2004年、新潟県中越地震をきっかけに始まったYahoo!ネット募金。
多くの人の「なんとかしたい」という思いをインターネットでつなぎ、寄付を届ける新しい仕組みとして発展してきました。
しかし、活動を続ける中で見えてきたのは、寄付を集めるだけでは解決できない社会課題の存在でした。その課題に向き合うために設立されたのがYahoo!基金です。
20周年を迎え、名称もLINEヤフー基金へと変わるいま、これまで活動をけん引してきた前理事長の川邊、新たに理事長に就任する妹尾、そして基金の活動を長年見守ってきた大阪公立大学大学院の菅野拓准教授に、これまでの歩みとこれからの基金について聞きました。
- 川邊健太郎(かわべ けんたろう)
- LINEヤフー 代表取締役会長/LINEヤフー基金理事
電脳隊代表取締役社長などを経て、2019年にヤフー代表取締役社長CEO。2021年にZホールディングス代表取締役社長Co-CEO。2023年4月から現職で、2026年6月の取締役会を持って会長を退任し、顧問になる予定。2026年6月からLINEヤフー基金理事。
- 妹尾正仁(せのお まさひと)
- LINEヤフー 上級執行役員 ガバナンスグループ長/LINEヤフー基金理事長
司法試験合格後、弁護士事務所勤務を経て、2012年にヤフー入社。企業戦略、M&Aに携わった後、政策企画本部長などを経て、2020年から法務統括部長。2023年10月からガバナンスグループ長。2026年6月からLINEヤフー基金理事長。
- 菅野拓(すがの たく)さん
- 大阪公立大学 大学院文学研究科 准教授
専門は「防災・復興政策」や「災害ケースマネジメント」。2019年から、Yahoo!基金の選考委員を務めている。また、石川県「能登半島地震 復旧・復興アドバイザリーボード」委員や内閣官房「防災庁設置準備アドバイザー会議」専門委員なども務める。
なぜ「基金」が必要だったのか
――まず、2004年に「Yahoo!ネット募金」が始まりましたが、その経緯についてお聞かせください。
日本は世界有数の自然災害大国です。2004年の新潟県中越地震をはじめ、国内外で大規模な災害が相次ぐ中、災害が起きるたびに「何かしたい」「助けたい」と思う人たちの気持ちを、インターネットの力で集められないかと考えたのがYahoo!ネット募金の始まりでした。
当時はYahoo!ウォレットの普及によって、オンラインで寄付できる環境が整い始めていた時期でもありました。
また、2001年の米国同時多発テロの際に、アメリカのYahoo!がインターネットを通じた募金活動を実施していたことも参考になりましたね。
――その2年後にはYahoo!基金が設立されましたが、その背景とは?
実際にYahoo!ネット募金を始めてみると、多くの寄付が集まりました。そこで私たちの中に生まれたのが、「ユーザーから寄付を集めるだけでいいのか」という問いでした。
寄付を届ける仕組みはできた。しかし、災害が起きた時だけではなく、平時から社会課題に向き合い、企業としてできることを考える必要があるのではないか。そうした議論を重ねる中で、マッチング寄付やYahoo!基金の設立につながっていきました。
――簡単に両者の違いを教えていただけますか。
Yahoo!ネット募金は、ユーザーから寄付を募り届ける「仕組み」です。一方のYahoo!基金は、その仕組みを支えるだけでなく、自ら社会課題に向き合い、助成や支援を行うために設立された組織です。具体的にはどんなNPOに、いくら支出するかを決めるわけです。
いまでこそ企業の社会的責任は広く認識されていますが、当時はまだ「企業は税金を納めていれば十分」という考え方も少なくありませんでした。そんな時代に、インターネット企業として社会とどう向き合うべきかを考えたことが、基金の原点だったと思います。
――当時の取り組みを、菅野先生はどのように見ていましたか。
川邊さんから共有のあった通りの時代背景でしたから、非常に先駆的だったと思います。
1995年の阪神・淡路大震災以降、日本ではNPO法の成立をきっかけに支援の担い手が広がっていきました。その中で、プラットフォーム企業が自社の強みを活かしながら社会課題の解決に関わる動きはまだ珍しかったですね。
――そうした中で、Yahoo!基金はどのような方向性を目指していったのでしょうか。
基金を設立した後に考えたのは、「災害時だけで終わらない活動をどう作るか」でした。
インターネットの強みは日常性です。そこで掲げたのが、「インターネット社会の健全で安全な発展」というテーマでした。その流れから、NPO支援や寄付文化の醸成など、平時から社会課題に向き合う活動を続けていくことになりました。その考え方は今にもつながっています。
災害支援の「日常化」への挑戦
――基金設立後、支援のあり方や基金の活動はどのように変化していったのでしょうか。
災害時には一気に善意が集まります。ただ、その熱量をどう継続していくかが難しい。
Yahoo!基金は、災害時の支援だけでなく、平時からNPOとの関係づくりや助成を続けてきました。そうした積み重ねが、有事の迅速な支援につながっているのだと思います。
私たちにとって、東日本大震災は大きな転機でした。
当時は、とにかく被災地のために何かしたいという思いで動いていました。しかし支援を続ける中で見えてきたのが、被災された方々への支援と、現場で活動するNPOへの支援は別のものだということです。
