みんなは、ボクのことは知っているかな?
インターネットサービスの利用時などに同意を求められるプライバシーポリシー、通称「プラポリ」。みなさんは何が書かれているかをしっかり理解した上で、同意しているでしょうか?
企業側としては、個人情報保護法上の義務を果たし、ユーザーに安心して同意いただきたいという意図から、どうしても説明が長くなりがちです。ただ、そもそも読んでもらえなければ意味がありません。
そこで、今回、芸人と弁護士という二足のわらじを履く、こたけ正義感さんに、小学生に向けて「プライバシーポリシーとは何なのか?」をレクチャーする企画にチャレンジしていただきました。「プラポリとはラブレターなんだ」というこたけさんの思いは、果たして、子どもたちに届いたのでしょうか?
こたけ正義感(せいぎかん)さん
1986年5月12日生まれ。京都府出身。
ワタナベコメディスクールに24期生として入学し、2017年にデビュー。コンビとして芸人活動をスタートしたが、2019年に解散。ピン芸人として活動をはじめた。2022年には「ワタナベお笑いNo.1決定戦」で準優勝、R-1グランプリ2023では決勝に進出。
また、芸人として活動する傍ら、現役の弁護士としても活動している。
左上:中村美咲(なかむら みさき)ちゃん
小学4年生
右上:鶴薗 塁(つるぞの るい)くん
小学6年生
左手前:川口優斗(かわぐち ゆうと)くん
小学6年生
右手前:小林(こばやし)かんなちゃん
小学4年生
※学年は全て授業時のものです
みんなは、ボクのことは知っているかな?
(うーん......。首をかしげる)
緊張してる?
YouTube(※1)をやってる、こたけ正義感さん! ママと一緒に動画見ました!
お、知ってくれている子もいるんだね。ボクは、こたけ正義感って言います。お笑い芸人をしながら、現役で弁護士もしています。弁護士ってわかるかな?
誰かをサポートする仕事ですか?
確かにそうだね、誰かをサポートする仕事とも言えるね。法律の専門家として、依頼人の権利や利益を守るためのサポートをしているんだ。今日はね、みんながネット社会を生き抜く上で、とても大事なことを知ってもらうための授業をするよ。ちょっとだけ難しいかもしれないけど、最後までついてきてね!
はーい!
まずはみんなのことも聞いていこうかな。キミ、お名前は?
かわぐち ゆうとです!
ゆうとくんは何年生?
いま6年生で、春から中学生です。
生年月日は?
3月25日です。
え、今日が誕生日ってこと?(※2) おめでとう!(自然と拍手がわき起こる)
※2:収録が3月25日でした。
ゆうとくんはどこに住んでるの?
●●県です。
そうか、今日は●●県から来てくれたんだ。ちなみに、●●県のどのあたりに住んでるの? 住所まで覚えている?
●●県××市△△町0-0-0です。
あんまり詳しく話さないほうがいいんじゃない?
そうだよ、危ないよ!
どうして? 言ったら、だめなのかな?
だって、世界中の人に住所を知られちゃったら、悪い人が家に来ちゃいそう。
でも、誕生日プレゼントを持ってきてくれるかもしれないよ。それならうれしい?
うーん......。それはうれしいかも。
でも、変な人が家に来ちゃう可能性のほうが高そう。
そうだよね。いまは、わざとしつこく聞いたんだけど、個人情報を自分できちんと管理・コントロールしていかないとダメだよ、という話を今日はしたいと思います。
そもそも個人情報ってみんなはわかる?
自分の名前とか?
誕生日!(※3)
※3:みんなの氏名と同様に、優斗くんの誕生日については掲載の許可をもらっています。
住所。
あとは、電話番号。
そうそう、みんな正解。さすがに個人情報は聞いたことがあるみたいだね。他に、顔写真とか防犯カメラの映像も個人情報なんだよ(※4)。
じゃあ、インターネットは使ってる? LINEとか使わない?
