LINE誕生から15年。日本、台湾、タイのLINEが災害時に向き合ってきたこと【後編】――3カ国・地域が描く、防災の未来と次の15年
LINE誕生15周年を機に、日本・台湾・タイのCSR担当者が災害時の取り組みについて語り合う特別座談会。前編では、各国・地域でLINEが果たしてきた役割や災害対応の最前線について紹介しました。
後編では、お互いの取り組みから学んだことや、これからの15年に向けて3カ国・地域が目指す未来と挑戦について語り合いました。
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Nicharass Archyasithiwat (Aey / ニチャラス・アチャヤシティワット)
Chief Marketing Officer, LINE Company (Thailand) LINEタイにおけるブランド構築およびソーシャルインパクトを統括。15以上の機関と連携した官民共同防災「LIFELINEプロジェクト」を主導し、日常的な防災備えの啓発を推進。
Neil Lin(ニール・リン)
Product Management Department Vice President, LINE
Taiwan LINE台湾におけるLINEプラットフォームのプロダクトマネジメント、ローカライズ、UX改善を統括。NCDR(国家災害防救科技センター)との官民連携や「Safety Check(安否確認機能)」の導入など、防災ポータルとしてのLINEの役割を牽引。
橋口 翔(はしぐち しょう)
LINEヤフー株式会社 ガバナンスドメイン サステナビリティ推進CBU CSRユニット LINEヤフーにおいて官公庁や自治体と連携した防災DX・行政DX、LINEを活用した相談事業等を推進。能登半島地震などの被災地における現場支援や、自治体向けLINE公式アカウントの防災活用支援に従事。
モデレーター
安田 健志(やすだ たけし)
LINEヤフー株式会社 ガバナンスドメイン サステナビリティ推進CBU CSRユニット LINEヤフーにおいて、東日本大震災時の対応経験等を活かし、サステナビリティ推進部門にて防災・減災および災害対応など社会貢献領域の業務を担当。
テーマ3:違いから学ぶ
ここまで各国・地域の取り組みを聞くなかで、「これは自国にも取り入れたい!」と感じたアイデアについてお聞きします。
――Q8.他の2カ国のLINE防災の取り組みで、「これは自国に取り入れたい」と思ったものはありますか?
Aey: タイでも防災減災局(DDPM)と連携して「LINE Alert」を運営していますが、台湾で取り組んでいる「NCDR(国家災害防救科技センター)」LINE公式アカウントのように、あらゆる災害リスクと行政情報を一つのアカウントに統合する手法 は、ぜひ取り入れたいと考えています。
また、日本からは、防災が「日常的な習慣」として根付いている点 に強い刺激を受けました。福岡市、那覇市などの自治体で実施した約3分で終わる「とつぜんはじまる避難訓練」や、市民の報告をAIがそれをリアルタイムで地図上に集約する「神戸市災害掲示板」などが良い例です。
タイの洪水は徐々に被害が拡大する傾向にあるため、こうした市民参加型のリアルタイムマップがあれば、真に支援が必要な場所へ迅速に救援を届けられると感じました。
Neil: 日本の自治体と連携した「オンライン避難訓練」や、チャットボットを通じて被害写真と位置情報を集約する仕組み は、民間の防災意識を高めるうえで非常に参考になります。
また、水害の多いタイが防災局(DDPM)と展開する「1784DDPM」アカウントのように、リアルタイムの水位警報と24時間体制の緊急救援チャネルを統合したシステム も画期的です。こうした動的な状況報告や直感的な避難訓練は、台湾の未来の防災施策においても大きな手本となります。
橋口: 台湾の地震速報のスピード感は世界トップクラスです。中央気象署との連携により、地震発生から数秒でユーザーに警報が届く仕組み は、民間企業のみで対応できる部分ではありませんが、日本でもさらに精度を高めたい領域です。
タイからは「長期的な被災者支援」の視点 を学びたいです。タイの洪水は数週間から数カ月続くことがあり、その間のコミュニティ維持や物資マッチングにLINEが活用されている知見は地震直後の「初動対応」に強みを持つ日本にとって、「避難生活が長期化したときにLINEでどう寄り添うとよいか」という貴重なヒントになります。
災害の種類や頻度は国ごとに異なりますが、互いの知見を共有することでそれぞれの「最適解」が進化する。この座談会が、その第一歩になると信じています。
――Q9.「備える」という概念は、あなたの国ではどう受け止められていますか?
