「まず形にする」でスピードを生む――Yahoo!ニュースのAIコンテンツ活用プロジェクト
Yahoo!ニュースでは、この数年でAIを活用したサービスが次々と生まれています。その裏側にあるのは、専任の大規模チームではありません。主務と並行しながら活動するAIコンテンツ活用プロジェクトです。
このプロジェクトでは、ユーザーコメントをもとにコンテンツを生成する施策や、地域ごとに最適化した「AI天気記事」、そして既存の「みんなの意見」において生成AIを活用しバラエティー豊かな設問を生成する取り組みなどをリリースしてきました。
「まず形にしてみる」を合言葉に、小さく試し、改善を重ねながら新しい価値を生み出す――。今回は、そんなプロジェクトチームの仕事の進め方についてメンバーの山田、西、田中、加藤、中山に話を聞きました。
- 山田 貴史(やまだ たかし)
- AIコンテンツ活用プロジェクトマネージャー。プロジェクト全体の方向性決定や施策推進をリードする。
- 田中 暢(たなか みつる)
- デザイナーとして他のプロジェクトと並行しながらAIコンテンツ活用プロジェクトにも関わる。デザイナーのほかにも企画や開発など領域を問わず幅広く関わっている。
- 加藤 大登(かとう ひろと)
- 主務ではYahoo!ニュースのバックエンド開発を担当。AIコンテンツ活用プロジェクト初期から生成システム全体の開発に携わる。
- 西 哲哉(にし てつや)
- 主務ではYahoo!ニュース開発チームの一つでテックリードを務める。AIコンテンツ活用プロジェクトでは開発業務に加え、方向性をすり合わせする調整役となることも多い。
- 中山 愛也(なかやま よしや)
- 昨年10月よりAIコンテンツ活用プロジェクトに参画。主務ではYahoo!ニュースのSRE業務に従事。プロジェクト内ではその知見を活かし、AI天気記事などの開発を推進する。
「AIを使って何かできる?」から始まった
――まず、このプロジェクトが立ち上がった経緯を教えてください。
山田:
もともとは、別のプロジェクトの中で「AIを使って何かできないか」とブレインストーミングするところから始まりました。具体的に何をやるかは定まっていなくて、会議もかなり静かでしたね。
その空気が変わったのは、「コメントを使ってコンテンツを作れないか」というアイデアが出てからです。
ただ、最初に出したものは「本当にコメントだけでできているのか」と疑われました(笑)。そこで、エンジニアにも協力してもらいながら、コメントだけをもとに生成したコンテンツのPoC(※1)を実際につくったところ、周囲の反応が大きく変わりました。
その流れが、次の期に独立した「AIコンテンツ活用プロジェクト」として立ち上がるきっかけになりました。この前身の期間を含めると、この取り組みはもう2年半ほど続いています。
※1 PoC:Proof of Concept、「概念実証」の意。試作開発の前段階における、検証やデモンストレーションを指す。
なぜ少人数でも次々と前に進めていけるのか
――少人数で、しかも主務と兼務しながら、なぜこれだけスピード感を持って開発を進められるのでしょうか?
山田:
このプロジェクトは、私以外のほとんどのメンバーが本来の担当業務(主務)と並行して関わっているので、企画に時間をかけすぎず、まずはたたき台をつくることを大切にしています。
言葉だけで議論を続けるより、簡易なプロトタイプでもいいので、一度形にしたほうが、論点も改善点も見えやすいんです。僕らの中では常に「全力で走りながら考えていく」というスタイルですね。
――「まず形にする」が、なぜスピードにつながるのでしょうか?
