「失敗を恐れず、素早く挑戦を繰り返す」 CTOが語るAI時代のプロダクトづくり

リーダーズ
明るいオフィスで、黒いジャケットを着た朴イビンがブラインドの前に立ち、正面を向いてほほ笑んでいる写真。

AIが事業環境を劇的に変えるなか、自分が次に何をできるか考え、新しい役割へとジャンプすべき――。

LINEヤフーで全社のAX(AI Transformation)を推進するCTOの朴イビンは、そう話します。

日本での検索サービスの立ち上げから数々のトライ&エラーを重ね、その末に携わったのがLINEの立ち上げでした。その後も、グローバルで新たな挑戦を積み重ねてきたイビン。その根底には、「早く挑戦し、失敗から学び、次の挑戦へ進む」「成功するまで粘り強くやり切る」という価値観があります。

AI時代にLINEヤフーはどんな価値を生み出そうとしているのか。そして、その未来を実現するために、人と組織はどうあるべきなのか。技術戦略と、それを支える考え方について聞きました。

黒いジャケットと白いシャツを着た朴イビンの顔写真。眼鏡をかけ、正面を向いてほほ笑んでいる。
朴イビン
LINEヤフー 上級執行役員 CTO
Neowiz Games Corporation(ネオウィズ)を経て、2005年に検索サービス「1noon(チョッヌン/現NAVER Corporation)」に入社。2007年にNHN Japanへ入社し、検索エンジンや検索サービス、LINEの開発などを担当。その後、ネイバージャパンを経て、2013年よりLINE(現Aホールディングス)の執行役員に就任。2014年より上級執行役員 CTO、2021年に常務執行役員 Co-GCTOに就任し、2023年10月より現職。全社のAX(AI Transformation)を推進している。

「最後にもう一つだけ」の挑戦がLINEだった

――これまでのキャリアの中で、最も大きな転機について教えてください。

今振り返ると、一番大きな転機はやはりLINEです。

ゲーム会社でコミュニティサービスを担当していた中で、現CPOの慎(ジュンホ)と出会いました。そこから一緒にスピンアウトし、検索エンジン会社である1noonを立ち上げました。当時、慎がCTO、私が開発チームリーダーとして、Googleが絶対的なトップに君臨していたグローバル市場への挑戦を始めたのです。

その後、1noonがNAVERグループに加わり、グローバル検索サービスの最初のステージとして日本が選ばれ、急きょ日本へ渡ることになりました。私個人としては、日本語もうまく話せないまま、よく知らない市場と文化の中での新たなスタートでした。その後は、検索を基盤とするさまざまな新しいサービスをつくっては失敗するという、試行錯誤の日々が続きました。
正直、そろそろ帰らなければならないと感じた時期でもあります。

そんな時に、東日本大震災が起きました。大切な人と連絡が取れないなど、コミュニケーションの面で切実に困っている人たちが大勢いた。そんなニーズに応えるため、「最後にもう一つだけ作ってみよう」と、慎たちと挑戦したのがLINEだったのです。

――そこで得た学び、現在につながる価値観は何でしょうか。

数々の失敗を通じて学んだのは、失敗を避けることより、まず挑戦し、結果から学び、すぐ次へ進むことの大切さです。
ただし、失敗を当たり前にしてはいけません。成功する確率が低い挑戦でも、成功するまで粘り強くやり切る意思が必要です。

そして、その中心には常に、ユーザー目線で考える姿勢が必要です。たとえ小さなことでも、「これまでユーザーに提供できていなかった価値は何か」を考え続ける。そのマインドは今も変わりません。

――その後、国内だけでなく、グローバル展開においても技術領域をリードされました。何か意識されていたことはありますか?

そうですね。LINEの成功後は、韓国、台湾、タイ、ベトナム、インドネシアなど、次々と開発オフィスを立ち上げました。当時は、朝起きたら「今日はどこの国だっけ?」というくらい、主要な開発拠点を回りました。
毎回、新しいメンバーと新しいことに挑戦する。その中でも、大切にしたのは、LINEの文化をつくることでした。

一人ひとりが技術力を磨くことはもちろん重要ですが、それだけでは大きな挑戦はできません。個人の力だけでなく、チームとしての力が重要です。自分の知識や技術をオープンに共有し、議論し、お互いを助け合える仲間と一緒に取り組むからこそ、大きな挑戦ができます。

失敗を恐れず、一緒に挑戦し続けられる文化をつくることは、今でも私が一番大切にしていることです。

オフィスのテーブル席で、黒いジャケットを着た朴イビンが椅子に座り、前方を見ながら話している写真。

AI時代は「早く挑戦できる会社」が強い

――CTOとしてのミッションについて教えてください。

私のミッションは、技術によって事業とプロダクトの価値創出を加速し、会社全体をAI時代に適応させることです。そのための重要なテーマの一つが、セキュリティやコストも考慮しながら、「Time to Market(企画からサービスリリースまでの時間)」を短くするプロダクト環境をつくることです。
だからこそ、サービスを速く開発できる基盤を整え、セキュリティやコストをあらかじめ考慮した環境を用意し、社員がアイデアをすぐ形にできる状態をつくることが私の役割です。

LINEヤフーにはIT企業としては比較的長い歴史の中で積み重ねてきた多くのサービスがあります。
それだけ巨大でレガシーな組織をAX(AI Transformation)化していくためには、まずシステムや組織そのものを「AI Ready」にしていかなければなりません。巨大で複雑なシステムをAIとつなげられる状態に整え、あわせてドキュメントや業務プロセスもAIが理解しやすい形に整理し直す。一見すると地味な取り組みですが、この基盤があるからこそ、新しいサービスを圧倒的なスピードで生み出せるようになります。

