守田:
2023年の夏の地方大会は、3,744校3,486チームが参加しました。そして、チームの数だけドラマがあります。舞台は違っても1試合にかける思いは、たとえ全国大会の決勝と地方大会の1回戦でも同じだと思っています。2023年の夏大会からは地方大会を含む全試合の配信が可能になったので、ぜひ1試合1試合に注目して観戦してもらえたらうれしいです。
2024年3月18日に開幕予定の第96回選抜高校野球大会(主催:毎日新聞社、日本高等学校野球連盟)(以下、センバツ)の出場校が決定しました。
LINEヤフーが運営するスポーツ総合サイト「スポーツナビ(以下、スポナビ)」内で展開する「センバツLIVE!」では全31試合のライブ配信を予定しています(※)。
今年も高校野球の観戦を楽しみにしている方も多いはず。なぜ、高校野球に多くの人が心奪われ、応援せずにはいられないのでしょうか。
今回は「バーチャル高校野球」の楽しみ方やサービスの裏側、それぞれの高校野球に対する魅力や思いを、サービスに関わる4名に聞きました。
守田:
2023年の夏の地方大会は、3,744校3,486チームが参加しました。そして、チームの数だけドラマがあります。舞台は違っても1試合にかける思いは、たとえ全国大会の決勝と地方大会の1回戦でも同じだと思っています。2023年の夏大会からは地方大会を含む全試合の配信が可能になったので、ぜひ1試合1試合に注目して観戦してもらえたらうれしいです。
森:
やはり自分の母校や後輩は特に応援したくなりますね。母校は不出場でも、いわゆる「おらが町の学校」、地元の学校も応援できます。それぞれ皆さんが思う「ふるさと」と「高校野球」はリンクするところが多く、それが地方大会や高校野球の魅力だと思います。
また、個人的には、いかに「公立校」が「私立校」と戦うかという点も注目しています。東京の場合は私立校が圧倒的に強いのですが、僕は都立高校出身なので。楽しみ方は人それぞれで、応援する切り口もいろいろあると思います。
安倍:
私は強豪校から地元の高校まで広い範囲で戦うところが、地方大会の良さだと感じています。
私と同じエンジニア職で、自分の母校が出ていることで気になって初めてスポナビを見始めた人も多くて。スポナビが速報やライブ配信をすることで、高校野球に触れる人がもっと増えるといいですね。
守田:
高校野球の応援はブラスバンドがいて、チアリーディングがいて、という光景を想像すると思うのですが、夏の地方大会は出場チームが多いので、各校が思い思いの形で応援しているのも、魅力の一つです。
そして、その応援がものすごいパワーになるのも高校野球らしさ。「甲子園の魔物」と言われる、奇跡みたいな逆転が起こることも。選手たちの頑張りによって応援したいという雰囲気になり、その気持ちを選手たちも受け取って、普段は出ないようなパワーが出ることが、結構起こるんですよね。
自分も元高校球児なのでよくわかるのですが、応援が選手たちの力になりやすいというか、球場の声援が、選手の力になることが多いです。
森:
そういう意味では、いわゆる番狂わせが起きやすい。全国大会の出場常連校が序盤で無名の学校に負けてしまうなど、予想通りにいかないところがプロ野球と違うところかなと思います。
3年生は最後の大会だとわかっているので、応援のパワーもすごいし、選手たちも「これが人生最後の公式戦だ」と本気のプレーをするので。そういうドラマがあります。
守田:
前職の新聞記者時代、夏の地方大会で、本当に9回8点差を逆転した試合を取材したことがあります。逆転したチームのメンバーは、大差で負けていても誰もあきらめていなかったんですよね。
そんな状況でもみんな笑顔で、楽しそうにプレーしていて。それがだんだん球場の雰囲気を変えて、最後に大逆転。このようなドラマを目にできることも、高校野球のおもしろさですね。
麻生:
「最後まで絶対にあきらめずに得た勝利」を経験した選手たちは、9回裏9点差でもあきらめない人生を歩むのでしょう。なぜなら最後まであきらめないことの大切さを知っているから。
逆に負けてしまったチームの選手も、試合の最後まで油断しない人生を歩むのではないでしょうか。
森:
地方大会には、実はすごい選手が隠れていることも。たとえば、大谷翔平選手は、高校3年生の夏の全国大会には出場していないんですよね。つまり、地方大会の1回戦でも注目の選手がいるんです。
