慎さん、最初にLINEでつながった相手を覚えていますか?
「LINEしておくね」
今では当たり前になったこの言葉も、15年前には存在していませんでした。
東日本大震災をきっかけに誕生したLINEは、多くの人の暮らしの中に浸透し、家族や友人との連絡はもちろん、行政や防災など社会を支える基盤としても活用されています。
そして今、生成AIの進化によって、コミュニケーションの形は再び大きく変わろうとしています。
しかし、LINEの生みの親である慎と、現在LINE Messenger事業を率いる朝井は、「LINEがこの先も存在し続けること」を前提には考えていないと言います。
変わり続ける時代の中で、LINEはこれからどこへ向かい、何を目指すのでしょうか?
慎と朝井が、LINEのこれまでとこれからについて語り合いました。



慎さん、最初にLINEでつながった相手を覚えていますか?

覚えてます。LINEの開発中だったので、当時の開発メンバーですね。それと、もちろん家族です。
最初に送ったメッセージは「テスト」です(笑)。まだサービス名も「LINE」じゃなかった頃で、いろいろ試していました。

僕は奥さんです。でも実は、LINEに入社する前はLINEを使ってなかったんですよ。
みんなが使っていたので、逆に「この波には乗らないぞ」と(笑)。

それこそ、自分がつくる側になるとは思ってなかった?

それは全然思ってなかったですね。
慎さんは15年前、LINEをどのようなサービスにしたいと思っていましたか?

実は、「LINEをつくりたい」という発想から始まったわけではなかったんです。
当時はまだ会社にサービスがほとんどない状態だったので、「何をつくれば、より多くの人に使ってもらえるのか」を考えていました。
目標は、国内で過半数の人が使うサービスをつくること。そのためには何が必要なのか、というところから逆算してスタートしました。
だから当時は、「LINEを成功させる」というより、「ユーザーに選ばれるサービスをつくる」という意識のほうが強かったですね。
今では多くの方に使っていただけるサービスになりました。でも、「ユーザーにどれだけ長く使っていただけているか」という観点で見ると、まだまだだと思っています。

そう思っておかないと駄目ですよね。満足したら駄目ですから。

昔からよく考えていたのは、「スマートフォンの中に1つだけアプリを残さなければならないとしたら、何を選ぶか」という問いです。
ほとんどの人に「これだけは残したい」と思ってもらえたら、それはNo.1なのかなと思います。

慎さんからいつもこの質問を問われますね。「唯一残せるアプリなのか?」って。
僕は、何かをしようと思ったときに、最初に立ち上げてもらえる存在がNo.1なのかなと思っています。
コミュニケーションだけじゃなくて、決済や予約なども含めて、「とりあえずLINEを開けば何とかなる」。そんな入り口になれたらいいなと。
ただ、実は僕、「No.1」という言葉はあまり好きじゃないんです。

おっ(笑)。

なんか慢心じゃないですか。
そこで成長が終わってしまう感じがして、あまりNo.1って僕は言いたくない。登りつめてしまったような感覚があるんですよね。

その感覚はすごくわかります。No.1になるまでは、No.1を目指す意味があります。でも、なった後は別の考え方が必要なんです。
たとえば電気やガスのようなインフラは、10年前と比べても大きく変わりません。それはある意味、完成された状態です。
でも、LINEは違います。
10年前のLINEと今のLINEは全く違うサービスになっていますし、10年後もまた違う姿になっていないといけない。
だから大事なのは、No.1であり続けることではなく、ユーザーの求めるものや時代に合わせて進化し続けることだと思います。

LINEが生まれる前と後で考えると、人と人との距離、人とお店との距離はすごく縮まったと思います。
以前はメールが中心で、どこか「お行儀のいい」コミュニケーションでした。でもLINEが登場してからは、短いテキストやスタンプで気軽にやりとりできるようになった。コミュニケーションのテンポそのものが変わった気がします。
お店との関係もそうですよね。以前は遠い存在だったのが、今では友だちの延長線上のような感覚でやりとりできるようになりました。
LINEの初期ミッションだった「CLOSING THE DISTANCE(距離を縮める)」が、まさに実現されてきたのだと思います。

LINEを作っていて、一番うれしかった出来事があるんです。
あるおじいちゃんから手紙をいただいたことがあって。
それまでお孫さんとほとんど会話がなかったそうなんですが、LINEを使うようになってから毎日のように写真が送られてくるようになったと。
「今までは1カ月に電話1本するのも難しかったのに、毎日連絡が来る。こんなにいいサービスは見たことがない」
そんな言葉を書いてくださっていて、とてもうれしかったですね。他社の方とお会いしたときにも、「孫と毎日LINEでやりとりしているんです」と言っていただくことがよくあります。
今まで距離があった人たちがつながるようになった。そのお手伝いができたことは、本当にやりがいでした。

