2020年の統合から6年、LINE MAN Wongnaiは利用者1,000万人を超えるタイ最大のライフインフラへと成長しました。2025年に黒字化を達成し、将来的なIPOを見据える今、同社は100億バーツ(約400億円)規模のAI投資という、次の成長に向けた一手にも踏み出しています。
50万件の加盟店と25万人のライダー(配達パートナー)を抱える巨大なエコシステムを、いかにして構築し、独走を続けているのか。創業者兼CEOのYod Chinsupakulに、AIが変える未来の体験と、ステークホルダーと共に歩む「情熱の源泉」を聞きました。

LINE MANと、私が学生時代の仲間と立ち上げたWongnaiは2020年に合併しました。当初はLINE MANがフードデリバリーと配車サービス事業、Wongnaiがレストランのレビューサービス事業をそれぞれに展開していましたが、合併を機にサービスのポートフォリオを拡大してきました。
現在、私たちは主に3つの大きな事業を柱としています。
主軸となる1つめはオンデマンドサービスです。フードデリバリー、配車、食料品配送、メッセンジャー、広告ビジネスを含む大きな事業で、1,000万人以上のユーザーにご利用いただいています。加盟レストラン数は50万店を超え、25万人のライダーがタイの街を駆け抜けています。フードデリバリーではマーケットシェア1位を獲得しており、利用率も非常に高いサービスへと成長しています。
2つめは「マーチャントデジタルソリューション」と呼んでいる、店舗向けのDX支援です。レストランや美容・スパ、クリニック向けにPOSシステムを提供しているのですが、この分野でも2018年の開始以来、市場でナンバーワンのシェアを誇っています。すでに7万以上のビジネスの現場で私たちのシステムが活用されており、SaaSビジネスとして非常に高い収益性を実現しています。
そして3つめが決済金融サービスです。タイで広く普及している決済サービス「LINE Pay」と、私たちが展開するフードデリバリーやオンデマンド、そしてPOSサービスといったエコシステムを深く連携させました。これによって、オンラインはもちろんのこと、タイの隅々にある街中のあらゆる加盟店でも便利に利用できるようになり、オフラインのネットワークを広げながら、より身近なサービスとしてみなさんにお届けしています。
また、単なる決済機能だけにとどまらず、融資(レンディング)などの金融サービスも展開しています。これらは、日々の配送を支えてくれるライダーや加盟店のみなさんはもちろん、一般のユーザーに至るまで、サービスに関わるすべてのステークホルダーを対象としており、私たちのビジネスを支える非常に重要な基盤となっています。
私たちは、タイ市場において非常にユニークなポジションを築いていると考えています。というのも、フードデリバリーや食料品配送だけでなく、配車サービス、店舗向けPOSシステム、そして決済ビジネスまで、複数のデジタルエコノミーを横断的にカバーし、それぞれの領域で大きなシェアを占めているからです。
タイ全体でデジタル浸透率が上がれば上がるほど、私たちも共に成長していく、そんな構造になっています。タイ国内を見渡しても、私たちのような包括的なエコシステムを持っている企業はほかにありません。また、ユーザー、加盟店、ライダーというすべてのステークホルダーが、共通のデータセットを通じてつながっている点は、私たちの最大の強みであり、独自性となっています。
現在、複数の市場でナンバーワンのポジションを獲得していますが、単に規模が「広い」だけでなく、それぞれの業界に深く入り込み、存在感を発揮しているという点でもナンバーワンであると自負しています。この「広さ」と「深さ」を両立させていることこそが、現在の私たちの立ち位置を象徴しています。
私自身の情熱や、エンジニアとしてのバックグラウンド、これまで培ってきた強みのすべてが現在の仕事に結びついています。もともとタイの食べ物が大好きで、その魅力をもっと多くの人に届けたいという思いがありました。ですので、その思いと、自身の経験を活かしながら、エンジニアの仲間たちとサービスを創り上げていくことに大きな意義を感じています。LINE MAN Wongnaiの共同創業者もエンジニア出身で、技術的な視点から物事を捉えられることこそが私たちの大きな強みとなっています。