Aey: タイの人々の間でも「備え」の重要性は高まっていますが、その意識は大災害の直後に急上昇した後、時間の経過とともに薄れてしまう傾向があります。多くの国でも見られると思いますが、実際に災害を経験したことがない人にとって、防災はどうしても「自分とは遠い出来事」 に思えてしまうからです。
だからこそ「LIFELINEプロジェクト」では、知識を一方的に伝えるのではなく、正しい情報を確認する習慣を身につけることやツールの準備を日常に溶け込ませることをめざしています。気候変動で予測不能な災害が増える現代において、「備え」とは恐怖や不安から行うものではなく、誰もが身につけておくべき「必須のライフスキル」 です。
Neil: 台湾において「事前準備」 は抽象的な概念ではなく、暮らしに根ざした習慣です。私たちは長年、地震、台風、豪雨、土石流といった自然災害に加え、地政学的リスクの観点から、家庭での備蓄や緊急用品の準備が当たり前のこととなっています。たとえば、台風の前には飲料水、非常食、乾電池、懐中電灯を購入するのが常であり、多くの家庭で医薬品、モバイルバッテリー、身分証のコピー、ホイッスルなどの防災用品を用意しはじめています。
また、もう一つ重要なのは教育 です。幼少期からの地震避難、火災避難、台風防災といった防災教育や避難訓練を通じて、身を守る方法を知るだけでなく、「公式の指示に従って信頼できる情報を識別し、未確認情報によるパニックを防ぐ」という情報リテラシー を学んでいます。
真の「事前準備」とは、非常持出袋の用意だけでなく、応急対応フローを熟知すること、正しい情報の取得先を知ること、そして事前に家族と連絡方法や集合場所を話し合っておくことなど、正しく判断し行動できるための準備 を含みます。
将来的にLINEを通じて、政府の公式情報や防災教育、安否確認、行動指針を日常的に利用できるようになり、準備が持続的な生活習慣となることを期待しています。
橋口: 日本では、「備える」ことが身近なものとして受け止められています。地震や津波、台風、大雨を繰り返し経験してきたことに加え、毎年9月1日の「防災の日」や防災週間、学校や地域での避難訓練などを通じて、子どもの頃から防災に触れる機会があります。また、日本の防災では、「自助・共助・公助」という考え方 が根付いています。
一方で、防災の重要性を理解していても、「きっかけがない」ために、家族での話し合いや具体的な備えに至っていない人が多いという実態もあります。だからこそ私たちは、「備えること」を特別難しいものにするのでなく、自治体のLINE公式アカウントの友だち追加や、家族のLINEグループでのハザードマップ共有といった、小さな行動に落とし込むことを重視しています。
「備える」とは、災害を恐れながら暮らすことではなく、自分で判断できる選択肢を増やし、自分だけでなく、大切な人や地域の人を守る選択肢を増やすこと です。「知っている」を「行動できる」に変えるきっかけが大切だと考えています。
テーマ4:これからの15年と、3カ国・地域で協力できる挑戦
最後に、これからの15年、気候変動などで災害が激甚化する中、LINEが果たすべき次の役割や、3カ国・地域で協力して挑戦したい構想についてお聞きします。
――Q10.今後15年で、LINEが災害対策で果たすべき「次の役割」は何だと思いますか?