義援金は被災者の方々へ届けるお金ですが、現場で活動するNPOを支えるためには支援金が必要です。
被災地では、炊き出しや見守り、生活再建のサポートなど、多くのNPOが重要な役割を果たしていました。そうした団体が継続的に活動できる環境を整えることも、復興には欠かせないと学びました。
この経験をきっかけに、基金では両者を明確に分けて運用するようになりました。
――その学びは、その後の災害支援にはどのように生かされたのでしょうか。
2016年に発生した熊本地震の際には、私も実際に現地へ入りました。
多くのNPOの方々から話を聞く中で印象的だったのは、「活動したくても最初に動き出すためのお金がない」という声でした。
被災地では一刻も早く支援が必要ですが、NPOも突然人や物資を集めて現場へ向かう必要があります。交通費や宿泊費、車両の手配など、活動を始める前の段階で多くの費用が発生するんです。
一方で、そうした初動費用は支援の対象として見えにくく、資金が集まりにくい現実もあります。
現場で話を聞いたことで、「支援を必要とする人を支えるには、まず支援する側を支える必要がある」と強く感じました。
それ以降、基金ではNPOへの迅速な寄付や助成をより重視するようになりました。
平時からNPOとの関係を築いていたからこそ、本当に必要とされる現場を把握し、必要なタイミングで支援を届けることができたのだと思っています。
――そうした迅速な支援体制を支えてきたものは何だったのでしょうか。
私が指示して作ったというよりも、社員たちが現場で課題を見つけながら進化させてきた仕組みだと思っています。
一人ひとりが強い当事者意識を持って現場へ足を運び、人と向き合いながら学び続けてきました。その積み重ねこそが、基金の大きな財産です。
支援を届け続けるために
――Yahoo!基金の特徴として、「現場との距離の近さ」を挙げる方が多いですが、菅野先生は第三者的にご覧になっていていかがですか?
そうですね。私は外部有識者、(助成先審査における)選考委員として、長年活動を見ていますが、Yahoo!基金は単に資金を出すだけではありません。
NPOと一緒に考え、社員も現場へ足を運ぶ。その過程で課題を学び、次の支援につなげている印象があります。
だからこそ、デジタル企業でありながら人が前面に立っているように感じるんです。
――そうした現場との関わりを続ける中で、基金として大切にしてきたことは何でしょうか。
災害支援で難しいのは、時間とともに風化が起きてしまうことです。
発災直後は多くの人が関心を寄せますが、復興は何年、何十年と続きます。
能登半島地震もそうですし、東日本大震災もまだ終わっていません。
現場へ足を運ぶと、支援を必要としている人が今もいることを実感します。だからこそ、社会の関心が薄れた後も活動を続けていくことが大切だと思っています。
現場から学び、新たな未来へ
――20年の歩みを踏まえ、AI時代のLINEヤフー基金は今後どのような役割を果たしていきたいですか?
まず大切にしたいのは、これまで培ってきた姿勢を引き継ぐことです。
災害支援もそうですが、有事に力を発揮するためには平時の準備が欠かせません。全国で活動するNPOや任意団体、大学、医療関係機関など、あるいは、地域の方々との関係づくりを続けていきたいと思っています。
そのうえで、これから大きなテーマになるのがデジタルデバイドです。
スマートフォンやインターネットに加え、AIの活用にも格差が生まれつつあります。技術の進化によって社会参加の機会に差が生まれないよう、基金としても取り組んでいきたいと考えています。
――Yahoo!基金は妹尾新理事長のもとでLINEヤフー基金として、さらなるアップデートを行います。菅野先生は、今後のLINEヤフー基金に何を期待しますか。
私が期待しているのは、「フェーズフリー」という考え方です。
フェーズフリーとは、平時と有事を切り分けるのではなく、普段から役立っている仕組みが、災害時にもそのまま力を発揮する状態を指します。基金がこれまで築いてきた助成の仕組みやNPOとのネットワークは、まさにその考え方を体現していると思います。
――それでは最後に、次の世代へメッセージをお願いします。
LINEヤフーには、課題がある場所へ自ら飛び込み、学びながら解決策を考える文化があります。その姿勢をこれからも大切にしてほしいですね。
これからはAI時代における「デジタル社会の健全で安全な発展」が重要なテーマになると思っています。
AIは人々の日常そのものになっていくでしょう。その一方で、新たな格差や課題も生まれてくるはずです。
だからこそ、技術だけを見るのではなく、人のいる現場を見ることを忘れてほしくありません。
私自身も理事として関わり続けますし、必要があれば現場にも足を運びたいと思っています。
川邊さんから受け継いだ思いを大切にしながら、新しい社会課題にも挑戦していきます。
災害支援も、デジタルデバイドも、AI社会の課題も、現場から学ぶ姿勢は変わりません。実際に困りごとを抱えるみなさんの課題に向き合いながら、次の20年に向けて、LINEヤフー基金ならではの価値をつくっていきたいと思います。
取材日:2026年5月27日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:倉増崇史
※本記事の内容は取材日時点のものです