――意思決定では、どんなことを意識していますか。

先入観を持たずに、状況をきちんと理解した上で判断することです。
関係者としっかり認識をすり合わせ、現場のクロスオピニオン(異なる立場の意見)も聞きながら、プロダクトの場合は自分自身もユーザーとして、実際に使ってみながら、十分に理解できるまで確認する。その上で判断します。

ただし、判断が難しい案件について、決定を先延ばしにしてボトルネックをつくるよりは、早く決めて進めてみようとしています。進めながら状況を再確認して、違っていた部分はすぐに修正する。
特に、AI時代は変化が非常に速いので、早く試して、また判断し直す、というサイクルがより重要になってくると感じています。

明るいオフィスで、黒いジャケットを着た朴イビンが両手を広げながら話している写真。

AIが進化するほど、人間の責任は増す

――世界中の企業が巨額投資をしてAI開発を進めています。その中でLINEヤフーならではの強みをどう捉えていますか。

私たちは、LINEやYahoo! JAPANをはじめ、100を超えるサービスを通じて、日本のユーザーの日常とつながっており、多様なデータベースを保有しています
UXの観点では、この日常接点を生かして、AIをサービスへ自然につなげ、既存のデータベースを横断的に活用することで、これまでの利用体験を大きく改善できます。

例えば、LINEで会話をしながら、その場でYahoo! JAPANを通じて検索し、Yahoo!ショッピングや決済システムを使って購入・決済まで完結させる。AIを通じて、各サービスをより速く、自然につなぐことで、ユーザーが必要とする情報や機能を、より積極的かつわかりやすく提供できるようになります。

――そういったサービスを目指す上で、大切にしているポイントはありますか?

それぞれ異なるサービスやユーザーのデータを扱うため、技術力だけでなく、セキュリティとガバナンスを大前提として進める必要があります。

AIは便利だからという理由だけで広がっていくものではないでしょう。利便性と安心、その両方がそろって初めて、ユーザーはAIを日常の一部として受け入れられるのだと考えています。

――全社でAXを進める中で、「AIに仕事を奪われるのでは」と不安を感じる社員もいます。

私は、人間の役割はなくなるというより、再編成されていくと考えています。
例えば、前提が明確で、シンプルなコーディングやドキュメント化、自動化の部分はAIに置き換わっていくでしょう。
その分、人には新しい仕事、より大きな役割、より難しい判断が求められるようになります。

これまで明確だった役割の境界が薄れ、企画者も開発や分析を担い、エンジニアもコードを書くだけでなく、市場を分析し、企画やシステム全体を考える。役割が広がるとともに、責任を持つ領域も広がっていきます。
LINEヤフーでは既存業務を続けながら新しい挑戦をするには人手が足りない状況でしたが、シンプルな業務を自動化することで、より多くの挑戦ができるようになると考えています。

今の仕事の一部がなくなる可能性はありますが、その分、新しい役割も生まれます。大切なのは、AI時代にうまく適応し、「自分がどこまでできるか」を考えながら、そこへジャンプしていくことではないでしょうか。

――AIが進化しても、人間だからこそ担う役割は何でしょうか。

一番重要なのは、「責任を持つこと」と「決めること」です。

AIはコードを書けますし、提案もできます。でも、その結果を採用して世の中へ出すかどうかを決め、その品質に責任を持つのは人間です。
私は、自分が理解していないものを、そのままAI任せで世の中へ出すことは、とても危険だと思っています。
AIを使うからこそ、人間はもっと深く理解しなければならない。出力を評価し、どこまで信頼できるのかを見極める力は、これまで以上に重要になります。

もう一つ、人間にしかできないことがあります。それは、人と人が対話し、新しい価値をつくることです。

AIは一人でも使えます。でも、大きなプロダクトは、一人ではつくれません。
さまざまな専門性を持った人が議論し、お互いの考えをぶつけながら、一つの方向へ進んでいく。
そのプロセスは、AI時代になっても変わらないと思います。
むしろ、AIが進化するほど、人間同士のコミュニケーションはもっと重要になるのではないでしょうか。

オフィスで、黒いジャケットを着た朴イビンが横を向いて話している上半身の写真。

AI時代に必要なのは、「挑戦し続ける組織」

――最後に、CTOとして今後目指したいことを教えてください。

短期的には、AXをさらに進め、システムだけでなく「人材のAI Ready」も実現し、社員一人ひとりがAIを使いこなしながら、より多様な挑戦ができる会社をつくりたいと思っています。
一方で、私がもっと大切にしたいのは、組織の文化です。LINEヤフーには本当に優秀で、いいメンバーがたくさんいます。特に若いメンバーには、失敗を恐れずに、もっと挑戦してほしいですね。

過去の成功体験やできない理由に縛られるのではなく、「どうすればできるか」を考え、まずは試してみる。失敗したら、そこから学び、また挑戦する。

AIの進化を社会へ届けるのは、技術そのものではなく、人です。
挑戦する人がいて、議論する人がいて、最後に責任を持って決断する人がいる。
そうした人たちがいるからこそ、新しい技術は初めて社会にとっての価値になります。

その未来を実現するためにも、失敗を恐れず挑戦し続ける組織でありたいと思っています。

取材日:2026年7月14日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:猪又 直之
※本記事の内容は取材日時点のものです

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