※4:LINEヤフーが考える「パーソナルデータ」
ボクはゲームをします。
私はキッズケータイだからLINEは使っていません。
確かに、小学生だとスマホを持っていない子もいるのか。でも、中学生になるとスマホを持つ子が増えるだろうし、ネットを使う機会もきっと増えるよね。だから、いまから個人情報の取り扱いについては、知っておいてほしいな。
ネットで調べ物をしたり、買い物をしたりします。
そうだね、ネットショッピングにゲームもそう。利用するときには、住所やメールアドレスとか、いろんな情報を入力するでしょう? クレジットカードの番号とか。ネットを使うときには、その企業に個人情報を提供することになるんだよ。
言われてみれば、なんか文章が出てくるかも。
実は、企業のホームページを見ると、個人情報をどんなふうに取り扱うのか、説明した文章が載っています。アプリを最初に利用するときなんかにも、出てくるんだけど、それを何て言うかわかるかな?
(反応がないので)最初に「プ」がつく言葉です(笑)。
あ、プライバシー!
そう、今日は「プライバシーポリシー」というのを学んでもらいます。「プライバシー」が「個人情報」で、「ポリシー」は「方針」とか「考え方」を意味する言葉だよ。
要は、「うちの会社は、個人情報をこう取り扱いますよ」という方針のことだね。
なぜ、そんなことをするの?
法律で、会社に対して、「そうしなさい」と決められているからです!
みんなの机の上にはLINEヤフーのプライバシーポリシーを印刷したものが置いてあります。LINEヤフーはSNSサービスのLINEや、ポータルサイトのYahoo! JAPANを運営している会社です。
LINEは知ってる!
プライバシーポリシーを印刷した紙は何枚も置いてあると思うけど、全部で文字数がどれくらいになると思う?
(長すぎて)ぜんぜん、わかりません。
実は全部で2万2384文字あります!
すごい! わざわざ数えたんですか?
そう、数えました。2万2384文字は、400字詰め原稿用紙で表すと56枚分になります。みんなも夏休みに読書感想文を書くよね。だいたい2〜3枚くらいは書くと思うんだけど、56枚だと、クラス全員分くらいの文量になるのかな? LINEは知っているって答えてくれていたけど、この文章を読んで、同意しないとLINEは使えないんだよ。大人はみんなこれを読んだ上で使っているんだから、すごいでしょう?
いや、ちゃんと読んでないんじゃない?
そんなことないと思いますよ。だって、みんな「プライバシーポリシー」が出てきたら、「同意する」っていうボタンを押しているんだから。きっと読んでいるはず。ちなみに大人だったら、このLINEヤフーのプライバシーポリシーを何秒で読むことができると思う?
2万文字を読まないといけないわけだから、丸1日はかかるんじゃないですか?
がんばって3時間とか?
たぶん、4秒くらいです!
えーーーーー!
うそだよ、そんなの絶対!
読み飛ばしているに決まってるよ。
みんなが言うように、きちんと読まずに同意ボタンを押すのはどう思う?
いいんじゃない?
危ないんじゃないですか?
そうだよね。さっき説明したように、「プライバシーポリシー」というのは、個人情報を会社がどのように扱うのか、その方針を書いた文章です。だから、もし、とんでもないことが書いてあったらどうするのって話だよね。
わけもわからず、同意していたら、個人情報を変なふうに使われちゃうかもしれない。
そう。賢いね。「すべての個人情報を世界中にばらまきますよ」とか「勝手にさらします」って書いてあったとしたら、どうするの?
それはヤバい会社だ!
そうだよね。もちろんそんな会社はないと思うけど、でも、同意しちゃっているわけだから、文句は言えないよね(※5)。だから、プライバシーポリシーの中身についても、今日はきちんと知ってほしいんだ。
※5:個人情報保護法上、不適正な利用の禁止に関する規制があります。
ちなみに「個人情報保護法」という法律にも、プライバシーポリシーについて触れているところがあるんだ。ちょっと読んでみるね。
21条1項
個人情報取扱事業者は、個人情報を取得した場合は、あらかじめその利用目的を公表している場合を除き、速やかに、その利用目的を、本人に通知し、又は公表しなければならない。
どういう意味ですか?
