LINEヤフーは、2023年10月にLINEやヤフーなど5社の合併を含むグループ再編を実施して以来、事業の進行をスピードアップしてきました。
2024年6月18日には、LINEヤフーとして初の株主総会を開催。ガバナンス体制を強化するため、社外取締役が過半数を占める新しい経営体制も承認されました。
2023年度の業績を踏まえ、これまでの取り組みをどのように評価し、次のステップに向けてどのような計画を立てているのか。そしてセキュリティやプロダクトの基盤をどのように再構築し、成長につなげていくのか。CEOの出澤剛に聞きました。
合併方針の決定からこれまでを振り返ると、かなりタイトなスケジュールでしたが、予定通りにLINEヤフーが新会社として立ち上がりました。また、各事業の売上成長やコスト最適化など、みなさんの大きな努力があって、決算でもこれまでにない好業績を達成する大きな成果となりました。
一方、2023年10月に発生した不正アクセスによるセキュリティインシデントにより、ユーザーおよび関係者の皆様に大変なご迷惑をおかけしました。現在、セキュリティとプライバシーの基盤の再構築と強化を最優先の課題として、日々取り組んでいます。
LINEヤフーの社員のみなさんに対しても、統合が進む重要な時期に、このような問題が発生して推進力を削いでしまったことについて忸怩(じくじ)たる思いがあります。この問題を少しでも速く解決し前向きな状況にするために、私自身もこの取り組みにハンズオンでコミットしています。
サービス成長の観点からは、まだ基盤が整ったばかりで、これをどのように活用して成長を遂げるかが次の重要なステップとなります。
また、東京のメインオフィス拠点も統一され、(連結で)28,000人を超える大きな組織でありながら、リモートワークを前提に、必要に応じて対面の機会も組み合わせる「新しい働き方」を模索しています。この働き方を通じて、新しいサービスを次々に生み出していける組織体制やカルチャーを作り上げていきたいですね。
それまでLINE、ヤフー、Zホールディングスなど、それぞれ独立した組織体でしたが、合併によりシンプルな組織構造となったことで、経営の意思決定が大幅に速くなりました。
これにより、選択と集中の原則を迅速に実行し、LYPプレミアムなどの個別施策の進捗も早めることができました。また、サービスの成長性と実際の収益性などを見ながら、事業責任者の裁量で進捗を図る体制に変更しています。
ただ、組織の融合はまだ途中で、頂上までの道のりはまだ2合目、3合目だと思っています。経営体制だけでなく、サービスの作り方も、さらにアップデートが必要です。
2024年6月からは、経営と執行の分離を行います。ガバナンスが非常に重要な局面にあるため、私と会長の川邊さんが、取締役としてガバナンスの役割をより強く担います。取締役を退任する慎さんはCPO(チーフプロダクトオフィサー)、桶谷さんはCSO(チーフストラテジーオフィサー)として、事業やサービス作りに集中してもらいます。
これからも、私たちは会社を取り巻く状況に合わせて進化し続けていきたいと思います。
LINEとヤフーのアカウント連携は統合以来、シナジーをより発揮するために追求してきた重要な目標でした。この連携が実現したことで、2023年11月末にはLYPプレミアムをリリースできました。
2024年1月からのキャンペーン効果で早速、ユーザー数が大幅に増加しました。特に、これまでYahoo!ショッピングを利用していなかったLINEユーザーが新たにサービスを利用するようになった流れを確認できたことは、まずは好調なスタートを切れたと言えます。
さらに、使い放題のLINEスタンプも好評です。サービスをより魅力的にし、価値を高めるために、特にLINE系の機能特典をどんどん追加していきます。友だちと楽しくオンラインで一緒に写真を撮ることができる新機能(※)や、ユーザーからの要望が高いバックアップ機能などもあります。
また、コマース体験をより便利に、使いやすいサービスに磨き上げることで、LYPプレミアムの実際の会員数を増やすことも目標です。さらに、グループ内のさまざまなサービスをクロスユースで回遊するような基盤を作り上げていきたいですね。
昨年起きた事案の契機は第三者による不正アクセスでした。私たちのようなIT関連サービスを提供している企業は、常にさまざまな脅威にさらされています。