プロ野球球団も「うちの球団へ入ってくれたら」という目線で見ていると思います。「この子がもしかしたら未来の大谷選手になるかも知れない」と想像しながら観戦するのも楽しみ方の1つです。
守田:
甲子園で行われる大会には春と夏の2つがありますが、夏はわかりやすく、地方大会を最後まで勝ち抜き、都道府県の代表になり全国大会に進みます。一方、春の大会は秋に行われる地区大会の結果をもとに選考が行われて出場校が決定します。
仮に地区大会で優勝できなくても出場できる可能性もあるのが春の大会です。夏の大会は本当に一発勝負で、負けてしまったらそこで引退という選手も大勢いるので、そこが一番の違いだと思います。
森:
春夏を通じて高校野球を楽しむ中で「夏に向けて春から進化するチーム」も見どころです。
夏で引退する選手がいて、新チームができ、秋に戦って春のセンバツに出場する。この時点ではまだ次の1年生が入ってきていないので、2学年だけのチームです。よく「ひと冬越える」と言いますが、冬には公式戦がありません。
この間に急成長する選手が出てきます。ピッチャーでいうと球速が120キロだったのに140キロ出るようになることも。そして、夏に1年生が入ってきてどう融合してチームがどう進化するのか、という楽しみ方です。選手やチームの成長物語として、そこの伸びしろやステップアップはすごいですね。
麻生:
春のセンバツには21世紀枠といって、離島や過疎地など部員が少ない中でも一生懸命頑張っている高校が選抜されて全国大会に出場できる制度も。春夏それぞれの大会にそれぞれの魅力がありますね。
守田:
チャンスという意味では、夏の大会にも似たようなケースでの出場もあります。冒頭でお話したとおり、学校の校数と実際のチームの出場数が違ったと思うんですが、連合チームという形式も注目ポイントです。
たとえばA高校が5人、B高校が2人、C高校が3人みたいに、何校かが一緒にチームを作って戦います。家から離れた練習場まで通って、最後の晴れ舞台に向けて、違う学校の選手たちが一緒になって頑張る姿も魅力的です。
春:95回の歴史。選考委員会を経て出場校が決定
夏:105回の歴史。地方大会を勝ち上がった高校が出場
麻生:
大前提として、105回にわたって、その間に戦争を挟んでも「高校野球」というものを支え続けている主催者への敬意は忘れてはいけないですね。その歴史があるからこそ、今も多くの人が高校野球を応援できるわけです。
また、私たちが夏の高校野球を配信するのは2023年で2回目ですが、バーチャル高校野球はもともと朝日新聞社さんと朝日放送テレビさんが取り組んでいたものです。ご一緒する前の期間も含めて、本当に多くの関係者の思いが実って、全試合配信が実現できました。感謝しながらも私たちが携わるからには、スポナビにしかできない高校野球の見せ方をしたいです。
スポナビのバーチャル高校野球は、試合映像はもちろん、スコアなどのいろいろなデータを同時に楽しむことができます。また、気になる学校を「フォロー」して応援メッセージを投稿することも可能です。
「フォロー」すると試合開始のタイミングなどで通知を受け取れますし、その高校への応援メッセージや、実際に映像で高校生たちが活躍している姿が見られます。そうすると「自分の県の代表ってどこかな」「全国大会はどこまでいったかな」などさらに興味が広がるのではと思います。
安倍:
学校を「フォロー」すると、試合が開始して応援メッセージが盛り上がったタイミングにも、スポナビ 野球速報アプリやYahoo! JAPANアプリからプッシュ通知が届きます。
急に自分の地元の高校名がプッシュ通知で出てきたらちょっとうれしいですよね。まずはそういうところから入っていただくのもいいかなと思います。
麻生:
地方大会も含めた全試合配信は、きっと選手のご家族に喜んでいただけるのではないでしょうか。今までは映像に残らず、息子の晴れ舞台をどうしても仕事で見られなかった親御さんもいらっしゃったと思います。
ですが、全試合の配信で、お子さんの努力が映像やデータに残ります。本人たちもそうですが、選手を支えてこられたご家族もすごくうれしいのでは。同じことは先生や同級生などにも言えるでしょう。
安倍:
