人生を楽しむためのリテラシーとは? LINEヤフーが描く新しいCSR

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静岡大学の塩田先生とLINEヤフーの西田さんのバストショット。塩田先生は黒いスーツに白いシャツ、黒地に小さなドット柄のネクタイを着用し、短く整えた黒髪で眼鏡をかけている。西田さんは黒いジャケットに黒のインナーを合わせ、自然な黒髪を横分けにしている。両手をテーブルの上に重ね、柔らかく微笑みながら正面を向いている。

テクノロジーは、人を幸せにできるのでしょうか。
私たちの暮らしが便利になる一方で、誹謗(ひぼう)中傷や詐欺などの問題も広がっています。
その現実を前に、LINEヤフーは「テクノロジーをもっと身近に、もっと安心に」をCSRの新方針として掲げました。

今回の対談で見えてきたのは「危険を減らす」だけではない、もう一つの視点です。テクノロジーが日常に深く入り込む時代に、「どう守るか」から「どう生きるか」へ。そこから見えてきたのが、「人生を楽しむためのリテラシー」という考え方でした。
CSR責任者・西田と、静岡大学の塩田先生が、その背景と、テクノロジーとともに生きるこれからの社会像について語り合いました。

塩田 真吾 (しおた しんご)さん
静岡大学教育学部准教授。博士(学術)。専門は教育工学、情報教育。2021年より文部科学省 ICT 活用教育アドバイザーを務めるなど、子どもの情報モラルやデジタルリテラシーの研究に長年取り組む。LINEおよびLINEみらい財団と連携し、「GIGAワークブック」などの教材開発を共同で推進。
西田 修一(にしだ しゅういち)
執行役員
2004年ヤフー入社。Yahoo! JAPANトップページの全面リニューアルを主導し、東日本大震災後には「Search for 3.11 検索は応援になる。」を立ち上げるなど、事業を通じた社会貢献を推進。2017年よりCSR・サステナビリティ領域を統括。

「テクノロジーをもっと身近に、もっと安心に」

――今回のCSR新方針は、どのような背景から生まれたのでしょうか。

西田の写真

LINEとヤフーは、それぞれCSRに取り組んできましたが、共通していたのは災害対応や未来世代への支援でした。今回も、まったく新しいことを始めるというより、これまで大切にしてきた軸をあらためて整理した、という感覚です。

今回の出発点は「私たちの事業のコアは何か」という問いでした。私たちは自らを「ライフプラットフォーム」と位置づけ、テクノロジーで人々の生活を豊かにしたいと考えています。

生成AIの登場などでテクノロジーは急速に進化しました。便利になる一方で、デジタル格差の拡大や、使い方を誤ったときの影響の大きさも顕在化しています。
多くの方に日常的に使われているLINEをはじめとしたサービスを運営する企業だからこそ、その影響は小さくありません。光を広げるだけでなく、「影」の部分にも責任を持つ必要があると考えました。

塩田先生の写真

「影にも責任を持つ」という視点は、とても重要ですね。

西田の写真

災害への対応は変わらずに重要です。ただ、多くの方にとっては、まず日常の暮らしがあります。そして、ライフプラットフォームはそのすぐそばにある存在でもあります。だからこそ、日常の中で光を広げ、影を薄くする取り組みを柱に据えたいと考えました。

LINEみらい財団を解散し、事業として引き継いだのも、そのほうが持続可能だと判断したからです。外に置くのではなく、会社として責任を持って内側に入れるという覚悟でした。

塩田先生の写真

それを聞いて、安心しました。

テクノロジーで未来を支える取り組みを説明したイラストである。中央には大きな円があり、「未来をひらく力をテクノロジーで支え、『いつも』と『もしも』に安心を」と書かれている。左側の黄色い枠には「脅威から守る」とあり、「いつも-Everyday life 心の健康と安全を守る」として「LINE相談」「社会課題に対する検索の取り組み」「詐欺行為の撲滅に向けた取り組み」「闇バイト防止教育」が列挙されている。

――「テクノロジーをもっと身近に」つまり誰でも使える、という状態はすでに達成されているとも感じます。その上で、どのような課題が見えてきていますか? 