Aey: 将来、LINEの役割は、単なる連絡ツールや災害情報を届ける手段を超えて、「災害が起きる前に、人々や地域社会が効果的に備えられるよう支援するプラットフォーム」へと進化していくと信じています。
AIやデータを活用して、各地域の状況に応じた防災情報を事前に届けることで、人々がより早く正確な決断を下せるようサポートできます。同時に、官民およびテクノロジー間の連携は一層重要になります。災害対応は単一の組織だけで解決できるものではなく、社会全体で協力するエコシステムが必要だからです。
15年後、LINEが「事前準備」から「緊急対応」、そして「復興」に至るすべてのフェーズにおいて、人々から信頼される「安全のためのライフプラットフォーム」 の一部になっていることをめざしたいです。
Neil: LINEは「社会のレジリエンス(回復力)を結ぶ信頼のプラットフォーム」になれると考えています。これまで私たちは、人々が災害時に連絡を取り合えるよう支援してきました。これからのフェーズでは、「災前の準備」「災中の応急対応」「災後の復興」 というすべてのプロセスで、ユーザーをより良く支援することを目指します。
災前においては、居住地域のリスク理解と準備の習慣化を促し、災害発生時には、即時に明確で行動可能な形で公式情報を届け、友人の無事確認や避難所・必要リソースの検索をサポート、そして災害後には、被災者のニーズ、ボランティア、物資、交通、専門的支援をプラットフォーム上でマッチングしていきます。
また、AIは防災領域でも重要なツールとなっていますが、専門家の判断に取って代わることはできません。どれほど技術が進歩しても、情報の正確性、プライバシーの保護、システムの安定性、サービスの包摂性が絶対不可欠です。
15年前に災害をきっかけに生まれたLINEだからこそ、信頼できる情報と支援の力を適切なタイミングで結びつける責任 があります。
橋口: 今後15年でLINEが果たすべき次の役割は、災害情報を「届ける」から、一人ひとりが適切に判断して行動し、支援につながるまでを「完結させる」こと です。
これまでLINEは、家族や友人の安否確認、自治体からの避難情報の受信、被害状況の共有など、人と人、人と行政を「つなぐ」役割を担ってきました。これからは、さらに一歩進め、置かれている状況に応じて「次の行動」を迷わず取れることが求められます。
たとえば、避難情報を受け取った後に、近くの避難場所や安全な行動を確認でき、避難後には必要な支援制度や手続きにスムーズにたどり着けるような、途切れのない仕組みを目指します。
また、災害対応は発災直後にとどまりません。日常の備えから、避難、安否確認、そして生活再建まで、長い時間軸で人を支える必要があります。家族で避難場所を共有する、自治体の訓練に参加する、被災後に支援情報を受け取るなど、日常から復旧・復興までをつなぐ基盤になることも、LINEの次の役割 だと考えています。
その際、高齢者や障がいのある方、外国人を含め、誰もが迷わず使えるようなシンプルな操作性や多言語化を徹底し、情報から取り残される人を減らしていくことも、私たちの大きな責任です。利便性を追求するだけでなく、情報の正確性や信頼性、プライバシーに十分配慮しながら、国や自治体、専門機関、地域社会と連携していく必要があります。
これまでの15年が「つながる」ための歩みだったなら、これからの15年は、「つながった先で一人ひとりの命と生活を守る行動を支える」歩みにする ことが、私たちに求められる次の役割だと思います。
――Q11.最後に、3カ国・地域で一緒に目指したい未来について教えてください。
Aey: 災害対応の知見や経験を「体系的に共有・交換し合える仕組み」を作りたいです。
日本と台湾が持つ、機能開発、ユーザーコミュニケーション、そして防災文化の醸成における長年の豊富な経験はタイにとって非常に貴重な学びです。 一方で、タイには「家族や地域コミュニティレベルでのコミュニケーションハブ」 としてLINEを活用してきた独自の強みがあり、その視点を他の2カ国へ還元することができます。
将来的に、単に成功事例(ベストプラクティス)を共有するだけでなく、災害時のLINEコミュニケーションにおける「リージョナル(地域共通)標準・ガイドライン」を共同開発できたら最高ですね。そうすれば、どの国のユーザーも共通の知見から恩恵を受け、今後さらに増える災害や大規模な災害にも共に備えることができるはずです。