今回、大きな課題となったのは、以前LINEの親会社だったNAVER社とLINE社との間に長期間にわたり密接なシステム連携があったことでした。
その結果、共通化されていたシステムが不正アクセスの経路として利用されてしまいました。適切に分断できるポイントがいくつかあったにも関わらず、それが実行されなかったことも問題でした。全体的に見て、より徹底したセキュリティ体制を構築し、リスクに対して検証して対策を打つ体制が整っていなかったことが、非常に大きな反省点であり、原因です。
現在、再発防止に向けて、NAVER社とのネットワークの分離、安全管理措置の強化、業務委託関係の整理などを進めています。しかし、これからも新しい課題は常に出てくる可能性があるため、それをしっかりと把握し、迅速に対策を打てる体制の構築が重要です。
この経営体制の変更には、主に二つの目的があります。
一つ目は経営と執行の分離、そして二つ目は、社外取締役を過半数にすることで、より透明性の高い意思決定を行うことです。
新任の社外取締役、髙橋祐子さんは、複数の大企業で取締役を経験し、公認会計士としても財務・会計のプロフェッショナルです。また、グローバルなガバナンス領域でも豊富な経験を持っています。
全体としてのガバナンスを強化することが、今回の取締役会の変更の主な目的であり、それと共に経営と執行の分離を通じて、事業の進行をよりスピーディに進めていくことを目指しています。
私自身が委員長として直接コミットし、取り組んでいるセキュリティガバナンス委員会では、根本的な問題の整理と進捗管理の両方について議論しています。
およそ週に3回は定例の会議で進捗管理に関する議論を行い、残りの週2回はより根本的な問題の整理に時間を割いています。これらの議論には複雑なプライバシー、セキュリティ、法務、事業の観点が含まれており、多面的な視点から考える必要があるため、意思決定は難しいものが多いですね。これらの議論は、あえて終了時間を決めずに関係者全員が週2回行っています。
その中の議題としては、全体としてのセキュリティレベルの向上方法、新しいルールや基準の設定、NAVER社に対する委託の終了に関する具体的な議論などがあります。また、全体の委託先管理の在り方をさらに高度化するための議論なども集中的に実施しています。
サービス連携の基盤が整いましたので、これからはサービスの起点を強化し、サービス成長につなげていくための施策を進めます。その一環として、今回、Yahoo! JAPANアプリとLINEアプリは久しぶりに大型リニューアルを行います。
Yahoo! JAPANアプリについては、ユーザーの情報取得方法が変化しており、これまで以上にリアルタイム性が求められています。そこで、今話題になっている検索ワードを把握できるトレンドタブや、自分だけの機能に焦点を当てられるタブを新たに設定し、ユーザーのニーズにより適合したアプリへと刷新します。 これにより、ユーザーがより積極的にアプリを利用し、さまざまなLINEヤフーサービスを連続して利用することを促進します。
一方、LINEアプリのリニューアルでは、購入体験につながるショッピングタブと、地域情報につながるプレイスタブを新設します。他社の事例を見ても、韓国や中国のITサービスなどにおいて、チャットからコマースへの流通量が急速に増加しています。
LINEでも、LINEギフトの利用が伸びているため、大きな成長の可能性を秘めた取り組みだと考えています。
どちらのアプリも幅広い世代のユーザーに利用されており、既存のUI(ユーザーインターフェース)に慣れているユーザーも多いため、リニューアルは慎重に実施する必要があります。 両アプリのリニューアルを通じて、社内やグループ内の各サービス間でのクロスユースを促進し、その基盤となるLYPプレミアムからのサイクルを作り上げたいですね。
※Yahoo! JAPANアプリは、7月に第一弾、第二弾のリニューアルを実施済み
生成AIについては、社会的な議論が多くなされています。LINEヤフーとしては、さまざまなサービスが展開されており、それぞれが得意とする分野や不得意とする分野があります。それらを適切に識別し、適切な用途に使用することが重要だと考えています。