塩田先生の写真

やはり、誰とでもつながれるからこそ起きるトラブルがあります。特にコミュニケーションの問題です。

2014年ごろ、「LINEいじめ」という言葉が広まりました。私はその頃から情報モラルの教材づくりに関わっていましたが、学校現場では「LINEがあるからいじめが起きる」と言われたこともあります。
しかし、いじめ自体はツールがなくても存在していました。ただ、いつでもつながれるツールがあることで、グループからの排除や動画の拡散など、新しい形で問題が増幅されたと言えます。

西田の写真

テクノロジーそのものが問題を生むわけではありませんが、もともとある人間の問題を増幅する側面があると考えています。

だからこそ、その前提に立ったうえで、ルールを整え、設計を工夫し、パトロールを行うなど、影をできる限り薄くする取り組みを続けています。

塩田先生の写真

確かに、AIなどのテクノロジーで防げる部分もありますよね。たとえば、「ふざけるなよ」という言葉が、「どうされましたか?」に変わるだけでも、空気は少し違ってきますよね(笑)。

そんな風に攻撃的な言葉を自動的にやわらかい表現に変換する、といったことも可能です。
リアルな場では難しくても、デジタルだからこそできる対策もある。だから技術と教育、その両輪が必要だと思います。

――技術だけでも、教育だけでも足りない、ということですね。

西田の写真

足りない部分に向き合い、正しい使い方を知ってもらうこと、被害に遭った人をどうケアするかまで含めて、企業の責任だと考えています。

ただ、企業が影を減らす努力を続けたとしても、道具を使うのはあくまで人です。だからこそ、次に問われるのは「使い手のリテラシー」です。

LINEヤフーの西田さんのバストショットである。黒いジャケットに黒のインナーを合わせ、黒髪を自然に横分けにしている。椅子に座り、体をやや横に向けながら、両手を前に出して軽く動かしつつ話している様子である。

リテラシーは「知識」だけではない

――塩田先生から今、各世代のリテラシーはどのように見えていますか?

塩田先生の写真

学校では情報モラル教育が行われており、若い世代は体系的に学んでいます。一方で、私たち親世代は子どもの頃にスマートフォンやSNSについて教わってきたわけではありません。そこに世代間の違いはあると思います。

――そう考えると、若い世代の方が知識はありそうですが...。

塩田先生の写真

ただ、リテラシーは知識だけの問題ではありません。危険を知ることだけでなく、「どう使うか」「どう向き合うか」を選ぶ力も含まれます。

大人世代には「保護者としてのリテラシー」という視点もあります。
これは、自分が身を守るための知識だけでなく、子どもにどう使わせるか、どう向き合うか。親としての関わり方そのものがリテラシーになる、という考え方です。

――では、これからの時代、どのようなリテラシーが必要になってくると思いますか?

塩田先生の写真

リテラシーは、単にリスクを避ける力じゃなくて、「自分の人生をどう設計するか」という力に変わっていくのではないかと思っています。つまり、「何を避けるか」よりも、「何を選ぶか」という力です。

テクノロジーに囲まれた私たちは、改めて自分の時間の使い方を問い直す必要があるのかもしれません。

――先生の研究テーマにもなっているのでしょうか。

塩田先生の写真

はい。今、子どもの「使い過ぎ」について研究を進めています。「どうすればスマホ依存を防げるのか」というテーマです。

高校生の余暇を調査すると、上位はほぼスマホ関連でした。
1位が動画視聴、2位がLINEやInstagramでのやりとり、3位がネットゲーム。多くの時間がスマホの中で完結していました。
そこで見えてきたのは、問題はスマホそのものではなく、「時間の使い方」だということでした。

――問題はスマホではない、と言うのは少し意外です。

塩田先生の写真

スマホを使うこと自体が悪いわけではありません。大事なのは、スマホを使いながらも、自分の人生をどう豊かにしていくか。
夢中になれるものがあれば、攻撃的になる時間は減るかもしれません。
だからこそ、余暇をどう設計するかもリテラシーの一部だと考えています。

