詐欺からLINEユーザーを守る 不正対策プロジェクトの取り組み(後編)

コーポレート
3人の人物が並んで立っている写真です。中央の男性はスーツを着ており、両側の人物もフォーマルな服装をしています。背景はシンプルな白です。

近年、SNSを利用した詐欺が大きな社会問題となっています。魅力的な投資話を持ちかけたり、恋愛感情を抱かせたりして金銭をだまし取るSNS型投資詐欺・ロマンス詐欺が急増しています。こうした問題に対抗するため、LINEヤフーは2024年4月に社内横断の「不正対策プロジェクト」を立ち上げ、さまざまな対策を行なってきました。詐欺行為を撲滅するために、企業とユーザーに何が求められているのでしょうか。

後編では、LINEヤフーが法人向けに提供しているLINE広告とLINE公式アカウントにスポットをあて、本プロジェクトをリードした松本、LINE広告を担当する一条、LINE公式アカウントを担当する大橋に、それぞれの対応策や今後の展望について話を聞きました。

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松本 健太郎 (まつもと けんたろう)

政策企画統括本部 コミュニケーション部 部長 兼 安全政策部 部長

2022年旧LINEに入社し、政策渉外室にて監督官庁など中央省庁や同業他社との渉外業務を担当。合併後は、政策企画統括本部のコミュニケーション部と安全政策部にて、LINEのサービスの不正対策も担当する。

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一条 裕仁  (いちじょう あきひと)

経営企画・事業開発統括本部 トラスト&セーフティ本部 本部長

2001年旧ヤフー入社。ヤフオク!サービス責任者や開発本部長を経験後、2019年から広告のトラスト&セーフティ本部にて入稿される広告の品質並びに広告配信面・トラフィックの品質の確保を統括する。

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大橋 徳美 (おおはし さとみ)

ビジネスPF(プラットフォーム)統括本部 ビジネスPF企画本部 本部長

2020年旧LINE入社。LINE公式アカウントをはじめとするビジネスソリューションのプロダクトマネジメントを担当する。今回のプロジェクトではtoB向けプロダクトにおける不正対策を実施した。

LINE広告・LINE公式アカウントを使ったSNS型投資詐欺の手口

――まず、LINE広告やLINE公式アカウントを使った不正行為の手口を教えてください。

松本の写真

松本:
典型的なパターンとして、SNS上の広告など何らかの形で犯人と被害者が接触し、その後、LINEに誘導されるケースが多くなっています。その後、被害者は、犯人との長期間にわたるやり取りで信頼してしまい、だまされて金銭を奪われてしまうわけです。

LINEアプリ上で表示される広告についても、他社のインターネット広告と同様、当初接触ツールとして狙われることもあります。「お金の増やし方を教えます」といった内容の広告をクリックするとLINEのアイコンがあり、そこからLINEサービスに移行し、詐欺にあうパターンが考えられます。

LINEアプリ上で表示される広告が詐欺の当初接触ツールとして不正に利用される件数は多いわけではなく、LINE広告の審査やモニタリングによって基本的には詐欺につながるような広告は排除できていると考えていますが、当初接触ツールとして悪用される可能性があります。

一方で、LINE公式アカウントは友だち追加をしないとコミュニケーションが取れないため、直接的な入り口にはなりにくいです。ですが、最初は広告や他のSNSから誘導されてLINE公式アカウントで友だちになり、最終的には1:1のトークでだまされてしまうというパターンで利用されることがあります。

LINE広告とは
LINE公式アカウントとは

松本の写真

――実際にLINE広告やLINE公式アカウントが悪用されたケースとしては、どのような事例がありますか。

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一条:
著名人を装いオフィシャルのように見せかける怪しい広告は、ユーザー通報含めLINE広告にはあまり見られません。ただ、広告をたどっていくと怪しいページに到達するケースがあります。

一見普通の広告に見せかけ、クリックさせて詐欺目的のページに誘導するやり方です。

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大橋:
LINE公式アカウントは企業や店舗がサービスを提供するためのものです。詐欺行為の入口には広告や他のSNSが利用され、その後不正者がユーザーとコミュニケーションを取るための手段としてLINE公式アカウントが悪用されるケースがあります。

特に、著名人や企業、団体を装った不正者がLINE公式アカウントを使う事例がよく見られました。

不正者に「割に合わない」と思わせる戦略

――こうした不正利用を防ぐために、どのような対策を行ってきたのでしょうか。

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一条:
LINE広告に関しては、厳密なガイドライン(※1)のもとに審査を行い、最初の段階で悪用を防ぐように努めています。具体的には、アカウント審査とクリエイティブ審査の両方を行い、必要に応じて本人確認も行なっています。