また、起業家である以上、ゼロからすべてを自分たちの手で切り拓いていく必要がありますが、そこにおける私たちの最大の強みは「圧倒的な実現力」だと思っています。自分たちの国で、単なる理想ではなく、実際にサービスを形にし、機能させていく。そして着実にマーケットシェアを広げ、競合を上回る存在へと成長させていく。自分たちの強みを全力で注ぎ込んで、この国で「真の成果」を出し続けることこそが、私たちの役割であり、挑戦し続ける理由でもあります。
私たちはプラットフォームを運営する身として、関わるすべてのステークホルダーに価値を提供することを何よりも大切にしています。ユーザー、加盟店、ライダー、そして従業員や株主まで、誰か一人だけが利益を得るのではなく、全員が同時に成功できるようなバランスを追求しています。
たとえば、私たちのプラットフォームには25万人のライダーがいますが、彼らに仕事の機会を提供できていることは非常に意義深いことだと感じています。また、50万店にのぼる加盟店とその先にいる従業員の方々に対しても、売上の向上だけでなく、ビジネスの継続性や新たな販売チャネルという価値を提供しています。私たちはこうした取り組みを通じて、社会を動かす「経済のエンジン」としての役割を担っています。
ですが、私たちが提供したいのは単なる「収入の場」だけではありません。たとえばライダーに対しては、そのご家族も含めた支援を行っています。毎年、ライダーのお子さんたちに向けた奨学金(スカラーシップ)プログラムを実施しているのもその一つです。
さらに、金融サービスへのアクセスも提供しています。多くのライダーは銀行口座を持っていなかったり、一般的なローンを組むのが難しかったりする現実があります。しかし、私たちは彼らの活動データを持ち、彼らを深く理解しているからこそ、融資などのサポートが可能になります。収入面だけでなく、生活の質そのものを支えていく。そうした多角的なサポートを通じて、すべてのステークホルダーと共に歩んでいくことが、私たちの目指す姿です。
タイには約70万の飲食店があります。そのうち50万店以上が私たちのプラットフォームに参加しており、その約70%が小規模な個人店です。私たちのミッションは、こうしたピラミッドの土台を支える小さなレストランが、LINE MANのフードデリバリー、WongnaiのPOS、LINE Payの決済といった各ツールを活用して事業を拡大し、持続可能な成長を実現できるよう「機会」を提供することにあります。
新しい取り組みの一環として、当社は2026年4月、バンコク都(BMA)がルンピニ公園内に開設した「ホーカーセンター(屋台街)」の運営支援を行いました。ここには、現在100以上の露店が集まり、活気に満ちています。現金だけでなく、決済時に通知音で決済完了を知らせることのできるキャッシュレス決済を導入するなど、オフラインの現場においても私たちのテクノロジーを活用しています。会場にはLINE MANやLINE Payのロゴも掲げられており、ユーザーのみなさんが私たちの存在をリアルに感じながら、タイの豊かな食文化を楽しめる場所になっています。このようにデジタルとリアルの両面から小規模店をサポートし、共に成長していくことが、私たちの役割だと確信しています。
AIについては非常に大きな可能性を感じており、現在、各事業のプロセス一つひとつを「どうAIで最適化できるか」という視点で見直しています。たとえばカスタマーサービスでは、毎日数万件の問い合わせがありますが、すでに全体の40%をAIが対応しています。導入したところ、24時間365日、疲れを知らずに安定したクオリティで即座にレスポンスができるなど、人間が対応するよりもユーザーの満足度が上がり、キャンセル率の低下にもつながるなど、単なるコストカット以上の結果が得られています。
また、このAIの力をもっとステークホルダーのみなさんにも役立てたいと考え、まずは加盟店向けのツール提供から始めました。メニュー画像の補正や、多言語対応、プロモーションの最適化などをAIがサポートすることで、お店の負担を減らしつつ売上を最大化するお手伝いをしています。
ユーザー向けのAI注文機能についても、米国や中国などの先行事例をモニタリングしながら準備を進めています。私たちは「AIドリブン」であると同時に、常に現実的でありたいと考えています。単に流行を追うのではなく、「どの課題をAIで解決するのがベストか」を慎重に見極めながら、どこよりも早く、価値のある形で実装していくつもりです。
将来的な上場を目指し、着実に準備を進めています。財務面はもちろん、社内体制の整備についても順調に進んでおり、現在はステークホルダーやパートナー企業と共に、最終的な調整を行っている段階です。上場先については、タイ国内市場だけでなく、シンガポールや香港、さらには米国のナスダックなども含め、複数の選択肢を慎重に検討しています。私たちの成長を最大化させるためにどこが最適か、マーケットの状況を見極めながら戦略的に決めていく予定です。