――ただ、若い世代は最初からスマホや動画が身近にあって、それ自体が余暇の中心になっていますよね。

塩田先生の写真

そうなんです。だからこそ、「スマホをやめさせる」という発想ではうまくいかないと感じています。

そこで活用しているのが「GIGAワークブック(※)」です。これは、単に「使い過ぎを減らそう」と言うのではなく、「人生を楽しむためにスマホをどう使うか」を考える教材で、親子で一緒に向き合う設計になっています。

――確かに、子どもだけにスマホを禁止するのではなく、親も一緒に考える必要がありそうです。

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親のスマホ利用時間が長いと、子どもの利用時間も長くなるというデータがあります。だからこそ問うべきなのは、「どれだけ減らすか」ではなく、「どんな時間の使い方を選ぶか」ということです。

余暇を広げることは、結果的にリスクを減らすことにもつながります。

活用型情報モラル教材「GIGAワークブック」

静岡大学の塩田先生のバストショットである。黒いスーツに白いシャツ、黒地に小さなドット柄のネクタイを着用し、短く整えた黒髪で眼鏡をかけている。両手をテーブルの上で組みながら、やや身を乗り出して対面の相手に向かって話している様子。表情は穏やかで、視線は右側にいる相手に向けられている。

塩田さん「余暇のあり方はライフステージで変わります。たとえば、私は子育て中心の生活に切り替え、優先順位を1位子育て、2位仕事に。時間を区切ることで、むしろ集中力が高まりました」

――とはいえ、子ども世代は自分で時間を決めても破ってしまうことがありますよね...。

西田の写真

私には高校2年生と中学2年生の子どもがいますが、本当に難しいですね。うちでも試行錯誤しています。
スマホの使い方に限らずですが、家庭内で何らかのルールを定める必要があれば、その理由を説明し、必要に応じて議論できる関係を作ることの方が大切だと思っています。

子どもたちは私のInstagramのアカウントをフォローして投稿も見ています。個人が特定される情報は出さないなど、実際の使い方を見せることも教育の一つだと考えています。

塩田先生の写真

高校生でそのルールを守っているのはすごい!

西田の写真

もちろん、周りの友だちが自由に使っている中で難しい場面もありますし、利用時間に限らずルールを設けても何とかして突破しようとします(笑)。
だから一律に止めるのではなく、「あと15分だけ延長したい」とリクエストを出してもらう仕組みにしています。そのやりとり自体が対話になるんですよね。

結局、何かトラブルが起きたとき――たとえば詐欺に遭ったときでも、普段から話せる関係がなければ相談できません。リテラシー以前に、「話せる関係」が土台だと思っています。

塩田先生の写真

その考えは、リスク教育の研究にも通じています。私の大学では防災や事故研究とも連携し、「リスクをどう学ぶか」をテーマに取り組んでいます。
防災だけを学んでもネットトラブルは防げませんし、ネットのことだけを学んでも交通事故は防げません。

リスクって分野ごとに違うように見えますが、実は共通する考え方があるんですよね。だから、ひとつひとつ別々に教えるよりも、まとめて考えたほうがいいんじゃないか、と思っています。

――その、共通する考え方とは何でしょうか?

塩田先生の写真

結局いちばん大事なのは、困ったときに相談できる環境があるかどうかなんですよね。
最近はAIを活用した相談研究も進めています。トラブルが起きたとき、まずAIに相談する。もちろん万能ではありませんが、言いづらい悩みの入口にはなり得る。

テクノロジーはリスクの入り口であると同時に、相談の入り口にもなれる。そこに可能性を感じています。

西田の写真

最近、支援団体の方から、以前はYahoo!知恵袋、今はChatGPT経由で相談が来るケースが増えていると聞きました。ただ、そのときに問われるのは「どう聞くか」です。

問いかけ方によって答えが変わるのであれば、AIへの「問いの立て方(プロンプト)」もまたリテラシーの一部になります。
AIが進化しても、最後に残るのは人の「問い」だからです。