西:
速く動けるのは、勢いだけが理由ではありません。
僕たちは、普段の会話や定例の中で種をまき、「これはいけそうだ」と思えるものが見えたら、一気にそこへフォーカスする。その助走があるからこそ、開発も速く進められるんです。そこからさらにうまくいきそうなものだけを本開発へつなぐ流れがあるので、限られた時間でも迷いにくいんです。
比較的少ないステークホルダーの中で優先順位を決められることも大きいですね。方向性が決まったあとに、やり方まで細かく指示されるわけではないので、各メンバーが主体的に動きやすいのもこのプロジェクトの特徴だと思います。
中山:
その優先順位に関しては、最終的な意思決定を山田が一本化してくれていることも大きいと感じています。
あちこちからいろいろな話が入ってくると、「全部やらなきゃ」と疲弊してしまいそうになることもあります。でも、このプロジェクトではそれが比較的少ないんです。
普段からみんなでたくさんアイデア出しをする中でも、迷わず進められているのは、最後にどこへフォーカスするかが明確だからだと思います。そういう意味でも、この優先順位の整理は、兼務でもうまく走り続けられる理由のひとつになっている気がします。
――実際にプロジェクトに入ってみて、どんな雰囲気だと感じていますか?
田中:
このプロジェクトでいいなと思っているのは、思いついたことをすぐ試せる空気があることです。
失敗を必要以上に恐れなくていいし、承認のためのコミュニケーションに時間を取られすぎない。AI活用のように、やってみないと分からない領域では、この自由さがすごく効いていると思います。
指示を待つのではなく「こうしたらもっと良くなるかも」と思った人が自然にアイデアを出せる。その空気があるから、少人数でも停滞せずに前に進めるんだと思います。
――その自由に挑戦できる空気は、どのようにつくられているのでしょうか?
山田:
この自由さは、プロジェクトに広く権限を委ねてもらえていることが大きいですね。各メンバーの兼務割合も、最初は稼働5%ほどからスタートし、取り組みの可能性や広がりを具体的にイメージできる試作を意識しながら進めてきました。
成果を積み重ねることで、さらに任せてもらえる。その循環があるからこそ、「まずやってみよう」が自然と発生するんだと思います。
加えて、メンバー自身が「やらされる」ではなく、「自分たちで実現したいからやる」という気持ちで集まっています。その自発性もこの自由さやスピードを支える大きな理由です。失敗してもそこで終わりではなく、次に生かす進め方が根づいていることも大きいですね。
加藤:
僕は、このプロジェクトでは挑戦的なことができる点が楽しいですね。試してみたいことをどんどんやってみるっていう動き方ができるのが、おもしろいなと思っています。
だからといって、主務の方をやりたくないかっていうと、そうではなくて。兼務のプロジェクトでは思い切って挑戦できる一方、主務では手堅く着実に積み重ねて仕事を進めています。どちらも自分にとって大事な仕事で、そのバランスが心地よく感じていますね。
――忙しい中でも、新しい挑戦を続けるために意識していることはありますか?
山田:
新しい挑戦を続けるには、意識的に「余白」をつくることも大切だと思います。
僕らのプロジェクトは、主務業務のリズムの中で少し余裕ができるタイミングを見つけて、あえてダッシュすることが多いんです。先に走っておくと、あとで余白が生まれる。その余白が、次の検証や改善につながります。忙しいから挑戦できないではなく、挑戦するために意識して余白をつくる。そんな進め方をしています。
AIは「生成して終わり」ではない。運用まで見据えて磨き続ける
――実際に開発を進める中で、苦労したことはありましたか?
中山:
「AI天気記事(※2)」では、最初からここまで大きな取り組みになる想定ではありませんでした。実際に開発を進める中で、「あれもやりたい、これもやりたい」とアイデアが広がって、気づけばかなり大きな仕事になっていたんです(笑)。
一番苦労したのは、記事の品質を安定して保つことでした。たとえば28度と表示すべきところが30度になってしまうようなミスは許されません。
100カ所以上に及ぶ地点ごとの記事を、1回の生成ですべて完璧な品質に仕上げるのは簡単ではありません。そこで、AIが記事内容を厳しくチェックし、問題があればその具体的な修正ポイントを生成側のAIに自動で返して再生成するサイクルを構築しました。こうした仕組みによって、記事品質を安定させることができました。その結果、ユーザーから良い反応をいただくこともありました。
もう一点印象的だったのは、「AI天気記事」に載せた川柳の改善です。五七五でつくりたいのに、すぐ五八五になってしまう。ここで止まったら失敗、という場面でした。でも、何度もプロンプトを調整し、生成数を10個、20個と増やして、その中から品質のいいものだけ採用できる仕組みにできました。
こうして培った品質担保の仕組みや試行錯誤の知見は、ほかの案件にも応用できる大きな発見になったと思います。AIは一度生成して終わりではありません。少しずつ改善を積み重ねる粘り強さは、このプロジェクトのさまざまな場面に共通する進め方だと思っています。
――AIを活用する中で、新たに見えてきた課題はありましたか?
