能登・支援者向け宿泊施設サイトを開発 地震復興を支える #LINEヤフーのプロボノ
今年1月1日に発生した能登半島地震から、まもなく1年が経とうとしています。支援活動を行う組織から協力要請を受け、LINEヤフーは「プロボノ(※1)」として被災地支援に取り組んでいます。
今回は、能登半島での宿泊施設情報サイトのリリースをサポートしたプロボノ活動をご紹介します。プロボノ活動に参加したLINEヤフーの今谷と、能登DMC合同会社のマネージャー、小山さんが対談。どのようにプロボノ活動を進めたのか、プロボノ活動を進める上で大切にしたい考え方などを聞きました。
※1 プロボノ:
「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」が語源。「社会的・公共的な目的のために、職業上のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動」のこと。
今回のプロボノ活動の経緯:
能登半島地震で被害を受けた宿泊施設の中には、一般観光客の受け入れはできないものの、復旧工事の作業者やボランティア、各自治体からの応援派遣職員が宿泊できる施設が多数あります。しかし、これらの情報はオンライン上にほとんど掲載されていないため、あまり知られていません。
その結果、支援者は金沢市に宿泊することが多く、能登までの往復に時間がかかります。このため、実際の作業に充てられる時間が短くなり、復興が遅れる要因の一つとされています。今回の宿泊施設情報サイトの開発は、このような課題の解決を目指して実施されました。
- 小山 基(こやま はじめ)さん
- 能登DMCのCMO。インバウンド向けのツーリズムとして、欧米やオーストラリアからのサイクリングツアーを受け入れている。「のと100プロジェクト」を通じて震災後の能登の観光PRを推進し、地域と外部を結ぶイベント開催など、多岐にわたる活動を展開。
- 今谷 祐通(いまたに ひろみち)
- 2016年、ヤフー株式会社(現:LINEヤフー株式会社)に中途入社。広告領域の開発を経験したのち、2020年よりSWATチームに異動。新型コロナウイルス対策案件や東京オリンピック案件、会社合併に伴う案件など、全社横断で技術支援を行う。
能登半島地震から1年、宿泊施設情報サイトをリリース
――今谷さんは今回、どのようなきっかけでプロボノの活動をしようと思ったのですか?
以前からエンジニアとして社会貢献に興味があり、何かできることがあればと思っていました。今回はサイト開発の募集があり、これなら自分にできることがあるかもしれないと思い、参加を決めました。
実は、2024年1月に石川県庁を訪問し、Suicaを用いた避難所の入退室管理を行う準備を進めました。当時は技術的な課題が多く、現場には技術に詳しいメンバーが少なかったため、私たちがサポートできることがあればと考えていました。また、LINEヤフーのエンジニアとしてどのような支援が可能かを視察しました。
その経験をチーム内で共有したところ、多くのメンバーが興味を持ってくれたので、次にプロボノの募集があったら一緒にやろうと声をかけました。今回のプロボノ活動には、SWATチームから5名が参加し、私以外は新卒2年目や3年目の若手メンバーです。
――小山さんは、LINEヤフーにどのような役割や効果を期待してお声がけいただいたのか教えてください。
LINEヤフーさんに期待していたのは、私たちではできないシステム開発をスピーディーに進めてもらえることでした。
能登の宿泊施設は、民宿や小さな個人経営の宿が多いのですが、そうした施設でもLINEは家族との連絡手段として普段からよく使われています。そのため、今回は「誰もが使い慣れたLINEを利用して支援者向けの宿の空き状況を簡単に更新できるシステム」の開発をお願いしました。
スピードについてですが、当初は「2カ月くらいでお願いします!」という、少し無理なお願いをしていました。キックオフが9月2日で、正式なサイト公開は12月1日でしたが、システム自体はもっと早く完成していました。しかも勤務時間外で開発していただいたので、そのスピードには本当に驚きましたね。
――今回開発したサイトについて、もう少し詳しく教えてください。
このサイトは、支援者向けの宿泊施設が空いているかどうかを○×で表示できるものです。以前は、能登半島広域観光協会が個々に電話で確認していたので、とても手間がかかっていました。宿泊可能かどうかの情報更新も、早くて1週間に1回程度しかできなかったんです。
今回開発していただいたシステムでは、各宿泊施設の方が自分たちで変更したいときに、LINEを使っていつでも簡単に情報を更新できるようになりました。
LINEを更新ツールに選んだ理由は、宿泊施設の方々、特に地域にお住まいの高齢者でも使いやすいと考えたからです。スマホをあまり使わない方でも、お孫さんとのやりとりにはLINEを使っている方が多くいらっしゃいました。そのため、どんな方でも使いやすいようにLINEで登録できるシステムの開発をお願いしました。
――他にはどのようなことを意識されたのでしょうか?
デザインをできるだけ以前のものに合わせました。あえてサイトのデザインを変えなかった理由は、見慣れたものが大きく変わることで違和感を抱く方もいると考えたからです。また、多くの宿泊施設が並んでいる中で、スクロールして最後まで見る必要があると、トップに出る宿をシャッフルで変えるなどの配慮も必要です。そのため、宿の情報がすべて一覧で見られるようにしました。
支援者向け宿泊施設 空室状況
支援者向け宿泊施設情報サイト リリース後の反応は?