静岡大学の塩田先生とLINEヤフーの西田さんが向かい合って着席している写真である。西田さんは黒いジャケットに黒のインナーを合わせ、自然な黒髪を横分けにしている。両手を軽く組み、相手の話を落ち着いた表情で聞いている。

西田「AI時代は逆算が難しくなるので、好きなことと得意なことを磨いてほしいですね。子どもとは定期的に1on1で話す時間をつくっています」
塩田さん「家庭で1on1、すてきですね。リテラシーは親が一方的に教えるものではなく、一緒に考えるものだと感じました」

人生を楽しむためのリテラシーとは

――人生を楽しむためのリテラシーの実現に向けて、塩田先生が企業に期待する役割とは何でしょうか。

塩田先生の写真

テクノロジーが人を幸せにする社会を本気で目指すうえで、教育との接点は欠かせません。
やはり、学校現場への支援は非常にありがたいですね。情報分野には教科書がありません。だからこそ、全国規模で使える教材があり、しかも毎年アップデートされているというのはとても心強いことです。

「GIGAワークブック」は教育委員会からの評価も高く、全国で広く使われています。これからもこうした取り組みが続くことを期待しています。

西田の写真

ありがとうございます。私もときどき学校に足を運びますが、子どもたちから直接「役に立った」と言われると、改めて自分たちの仕事の意味を実感します。


専門部門だけでなく、さまざまな部署の社員が出前授業や会社見学などに関われる仕組みをつくり、社員が社会と直接向き合う機会を増やしていきたいですね。

塩田先生の写真

最近私たちが重視しているのは、「人生を楽しむ」という視点です。
たとえば、「闇バイトは危険」と教えるのではなく、「あなたはどう生きたいか」を問い、その邪魔をするものとしてリスクを考える。防災も、事故防止も、情報リテラシーも、すべては人生を楽しむための土台です。

これまでは「どんな仕事に就きたいか」という話が中心でしたが、これからは「どんな人生を送りたいか」という問いがより重要になると思います。
リスクを教えるための教育ではなく、人生を豊かにするための教育の中に、デジタルを位置づけられるといいですよね。

それこそ、LINEヤフーのみなさんが自分の人生をどう楽しみ、その中でサービスをどう活用しているのかを伝えることも、子どもたちにとっては大きなヒントになると思います。

西田の写真

そうですね。これからのデジタルリテラシーは単なるスキルではなく、人生をどう生きるかを支える力の一部になっていくのだと思います。

塩田先生の写真

「ライフプラットフォーム」という言葉は、人生を楽しむための基盤という意味でも象徴的ですよね。
たとえば天気サービスも、ただ学校に行くために調べるのではなく、「山に行く」「海に行く」といった目的があれば、使い方はまったく違ってきます。

これからAIが当たり前になれば、その人に合った選択肢が自動的に提示される時代になります。だからこそ大切なのは、「自分は何をしたいのか」という軸です。
テクノロジーが答えを出してくれる時代だからこそ、問いを持つのは人間ですよね。

西田の写真

そうですね。テクノロジーが選択肢を差し出す時代だからこそ、自分らしさや存在意義をどう持つか。
自分の時間をどう使うか、人生をどう豊かにしていくか。これからはそれらが問われる時代になるのだと思います。

私たちは、テクノロジーの発達が人を幸せにするものであってほしいと願っています。
それでも、傷つく人がいる現実もあります。
だからこそ、「テクノロジーで人は幸せになれる」と、誰もが実感できる社会に近づけていきたい。それが、私たちのCSRの目指すところです。

静岡大学の塩田先生とLINEヤフーの西田さんがハイチェアに腰掛けている全身写真。二人は木目調のカウンターの前に並んで座り、背後には観葉植物と明るい窓、木製パネルの壁面が広がる室内空間となっている。

西田「好きなことと得意なことを磨くことが、予測しにくい時代を生きる力になると思っています」
塩田「リスクを教える前に、どう生きたいかを一緒に考える。その順番が大事ですよね。リスクを避けるためではなく、人生を楽しむための教育へ。リテラシーの意味も変わっていくと思います」

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取材日:2026年2月10日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:日比谷 好信
※本記事の内容は取材日時点のものです

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