私たちの強みは、大きく分けて3つあります。
1つめは、LINEヤフーグループとしての圧倒的なアセットです。タイで最大のシェアを持つLINEアプリ、そのブランド力、そしてLINE BKとの連携。これらは私たちだけが持つ唯一無二の資産であり、競合に対して非常に強力な差別化要因となっています。
2つめは、レストランとの強固なネットワークです。多くの飲食店が私たちのプラットフォームに登録しており、POSシステムを通じた深いエコシステムを構築しています。これほど多角的なサービスをワンストップで提供できるのは私たちだけであり、これが加盟店側における大きな優位性になっています。
そして3つめが、ローカルに特化した実行力です。タイ独自の市場環境や文化に合わせたキャンペーンやビジネス展開を、現場を熟知したローカルチームが即座に実行できる。この機動力こそが、グローバルな競合にはない私たちの強みです。
今後、この強みを活かしてさらに新しい領域へも挑戦していきます。特に技術と金融をつなぐ、FinTechの分野ではまだ入り口に立ったばかりで、今後10倍、20倍へと成長する可能性を秘めています。また、ヘルスケアなど、まだデジタル化が進んでいない市場にも大きな可能性があり、たとえば、テレファーマシーでは、デジタル技術を用いて遠隔地の薬剤師が患者に服薬指導、処方箋確認、調剤管理などの薬学的ケアを提供することも可能になります。このように、私たちが持つエコシステムとローカルでの実行力を掛け合わせ、タイのあらゆる産業をデジタル化し、より大きな市場へと成長させられると確信しています。
私たちのチームに共通しているのは、「社会にポジティブな影響を与えたい」という強い意欲です。自分たちのプロダクトが、家族や友人の日々の生活を支え、何十万もの人々に仕事の機会を提供している。その手応えを自分の喜びと感じられるメンバーが集まっています。
組織の根幹にあるのは「スピード」です。1,300人規模まで成長した今も、私たちはスタートアップの精神を忘れていません。失敗を恐れずに実験を繰り返し、迅速に決断を下す。これが私たちのコアバリューです。アイデアがあれば、予算の範囲内ですぐに実行に移せますし、新しい大きなプロジェクトであれば、私に直接提案してリソースを確保することも可能です。
私自身のリーダーシップは、「結果重視」で「ダイレクト」です。細部まで徹底的にこだわり、スピード感を持ってプロジェクトを推進します。もちろん、特定の分野で私より優れた専門家は社内にたくさんいますが、このサービスを成長させたいという情熱と推進力に関しては、誰にも負けない自負があります。
現在はハイブリッドワークを取り入れ、週3日はオフィスに集まるスタイルですが、バンコクやチェンマイ、さらには国外の拠点とも連携しながら、常にわくわくするような挑戦を続けています。
以前は、「毎週、最低2軒は新しいレストランを開拓する」ことを自分に課していましたが、最近は健康を意識して、平日は1日1食にするなどバランスを取っています。その分、週末に家族や子どもたちと食事を楽しむ時間は格別ですね。今はまだ子どもが小さいので、自宅でフードデリバリーを利用することが多いのですが、自社のサービスを通じて、家でも豊かな食の選択肢があることを日々実感しています。ちなみに、日本食ではとんかつが大好きで、子どもたちは日本のラーメンが大のお気に入りです。
もちろん、楽しい話ばかりではありません。経営者として、自分ではコントロールできない外部環境のリスクには常に目を光らせています。地政学的な問題やマクロ経済のプレッシャーにより、タイのGDP成長が鈍化し、消費者の注文単価が下落するといった課題は現実のものとなっています。また、成熟した市場での競合争いや、海外からの新規参入といったリスクも、毎日直面している課題です。
こうした不確実な状況に対して私たちができるのは、「希望を持ちつつ、最悪の事態に備える」ことです。例えば、戦争の影響で燃料価格が高騰すれば、ライダーたちの生活が直撃を受けます。私たちはそうした事態を想定し、あらかじめ支援のための予算を確保しています。何かが起きてから動くのではなく、不測の事態に直面したときに即座に手を差し伸べられるよう、常に準備を整えておく。それが、不透明な時代において私たちが勝ち抜いていくための姿勢だと考えています。
取材日:2026年4月23日
文:LINEヤフー社内広報編集部 写真:日比谷 好信
※本記事の内容は取材日時点のものです