さらに、広告出稿後も不正な変更がないか確認するため、事後のモニタリングも徹底しています。こうした審査やモニタリングは、人の目とシステムを併用して、より効果的なチェックを行っています。

※1 LINE広告審査ガイドライン

大橋の写真

大橋:
LINE公式アカウントは、詐欺の有無を判断するためにすべてのLINE公式アカウントから一斉に配信されるメッセージやLINE VOOMへの投稿、プロフィールなどを24時間365日体制でモニタリングしています。そこで確認された不正に対しては適切な対処を行っており、不正利用に対して一定の効果を発揮していると言えると思っています。

また、LINE公式アカウントでは認証審査を通っていない未認証状態のアカウントも存在します。実際に、不正の大半は未認証アカウントのものです。ユーザーへの注意喚起を徹底するとともに、不正者が簡単にアカウント作成ができないよう本人認証を強化するなど、アカウント作成のハードルを上げています。

事前に当社の認証審査を通っている認証済アカウントについては、本人確認などを徹底して行なっているため、不正に利用されるケースは極めて低いと考えますが、未認証アカウント・認証済アカウントともにモニタリングを強化しています。

LINE公式アカウントの取り組みの画像

LINE公式アカウントの取り組み

――ただ、不正者が講じる新たな手口とのいたちごっこにならざるを得ない側面もあると思います。

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大橋:
そうですね。いくら道をふさいでも、あの手この手でまた別の道から不正を行うということも十分考えられます。そのため、常に最新の詐欺の手口のトレンドをキャッチアップしながら、不正者がすり抜けられないような対策を引き続き検討していくことが大切だと思っています。

一条の写真

一条:
ひとつの考え方として、いたちごっこに陥るのはある程度仕方がないと割り切って、それでもいかに不正者にとって面倒な状況を作るかが私たちの役割と言えるのかなと思っています。

不正者に「割に合わない」と思わせることができたらこちらの勝ちなので、この戦いを続けることがミッションでもあると考えています。

一条の写真

――詐欺被害に遭わないために、ユーザーに意識していただきたいポイントはありますか?

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大橋:
LINE公式アカウントの観点から言うと、アカウントが認証されているかどうかは、そのアカウントが正しく運用されているかを見分ける手助けになります。

また、SNSでは誰が運用しているか、それが正しく利用している人かが見えにくいため、金銭に関することや個人情報を安易に渡さないように注意することが重要です。

LINE公式アカウントの認証、未認証を見分ける表の画像

LINE公式アカウントの種類は、アイコンの色で見分けることができます。
認証済アカウントの審査

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松本:
私たちは、安心・安全にサービスを利用していただくための最大限の取り組みを続けていきます。ですが、インターネット上にはどうしても偽情報がまん延していますし、悪用をたくらむ人も後を絶ちません。

「何かいつもと違うかも?」と感じたときには、すぐに通報していただければと思います。ユーザーの皆さんと協力して、一緒に安全なLINEの環境を築いていきたいと考えています。

不正撲滅に向けたチームの結束

――こうした不正対策を行う中で、皆さんが意識していることは何でしょうか。

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大橋:
このプロジェクトに参加して改めて実感したのは、私たちが非常に社会的責任の大きいプラットフォームであるということでした。だからこそ、高い意識とスピード感を持って取り組むことが、サービスに関わる者としての使命だと思っています。

また、BtoCの視点だけでなく、オーナー側のビジネスを守り、私たちのサービスを正しく使っている人に損失が出ないようにすることも、重要な責務だと感じます。ユーザーとオーナー、双方の利益を両輪で守っていかなければなりません。

グレーのセーターを着た女性が、室内で横を向いて座っている様子です。背景には窓と観葉植物があります。
一条の写真

一条:
使命感はやはり大きいですね。新しい手口が次々に登場するので油断できませんし、対策は早いに越したことはありません。しかし、その一方でバランスがとても大切です。ディフェンシブになり過ぎてオーバーブロックになるのは避けたいです。

やりすぎると利便性を失い、LINEのサービスを正しく活用している人たちに迷惑をかけることになるからです。リスクヘッジと利便性のトレードオフを、慎重に見極めなければならないですね。

――たしかに、LINE公式アカウントを認証済アカウントのみにするといった厳しい規制もできますよね。

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大橋:
極端に言えば、それも可能です。でも、その場合オーナーにとっての使い勝手が犠牲になる可能性もあるので、難しい問題です。