アメリカをはじめとする海外のプレイヤーとの対話を通じて、一番のニーズは、ローカルの最新のデータやユーザー接点など、各国のさまざまなデータベースであることが分かっています。これらのニーズに対応するため、私たちはマルチベンダー戦略を採用し、最適なパートナーと提携を模索しています。
私たちの強みは、豊富な日本のデータと、数多くの日本のユーザーとの接点を持っていることです。この利点を活かして、ユーザーに最適化した形でサービスを提供し、実装していきたいですね。
23年度には16以上の新サービスや新機能を実装しましたが、一部はうまくいき、一部はユーザーニーズが十分に満たされなかったという結果もありました。しかし、生成AIの機能自体は日々進化しており、その進化が続くことで、24年や25年には一般ユーザーが日常的に「これはすごい!」と感じるようなサービスが登場すると考えています。
私たちLINEヤフーのアプローチで、生成AIを活用したサービスの必然性を示し、サービスの成長につなげていきたいと思います。
生成AIの進化により、5年、10年後には、IT業界だけでなく、産業のあり方自体が大きく変わると予想されます。LINEヤフーが掲げるライフプラットフォームもさまざまな形に進化していくでしょう。私たちは、その変化を作り出す会社であり、組織でありたいと考えています。
そのため、最新の技術をいち早く取り入れ、新しいUIを提供することが求められています。たとえば、予約や購入といった行動は、現在のウェブインターフェースから、チャットや音声といった新しいUIへと変化していく可能性があります。そのような未来をどう作り出すかが、重要な課題になるでしょう。
LINEヤフーは、多くのユーザー接点と、コンバージョン(Webマーケティングにおける最終的な成果)ポイントを持つ会社です。チャットや検索といった入口のUIも変化しつつ、引き続き使われていくでしょう。これからの時代においては、入口と出口を持つことが、さらなる強みとなると思います。
能登半島での地震が起きたのは元日の夕方でしたが、社内の各部署はすぐに対応にあたりました。ニュースの配信や募金活動などが大きな役割を果たし、また、現地ではLINEのオープンチャットが活用されました。
私たちが社会にとって必要な存在であることを再認識し、社員一人ひとりがその責任を果たそうとする姿を心強く思いました。
ヤフーは、情報提供のプラットフォームや検索エンジンとして、「UPDATE JAPAN」や「課題解決エンジン」を掲げ、日本の社会課題に対応できるように取り組んできました。
また、LINEも3.11の東日本大震災が契機となって誕生した経緯もあり、過去の震災時にも各自治体と協力して災害情報の発信などに対応してきました。
新たに誕生したLINEヤフーも、このような社会価値の提供に引き続きコミットし、社会に貢献し続ける会社でありたいと、あらためて感じています。
企業価値を上げていく中で、プロダクトドリブンな姿勢を保ち続けたいと考えています。LINEヤフーのミッションは、「『WOW』なライフプラットフォームを創り、日常に『!』を届ける」ことです。そのため、私たちは人々の生活に寄り添い、日々をより楽しく、便利にすることを目指しています。
そして、ビジネス観点だけではなく、常にユーザーを中心に考え、ユーザーが喜びや便利さを感じ、楽しい時間を過ごせるサービスを提供することが私たちの目標です。これからも変わらず、ユーザーから評価していただきながら、企業としても持続可能な成長を実現していきたいと考えています。
変化への対応は、会社として最も重要な要素です。現在、強固に見える事業であっても、その事業の寿命はどんどん短くなっていくからです。特にIT産業では、この傾向が顕著です。
イノベーションのジレンマに陥ることなく、守るだけでなく、攻めなければなりません 。そして変わらないことよりも変わることに重きを置きながら経営を行っていく必要があります。
そのためにも、社員一人ひとりが生き生きと協力しながら挑戦できる環境を作り上げていきます。そして、引き続き、統合以来の目的であるグローバルな成長に向けた取り組みを進めていきます。
取材日:2024年6月7日
※記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。