正直、最初から「ここまで」という線引きを決めるのは難しいと思っています。
AI自体も進化しますし、それを使うユーザーも変わっていくからです。
だからまずは機能を出してみて、実際のユースケースやユーザーの声を見ながら調整していく。それが現実的なアプローチなのかなと思っています。
そもそもLINE自体、ユーザーの想定外の使い方によって発展してきたサービスです。
スタンプもそうですし、「こう使ってほしい」と決めるより、ユーザーが価値を見つけていく部分が大きいと思っています。

AIについて考えるとき、僕は「人工知能」ではなく「人工人間」だと思うようにしています。
たとえば、とても優秀な親友や家族がいたとして、どこまで助けてくれたらうれしいですか、という話なんですよね。
逆に何でも先回りされると「そこまでは要らないよ」と思うこともあるし、困っているのに何もしてくれないと、それも不満になる。
その間にある、ちょうどいい距離感を探すことが大事だと思っています。

人によって期待値も違いますしね。
僕はあまりいろいろ世話を焼かれるのが好きじゃないタイプなんですが(笑)、もっと積極的にサポートしてほしい人もいる。

そうなんです。
だからAIも1か0ではなくてパーソナライゼーションが重要で、それは人間関係と同じなんですよね。
自分はどこまで助けてほしいのか。どう関わってほしいのか。そこをユーザー自身が選べることが大事だと思います。

でも、そのさじ加減を見つけるのは難しいですよね。 人間同士でも難しいのに、それをAIがどう実現するのか。そこは今後の大きなテーマだと思います。

僕は、そのときにはLINEがなくなっている可能性は十分あると思っています。
LINEを立ち上げた当時、周りにサービスの構想を話したら「そんなもの要らないよ」と言われたんですよ。でも実際には、多くの人に使われるようになった。
同じように、将来もっと良いサービスが現れて、ユーザーの課題を解決できるなら、そちらが選ばれる可能性は十分あります。
だからこそ、「LINEは絶対に残る」と考えるのではなく、常に進化し続けなければいけないと思っています。

僕も15年後には今の意味でのLINEはなくなっているかもしれないと思っています。
それこそAIがさらに進化すると、「どのアプリを使うか」をユーザーが意識しなくなる可能性があるからです。
たとえば「慎さんにメッセージを送って」と話しかけるだけで、AIが最適なサービスを選んでくれる。そうなると、アプリそのものの価値は今より小さくなるかもしれません。
ただ、その中でも価値として残るものはあると思っています。
それは、たとえば友だちとのつながりや、これまでやりとりしてきた写真やメッセージです。
LINEが持っているソーシャルグラフや思い出の蓄積は、これからも大きな強みになるんじゃないかと思っています。

15年前を振り返ると、今のスマートフォンの使われ方を想像できた人はほとんどいなかったと思うんです。
当時は携帯電話が主流で、スマートフォンがここまで生活の中心になるとは考えられていませんでした。でも実際には、今や多くの人が朝起きてすぐスマートフォンを手に取り、日常のあらゆる場面で使っています。
同じように、10年後、15年後はもっと大きな変化が起きているかもしれません。
特にAIのような大きな技術革新が起きている中では、「これは絶対になくならない」と考える方が危険だと思うんです。
だからこそ、僕は常に「変わること」を前提に考えるべきだと思っています。
ユーザーが何を求めているのか。テクノロジーで何ができるのか。
その両方を見ながら、毎日進化し続ける。それが一番大事。

そうですね。今あるものが残ることを前提に考えるのではなく、目の前の課題に向き合うこと。
そして必要なら、自分たちが築いてきたものを壊す勇気を持つこと。
それが大切なんだと思います。

選ばれ続けるためには、僕たち自身が進化し続けなければいけません。
人間って、本能的には変わりたくないんですよね。でも、実際には、体の細胞は毎日生まれ変わっています。変化を止めてしまうことの方が、むしろ不自然なんです。
組織やサービスも同じで、放っておけば安定を求めてしまう。でも、それでは進化できない。
だから僕は、「変わるべきだ」という意思を持ち続けることが大事だと思っています。

「100年続く会社より、100回変わる会社でありたい」という(元会長川邊さんの)言葉がありますが、本当にその通りだと思っています。
今は1年先、半年先すら読めない時代です。
だからこそ、今あるものに固執せず、新しいことに挑戦し続けることが大事なんですよね。

こだわるなら、「変わること」にこだわった方がいいですね。

そうですね。守ることではなく、変わることに。
最後に、これからのLINEに対して慎さんは何を期待していますか?

たぶん答えはわかっていると思いますけど(笑)。
やっぱり10年後も生き残ることですね。
誰よりも愛着を持っているサービスですし、時代の変化とともに消えていくのではなく、進化しながら生き続けてほしい。

今のアプリという形にもこだわらずに、ということですよね。

もちろんです。
「電車に乗っていると、目の前の人が自分たちの作った機能を使っていることがある。知らない誰かの日常の中にサービスがあるって、すごく感動するんですよね」(朝井)
「最初は誰も使っていなかったサービスに、一人、また一人とユーザーが増えていく。そのうれしさは今でも忘れられません」(慎)
取材日:2026年6月22日
文:LINEヤフーストーリー編集部 撮影:日比谷 好信
※本記事の内容は取材日時点のものです