――リリース後、使ってくださったみなさんからの反応はいかがでしたか?
リリース前にテストページを共有していたので、リリース後はすぐに情報の入力がスムーズにできたとみなさんから聞きました。システムは年配の方でも使いやすいように設計されていたので、説明会では「こんなに簡単にできるんだ」という声が多く聞かれましたね。
――今谷さんは、開発する上で意識したところはありますか?
たとえば、UIであればリテラシーが高い人でも低い人でも一目でわかることを重視しました。このようなUIは非常に難しく、正解があまりないんです。たとえば、「空きあり」「満室」を色だけで判別させて良いのかどうかなど、そういった点が課題だと感じました。
運用に関する説明資料も私たちが作ったものです。業務でもこのような資料をよく作りますが、今回は特に、普段システムにあまり触れていない方にわかるように意識しました。エンジニアには開発スキルだけでなく、デザインスキルや文言の選び方、システムを使う方への説明スキルも重要だと改めて感じました。
初期設定はシンプルで、空室状況の登録も簡単にできる。部屋ごとの空き状況をクリックひとつで登録可能。日付が並んでおり、「空きあり」を押すと満室に切り替わり、サイト上で×が表示される
プロボノ活動の進め方、工夫したこと
――SWATという業務上、急な依頼に対応することには慣れていると思いますが、今回はどのようにサイトの構築を進めていったのですか?
今回、システムの設計やUIも含めて、すべて私たちが担当しました。
業務時間外や週末にメンバーで集まる時間を作り、「もくもく会(※2)」を開催していました。そこで決めるべきことはしっかり決めて、各自の作業部分を担当し、最後に私がレビューをするという流れで進めました。DMCさんとは、毎週火曜か水曜に定例ミーティングを行い、その後に私たちは残って作業を進めるという形で進行しました。
※2 もくもく会:
参加者が自分の作業に集中して黙々と取り組むための集まり。特にプログラミングや執筆など、個人の作業が多い分野でよく行われる
――小山さんは、今回SWATのメンバーと取り組まれて、進め方に対して工夫されたことなどありますか?
SWATの皆さんとの進め方で工夫した点は、現地側にもシステムを使える人をプロジェクトメンバーとして入れたことです。
システムが完成しても誰も使えないと困るので、サポートとして1人参加してもらいました。また、連絡は常にSlackで行い、運用中に出てくる課題も、すぐに共有できるようにしていました。
――では、プロボノ活動をしたいなと思ったときに、事前に知っておいていただきたいことがもしあれば教えてください。
私たちも悩んでいることですが、現地の人々は、課題に対してどのようなスキルが必要なのかを理解していないことが多いです。課題やリソース不足の中で、それを解決するのがシステム開発なのか、プロジェクトマネジメントなのかがわからないんです。
「何に困っていますか?」と聞かれても答えにくいので、プロボノで関わっていただく際は、まず「こういう支援ができます」と提案していただけると、お願いしやすくなるかもしれません。LINEヤフーのプロボノでは、事務局の皆さんが事前に私たちの要望を整理してくださったので、とても助かりました。
――今谷さんは、エンジニアの同僚からプロボノ活動をしたいと言われたら、どのようにアドバイスしますか?
まず、臨機応変に動き方を変えたり、自分たちで仕様を決めて柔軟に進めたりすることが大事だと思います。
また、自分はもともとこういう活動が好きで、個人でもOSSや社会貢献的なプロジェクトに関わってきたので、その経験が役立っていると感じます。いざというときにすぐ動けるように、普段からスキルを磨き、ときにはハッカソンに参加して自分の限界を知るなど、普段からの基礎づくりが重要だと思っています。
プロボノ活動の意義と今後の展望
――小山さんがLINEヤフーのプロボノに期待されることは他にありますか?
今回、プロボノのみなさんにお願いして、本当に短期間で良いものができたと思っています。能登ではシステム開発ができる人材が圧倒的に不足しているので、こうした取り組みが進むと、いろいろな課題が解決できそうだと感じています。またお力をお借りできるなら、ぜひお願いしたいですね。
今後、また地方で災害が起こる可能性は高いと思いますが、今回得たノウハウは、次にどこかで被災したときに役立つのではないかと考えています。一般の人は泊められないけれど、支援者なら泊められる宿泊施設は、復興の初期にとても重要です。その情報を把握する仕組みとして、今回作ったシステムは非常に有効ですし、この事業だけで終わらせるのはもったいないと思っています。
――今谷さんは、プロボノ活動でこれから取り組みたいと考えていることはありますか?
プロボノの活動に興味はあるけれど、一歩を踏み出せないエンジニアは多いと思います。そうした人たちをサポートしたり、後押ししたりできたらいいなと思っています。進める中で感じる課題や困ったことに対してフォローできる取り組みがあると良いですね。
今回、多くのSWATメンバーが参加してくれました。この経験をもとに、今後は彼らが私に代わってプロジェクトマネジメントの役割を担うことができるのではないかと思っています。
そして、プロジェクトを推進できるエンジニアが増えることで、LINEヤフー内でこの活動がさらに波及していくのではないかと期待しています。
今回参加したSWATチームのメンバー。後列左から奥村、今谷 、杉山、前列左から祐村、早坂
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取材日:2024年12月4日
※本記事の内容は取材日時点のものです
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