ただ、そのリスクヘッジと利便性のバランスをとることは、プロダクト側のメンバーとの目線は一致していて、意見が対立することはほとんどありませんでした。全員で同じ方向を向いて対策を進められたことは、とても良かったと思います。

――これまでの取り組みにおいて、最も苦労したのはどのような点でしょうか。

大橋の写真

大橋:
プロダクトの目線から言えば、自社の収益性とビジネスオーナーの利益、さらにユーザーの保護という3者の利益をどこまで担保するかというバランスの取り方ですね。そのバランスを探す作業には、細心の注意を払った調整が必要でした。

正しくLINEを使っている人が大多数なので、そのような皆さんの信頼や期待を損なわないよう、透明性のあるコミュニケーションを取ることを心がけました。

一条の写真

一条:
LINE広告は、LINEヤフーのサービス上での広告の掲載面が多いため、まずは各掲載面における広告の出稿状況や不正対策へのニーズを把握することが大変でした。

ですが、社内でも不正対策の必要性についてはすぐに理解してもらえましたし、「早く不正者たちをなくそう」という共通の意識を持つことができていたので、情報収集や対策への意思決定はやりやすかったですね。

――「不正者たちをなくす」という共通目標で、LINEヤフーが一丸になれたわけですね。

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大橋:
今回のプロジェクトでは、企画、開発をはじめ、ビジネス、セールス、さらにデータサイエンスやマシンラーニングのチームが一体となり、多くの人々が組織を超えて一枚岩となったと感じました。

また、LINEアプリ側のチームや他の事業部とも密接にコミュニケーションを取り、どのように取り組むか共有しながら進めることができました。全社的に横と縦の連携を実現した取り組みで、本当に全社一丸となったプロジェクトだったと思います。

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松本:
もともと社内の各部署で専門的に不正対策を実施していましたが、この取り組みでは社内横断的に、部署の垣根を超えて不正対策を実施しようということでスタートしたものです。そのため、各部門が持っていたノウハウや情報が、しっかりと横の連携で共有できたのはこのプロジェクトの大きな成果だと思います。

また、警察庁の統計では昨年のピーク時と比べSNS投資詐欺の認知件数・被害額がともに減少(※2)し、LINEが悪用されるケースも減っています。こうした結果が得られていることも、大きな励みになります。

もちろん、不正者とのいたちごっこになる側面はありますし、相手の手口もどんどん変化し、巧妙になっています。だからこそ、こちら側も継続的に対策を講じていく必要があります。

SNS投資詐欺の結果の表

※2 「令和7年1月末におけるSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」よりSNS型投資詐欺についての結果を抜粋

詐欺被害を減らすために取り組むべきこと

――最後に、今後の取り組みに対してどのような決意や目標がありますか?

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大橋:
この1年、多くの人と連携して有効な対策を実施してきた実感がありますし、実際に定量的な効果も出ているように思います。しかし、これは終わりがない取り組みであるのも事実です。どんどん巧妙化していく不正の手口に対して、それを許さないプロダクトを作ることを目指すマインドが、この1年でチーム全体に育ったと感じています。

このスタンスを大切にしながら、引き続き不正対策に取り組んでいきたいと思います。

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一条:
不正者をなくすための対策やプロダクト作りを続けると同時に、詐欺行為や安全に対する世間の意識を高める活動も、今後力を入れていく必要があると考えています。

例えば、日常生活の中で詐欺や安全に対する気づきを促す啓発活動や、ユーザーの動向に合わせた対策を行い、より多くの人が自分ごととして捉えられるようにしていきたいです。そうすることで詐欺行為に接触しない、騙されない人を増やしていくことが重要だと思っています。

この点についてはまだ改善の余地があり、やれることがたくさんあると感じています。大きな社会的責任を担う立場として、着実に取り組んでいきたいと思っています。

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松本:
今回の取り組みの最大の成果は、数値的な改善だけでなく、社内横断的に不正対策を実施するという意識が高まり、関係者間で共通認識が形成されたことだと思っています。

ですが、私たちのサービスを通じてまだ詐欺に遭われている方がいるのも現実です。たとえ統計上は不正利用の発生件数が減っていたとしても、これに安心することなく引き続き不正対策を進めていかなければなりません。

詐欺の被害者を少しでも減らすためにも、これからもさらに進化した不正対策を目指し、ユーザーの皆さまに安心を提供できるよう取り組んでいきます。

松本、大橋、一条の3人の集合写真

前編では、本プロジェクト立ち上げの背景やLINEのトーク、オープンチャットの取り組みや成果について紹介しています。

関連リンク

取材日:2025年3月5日
※本記事の内容は取材日時点のものです

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