あります。救急医の立場から言うと、夏の暑さだけでなく、冬の寒さにも注意が必要です。実は、病院が忙しくなるのも冬なんです。
「医師と気象予報士、両方の資格を持っている方がいる」と聞いて、まず思ったのは「どれだけ勉強が好きなのですか?」「なぜ両方の資格を取ったのですか?」でした。
でも、お話を聞いてみると、気になったのはそこではなくなりました。
夏の暑さだけでなく、冬の寒さも命に関わる。
紫外線は、ただ避ければいいわけではない。
「低気圧で頭が痛くなる」は、本当に天気のせい?
ときには、雨雲の動きを読むことが離島から患者を搬送する判断にも関わる。
医師と気象予報士。2つの専門性を持つお二人に聞いてみると、普段何気なく見ている天気予報と健康の間には、意外な関係がありました。天気予報を、自分や大切な人の健康のために役立てるヒントをうかがいました。



徳田さん
あります。救急医の立場から言うと、夏の暑さだけでなく、冬の寒さにも注意が必要です。実は、病院が忙しくなるのも冬なんです。

徳田さん
それだけではありません。冬は心疾患や脳卒中も増えます。特に冷え込んだ朝は救急車の要請も増えるので、「今日は仕事が大変になりそうだな」と感じることがあります。
救急医として働いていると、寒さが命に直結することを日々感じます。
実際、気温と死亡率の関係を調べたデータを見ると、暑いときよりも、寒いときのほうが死亡率が上がっています。僕自身、これは医師になってから知りました。
そして意外なのは、「寒い地域ほどリスクが高い」とは限らないことです。
北海道などの寒冷地では、断熱や暖房など、冬の寒さへの対策が進んでいます。
一方、比較的暖かい地域では、寒冷地よりも室温が低く、冬場の死亡率も高い傾向にあることが知られています。こうした住環境の違いも、寒さによる健康リスクに関係しているのではないかといわれています。

徳田さん
そうなんです。WHOでは、冬場の室温を18度以上に保つことを推奨していますが、日本の住居ではほとんど達成できていないのが現状です。
夏は「エアコンを使いましょう」「水分を取りましょう」と盛んに呼びかけられますが、冬は「暖かくしてお過ごしください」くらいにとどまることも多いですよね。
でも、寒さを我慢すると交感神経が活性化して血圧が上がり、その状態が続くことで心臓や血管に負担がかかります。
「ヒートショック」という言葉は知られるようになりましたが、現場で診ているとそれは氷山の一角です。
お風呂場や脱衣所だけの問題ではありません。居室や寝室からトイレや廊下まで家全体の室温や温度差を意識してほしいと思っています。
救急医として、こうした「命に関わる寒さの影響」をもっと積極的に伝えていきたいですね。

鬼頭さん
私は救急科医と整形外科医として、普段はけがや骨折の手術をしています。雨が降ったり、都心で慣れない雪が降ったりすると、転倒や交通事故などによる骨折が増え、救急外来に運ばれてくる方も増えます。
こうした経験から、気象予報と医療には大きな違いがあると感じています。
医師として患者さんを診るときは、すでに起きている病気やけがを治療することが中心です。一方、気象予報は、これから起こることを予測して、「雨が降るから気をつけてください」と事前に伝えることができます。
この「未然に防ぐ」という気象予報の考え方を、医学にも持ち込めないかと考えています。

鬼頭さん
もう一つ注目しているのが、日照と骨の健康との関係です。
骨の健康に重要なビタミンDは、食事から摂取するだけでなく、日光を浴びることで体内で活性化されます。日照の少なさと骨粗しょう症との関係を示した研究もあります。
将来的には、日照などの気象情報を、骨粗しょう症の検診を受けるきっかけなど、健康を守る行動につなげられないかと考えています。

鬼頭さん
そうですね。紫外線の浴び過ぎは皮膚がんなどのリスクにもつながるので、たくさん浴びればいいということではありません。
一方で、日光を浴びることで体内で活性化されるビタミンDもあります。ですから、紫外線をただ避けるのではなく、季節や時間帯を選びながら外に出ることも、骨の健康という視点では大切です。
この章で覚えておきたいこと
1)夏の暑さだけでなく、冬の寒さにも注意。家の中の室温や温度差も意識する
2)雨や雪の日はけがにも注意。天気を事前に知り、行動を変えるきっかけに
3)紫外線は「避ければいい」とは限らない。季節や時間帯を考えながら外に出ることも大切