山田:
AI活用のおもしろさは、むしろ生成の後に出てくる課題にあります。コンテンツがつくれるようになっても、それだけでは実務になりません。
入稿しやすい形に整える、事実確認をしやすくする、公開可否を判断する、必要なら部分的に修正する。生成の後に課題が次々に現れるので、そのたびにAIの使いどころを増やし、安定したクオリティでコンテンツ提供できるフローを整えました。
そして、このプロジェクトでは「止まらないこと」をとても大切にしています。
「いったんやめよう」「今は捨てよう」と判断することもありますが、そこで終わりではありません。「今ならできるかもしれない」とあとからもう一度取り組むこともあります。
止まらず試し続けることと、必要なときには潔く切り替えること。その両方が、このプロジェクトらしさだと思っています。
柔らかな役割分担が、スピードと完成度を両立させる
――AIの活用で、みなさんの役割にも変化はありましたか?
田中:
AIが入ることで、各職種の役割が広がった感覚があります。デザイナーだからここまで、エンジニアだからここまで、という境界線が少しずつ薄れ、それぞれの専門性を持ったまま前後の工程にも手を伸ばしやすくなりました。
実際に私はデザイナーですが、このプロジェクトではデザインだけを担当しているわけではありません。企画や開発にも関わりながら、形になりかけたものの品質を引き上げる役割を担うことが増えました。
西:
メンバーがそれぞれ主務を持っていることも、むしろ強みだと思っています。
普段それぞれが担当しているサービスや開発の現場感を持ち込めるから、「技術的にできるか」だけではなく、「本当に使えるか」「ユーザーに届くか」まで一緒に考えやすいんです。
加藤:
エンジニアとしても、求められているのは単なる実装役ではありません。AIでどこまで実現できるかを見極めて、まず試せる形にしてみる。必要なら仕組みそのものを変えることもあります。
技術検証と実運用の間を何度も行き来しながら、少しずつ形にしていく。それも、このプロジェクトならではだと思います。
中山:
どういう企画ならユーザーに届くか、どういう見せ方なら価値が出るかといったところから一緒に考えることが多く、開発の立場からも企画に入っていくのが、このプロジェクトではごく自然です。
日々のやりとりの中でも「これもできるかもしれない」「こうしたらもっとよくなりそう」とアイデアを出すことが習慣になっていて、その積み重ねが次の施策につながっている感覚があります。
田中:
フェーズごとに必要な人が前に出る進め方も、主務と両立しやすい理由のひとつだと思います。
ずっと同じ役割で張り付くのではなく、自分が一番力を発揮できる場面で深く関われる。だから境界線を引かなくても、無理なく関われるんですよね。
――そうした役割の広がりが、チームの強みになっているんですね。
山田:
ひとつの施策の中でも、役割は固定されません。最初にアイデアを広げる人がいて、形になり始めたら品質を上げる人が前に出る。さらに運用に乗せる段階ではまた別の視点が必要になります。
役割を決めすぎず、その時々で一番力を発揮できる人が自然に前に出る。この柔らかさがスピードと完成度の両立につながっていると思います。
だから田中も、デザイナーとしての参画から、気づけば企画や開発にもかかわるようになっています。自分次第でその時々の動き方ができています。
楽しいから続く。定例の空気が、次の施策の種になる
――プロジェクトに関わっていて、どんなところに魅力を感じていますか?
