ビッグデータで振り返る第27回参院選

政治・選挙

2025年720日、第27回参議院議員通常選挙(以下、参院選)が行われました。今回は、LINEヤフービッグデータレポートチームが投開票に先立ってリリースした選挙予測の検証をしてみましょう。

合わせて慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)でLINEヤフー寄付講座を受講している学生のみなさんの予測もご紹介します。

最初に、選挙結果の確認です。与党である自民と公明が議席数を減らし、野党では国民民主(以下、国民)と参政が躍進しました。

(図1)第27回参院選の結果

第27回参院選の改選前議席数と改選後議席数を比較した棒グラフ。その右側に改選前後の差分を示している。

予測の一致率

まず予測の一致率を確認してみましょう。一致率は「政党ごとの実績と一致した予測議席数の和÷改選議席数」で算出しています。今回のLINEヤフー予測は、比例代表で92%、選挙区で77%、合計84%の一致率と、主に選挙区でのズレが影響して従来予測より低い一致率にとどまりました。

また、SFC学生予測は比例代表で96%、選挙区で88%、合わせて85%の一致率で、なんとLINEヤフー予測をわずかに上回る結果となりました。学生にとって初めての選挙予測であるにもかかわらず、なかなかいい結果を得られました。

(図2)第27回参院選 予測と結果

第27回参院選の比例代表・選挙区・合計におけるLY予測・学生予測・実際の結果を政党別に棒グラフで比較。予測一致率も記載。

実は学生ごとの予測値にはばらつきが大きかったのですが、これらクラス平均を算出したところ、実績値に近い結果となった次第です。これもまた「データの力」と言えるのかもしれません。今後も、学生の皆さんにデータを通じて社会課題に触れていただく機会を設けられればと思います。

(図3SFC学生予測(比例代表)のクラス分布

第27回参院選比例代表におけるSFC学生予測の政党別クラス分布を箱ひげ図で表示。予測の分布の幅が広いことがわかる。

ここからは、LINEヤフー予測と実績の乖離がなぜ従来予測よりも大きかったのか、検証していきます。

注目度と得票コンバージョンの動き

使用した予測モデルを以下に示します。

得票数予測(指数)=インターネット上の注目度✖️盛り上がり度✖️得票コンバージョン(票へのつながりやすさ)

インターネット上の注目度は政党に関する検索数から算出しています。盛り上がり度とは、公示前の注目度から公示中の注目度を予測する変数です。過去の分析より、公示中のインターネット上の注目度と得票との相関関係がわかっています。そこで、まず盛り上がり度により公示中の注目度を予測し、さらに得票コンバージョンによって得票数予測を行います。変数はいずれも過去の国政選挙から算出します。なお、公明党は過去の分析結果より、注目度に影響されず一定の得票率の幅の中で変動する傾向が見えていたため、上記モデルを適用せず得票率による予測を行いました。

(図4)予測モデルの説明

予測モデルを注目度の盛り上がり度と、得票コンバージョンの2段階で図示した説明。盛り上がり度は公示前の注目度から公示中の注目度を推定するもの。得票コンバージョンは、注目度から得票へのつながりやすさを表す。

今回の選挙での注目度と得票率です(図5)。全体の相関は弱いですが、政党により傾向に違いがあるようです。自公や立憲、維新などの既存政党は、注目度の割に得票数につながりやすい、つまりコンバージョンが高いことがわかります。一方、参政は逆に注目度が高くコンバージョンは低かったことがわかります。国民やれいわはそれらの中間に位置しています。

(図5インターネット上の注目度と得票率

2025年参院選における各政党のインターネット上の注目度と得票率との関係を、比例代表と選挙区ごとに散布図で示したもの。注目度が高くても得票率に必ずしも比例しないことが見て取れる。

主要政党の注目度の変化を見てみましょう。盛り上がり度が大きかった立憲、維新、国民は、投開票日直前の注目度も大きく跳ねていました。なお、参政は注目度自体は高かったものの選挙前の爆発的な盛り上がりは見られませんでした。

(図6)主要政党のインターネット上の注目度

図6は、主要政党のインターネット上の注目度(日別変化)を、「公示前平均=1」として時系列で可視化したグラフと、「公示中÷公示前」の盛り上がり度を示す棒グラフを併記。立憲、維新、国民が高い盛り上がりを示す一方、公明は最も低かった。

次に、過去の国政選挙における盛り上がり度の推移です。中期的に見ると、野党はおおむね上昇傾向です。今回の予測には2024年衆院選の盛り上がり度を適用しています。2024年衆院選と今回の実績を比較したところ、国民が予測より下回っているものの、総じて盛り上がり度の予測に大きなズレはなさそうです。また、参政の盛り上がり度は高めであるものの2019年参院選におけるれいわのような爆発はなかったことが見て取れます。

(図7)主要政党の盛り上がり度の推移

主要政党の「盛り上がり度(公示中注目度÷公示前注目度)」の推移を、衆院選(黒)と参院選(白)の比較で政党別に折れ線グラフ化。立憲・国民・維新では参院選にかけて盛り上がりが増加。一方で、自民や公明は比較的安定または低下傾向が見られる。