プロ野球と比較しても試合数が多く、球場も北から南まで全国各地にある地方大会の全試合を1回戦からすべて速報することが、大きなチャレンジでした。試合の進行を見ながら速報を入力する作業が全試合で必要ですが、多くの方にご協力いただくことで成り立っています。
また、実際の試合では試合開始の直前に先攻と後攻が入れ替わることもあります。誤ってスコアが表示されることがないよう、緻密に連絡を取りながらできる限り正確な情報をお届けする工夫をしています。
このような変更にも素早く対応し、ユーザーに正しい情報を届けるために、前年よりもデータの更新間隔を短くするなどの改善にも取り組みました。
森:
試合日時の変更対応も行いましたが、多くのユーザーに喜んでもらえています。2022年までは当日の試合分しかスポナビとして情報を提供できていませんでしたから。
ユーザーからすると「明日どこで試合がある?」「次はいつ試合があって、どこに行けば見にいける?」という状態でした。2023年からは、朝日新聞社さんをはじめ関係各所にご協力いただき、常に最新の日程を届けることができています。
守田:
コンテンツ企画側の視点では、全試合の情報をどう届けるかという部分を考えています。
今行っているのは47都道府県それぞれの特集ページを用意して運用することです。また、Yahoo! JAPANの地域タブとも連携を行っています。たとえば千葉県を「フォロー」している人には、千葉県の高校野球の情報が届きます。とくに地方大会は情報の幅が広いので、必要な人にしっかり情報を届けるコミュニケーションを心がけています。
守田:
僕は高校球児時代、控え選手で試合には出られませんでした。でも高校3年生の時にたまたま自分の学校の試合が地元のテレビ放送局で放送され、その際に僕が伝令(でんれい)としてマウンドに行ってピッチャーへ伝達した姿が、映像として1分程度放送されました。
その約1分でテレビ局の方が、私がどんな選手なのかしっかり紹介してくれたことがいまだにすごくうれしいですし、記録に残ったことが誇りに思えました。このように、一生残るようなものでもあるという意味でも、地方大会の1回戦からの全試合が配信できるのは、とてもうれしいことだと思います。
麻生:
今は「映える写真」「バズる動画」などが一瞬で生まれては消えていく時代です。でも、「人生において本当に大切なものってそれなのか?」と思うことがあります。
映える誰かに憧れて「いいね」を押すのではなく、自分なりに何かを一生懸命頑張って「昨日の自分に勝てた」ことを誇る。コスパとタイパの良いアウトプットとは程遠くても、愚直にプロセスを繰り返す。そして、負けそうになったときには、仲間との絆を糧にする。われわれやインターネットの技術が大切にすべき未来は、こういった「一生懸命」を支えることではないでしょうか。
そう考えると、もしかしたら映えないかもしれないけれど、一生懸命野球に向き合う高校生を心から応援したいなと、いつも思っています。
選ばれた人たちや才能ある人たちだけではなく「一生懸命何かに取り組むこと」そのものを大切にする世界があるべき姿だとしたら、全国大会も地方大会も同じ熱量、同じモチベーションで取り組みたいですね。
安倍:
全試合の速報は実施していますが、今はまだ道半ばだと思います。イニングごとの速報、1打席ごとの速報など、粒度の差異があるものを扱っていて、より情報が詳しい打席ごとの速報の方はまだ全試合に対して3割ぐらいのカバー率です。
先ほど守田の話にもありましたが、個人個人の結果などより細かい情報を速報としてお届けできたら。引き続き、スポナビとしても進化したいですね。
麻生:
このサービスを通じて「何かを一生懸命頑張ることの尊さ」を次の世代にしっかり伝えていくことに、引き続き取り組んでいきます。
また、いつかスポナビを通じて選手たちに差し入れができるような仕組みもつくりたいと考えています。たとえば、自分の母校にスポーツドリンクを届けられて、応援のメッセージも添えられたら最高じゃないですか。他にもやりたいことはたくさんあります。
サービスの進化という意味では高校野球を中心に輪を広げて、競技や種目を越えて「頑張る誰か」やそれを応援する文化、これらを大切にする世界を、少しずつでも広げていきたいです。
※ヤフー株式会社のコーポレートブログに掲載した記事を一部修正し再掲載しています。
文・写真:安田 美紀