ちょっと難しいよね。でも、利用者の個人情報を取得するときには、その目的を公表したり、本人に通知しましょう、ということです。
プライバシーポリシーには、個人情報を集める目的のほか、集め方、それから扱った情報をどうやって管理するのか、そんなことも書かれているんだよ。
目的は、さっき教えてもらったように、ネットショップで買い物をしたら、名前や住所などが必要になるってことですよね?
その通り! 支払いのためにクレジットカードの情報、そして、その商品を届けるために氏名や住所、電話番号が必要になってきます。プライバシーポリシーには、なぜこうした個人情報を集めているのか、きちんと明記されています。ボクたちがより安全にサービスを使えるようにとか、おすすめの精度が上がってより便利にするという使い方の目的なんかもあるね。
管理については、そうだな、みんなは宝物ってある?
タブレット
お財布
スマホ
カメラ
今言ってくれた宝物をみんなが誰かに預けて、「鍵のないところに保管する」って言われたら不安になるよね。「取りに来なかったら、売っちゃうかも」なんて書かれたら、嫌でしょう?
めっちゃ嫌です!
「鍵のついた金庫に入れておきます」とか「こういうときにしか使いません」とか、事前に説明してほしいよね? つまり、そういうことが丁寧に書かれているのが、プライバシーポリシーです。
いろんな具体例を示しながら、管理の仕方や目的を開示している企業ほど、文章が長くなってしまうと言えるかもしれないね。
つまり、プライバシーポリシーが長いほど、ユーザーとちゃんと向き合っている、誠実な会社って言えるかもしれない。
LINEヤフーは、だからプライバシーポリシーが長いんですね。
まあ、これくらいユーザーを大切にしてほしいよね。いかにお客様の個人情報を大事に思っているかが、わかるのがプライバシーポリシー。
ちなみに、お父さんお母さんに協力してもらって、プライバシーポリシーの比較をしてみるのもおもしろいかもしれないよ。会社によって中身も違えば、文章の長さも違うから。
それはちょっと意外でした!
たとえば、LINEヤフーのプライバシーポリシーには、サービスを世界展開しているので、海外での利用や情報の移動・セキュリティについても細かく記載してあります。「子どものプライバシー」という項目があるのも特徴的です。
LINEヤフーのプライバシーポリシーに記載されている「子どものプライバシー」の一部抜粋
でも、文章が長すぎるから、大事なところは「ここ読んで!」って、わかりやすく抜粋してほしいかも。
確かに良いアイデアだね。LINEヤフーのホームページではもう少しかみ砕いた「プライバシーセンター」も用意されているよ。また、2023年に作られた「プライバシーポリシー」では、それまでとの違いの要点を説明したり、よくある質問への回答も用意されているよ。
プライバシーポリシーが長くなってしまっている状況を踏まえて、どうすればよりわかりやすく伝えられるかを考えての対応だろう。
今、美咲ちゃんが言ってくれた通り、LINEヤフーさんも「プライバシーポリシーって長くなってしまうし、難しいんだよなぁ」と思っているからこそ、ボクがここでみんなに授業するっていう不思議な企画が立ち上がったんだろうね(笑)。
笑い。
ただ、法律のプロとして補足したいことは、文章が長いってことはそれだけ愛にあふれているとも言えるってこと。
愛が重いです......。
そうかぁ。愛は難しいな。実際、みんなもこれから、ラブレターをもらって、「うわ、長っ! 重っ!」てなることがあるかもしれない。相手はそれだけ大切にしたい、伝えたい思いがあるってことなんだよ。
でも、授業を聞く前よりは、プライバシーポリシーが愛おしくなってきたんじゃない?
読みにくいから、「務めてまいります!」とかじゃなくて、「頑張ります!」とか、そういう言い方にしてほしいかも。
確かにそのほうがユーザー目線でわかりやすいね。でも、砕けた表現だと、「ばかにしているのか!」って、人によって、それでクレームする人もいるかもしれないし。プライバシーポリシーを作っている人も、文章が長くなると、読んでもらえなくなるし、かといって、丁寧に説明しないとユーザーも困るかもしれないって悩んでいるかもしれないね。
先生に質問です。もし、プライバシーポリシーに、同意しなかったらどうなるんですか?