タイのユーザーにとって、LINEは朝起きて最初に開く「暮らしの一部」です。災害の際だけでなく、良い時も悪い時も人々の生活に寄り添い、正確な情報と安心をシンプルに届ける存在であり続けたい と思います。国境を越えて知見を共有し合い、アジア全体のレジリエンス(回復力)を高めていきたいですね。
Neil: 「国境を越えた地域旅行・出張者向けの安全通報メカニズム」を構築し、「信頼される通信プラットフォーム」という核となる価値を体現することです。
日本、台湾、タイの間では人々の往来が非常に頻繁であり、ビジネス出張や観光旅行が日常化しています(※交通部観光署の統計でも日本とタイは長年台湾人の渡航先トップ5に入っています)。例えば、台湾のユーザーが日本で地震に遭った際、LINEが現地の公式災害情報を自動で通知し、「現在海外にいますが、無事です」と家族へワンタップで知らせることができたら どうでしょうか。
15周年を迎えたLINEは、平時はもちろん、災害などの緊急時にも人と人とのつながりを支えられるサービスであることを大切にしてきました。
今後はAIや最新技術も柔軟に取り入れながら、言語や国境の壁を越えて、有事にも誰もが直感的に助け合える「信頼されるプラットフォーム」へと進化 させていきます。
橋口: 国や言語を越えて誰もが災害時に迷わず行動できる仕組みをつくりたいです。
日本、台湾、タイは、地震や津波、台風、豪雨、洪水など、さまざまな自然災害を経験し、独自の知見や行政連携のノウハウを蓄積してきました。それぞれの成功事例だけでなく課題も共有し、3カ国・地域共通の防災の知見を蓄積することが第一歩です。
特に実現したいのは、旅行者や外国人住民も含めた、「多言語での災害支援」 です。災害時、言葉や制度の違いで行動に迷わないよう、どの国にいても、普段使い慣れたLINEを通じて、現在地の公式情報や避難場所、取るべき行動を自分の言語で確認できる共通体験を作りたいと考えています。
さらに、合同でのオンライン避難訓練や、防災啓発コンテンツの共同制作などもしてみたいですね。子どもや若い世代にも参加してもらい、防災を堅いテーマとして伝えるだけでなく、クイズやシミュレーションを通じて、自分のこととして考えられる機会をつくりたいです。
平時から国を越えて学び合うことが、実際の災害時の連携にもつながる はずです。将来的にはAIも活用し、各国の行政や専門機関が発信する情報を、言語や制度の違いを越えて分かりやすく整理できれば、一人ひとりの状況に応じた次の行動を支えることもめざせると思います。
LINEは3カ国・地域において、月間アクティブユーザー数合計で1.7億人以上に利用されています。15年前、「大切な人とつながりたい」という願いから生まれたLINEを、次の15年は国境の向こう側にも届けていきたい ですね。
災害時に大切なのは、情報の量ではなく、自分に必要な情報と、次に取るべき行動が分かることです。年齢や地域など、それぞれが置かれた状況に応じて、一人ひとりを適切な情報や支援へつなぐ。今後も各国と連携し、LINEを通じて、一人ひとりの暮らしと安心を支えていきます。
本日の対話を通じて、災害の種類や社会の仕組みは異なっても、3カ国・地域に共通する思いがあることを感じました。それは、災害時に誰もが大切な人とつながり、信頼できる情報を得て、迷わず次の行動を選べるようにしたい、という思いです。
LINEの価値は、情報を届けることだけではありません。人と人、人と地域、人と行政、そして支援を必要とする人と支援できる人をつなぎ、命と生活を守る行動へつなげることにあります。
LINEは15年前、「大切な人とつながりたい」という願いから生まれました。次の15年は、日本・台湾・タイがそれぞれの経験を持ち寄り、国や言語を越えて、より多くの人が災害に備え、支え合える社会をつくっていきたいと思います。本日のディスカッションはそのための第一歩です。
取材日:2026年8月6日 文:LINEヤフー社内広報編集部 ※本記事の内容は取材日時点のものです
LINEヤフーストーリーについて
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