます。
また、アメリカなどでは、ZOZOFITという3Dボディースキャンサービスを展開していますが、そちらも波に乗りつつあります。

ZOZOFIT

――以前から活用が進むAIへの取り組み状況はいかがですか?

レコメンドエンジンやUI改善にAIを活用していますが、今まさに注力しているのがLINEをチャネルとして活用した「ファッション特化型AIエージェント」です。ユーザー一人ひとりの好みや悩みに合わせて、AIが最適なファッションを提案する仕組みです。
リアル店舗の販売員が担ってきた役割を、デジタル上で再現することを目指しています。
これによって、ユーザーは日常的に使っているLINEを通じて新しいファッションと出会うことができます。単に買い物を便利にするだけでなく、体験そのものを豊かにすることが目的なんです。

――ファッション×テクノロジーがどんどん形になっていきますね。秘訣(ひけつ)はなんでしょうか?

源流をたどると、やはり人材です。私がCEO就任後、ZOZOの強みであり、進むべきフィールドとして最初に掲げたのが「MORE FASHION × FASHION TECH」でした。
加えて、その数年前にZOZOSUITを発表しましたが、これが意外と採用インパクトが大きかったんです。「こんな面白いことを技術でやる会社ってなかなかないね」と。
そうやって集まってきてくれたエンジニアたちが中心となって、いま開発において活躍してくれています。

――LINEヤフーグループに入ってからも、個性が輝いているように感じます。

グループ内で協業をするときはもちろん、常に、サービスに思い入れを持って、高いパフォーマンスで取り組んでくれる社員を誇りに思います。
一方で、グループの強みを生かしたAIエージェントは、LINEというプラットフォームを通じて幅広いユーザーに届けられますし、将来的にはYahoo!ショッピングなど他サービスとの連携も視野に入れています。
たとえば、今年7月に「ZOZOTOWN Yahoo!店」でも利用可能になった「買い替え割」のような施策をアパレルに限らず全商材に展開できれば、グループ全体で独自の経済圏を築けるはずです。
2019年にM&Aで当時のヤフーとグループになった当初から、Yahoo!ショッピングとのシナジーは相当なインパクトがありました。さらにLINEとの連携が進んでいるわけですから、ユーザー体験は確実に進化しています。

――最後にグループのCEOとしての抱負を聞かせてください。

現場レベルでお互いをより深く知ることが大事だと思います。経営層同士の交流も増えてきていますし、これまで以上に現場間のコミュニケーションが活性化すれば、もっともっと面白い取り組みが生まれるはずです。お互いに足りない部分を認め合い、感性や遊び心を取り入れていけば、グループとしてのシナジーはさらに広がっていくと思います。

青い羽織を着た澤田CEOが会議机に座っている。背景には黒いフードの人物を描いた大きなイラストが壁に掛けられており、現代的な空間の雰囲気

取材日:2025年8月20日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:倉増 崇史
記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。

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