続いて得票コンバージョンの変化です。図8は、自民のコンバージョンを10とした場合の相対的な指数で表しています。政権与党である自民のコンバージョンは引き続き最も高い結果です。比例代表と選挙区に共通する傾向として、立憲、維新、共産ら既存野党のコンバージョンが下がる一方、国民、れいわ、参政は比例では維持、選挙区では伸長しており、野党の中でも傾向が分かれました。コンバージョンは概して既存政党では高く比較的新しい政党は低い傾向がありますが、今回の結果では、その差がやや縮まったと言えそうです。

(図8)政党の得票コンバージョン(自民のつながりやすさを10とした指数)

各政党の「得票コンバージョン」(検索注目度から得票につながる割合)を、自民党のつながりやすさを10とした指数で示す折れ線グラフ。比例代表と選挙区別に推移を比較している。データ期間は2012年衆院選~2025年参院選。

では盛り上がり度とコンバージョンの予測と実績の差を改めて確認してみましょう(図9)。コンバージョンは図8と同様、自民を10とした指数で表しています。公明は予測にこれらの指標を使用していないため参考値です。

盛り上がり度では、国民が予測より低かった以外は、大きなズレはありませんでした。比例コンバージョンでは野党はいずれも予測を下回ったものの、下ぶれの大きい立憲、維新、共産と、微減にとどまった国民、れいわ、参政に分かれました。選挙区コンバージョンにおいても立憲、維新、共産では予測よりマイナス、国民、れいわ、参政ではわずかながらプラスにぶれていました。

以上から、特定政党の読みを大きく誤ったというより、既存政党のコンバージョン低下と新興勢力のコンバージョン微増が合わさった結果、予実のズレが生じたと考えられます。

(図9)盛り上がり度と得票コンバージョンの予実

主要政党ごとの「盛り上がり度」「比例代表コンバージョン」「選挙区コンバージョン」について、予測値と実測値の差を棒グラフで示す。コンバージョンは自民を10とした指数で算出。立憲・維新などはコンバージョンの予測に誤差が見られる。

選挙区の得票率をエリア別に見ると

ここで選挙区の得票率を確認してみましょう。図10は都道府県を自公の得票率降順に並べたものです。全国での自公の得票率平均は30%でした。自公の得票率が低かったエリアは京都、大阪、兵庫、和歌山と近畿圏に集中しています。なお、大阪での維新が与党的な立ち位置にいることについては、過去分析(第50回衆院選選挙をビッグデータで振り返る 〜大阪編〜)をご参照ください

(図10)第27回 参院選 都道府県別の得票率(自公降順)

第27回参院選における都道府県別の得票率を自民・公明(与党)得票順に並べた積み上げ棒グラフ。与党得票率が50%以上の県は2県、30%未満は12都府県。立憲、維新、参政などの得票分布も可視化されており、地域ごとの政党支持の違いが示されている。与党平均得票率は30%。

同じデータを、参政降順に並べ替えてみましょう(図11)。参政は複数区で議席を獲得しており、必ずしも得票率が高いエリアで勝ったわけではないことがわかります。

(図11)第27回 参院選 都道府県別の得票率(参政降順)

第27回参院選における都道府県別の得票率を参政党の得票順に並べた積み上げ棒グラフ。参政党の得票率が20%以上の県は17県で、講席獲得選挙区も網掛け表示。一方、16%未満の地域も16あり、得票率には地域差が見られる。他党(自公・立憲・維新など)との構成比も併せて可視化。

同じく国民で並び替えてみましょう(図12)。得票率の全国平均は擁立のなかったエリアを除外して算出しています。国民は複数区だけでなく一人区でも議席獲得に至りました。

(図12)第27回 参院選 都道府県別の得票率(国民降順)

第27回参院選における都道府県別の国民民主党の得票率を降順に示した棒グラフ。得票率30%以上の県は3県、17%以上が12県、17%未満は7県で、残る25県では擁立がなかった。網掛けは国民が議席を獲得した選挙区を示す。

公明党のセオリーは崩れたのか

過去の国政選挙分析により、公明党はなぜか注目度に左右されず一定の得票率の幅の中を変動する傾向が見えていました。しかし前回からやや下降傾向にあり、今回は直近10回の中で最も低い8.8%を記録しました。これが一時的な低下なのか、従来の傾向が崩れつつあるのかはまだはっきりしませんが、興味深い局面と言えるでしょう。

(図13)参院選の公明党の得票率(比例代表)

過去の参院選における公明党の比例代表での得票率推移を示した折れ線グラフ。第18回から第27回までのデータが記されており、近年は得票率が徐々に低下傾向にあり、第27回では過去最低の8.8%を記録。安定していた中間期と比較して注目される変化が見られる。

まとめ

  • 今回の選挙予測では主に選挙区で外したため、一致率は低めに止まった
  • 参政の注目度は高かったものの初期のれいわのような爆発的な盛り上がりは見られなかった
  • 自民、立憲、維新、共産の得票コンバージョンが低下し、参政や国民は微増。既存政党の相対的立ち位置の低下により、複数人区を中心に参政や国民が議席を獲得した
  • 公明党の得票率は直近10回の参院選で過去最低となり、これまでの一定範囲内での変動とは異なる傾向が見られた

今回は参院選予測の検証を通じて、現在の政治状況に起こっている変化をデータで確認してきました。LINEヤフービッグデータレポートはデータの力強さと面白さをお伝えするべく、今後もさまざまな社会課題に関して考察していきます。これからもLINEヤフービッグデータレポートをよろしくお願いします。

Page top