同意しないと、サービスが利用できないというケースが多いよね。
先生はもちろんいつもプライバシーポリシーを読んでいるんですよね?
ま、まあね。弁護士だし。LINEヤフーのプライバシーポリシーもボクなら8秒もあれば、読めるかな。
じゃあ、数えます。1,2,3......。
はい、読めました!
9秒でした!
あー、今日は9秒だったか。それは冗談として、今日の授業はこれで以上です。みなさんも興味を持ったら、いろんな会社のプライバシーポリシーを読んでみてください。
もう一度言うけど、重いけど、愛のかたまりなんだよ。だから、「これはラブレターなのか!」という視点を意識してみてほしいな。
個人情報を自分で、管理・コントロールしていかなきゃいけない時代だから、お父さん、お母さんに相談して一緒に考えてもいいし、できる範囲で、受け止めて判断してね。
先生、ありがとうございました!
優斗くん
おもしろく授業してくれたので、楽しく学ぶことができました。
先生との会話の中で、ボクの名前や住所や誕生日などの情報を聞かれて全部答えてしまったけれど......。もしかして危ないことなのかなと思いました。
今度、タブレットも買ってもらうから、もっと個人情報について注意しようと思います!
美咲ちゃん
「個人情報」って難しいし、ちょっと怖いテーマだけど、先生が楽しく教えてくれたので、最後まで安心して話を聞けました。
2万字以上の長い文章になるのは、「大事なことだから」なんですね。「長さが愛の大きさ!」って例えは、なるほどって思いました。
早くゲームしたいから、同意ボタンをすぐに押したいけど、「本当に大事なことだから読もうね」って、仲のいいお友達やお姉ちゃんにも教えてあげなきゃ。
塁くん
授業を受ける前までは「プライバシー」自体、よく分かっていませんでした。でも、先生の話を聞いて、それがどんなものなのかが分かった気がします。
プライバシーポリシーにはいろんなことが書いてあるけれど、大事なところは見落とさないように、しっかりしなきゃなと思いました。
少しびっくりしたのは、使うアプリによって、どんな情報を企業が集めるのか、ちょっとずつ違うってところ!
かんなちゃん
プライバシーポリシーってなんとなく難しいし、分かりにくいって気持ちがあったけれど、今日は先生が大切なことを分かりやすく教えてくれたからよかった!
でも、長すぎて読むのがめんどくさいから嫌だな。先生が教えてくれたのは「お互いに大事に思っているから読もうね!」ってことだろうから、これからは「大事なところだけでも読む」とか、少しずつ自分でできることをやってみようかなぁと思いました!
こたけ正義感先生
今日はボクが全部、教えるまでもなく、ある程度は、子どもたちも個人情報の保護について、感覚的に知っていたのが、印象的でした。
特に女の子たちは、取り扱いの危険性について敏感だった気がします。あの感覚はどこで培われているのでしょうね。
プライバシーポリシーについても、授業をしていて、手応えがめちゃくちゃありました。今後も興味を持ってくれるのではないでしょうか?
子どもたちからの指摘を踏まえ、LINEヤフーのプライバシーポリシーを小学4年生でも理解しやすいように、生成AIを活用して、400字で要約してみました!
LINEヤフーは、みんなが使うアプリやサービスを提供しています。使用するときに、みんなの名前や電話番号などの情報を集めます。この情報を「パーソナルデータ」といいます。LINEヤフーは、この情報をとても大切に守っています。
この情報は、サービスをもっと便利にしたり、安全に使えるようにするためのほか、みんなに合ったおすすめの情報を教えるためにも使います。
みんなは、自分の情報がどう使われているかを確認したり、直したりできます。もし何か心配なことがあったら、気軽に質問してください。
LINEヤフーは、みんなの情報を安全に守るために、特別な方法でしっかりと管理しています。このプライバシーポリシーは時々変わることがあるので、何か大事な変更があればお知らせします。
子どもがこのサービスを使うときは、おうちの人と一緒に使うようにしてください。もし何かあれば、いつでも会社に連絡して聞いてみてくださいね。
取材日:2025年3月25日
文:梅中伸介(verb) 編集:verb 撮影:海老澤芳辰(Lingua franca L.L.C)
※記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。