徳田さん
熱中症の患者さんを診ていても、年々ひどくなっていると感じます。搬送件数などの数字だけでなく、現場の実感としても、夏の暑さはかなり厳しくなっています。
そのなかで、特に気になっているのが高齢者の熱中症です。

徳田さん
救急の現場で診ていると、重症化するのは自宅内で発症する高齢者が圧倒的に多いです。
たとえば、高齢者でも外出中に具合が悪くなれば、通行人などが気づいて比較的早く救急搬送されます。
一方、心配なのは一人暮らしでエアコンを適切に使えていない方です。家の中で倒れると発見されるまでに時間がかかり、重症化してから運ばれてくるケースや、ドクターカーで駆けつけた時にはすでにお亡くなりになられていたというケースを診ます。
高齢になると暑さを感じにくくなったり、判断力が低下したりして、「自分は大丈夫」と思って十分な対策ができないこともあります。
だからこそ、熱中症対策を本人の努力だけに任せるのではなく、家族や地域など、周囲の人が一緒に見守る必要があると感じています。

徳田さん
何より大切なのは、定期的に様子を確認することです。今は、離れた場所から室温を確認したり、エアコンを操作したりできる機器もあるので、そうしたものを活用する方法もあります。
熱中症を予防することはもちろん、異変に早く気づくことも大切です。そうすれば、重症化する前に早期の受診や救急搬送につなげられます。
だから天気情報も、「熱中症に注意してください」と伝えるだけではなく、「高齢のご家族の様子を見てあげてください」「エアコンを使っているか確認してください」と、具体的な行動まで伝えることが大切だと思います。暑さ指数などの情報も参考にしながら、その時季に応じて「何をすればいいのか」まで伝えられるといいですね。
「このくらい暑くなったら、今日からエアコンを使いましょう」というように、行動の目安まで示せるといいですよね。

徳田さん
それはいいと思います! 僕が救急の現場で感じるのは、休日の見守りも大切だということです。
在宅で訪問看護や訪問介護などを利用している方でも、土日は平日より見守りの機会が少なくなる場合があります。実際、週末から倒れていた高齢者が月曜日の朝に発見されて搬送されてくることもあります。だからこそ休日は、離れて暮らす家族に連絡して、様子を確認してもらうことも大切だと思います。

徳田さん
そうですね。こまめに様子を確認することで重症化を防ぐことができ、助かる命がもっと増えるんじゃないかと思います。
この章で覚えておきたいこと
1)高齢者の熱中症対策は、本人だけに任せず、家族や周囲も一緒に見守る
2)厳しい暑さが予想される日を「エアコンつけてる?」と連絡するきっかけに
3)親が住む地域の天気もチェックし、特に休日は少し意識して様子を確認

鬼頭さん
ありますね。雨の日は路面が滑りやすくなるので、転倒に注意してほしいです。特に足元に不安のある高齢の方は、急用でなければ外出を控えるという選択肢もあると思います。
そして、特に気をつけてほしいのが雨上がりです。雨がやんで「晴れたから出かけよう」と外に出たタイミングでも、道路やマンホールなどはまだ滑りやすいんです。実際、雨上がりにも転倒して運ばれてくる患者さんがいます。

徳田さん
僕たちは、気象病については慎重に扱う必要があると考えています。
天候と症状との関係については、わかっていることとまだわかっていないことがありますし、すべての人に同じように症状が起こるわけではありません。
また、「これから体調が悪くなる」と思うことで、実際に症状を強く感じてしまう「ノセボ効果」もあります。事前に情報を知って対策できるメリットがある一方で、情報そのものが不安や症状を強めてしまう可能性もあるんです。
だからこそ、情報を発信する側も、不安をあおらないことが大切だと思っています。
体調不良が続いている場合は、何でも天気のせいにしてセルフケアだけで済ませるのではなく、きちんと受診して原因を調べ、その原因となる病気に対する治療を受けてほしいですね。

鬼頭さん
気圧と痛みの関係を調べた動物実験などもあります。ただ、実際の天気で起こる程度の気圧変化でも同じことが起きるのかは、まだはっきりわかっていません。

徳田さん
人を対象にした研究でも、関連があるという結果と、ないという結果の両方があります。
現時点では、「気圧が変化すると古傷が痛む」と断定できる段階ではないと思います。
この章で覚えておきたいこと
1)雨の日だけでなく、雨上がりも転倒に注意
2)気象病や「雨の日の古傷の痛み」には、まだわかっていないこともある
3)体調不良が続くときは天気のせいと決めつけず、適切な受診を

