LINEヤフーグループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるZ Venture Capital(以下、ZVC)。2025年1月には、300億円規模の「ZVC2号ファンド」を設立し、グローバルかつオールステージで、有望なスタートアップの発掘、資金やノウハウ共有などの支援を進めていきます。
また、2024年から、スタートアップとLINEヤフーグループの連携・共創の起点に向けたピッチイベント「ZVC Connect」を開催し、イベントを通じてグループとの協業をスタートしているスタートアップもあります。
多くのVC・CVCが存在するなかで、ZVCの強みや特徴とはどんなもので、どのようなシナジーが創出されているのでしょうか。
さらに、生成AIが社会に大きなインパクトを与えるなかで、いま起業家が持っておくべきマインドセットは何か。3人のキーパーソンに聞きました。
湯田:
大きく3点あります。
最初に挙げる最大の強みは、LINEヤフーのアセットにアクセスできる点です。LINEヤフーは数多くのインターネット事業を展開しているため、豊富なナレッジにアプローチできたり、事業開発を一緒に進めたり、さまざまな連携が可能なのは他のVCとは一線を画す部分です。
次に、ファンドサイズの大きさです。300億円のZVC1号ファンドに続き、2025年1月には、1号ファンドと同じ300億円規模のZVC2号ファンドを組成しました。
これにより、継続的かつ大きな支援が行えるのは、VCとして重要なポイントです。
さらに、グローバルなVCである点も大きな特徴です。現在、ZVCは東京のほかにサンフランシスコとソウルに拠点を持ち、それぞれの地域で投資活動を行っています。
たとえばAIなどのテクノロジーでは、アメリカが最先端を行くことが多いです。また、コンテンツやコンシューマー向けのビジネスでは、韓国から発信されるものも少なくありません。
複数の分野で海外の最新情報をいち早く入手できることは、スタートアップを支援する上で非常に大きな強みになると感じています。
内丸:
特にアセット面では、LINEヤフーだけではなく、ソフトバンクグループやNAVERグループとの連携も可能なので、よりスケールの大きな視点でビジネスをプランニングできます。
また、ZVCが少数メンバーのため、グローバルな取り組みにおいても、スピーディーな情報共有が可能であることも大きな強みだと思います。
内丸:
私たちにとって最も大きな変化は、旧Zホールディングスが誕生した時(2021年)だったと思います。2つのVCが一緒になり、投資活動の規模が大幅に拡大しました。
湯田:
メンバーはもちろん、投資先の数もファンドサイズも拡大しました。グローバル拠点の連携が深まり、情報力が強化されました。
たとえば前身の旧YJキャピタルは日本を中心に、旧LINE Venturesは海外に強みを持っていましたから、統合することでグローバルに事業展開したいスタートアップの支援が、よりやりやすくなったと言えます。
湯田:
まず、この取り組みの根底には、「LINEヤフーグループとスタートアップの架け橋になりたい」という思いがあり、その思いからZVC Connectが誕生しました。
LINEヤフー側の視点で見ると、外部パートナーのアイデアやアセットに触れることで、企業としての非連続な成長を生み出すきっかけを作ることができると考えています。
一方、スタートアップ側の視点に立てば、LINEヤフーのような多くのアセットを持つ企業との連携は事業を成長させる有力な手段だと思います。しかし、実際にはアクセスするルートやタイミングがわからないことが多いです。そのハードルを下げることを目的にZVC Connectを活用していただきたいと考えています。
大盛況だったZVC Connect vol.2に参加した起業家のみなさん(前列)と、キャピタリスト(後列)
スタートアップとLINEヤフーグループの連携・共創に向けたピッチイベント~ZVC Connect Vol.1を開催~
亀岡:
ZVC Connectには、LINEヤフーのさまざまなグループ会社が参加していることもあり、協業提案にはぜひ力を入れてほしいと感じています。他方で、外部からはLINEヤフーグループのニーズや課題をつかみづらいことも多いので、内情を知る私たちが協業提案についてサポートしていきたいと思っています。
ZVC ConnectにはZ世代の若い起業家が多数参加している
内丸:
協業を提案するときに、「Win-Win」という点も意識してほしいと思います。スタートアップ側にとって得るものが多い提案になるのは当然ですが、LINEヤフー側のメリットをもう少し伝えていくことで、より身のある提案になるかと感じています。
ZVC Connectにおける私たちの存在意義もそうした提案をサポートすることだと思うので、ZVCがいるからこそできる協業提案を完成させたいですね。
ZVC Connectの後半の交流会では、スタートアップ側とLINEヤフー社員などによって活発なコミュニケーションが交わされる
亀岡:
生成AIの影響は非常に大きいです。2023年頃からこの領域で事業を展開したいと考えるスタートアップが顕著に増えています。しかし、LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)を一から作るのは難しく、特に欧米のスタートアップに対抗するのはなかなか難しい現状があります。
そのため、生成AIを活用して新たなユースケースを創出するアプリケーションやサービス(たとえば、AIを活用したチャットボットや画像生成サービスなど)で勝負しようと考える起業家が多い印象を持っています。
内丸:
アメリカで資金調達を行うスタートアップの大半が生成AI関連で、それ以外の分野はなかなか資金調達が難しいと言われているほどです。日本ではまだそこまで顕著な状況にはなっていませんが、今後はさらにAI活用が進み、ユーザーが気づかないうちに実は裏側でAIが動いている製品やサービスというのが当たり前になるのではないでしょうか。
内丸:
コマース分野では、EC領域への参入の難易度は以前より低くなっていると思います。これも生成AIの影響によるもので、例えばホームページを作成してビジネスを展開する過程で、以前は必要だった細かな工数が目に見えて減っています。AIエージェントの台頭によりこれまでなかなか進まなかったB2BのEC化も進展していくのではないかと考えています。
亀岡:
メディア領域ではいま、コンテンツ関連のスタートアップが非常に盛り上がっています。最近のIPO(新規上場)事例では、カバーやANYCOLORに代表されるVTuber関連のエンタメ事業を手掛ける企業が上場し、大きなインパクトを残しました。
漫画やアニメでも、日本のコンテンツはグローバルマーケットでも人気が高く、海外進出を狙える分野と言えます。また、TikTokのようにZ世代が縦型のショートコンテンツに費やす時間が顕著に増えていることから、既存のコンテンツを縦型やショート動画のフォーマットに適用するモデルが注目されています。
湯田:
フィンテック分野では、家計管理や資産管理の領域が引き続き注目されています。これは、世界的なインフレや日本における賃金の停滞など、将来への不安要素が多くなってきている社会背景が根底にあると思います。
一方でデジタルウォレットや暗号通貨、LLMなどのテクノロジーの進展はそれを解決する手段として活用できる可能性が高いです。節約や投資などお金に関する意思決定やオペレーションを支援するためにAIが活用される世界はすぐそこにあると感じます。
内丸:
大きな産業変革を起こし得る領域、あるいはそれを目指す志の高い起業家と出会い、一緒に伴走していけたらと感じています。
素晴らしい事業を展開している経営者はたくさんいますが、出資できるのはそのうちの一握りです。そのため、大きな変革を実現できる可能性があるかどうかは大切にしたいですね。
湯田:
旧ヤフーはもともと「ユーザーファースト」を掲げ、旧LINEは「WOW」な体験を大切にしてきた企業です。ですから、何よりも「ユーザーにとって圧倒的に便利なサービスを創り出す」姿勢を持っている起業家の方を、応援していきたいですね。
亀岡:
私たちはLINEヤフーの事業部と定期的に情報交換を行っているのですが、その中で現在取り組んでいることや課題、ニーズなどを知る機会が多くあります。そこに支援先のスタートアップが合致する場合、おつなぎすることがよくありますね。
スタートアップ側は、リソースや資金の問題など、何がボトルネックになっているのか、LINEヤフーを相手には言いにくいケースがあると思います。そうした場合、カジュアルに相談できる関係性を築くことで、最終的にLINEヤフーのサポートを得て提携に至るケースもあります。
内丸:
VCとしては上場してリターンを得ることが成功だと思いますが、一方で、事業連携が成立してLINEヤフー側の事業が前進することも、私はシナジーの観点から成功だと考えています。
亀岡:
「意思決定と施策実行のスピード」が重要だと感じています。
私たちは月に1度の頻度で事業の進捗報告を受けることが多いのですが、その間に何を考え、何を決定し、どんな施策を実施して検証しているのか、そのスピード感は企業によって異なります。毎回、多くの検証結果を持ってくる起業家は、たとえ困難なことに直面したとしても、強く乗り越えていくことが多いです。
そうした企業は採用も上手ですね。強い組織をつくることも重要です。
湯田:
私は「貪欲であること」が大切だと思っています。身近で見ていて、常にビジネスチャンスや採用の機会を探し、自分の日々の活動に対するフィードバックを求め続けているような人は、成長速度が速いと思います。
その最たる例が、孫正義さんや前澤友作さんじゃないでしょうか。あれだけ成功していてもやりたいことがまだまだあり、挑戦を楽しみ続ける姿勢は、そうした貪欲さの表れだと思います。
内丸:
私は、「誠実さ」を挙げたいです。さまざまなステークホルダーがいる中で、それぞれに対して誠心誠意向き合える人は、本当に魅力的ですね。
誠実ではなくても成功する人はいるとは思いますが、「一緒に頑張りましょう」と言いたくなるのはやはり誠実な人です。
湯田:
私は学生時代にiPhoneやSNSに触れて、その体験が衝撃的だったから自分でサービスを創りたいと考えるようになりました。いまもその思いは変わらず、ITの力で世の中を便利にする事業に関わり、社会課題を解決したい、と強く思っています。ぜひその一助を担えれば嬉しいですね。
内丸:
実は私の家族では、母親が60歳前後で起業しています。また、親友にも起業家がいて、そういう志の高い人たちと同じ船に乗ってサポートしたいという気持ちから、いまこの立場にいます。
起業家の皆さんの苦労や重圧は計り知れませんが、可能なかぎり寄り添って支えられたらと思っています。
亀岡:
私は前職で投資先のCFO(最高財務責任者)を務めた際に、経営者の重圧を肌身で実感しました。だからこそ、起業家の皆さんをリスペクトしていますし、今後もVCとしてぜひサポートさせていただきたいと考えています。LINEヤフーのアセットを最大限活用して、素晴らしいアイデアを持つ会社とコラボレーションして、世の中に大きな影響を与えられるよう、一緒に伴走していけたらと思います。
今回の記事を通じて、ZVCのメンバーと話したい、相談したいという方がいましたら、カジュアルな形で大丈夫ですので、ぜひご連絡をください。
取材日:2024年11月29日(2025年1月14日内容一部追記)
※本記事の内容は取材日時点のものです。