田中:
このプロジェクトは、単にスピードが速いとか自由度が高いだけではなくて、やっていて楽しいんです。
思いついたことを「ちょっと試してみよう」で動くことができる。職種をまたいで反応が返ってくる。自分の専門外のところにも自然に踏み込めるので、毎回どこかに新しい発見があります。
西:
定例の雰囲気も、いわゆる堅い進捗会とは少し違うと思います。もちろん進捗確認はするんですが、それ以上に「これAIでできそう」「この工程が大変だった」「この出力なら次に広げられそう」といった話が自然に出てくる場なんです。
日々のやりとりの中で生まれたアイデアが、定例の場でつながり形になっていく。だから施策が急に生まれるというより、前からまいてあった種がその場で芽を出す感覚に近いですね。
実際に完成したものだけではなく、ラフな状態のものを持ち寄って、反応をもらいながら方向性を固めることもよくあります。途中のものでも安心して見せられる雰囲気があるから、みんなも主体的にアイデアを出しやすいんだと思います。
――みなさんのお話を聞いていると、本当に楽しそうに仕事をしている印象を受けます。
山田:
外から見ると、楽しそうなチームに見えるかもしれません。実際、僕たち自身もそう感じています。例えるなら、文化祭の前の日みたいな楽しさに近いかもしれません。誰かにやらされているのではなく、自分たちで実現したいことがあって、それに夢中で取り組んでいる。
だから忙しくても、ただ消耗する感じにはなりにくいし、次のアイデアも自然と出てくる。難しいテーマに向き合っていても、まず触ってみようと思える空気があるのは、このプロジェクトの強さだと思います。
量産の先で、価値あるコンテンツを増やしていく
――これから、このプロジェクトで挑戦してみたいことを教えてください。
加藤:
ビジュアルの領域では、まだまだ試せることがたくさんあると思っています。個別の施策で終わらせず、勝ち筋になりそうな型を見つけて横展開できる状態をつくりたいです。
その延長で、たとえば漫画や動画のような表現も取り入れながら、難しいニュースをもっとライトにしてさまざまなユーザーに届きやすくしていけたらおもしろいですね。
西:
そうですね。つくったコンテンツをその場限りで終わらせず、別のサービスでも使いやすい形で残していく発想は、これからもさらに重要になると思います。
日常的に種をまいて、小さく試して、うまくいったものを再利用しやすい形にする。その積み重ねが、次の施策のスピードをさらに上げていくはずです。
山田:
やりたいのは、「AIでコンテンツをつくった」という単発の事例を増やすことではありません。AIを使いながら、人の判断を残しつつも、少人数でも継続的に新しい価値を生み出せるチームであり続けることです。
AIは、人を置き換えるものではなく、自分たちの可能性を広げるための道具。その感覚が、このプロジェクトの根っこにあります。
AIがあることで、これまで専門性の壁が高かった作業にも手が届きやすくなりました。だからこそ、目指しているのは効率化だけではなく、チームとしてできることを増やし続けることです。
これからも「まず形にしてみる」を繰り返しながら、人とAIそれぞれの強みを生かし、少人数でも新しい価値を生み出し続けるプロジェクトチームでありたいと思います。
少人数・兼務でもスピードを上げるコツ
1)議論し続けるより、まず「見えるもの」をつくる
企画を固めてから動くのではなく、簡易なプロトタイプでもまず形にする。実物があることで「何がいいか」「何が足りないか」という議論に変わり、意思決定が速くなる。
2)普段から「種」をまいておく
突然アイデアを思いついて猛ダッシュするのではなく、普段の会話や定例で小さなアイデアを共有し助走をつける。「これはいけそう」というものが見えた瞬間に集中する。
3)「何をやるか」を決める人を明確にする
みんなでアイデアは出すが、最後にどこへフォーカスするかの意思決定を一本化することで、兼務メンバーが「結局どれをやればいいんだっけ?」と迷う時間を減らす。
4)役割を固定せず「今、一番力を発揮できる人」が前に出る
企画、試作、品質向上、運用など、フェーズごとに適した人が前に出る。全員がずっと張り付かないから、兼務でも回しやすい。
5)失敗しないことより、「止まらないこと」を優先する
最初から正解を当てにいくのではなく、試す→判断する→次へ進むサイクルそのものを速くする。
6) 忙しいからこそ、意識して「余白」をつくる
動けるときに先回りして進めておく。その余白を次の検証や改善に使い、挑戦するために余白をつくる。
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取材日:2026年7月8日
文・撮影:安田 美紀
※本記事の内容は取材日時点のものです
- LINEヤフーストーリーについて
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