徳田さん
僕は現在、ドクターヘリに乗る仕事をしているほか、都立広尾病院では、伊豆・小笠原諸島で発生した重症患者を東京消防庁のヘリなどで迎えに行く仕事にも携わっています。
いずれもヘリの運航は天気と密接に関係しますが、特に天候の影響が大きいと感じるのが島からの患者搬送です。陸続きの場所であれば、ヘリが飛べなくても救急車など別の搬送手段を選べる場合があります。でも島では、ヘリが飛べないことが患者さんの命に関わることがあるからです。
以前、ほぼ同じタイミングで、2つの島から重症患者の搬送要請が入ったことがありました。
その日は天候が不安定で、使用できるヘリも小型だったため、運べる患者さんは1人だけ。さらに、天候によっては1往復しかできない可能性がありました。
医学的な重症度だけを見れば、より状態の悪い患者さんを先に運ぶ判断になります。でも僕は、そこに気象条件も加えて考えました。
雨雲が今後どう動くのか。2つの島のうち、どちらが東京から遠いのか。それぞれの空港の設備はどう違うのか。海上自衛隊や海上保安庁の航空機といった代替手段が使える可能性はあるのか。そして、島の医療機関でどこまで患者さんを診ることができるのか。それらを総合して、より重症な患者さんではなく、より遠方の小規模な島の患者さんを先に搬送することにしました。
結果的には、その患者さんを搬送したあと、もう一方の島からも海上自衛隊の航空機で搬送することができ、2人ともその日のうちに専門治療につなげることができました。

徳田さん
そうですね。搬送の優先順位を決めるうえで求められたのは、あくまで医学的な判断でした。でも僕は、そこに気象学的な視点も加えて考えました。そういう場面で、気象の知識が役に立ったと感じています。
そして、島の人にとって、天気はライフラインなんです。
傘がいるか、いらないかという話だけではありません。悪天候で船が来なければ生活物資が届かない。病気になっても、本土へ運んでもらえないことがある。島で暮らす方にとって、気象情報にはそれだけの重みがあるんです。
「島から搬送要請が来たときには、Yahoo!天気アプリの雨雲レーダーで雨雲や風の状況を確認することもあります」

鬼頭さん
徳田さんのエピソードのあとは話しにくいですね...(笑)。
僕も「ダブルライセンスを生かして何かできないかな」とずっと考えているんですけど、今のところは患者さんから「気象予報士なんですね」と言われて、話のきっかけになるくらいです。

鬼頭さん
気象予報士として情報を伝えるだけでは、具体的な行動になかなかつながらないことがあると感じています。
医師としての知識や経験も生かしながら、気象情報を具体的な行動につなげて伝えていきたいですね。特に高齢の方には、テレビなどさまざまな媒体を通じて、直接届くような発信をしていけたらと思っています。

鬼頭さん
寒さと心筋梗塞や脳梗塞などとの関係を調べた研究もあります。そうした知見を、「このくらい寒い日が続いたら注意しましょう」といった事前の呼びかけにつなげられる可能性もあると思います。

徳田さん
「今日は救急搬送が増えそうだ」と、事前にわかるようになったらいいなと思っています。
救急車がたくさん来る日とそうでない日には、気象条件だけでなく、人の移動など、さまざまな要素が関係していると思います。
たとえば気象や人流などのデータを組み合わせて、「この日は救急搬送が増えそうだ」と事前に予測できれば、病院や消防もあらかじめ準備できます。
患者さんが来てから対応するのではなく、先回りして備える。気象情報を、病院や消防、自治体の備えにも役立てられるようになったらいいですね。
同じ高校の先輩・後輩でもあるお二人。ウェザーマップで出会うまで面識はなかったそうです。「偶然なのか、運命なのか(笑)」と鬼頭さん。
Yahoo!天気アプリで、毎日の天気をチェック
Yahoo!天気アプリでは、雨雲レーダーや天気予報、気温などを確認できます。
自分の住む地域だけでなく、大切な人が暮らす地域の天気を確認するきっかけにも、ぜひご活用ください。
Yahoo!天気アプリについて詳しく見る
取材日:2026年9月15日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:日比谷 好信
※本記事の内容は取材日時点のものです
